異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

文字の大きさ
30 / 273
第二章 工業都市ボルドー

2-8 異形の魔物、セルケト

しおりを挟む
 褐色少年が背中の治療を終えた頃、ガイヤルド山脈のふもとにある迷宮にて。

「グゥゥゥ……」

 人間族らしき子供との激戦で消耗した異形の魔物──セルケトは、洞窟どうくつのような構造を持つ迷宮の内部で、体力の回復、並びに損壊した部位の再生を行っていた。

 傷ついた体で迷宮へとたどり着いた当初、セルケトの内を満たしていたのは煮えたぎるような黒き怒りだった。

 しかしその感情は、身体を再生させ少年との再戦に向け体を作り替えていく過程で別のものへと変質していくことになる。

 元々この魔物は、ある特殊な魔道具──「灰色の義手」と呼ばれる傭兵団がこの迷宮へ仕掛けたもの──を核としている。

 迷宮を構成する魔力、生命力、精神力などを吸い取り、その膨大な力を魔物たちへ注ぎ込み、それらの魔物が融合・変質することで生まれた存在。それがこの魔物だ。

 迷宮の力だけでなく精神まで受け継いで生まれたセルケトは、憎悪の感情を人族へ、とりわけ人間族に対して強烈な怨念おんねんを持っていた。

 その感情の下に行動したセルケトは、調査団や冒険者たちを幾度となくほうむり、しかばねの山を築いてきたのだが──。今回の人間族の、それも成人していないような少年に叩きのめされたことで、未だかつてない、星の内部に満ちるマグマの如き怒りがこの魔物の内を支配する。

 怒りに突き動かされた魔物が少年を滅ぼすためにとった手段は、今一度迷宮の力を取り込むことで体を作り変え、己の身を更なる強靭なものへと変化させるというものだった。

 筋肉は相手を圧倒できるようにより強くしなやかに、皮膚は相手の攻撃を凌げるようにより硬くなめらかに。

 あの少年が小さな体で自分を圧倒したように、我が身も凝縮することでより強くなれるはずだと、肉体を思うがままに作り変えていく。

「グゥ……」

 迷宮の魔力を吸い上げ、肉体を変化させていくことしばし。

 大型獣のような下半身が虫のように扁平へんぺいとなり、面長おもながだった馬の頭部は美しい女性の顔へ。たてがみは絹糸きぬいとのような長髪へと姿を変えた。

 のみならず、胸が膨らみ(?)腹は細くくびれ、血流が促進そくしんされたことで血色も良くなって。青白かった全身は白磁のような肌へと変化する。

「肉体の変化はこんなものか」

 頭部が人のように変化したことで言葉を発することが可能となったセルケト。

 元々迷宮の精神を受け継いでいたことにより人の言葉を解する知能と知識を有していた彼女は、発声器官が形作られた今では喋ることすら可能となっていた。

「……」

 なおも細部を変化させながら、彼女は思考を続けていく。

 そうしていく内に彼女は結論に辿り着く。今回少年との戦いで手痛い傷を負ったのは実力の差もあるが、道具、いや、武器の差もあったのではないか、と。

 己の身を武器とするのは肉体を振るう分使い勝手がいい反面、破壊された際に自身も傷を負ってしまうリスクが付きまとう。しかし、人間族がそうしていたように、道具をもって武器とすれば破壊されたとしても己は傷つかない。

 だが、武器を利用するにしても生半可なまはんかなものではだめだ。かの少年の持つ武器は我が身の最硬を誇った脚を切断するほどの得物。最低でも我が脚並みのものでなければならない。

「であれば、どうするか……むっ!」

 そこまで考えたところで──彼女に稲妻の如き閃きが脳内を走る。脚が最も武器に適した硬度ならば、それを利用して武器を創ればよいではないか、と。

「ぐっ! うっ!」

 痛みに顔をしかめながら自身の硬質な脚をもいでいくセルケト。迷宮の力を吸い上げれば肉体を再生できるとはいえ、痛みは強烈だ。

 その痛みをこらえ、四本腕にあらん限りの力を籠めて一本、また一本と足を引き千切っていく。周囲を赤い鮮血で染めながらも彼女は凶行を成し遂げ、硬質極まる素材を手に入れた。

「この我が脚を人間族たちが使っていたような、様々な形の武器へ変質させていけば……」

 しばし時間をおき、血が収まり脚も再生し体力も戻ってきたところで、彼女は魔法を使い自分の脚だったものを武器へと変化させていく。

 精強せいきょう人間族ヒューマンが使っていた大剣。
 勇壮ゆうそう小人族ドワーフが使っていた壁盾。
 精妙せいみょうなる槍さばきを見せた虎人族マガンの大槍。
 奇怪な動きで我が身に傷を負わせた森人族エルフの大鎌。

 母なる迷宮がまだ迷宮となる前に共に旅をし、あるいは殺し合った者たちと、己が殺し合った強者たちの武器である。

「これらの武器を我が四本の腕で自在に操ることが出来れば、あの少年にも勝ることが可能なはずだ。人族たちの武器捌ぶきさばきは目と脳裏に焼き付いている。その技術をこの身に馴染ませれば勝てる!」

 いつの間にか己が憎しみではなく対抗心、使命感によって少年との再戦を望んでいることにセルケトは気付けない。人族の言葉を利用した思考を行うことで自我が生まれ、迷宮の精神というくびきから放たれていることに気が付かない。

 薄っすらと輝きを放つ鉱石がほのかに照らす迷宮内で、しばし完成した武器の調子を確かめる彼女。

 すると流した鮮血に惹かれたのか、迷宮内の魔物が姿を現し始めた。

「「「ウゥゥ……」」」

 普段はセルケトを恐れて近寄りすらしない魔物たちだが、今回はまるで獲物を狙っているかのようにぞろぞろと彼女の周囲を囲みだす。

「……ふむ? 姿が変わったからといって、我が母より受け継いだ魔力が変質したわけでもあるまいし、一体何を──」

「ガゥッ!」

 セルケトが唸りながら考えていると──狼型の魔物が牙を剥き、脈絡もなく襲い掛かった。

 その動きを皮切りに、周囲の魔物たちが一斉にセルケトへと殺到する。驚き思考を中断していたセルケトだったが、されるがままの状態で思考を再開する。

「──ふむ……我が身が母の力を取り込み過ぎたせいで、母から敵対者と見做みなされたのかもしれんな。はなはだ心外ではあるが、仕方があるまい」

「「「ゥゥッ!?」」」

 彼女はその場での急速旋回をすることで、腕に噛みつき足へ張り付いていた魔物たちをまとめて引き剥がす。

 鋭い爪や牙をそこかしこに突き立てられたにもかかわらず、彼女の肉体に一切傷はない。肉体が変化・凝縮されたことで、もはや魔物など歯牙しがにもかけない頑強さを手に入れていたのだ。

勘当かんどうされてしまったが……まあ良い。そんなことよりあの少年との再戦だ。明日にでも再会しないとも限らん。すみやかに人族たちの技術を──ん?」

 もやもやと考えながら出口へ向かっていくと、再び魔物たちに囲まれてしまうセルケト。数は先ほどよりも更に多く、弾き飛ばした個体の姿も見受けられた。

同胞どうほうに、いや、元同胞に手を出すのははばかられるが。こうも狙われてしまうと我が大願たいがんさまたげとなる。──ここで退かねば貴様らを食らうぞ」

 見逃した先ほどとは異なり、彼女は魔物たちへ波濤はとうの如き殺意を向ける。

 通常なら魔物であっても背を向け逃げ出すほどの殺意を受けてなお、この場にいる魔物たちは敵意の炎を絶やさない。どころか、油を注いだ火の如く憎しみが増大したようだった。

 一気に膨れ上がった憎悪の感情にかられ──囲んでいた魔物たちが、セルケトへと津波のように押し寄せる!

「「「オオオォォォッ!」」」

「是非もなし」

 嘆声をもらした彼女は、脚より創られし大剣で真一文字に薙ぎ払う。

 魔力を纏った大刃は魔物の大群を紙きれの如く裁断さいだん。尋常ならざる切れ味を示し、血と体液と臓物の雨を吹き散らす。

「我に死角はないぞ!」

 正面の魔物を切り伏せる間に背後側面より接敵してきた相手には、より強固凶悪になった尾による打撃で応戦する。

 多節棍たせつこんの如き進化を遂げた尾は唸りを上げて魔物たちを砕き、潰し、打ちのめす。尾が振るわれるたびに肉塊が増えていき、魔物たちはその数を大きく減じていく。

 その様は、圧倒的個の前では数など塵芥ちりあくただと語っているかのようだった。

「ふんっ!」

 もはや欠片も容赦のないセルケトは最後の締めへ。大剣と大鎌を大きく広げて構え、多脚による高速旋回を行う。

 初めに魔物たちを吹き飛ばした時と同様の動きだが、武器を広げるだけでその意味合いは大きく変わる。弾き飛ばすだけだった行動が、今や研削盤けんさくばんの如き様相を呈し、魔物たちを粉微塵こなみじんに削り取る!

「ギィィィッ」「ガウッ!?」「ギギャッ……」

 大剣や尾の攻撃から逃れていた魔物たちも瞬く間に血のきりと化し、百にも迫る魔物の群れはものの数十秒で全滅することとなった。今や迷宮内は、血のしたたる音だけが寂しく響く。

「──終わったか。死んでいった者たちには悪いが、よいかてになってくれたものだ。我が脚より創りだしたおかげか、この武器たちは良く手に馴染なじむ。これならば、あの少年と戦う前に習熟することも不可能ではなかろう」

 武器の調子を確かめつつ魔法で魔物たちの残骸ざんがいを集めたセルケトは、そのまま魔法を操り死骸を押し固め肉団子を創り出す。今まではこうやって動物や魔物、人族たちを食らってきたのだが──。

「……どうしたことだ、食欲がわかん。肉体が変化し我が食性も変わったのか?」

 仕方なしに旨そうに見えなくなった肉団子を食らってみたものの、味も臭いも体が受け付けず食べられたものではなかった。

「ぐげぇ……。これではとても食えん。これらを我が食べぬことで母が吸収することになるのは業腹ごうはらだが……我が母への最後の親孝行としておくか。しかし……今後の食料は如何にするか、由々ゆゆしき問題よな」

 彼女は死骸の処理を諦め嘆息すると、自身の食性について思いを巡らせつつ、今度こそ迷宮の出口へ向かい「獣の虚」を去っていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...