異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

文字の大きさ
114 / 273
第四章 魔導国首都ヘレネス

4-5 女神との遭遇

しおりを挟む
 魔術大学構内にある大学図書館を訪れたロウたちは、ヤームルの案内の下入館手続きを行っていた。

(やはり武装解除があるのですね。構内で持ち歩けたので、ここでも無いものかと思っていましたが)
(また暇で仕方がない待ち時間か)

(そう言うなって。今日はじっくり見るわけじゃないし、軽く見て回ったら帰ってくるからさ)

 留守番と知るや急激に不機嫌となる曲刀たち。

 それを如何にも適当な言葉でなだめたロウは、彼らを職員に預け先に入っていた少女たちの後を追う。

「ほほぉ~。本棚が綺麗に並んでいますね」

 閲覧えつらん室へと足を踏み入れた少年は、二階部分まで吹き抜け構造となった大広間に出迎えられた。

 壁側だけでなく部屋の中心にも整然と立ち並ぶ書架群。そこには一つ一つの棚に数字が彫られており、入り口側にある受付カウンターの案内図と照らし合わせることで、簡単に探し求める本のある棚を見つけることが出来るようになっている。

 神の眷属けんぞくグラウクス任せのボルドー大図書館と比べ、対照的な整然さであった。

「ボルドーとは構造が随分異なるな。奥へ奥へと棚が並んでいるのか」
「むしろボルドー大図書館は特別な例といいますか。円形ホール状の閲覧室よりは、長方形の部屋をとることの方が多いようですね」
「ほう、そういうものなのか。しからばエスリウよ、例の大英雄の本を探しに行くぞ」
「うふふ、そう焦らなくても本は逃げませんよ」

 広々とした閲覧室を眺め興味深げに頷いていたセルケトは、探し求める本を読んだことがあるというエスリウを伴って、書架の間をずんずんと進んでいく。

「流石ま……セルケト、即行動か。ヤームルさん、何かお薦めの本ってあります?」
「そうですね。この国の成り立ちについて書かれた本でも──」

 つい魔物と口走りそうになったロウが、誤魔化しついでにヤームルへ話を振ると同時。

 閲覧室の扉が勢いよく開け放たれ、ミディアムな金髪を真ん中で分けた、爽やかな美少年が現れる。

「──こんにちは、ヤームル! もう戻ってきてたんだな!」

「げっ……」
「何だか爽やかな人がきましたね。呼んでますけど、ヤームルさんのお友達ですか?」

 金髪少年の存在を確認すると分かりやすいほどの渋面じゅうめんとなるヤームル。ロウが問うも、即座に否定の言葉が返ってしまった。

「まさか。やたらと絡まれますけど、単に同じ実践魔術研究を行っていて、年も近いってだけですよ」
「ああ、いたいた。久しぶりだなヤームル……ん? その子は?」
「お久しぶりです、アンテロさん。この方は私の友人で、こちらへ戻る道中の護衛も務めて頂いた、ロウさんです」
「初めまして。ロウといいます」

「ふーん? 僕はアンテロ・サドラーズウェルズだ。名前で分かるかもしれないけど、魔導国の名家であるサドラーズウェルズ家の三男だよ」

 褐色少年を品定めする様に眺めた金髪少年は、右手で前髪をかき上げながら誇らしげに語る。

 その態度を見て面倒なのが来たと肩をすくめるヤームルと、魔導国の事情にうといが故に首を傾げるロウ。

「アンテロさんの家って貴族なんですか? 名家って言ってましたけど」
「古くは魔導国の建立時に大きな役割を担った力ある家の一つですから、貴族に近いものかもしれません」

 すすっとヤームルに近づきロウが問えば、こそこそっと彼女からの返答が戻ってくる。

(この国の建立に関わる様な名家出身か。変な因縁付けられても困るし、ここはヤームルと別行動をすべきだな)

 ヤームルから情報を得て素早く彼女を見捨てる決断を下した少年。

 肌が触れ合うほどの距離で密談する自分たちに怪訝そうな目を向けていたアンテロへ、彼は非情とも言える提案を持ちかけた。

「久しぶりに会われて積る話もあるでしょうし、どうぞこちらにお構いなくお話を続けてください。俺は本でも読んでおくので」
「お! 君は話が分かる奴だな。じゃあヤームル、図書館で話すのもなんだし、場所を移そうか」

「は? ちょっと、ロウさん!?」
「まあまあ。同じ分野の研究を行う者同士、水入らずで楽しんできてください。こっちは昼食の時間になるまでここに居ますので」
「……ロウさんって時々、びっくりするくらい薄情になりますよね」

 灰色のジト目で非難するような視線を向けるヤームルをまるっと無視して送り出し、ロウは改めて館内を見回し観察する。

「ボルドーの異世界チックな図書館もいいけど……こういう普通の図書館もいいもんだなあ」

 本棚が連なり一定の間隔で長椅子と机も配置されているこの図書館は、彼が中島太郎なかじまたろうとして生前に見てきた公立図書館とよく似た雰囲気を持っていた。

 図書館独特のやや埃っぽい空気を吸い、異世界においても人の考えは似通ってくるものなのだろうか──そうぼんやり考えつつ、少年は本棚の間を進んでいく。

「──ん?」

 郷愁きょうしゅうにかられながら歩くことしばし。

 ロウはホール状の空間の中心にある、女性をかたどった石像を前にして立ち止まる。

「本を読む綺麗な女性の像。だけど、これは……セサリア修道院の祭壇にあった像と同じ、特別な力を持つものか」

 ボルドーの近くにあった修道院の聖堂、その祭壇にまつられていた医術神ナーサティヤの像を思い出しながら、ロウはそこはかとなく神聖さが感じられる像を鑑賞する。

「図書館に、しかも館内にわざわざ置いてあるなら、この図書館の重要人物なのか? それとも──」

 ──あのナーサティヤ神のように、この施設に関連する神を模ったものなのか。

 ロウがそう考えた矢先。少年の眼前に銀色の魔力が溢れだす!

「うおッ!?」

[──これはこれは、己が友よ、小さき友よ、久方ぶりではございませんか。最近めっきり不通となって、もう大図書館へは現れぬものかと、己はよよと泣き伏していたよ]

 銀色の魔力が一点に集まるのと同時に顕れるは、宙を漂う青白黒の奇怪な生物。

 翼のような腕部に脚部、そしてひょろりと長い胴部に尾っぽ。頭部に埋まる大粒の宝石にも見える一つ目を輝かせているのは、何を隠そう神の眷属グラウクスである。

 神出鬼没な己の友人に驚きながら、ロウはボルドーで別れを告げなかったことを詫びつつ挨拶を捻り出す。

「こんにちは、グラウクス。そういえばボルドーを出る時に挨拶していませんでしたね……すみません。でも、いきなり現れて、心臓が飛び出すかと思いましたよ」

[己もこの図書館でロウと会うことになろうとは、つゆほども考えてはいなかったとも。己の主神から下知げちが下った故に、普段は訪れぬこの場へ来てみたというわけさ。いやはや、予想だにしない出会いというのは、中々どうして嬉しいものだね]

「下知ですか。ということは──」
〈──汝がロウなる魔神か〉

 ロウがグラウクスに彼の主神について訊ねようとした時、ホールの中心にあった物言わぬ石像がにわかに色付き、生身と化して肉声を発する。

 動き出した女性は、彼女以外の全てが色褪いろあせてしまうほどに至上の美貌。

 輝くような銀の長髪には光を呑むような黒のメッシュが入り、人ならぬ美しさを放つ彫りの深い顔には、グラウクス同様の瑠璃色るりいろの瞳が煌めく。

 厚手の白布を巻きつけ肌を隠しているものの、すぼまった腹部や肉感的な大腿部は破廉恥はれんちなまでにあらわである。

 その様に思わずスケベ心を刺激されたロウは、話しかけられたことや石像が動き出したという事実も忘れてぴたりと硬直。穴が開くほど見入ってしまう。

〈……。こうも熱心に見られるとは。グラウクスよ、この者はロウという名ではないのか?〉

[己が主神よ、知恵の女神ミネルヴァよ。ここにある小さき友は、疑いようもなくロウなる者。彼は少々風変わりな者故に、しばしの猶予を頂きたい]

 あまりにも強烈に凝視ぎょうしされ、居心地悪そうに身動ぎした女神は自身の眷属に問いかける。

 主神の意を受けた眷属はロウの元へふわりと移動し、少年の顔の前で翼のような腕部をひらひら動かして呼びかけた。

[ロウよ、己が友よ。神なる美貌に心奪われるのは無理からぬことだけれど、出来れば己が主神の問いに応じてもらえると、己としても助かるのだが]

「──はッ!? これは失敬。まさかグラウクスの主神が直々にお出向きになるとは欠片も思っていなかったもので、ついつい呆けてしまいました」
〈呆けたという割には、随分と熱烈な視線を向けていたように思うが〉

「はて、何のことやらさっぱり」

 瑠璃色の瞳を細め訝しむ女神に対し、そらとぼける褐色の魔神。

 両者の間をふよふよと揺蕩たゆたい、防音の魔法を構築する青き神の眷属。

 知恵の女神と幼き魔神の奇妙な会談は、こうして幕を開けることとなったのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

処理中です...