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第二章 工業都市ボルドー
2-11 買い物と疑惑
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「ほげぇー。こりゃ立派なお店だな」
露店を出て大通りへと戻ってきてからおおよそ十分。
俺の目の前には巨大な百貨店めいたものが、その存在を主張していた。
全面石造りの三階建て。長方形型の店舗は横に長く数百メートルはあろうかという大きさ。〇オンモールかってくらいの巨大建造物である。露店商が言っていた通り、確かに一目でわかる建物だ。
その威容に動揺しながら店内へと歩を進めると、エントランスにて武装解除を求められることとなった。
「まあ当然か。客に武器を持って歩き回られたら脅される可能性があるし、そうでなくても警備兵がどれだけ必要になるかも分からんし」
(ここでお別れです……共に歩めないこの身が憎いのです)
(つまらん。つまらんぞロウよ。なるべく早く要件を済ませて戻ってくるんだぞ)
君たち、最近束縛感が増してきていやしないかい?
我が身から山のようにナイフや短剣が出てくることに従業員が目を丸くしたものの、無事荷物の引換券をゲット。足取り軽く売り場へと進む。
「うおー、広いぞー! ……ふんふん。一階は貴金属や宝石類もあるけど、生活雑貨、家具類、安価な魔道具がメインか。庶民的なものも多いな……意外だ」
内部も外観から想像できる通りの広さ。近くにあった案内板で構造を頭に入れつつ、売り場を観察していく。
「おぉ~。流石大型店舗だけあって、陳列もこだわってるなー。地球とそう変わらん……」
まずは一階からだと物色開始。
目に入るものは化粧品や観葉植物、魔道具による照明や調理器具など。正に地球のデパート的な品揃えだ。
アーリア商店だけがこうなのか、それともこの世界の大規模店は総じてこうなのか。今度それとなくムスターファへ探りを入れてみるか?
そんなことを考えながら衣料、武具が置いてある二階へと向かう。
商店内には所々吹き抜けの空間が存在するため一階ほどの広さはないが、それでも二階は広い。売り場を見て回るだけでも日が傾いてしまいそうだ。
「武器は曲刀たちがいるし、防具は動く時の妨げにならない程度しか求めてないし、またの機会でいいや。高級品は魔術を妨害できたり炎を防げたりするみたいだし、ちょっと心惹かれるけど……まだ例のお金もらってないし」
不思議な光を放つ金属鎧が飾られてある売り場を通り過ぎながら、かつての戦闘を振り返る。
かの異形の魔物の、岩肌を抉り取るような一撃を浴びても、胴体泣き別れとはならなかったのだ。俺の身体の前ではその辺に売ってある刃物程度など鈍ら同然である。
魔力を通すことで防具自体の性能の底上げも出来るが、サルガスやギルタブのような特殊なものを除けば大した強化もできない。ならば身軽でいた方が動きを阻害せず安全だろう。
「こんにちは、お客様。ご入用の品物はございますか?」
子供用礼服売り場を物色していると、売り場にいた金色のポニーテールが可愛らしい、若い女性の店員から声を掛けられた。こういうところは地球だろうが異世界だろうが変わらない。
「はい。実は身分の高い方との交流を持つようになりまして。そういった方と会っても恥ずかしくない服が三着ほど欲しいんですよね。一式丸ごとそろえようと思っているのですが……」
「まあ! とても喜ばしいことですね。そういうことでしたらお洋服をお選びいたしましょうか? 我が商店には高貴なの方々のご子息、ご息女もよくいらしていますから、手前共もよくお見繕いしております」
「お願いできますか? 予算は金貨五枚で考えています」
物色している間に服の相場も調べていたため、上下小物のセットで大体大銀貨七~九枚程になることは既に把握している。靴も合わせて買えば、丁度いいくらいに収まるだろう。
「十分すぎる額です。それでは僭越ながら!」
女性店員は頬を上気させ鼻息荒く俺を着せ替え人形とし始めた。そのうえ、着合わせを進めていくうちに女性店員の数は増えていく一方。なんかこの世界、ショタコン多くね?
かつての親の仇──キャサリンのことを思い出して内心気落ちしながらも、俺の服選びは順調に進んでいった。
◇◆◇◆
「……なんの騒ぎなの? これは」
採寸や裾合わせ、代金の支払いなどを終えた後も店員たちにチヤホヤされていると、溌溂とした少女の声が響く。
「「「ヤームル様!?」」」
アーリア商会代表の娘、ヤームルの登場だった。従業員たちは彼女の姿を認めると硬直する。
乗っていたこっちも悪いし、ここは助け船を出しておこう。
「ヤームルさん、こんにちは。視察ですか?」
「……えっ? ロウさん? なんでここに!?」
「お邪魔してます。ムスターファさんの屋敷に行くのに服装が合ってないかなと思っていたので、ここで揃えにきました」
俺の存在に気が付くと大いに狼狽えるヤームル。そんな彼女の反応が珍しいのか、女性従業員たちは興味深そうにヤームルへと視線を向けている。
「そういうことだったんですね。それで彼女たちが見繕ったと……」
得心したように頷き、俺の服装をマジマジと観察する少女。そんな彼女に対し、好きなだけ見ろと背筋を伸ばし胸を反らす。
今の俺は店員たちの手によりオシャレさん状態。白を基調としつつ、黒、金、赤銅色で装飾された上品な上衣は、俺の褐色肌とよく合っている……ように思える。下は無難な黒いパンツにブーツだけどな。
「とてもお似合いですよ。貴方たちも良い仕事をしたみたいね」
にこやかな微笑みを浮かべたヤームルの評定はグッドであった。大商人の娘である彼女から良い評価を貰えたなら、俺の姿も恥ずかしいものではないだろう。
仮に世辞だったとしても「ムスターファの娘からは好評だった」と言えば、どこでも通用するだろう。ガハハ。
「ありがとうございます。ヤームルさんにそう言ってもらえると嬉しいですね」
礼を述べるとともにイケメンショタスマイルを放つ! キラン☆ 従業員たちには効果抜群だ!
「ふふっ。ロウさんはこの後時間はありますか? もしよければアーリア商店をご案内しますよ」
ヤームルには効果がいまひとつのようだ。お子様に俺の色気はまだ早かったか。
「是非ともお願いしたいです。とても広くてどうやって見て回るか途方に暮れていましたから」
穏やかな雰囲気で話している俺たちを見比べ、黄色い声を上げる従業員たち。
そんな彼女たちを一睨みで黙らせたヤームルと共に移動を開始。紳士服の売り場を離れ武器や防具、武具補修道具や魔道具と、様々な売り場を見て回る。
「二階にも色々なものが売ってあって目移りしてしまいますね。こういう商品の配置も、ムスターファさんがされているんですか?」
商品の説明やおすすめポイントなどを聞いたりして彼女と売り場を見て回ったが、話のネタが尽きたのでかねてより聞きたかったことを切り出した。
「そう言ってもらえると嬉しいですよ。何を隠そう、私も商品配置について携わっていますから」
「……そうなんですか! 流石ですね。商家の血筋がなせる業なのでしょうか」
ヤームル自身がこの地球のデパート的な配置に関わったと聞き、一瞬思考が停止する。
──考えてみれば彼女は相当に怪しい。
妙に大人びた言動。十一歳という若さで魔術大学へ通えるほどの知力と知識。そして、日本で見たデパートのようなアーリア商会の商品配列。
異なる世界の存在と混じりあうことで、魔力的に変質し並みならぬ力を得て本来経験不能な知識を知った存在。俺と“同類”であると仮定すれば、すんなりと納得できる経歴だ。
これはもう少し踏み込んだ質問を行い、真偽を確かめてみるべきか──そう考えた矢先。
「「──っッ!?」」
鋭い悲鳴と鈍い破砕音が、賑やかな店内を貫いた。
露店を出て大通りへと戻ってきてからおおよそ十分。
俺の目の前には巨大な百貨店めいたものが、その存在を主張していた。
全面石造りの三階建て。長方形型の店舗は横に長く数百メートルはあろうかという大きさ。〇オンモールかってくらいの巨大建造物である。露店商が言っていた通り、確かに一目でわかる建物だ。
その威容に動揺しながら店内へと歩を進めると、エントランスにて武装解除を求められることとなった。
「まあ当然か。客に武器を持って歩き回られたら脅される可能性があるし、そうでなくても警備兵がどれだけ必要になるかも分からんし」
(ここでお別れです……共に歩めないこの身が憎いのです)
(つまらん。つまらんぞロウよ。なるべく早く要件を済ませて戻ってくるんだぞ)
君たち、最近束縛感が増してきていやしないかい?
我が身から山のようにナイフや短剣が出てくることに従業員が目を丸くしたものの、無事荷物の引換券をゲット。足取り軽く売り場へと進む。
「うおー、広いぞー! ……ふんふん。一階は貴金属や宝石類もあるけど、生活雑貨、家具類、安価な魔道具がメインか。庶民的なものも多いな……意外だ」
内部も外観から想像できる通りの広さ。近くにあった案内板で構造を頭に入れつつ、売り場を観察していく。
「おぉ~。流石大型店舗だけあって、陳列もこだわってるなー。地球とそう変わらん……」
まずは一階からだと物色開始。
目に入るものは化粧品や観葉植物、魔道具による照明や調理器具など。正に地球のデパート的な品揃えだ。
アーリア商店だけがこうなのか、それともこの世界の大規模店は総じてこうなのか。今度それとなくムスターファへ探りを入れてみるか?
そんなことを考えながら衣料、武具が置いてある二階へと向かう。
商店内には所々吹き抜けの空間が存在するため一階ほどの広さはないが、それでも二階は広い。売り場を見て回るだけでも日が傾いてしまいそうだ。
「武器は曲刀たちがいるし、防具は動く時の妨げにならない程度しか求めてないし、またの機会でいいや。高級品は魔術を妨害できたり炎を防げたりするみたいだし、ちょっと心惹かれるけど……まだ例のお金もらってないし」
不思議な光を放つ金属鎧が飾られてある売り場を通り過ぎながら、かつての戦闘を振り返る。
かの異形の魔物の、岩肌を抉り取るような一撃を浴びても、胴体泣き別れとはならなかったのだ。俺の身体の前ではその辺に売ってある刃物程度など鈍ら同然である。
魔力を通すことで防具自体の性能の底上げも出来るが、サルガスやギルタブのような特殊なものを除けば大した強化もできない。ならば身軽でいた方が動きを阻害せず安全だろう。
「こんにちは、お客様。ご入用の品物はございますか?」
子供用礼服売り場を物色していると、売り場にいた金色のポニーテールが可愛らしい、若い女性の店員から声を掛けられた。こういうところは地球だろうが異世界だろうが変わらない。
「はい。実は身分の高い方との交流を持つようになりまして。そういった方と会っても恥ずかしくない服が三着ほど欲しいんですよね。一式丸ごとそろえようと思っているのですが……」
「まあ! とても喜ばしいことですね。そういうことでしたらお洋服をお選びいたしましょうか? 我が商店には高貴なの方々のご子息、ご息女もよくいらしていますから、手前共もよくお見繕いしております」
「お願いできますか? 予算は金貨五枚で考えています」
物色している間に服の相場も調べていたため、上下小物のセットで大体大銀貨七~九枚程になることは既に把握している。靴も合わせて買えば、丁度いいくらいに収まるだろう。
「十分すぎる額です。それでは僭越ながら!」
女性店員は頬を上気させ鼻息荒く俺を着せ替え人形とし始めた。そのうえ、着合わせを進めていくうちに女性店員の数は増えていく一方。なんかこの世界、ショタコン多くね?
かつての親の仇──キャサリンのことを思い出して内心気落ちしながらも、俺の服選びは順調に進んでいった。
◇◆◇◆
「……なんの騒ぎなの? これは」
採寸や裾合わせ、代金の支払いなどを終えた後も店員たちにチヤホヤされていると、溌溂とした少女の声が響く。
「「「ヤームル様!?」」」
アーリア商会代表の娘、ヤームルの登場だった。従業員たちは彼女の姿を認めると硬直する。
乗っていたこっちも悪いし、ここは助け船を出しておこう。
「ヤームルさん、こんにちは。視察ですか?」
「……えっ? ロウさん? なんでここに!?」
「お邪魔してます。ムスターファさんの屋敷に行くのに服装が合ってないかなと思っていたので、ここで揃えにきました」
俺の存在に気が付くと大いに狼狽えるヤームル。そんな彼女の反応が珍しいのか、女性従業員たちは興味深そうにヤームルへと視線を向けている。
「そういうことだったんですね。それで彼女たちが見繕ったと……」
得心したように頷き、俺の服装をマジマジと観察する少女。そんな彼女に対し、好きなだけ見ろと背筋を伸ばし胸を反らす。
今の俺は店員たちの手によりオシャレさん状態。白を基調としつつ、黒、金、赤銅色で装飾された上品な上衣は、俺の褐色肌とよく合っている……ように思える。下は無難な黒いパンツにブーツだけどな。
「とてもお似合いですよ。貴方たちも良い仕事をしたみたいね」
にこやかな微笑みを浮かべたヤームルの評定はグッドであった。大商人の娘である彼女から良い評価を貰えたなら、俺の姿も恥ずかしいものではないだろう。
仮に世辞だったとしても「ムスターファの娘からは好評だった」と言えば、どこでも通用するだろう。ガハハ。
「ありがとうございます。ヤームルさんにそう言ってもらえると嬉しいですね」
礼を述べるとともにイケメンショタスマイルを放つ! キラン☆ 従業員たちには効果抜群だ!
「ふふっ。ロウさんはこの後時間はありますか? もしよければアーリア商店をご案内しますよ」
ヤームルには効果がいまひとつのようだ。お子様に俺の色気はまだ早かったか。
「是非ともお願いしたいです。とても広くてどうやって見て回るか途方に暮れていましたから」
穏やかな雰囲気で話している俺たちを見比べ、黄色い声を上げる従業員たち。
そんな彼女たちを一睨みで黙らせたヤームルと共に移動を開始。紳士服の売り場を離れ武器や防具、武具補修道具や魔道具と、様々な売り場を見て回る。
「二階にも色々なものが売ってあって目移りしてしまいますね。こういう商品の配置も、ムスターファさんがされているんですか?」
商品の説明やおすすめポイントなどを聞いたりして彼女と売り場を見て回ったが、話のネタが尽きたのでかねてより聞きたかったことを切り出した。
「そう言ってもらえると嬉しいですよ。何を隠そう、私も商品配置について携わっていますから」
「……そうなんですか! 流石ですね。商家の血筋がなせる業なのでしょうか」
ヤームル自身がこの地球のデパート的な配置に関わったと聞き、一瞬思考が停止する。
──考えてみれば彼女は相当に怪しい。
妙に大人びた言動。十一歳という若さで魔術大学へ通えるほどの知力と知識。そして、日本で見たデパートのようなアーリア商会の商品配列。
異なる世界の存在と混じりあうことで、魔力的に変質し並みならぬ力を得て本来経験不能な知識を知った存在。俺と“同類”であると仮定すれば、すんなりと納得できる経歴だ。
これはもう少し踏み込んだ質問を行い、真偽を確かめてみるべきか──そう考えた矢先。
「「──っッ!?」」
鋭い悲鳴と鈍い破砕音が、賑やかな店内を貫いた。
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