異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

文字の大きさ
148 / 273
第五章 ヴリトラ大砂漠

5-7 妖精神と大地竜

しおりを挟む
 ところ変わってサン・サヴァン魔導国首都ヘレネスの商業区域。創造主からお留守番を仰せつかっているシアンたちはというと。

[──、──]

「よし、大分上達したぞ! うん? ……まだまだだって? そりゃあシアン姉ちゃんに比べたらなー」

 ロウから大陸拳法を学ぶことになっていた少年レルヒに対し、言いつけ通り体術指導を引き継ぎ訓練を行っていた。

 期間は魔術大学が始まるまでの数日間と短いものの、指導者や実戦相手に恵まれた少年はめきめきと実力を上げていた。

 今日も朝から昼食を挟み昼下がりまで、型稽古かたげいこに組手稽古にとシアンからみっちりしごかれ、当人は額の汗をそでで拭いながら満足げな表情を浮かべている。

「人の幼子は元気一杯ですね。このように暑い日だと、活力あふれる妖精でも日陰で涼むものですが」
「ふぁ……ふぅむ。長命種を除けば、人の生涯は短いからのう。ああして動き回り跳ねまわるのも、短き一生を謳歌おうかせんという切実なる本能からきているのやもしれん」

[──?][──……]

 そんな少年と魔神の眷属けんぞくの鍛錬をテラスから眺め、人外トークにふける女性が二人。

 大理石の卓で突っ伏し頬をべったりと接地させる銀髪の美少女と、腰掛けた椅子の背もたれに身体を預け、口元を隠さぬ大欠伸で突風を発生させる赤髪の美女。人型へと変じている妖精神イルマタルと大地竜ティアマトである。

 絶大なる力を持つ二柱に首を傾げたり硬直したりしているのは、ロウの眷属たちだ。

 淡青色たんせいしょくのツインテールが可愛らしい末っ子のサルビアと、赤茶色の短髪が凛々しく引き締まった印象を与える美丈夫びじょうふのテラコッタ。彼らも神や竜の寛ぐテラスで涼んでいるが、その様子はどちらかというとかしこまっている風だ。

「しかし、こやつらもまっこと変わっておるのう。半ば精霊のような眷属など、神にしか生み出せぬと思っておったが」

[──]

「そうですね。しかもこのサルビアなどは、ロウがごく短い時間で創り出したものですから。あの子は色々と異常ですよ」
「前日まではいなかったのに翌日にはいた、だったか? 短い時間で眷属を生むとは、あれで多産の魔神なのやもしれんな」
[……]

 己の話題が出ると擬態ぎたいを解除し金属球となってはしゃぐ妹に、その様を見て頭を痛める兄。何も知らないレルヒが見ていなかったのは幸運だったのかもしれない。

 そんな四人の下に、一人姿の見えなかったふわふわとした茶色の天然パーマが特徴的な美少年が、アイスティーとお茶菓子を持って現れた。薄っすらと日焼けしたような肌のこの少年は、眷属たちの長男にあたるコルクである。

[──、──]

「あら、気が利きますねコルク。流石はお兄さんね」
「紅茶か。よもや竜たる我が、魔神の眷属のもてなしを受ける日がこようとはのう。分からんものだ」

[──][──、──]
「うん……? あ、コルク兄ちゃん! お菓子があるなら俺も休憩しようっと」

 菓子類の気配を察知したシアンが指導を中断しテラスへ移動すると、レルヒもそれに追従して人外だらけのお茶会が始まった。

 大理石の卓に並べられた紅茶や菓子類はしっかり人数分用意されていたため、普段は光学擬態で過ごしているサルビアも、お茶を楽しむべく魔力で肉体を構築し参加している。

「──あ~……今日は暑かったから、冷たいお茶が美味しく感じるー。コルク兄ちゃん、ありがと」

[──]

「ふぅむ。今日はアイラやカルラはおらんのだな。あれら幼子の話を聞くのも、中々に面白いものだったのだが、残念だ」
「アイラたちなら今日から学生寮の方に移動したみたいです。フュンさんやアイシャさんが午前中荷造り手伝ってたし、今頃は向こうで荷解きしてるかも」

 そうしてしばらく紅茶を飲み焼き菓子に舌鼓したづつみを打った後。

 いつもは見学兼お喋りにきている少女たちの姿が見えないとティアマトがぼやけば、彼女たちの先輩であり事情も知っているレルヒが、彼女たちが居ない理由を告げた。

 ──彼らの交友関係は、ロウたちが出発したその日から始まっている。

 大砂漠へと出発するにあたり眷属を異空間から呼び出していたロウは、あらかじめアイラたちにシアンらを親戚として紹介していた。

 その親戚だという者たちが宿の庭に集まり何事かをしているというのは、そう間を置かずアイラたちの耳に入ることとなる。シアンたちの容姿が並外れて美しく宿泊客らの耳目じもくを集めたこと、ムスターファ家の使用人でありアイラたちを補佐するフュンが、ロウの親戚ということで関心を持っていたことが重なった結果であった。

 そうして噂の中心地である庭へとやってきてみれば、自分たちと同年代の少年をビシバシとしごいている、ロウと親戚だという美女の姿。どういう事情なのか気にするなという方が難しい。

 指導が終わったタイミングで事情を聞きにいき、しごかれていた少年レルヒが魔術大学に通う先輩だと知った彼女たちは、すぐに少年と打ち解け友人関係となった。

 以降は大学に関する話や共通の友人であるロウの話をしたり、時折やってくるティアマトやイルマタルの話し相手となったりしながら時間が進んでいく。

 そして、魔術大学開講初日を五日後に控えているのが現在である。

「──ほう、学生寮か。確かレルヒも寮住まいだったか?」

「うん、はい。学生寮といっても数があるし男女で別れてたりするから、同じ寮にはならないと思うけど」

 ティアマトに問われたレルヒは、ほんのりと緊張を滲ませながら答える。

 普段は物怖じすることのないこの少年でも、彼女を前にしてはいつもの様には振る舞えない。

 破局噴火中の火山を擬人化させたような、恐ろしさをはらむ雄大な自然そのものといった空気感。それを自然体でかもしだすのがティアマトである。彼の緊張も当然だった。

「あの子たちがいないと退屈ね。これから大学が始まってレルヒもいなくなることを考えたなら、わたしも砂漠へ向かった方が良かったかしら」
「砂漠? 何の話だ? それは」

「そういえば、あなたにはロウが旅行に行くとしか伝えていませんでしたか。あの子は今、人族の調査員と共に琥珀竜こはくりゅうヴリトラの創り出した砂漠へ向かっているのですよ。今頃は中心地付近でしょうか」

 ロウたちの出発時にティアマトが不在だったことを思い出したイルマタルが簡潔に事実を伝えると、それを聞いた美女はお茶請ちゃうけのスコーンを摘まみながら思案顔となる。

「……ティアマト? 今はあの砂漠に、ヴリトラはいないのですよね?」

「然り。さりとて、あれは竜の中でもなかんずく気紛れであるからのう。不意にかつての己が“しでかし”の様子を見に顕れんとも限らん。不運が重なれば、ロウと鉢合わせるやもしれんぞ」
「……そうですか。まあ、仮にロウと遭遇しても、同族であるウィルムが共に行動していますし、問題は起こらないでしょう。万が一問題が起こっても、まあ魔神が一柱消えるだけでしょうし。それはそれで悪くはありません」

「うん? ウィルム姉ちゃんの同族? 何の話なんだ?」
「レルヒ、おぬしは何も気にすることは無い。今まで通りべんべんだらりと紅茶を飲んでおけば良いのだ」
[[[……]]]

 子供とはいえ人族がいる中で平然と同族である竜についての話をするティアマトや、不用心にも魔神という単語を言い放つイルマタルを見て、お茶菓子をむさぼりながらも悄然しょうぜんとする眷属たち。

 彼女たちの正体が露見し、自分たちの創造主にまでるいが及ぶのではないかと恐々とする彼らは、

「やはり正体を隠す気など無いのでは?」
「常識人のシュガールさんがいないだけでこんなに危うくなるとは……」
「シュガール! はやくきてくれーッ!」
「え? ちょっと待って、イルマタルってお菓子食べ過ぎじゃない?」

 などと、内面で愚痴るのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...