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第五章 ヴリトラ大砂漠
5-14 琥珀竜ヴリトラ
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セルケトと一緒に空中散歩を開始してから二十分ほど。
竜の形態へと戻っているウィルムと向かい合う、琥珀色の巨竜。その細部が見える距離にまで、ようやく近付くことが出来た。
隣にいる竜の倍ほどの体躯を誇る琥珀色の巨竜は、竜一柱分もの大きさを誇る大翼を二対羽ばたかせ、光の加減で虹色に輝く竜鱗を陽光で煌めかせている。神秘的、幻想的なその様は、王者というよりもそれらを超越した存在──超自然的なものを想起させる。
二階建ての家屋を丸のみ出来そうなほど巨大な頭部には、二股に枝分かれした砂色の大角が一対生え、髭はなくともあの有名な曾我蕭白の雲龍図を彷彿とさせる圧倒的力感だ。この頭部なら先の極悪ブレスも吐けるのだろうと、無根拠に思えてしまった。
そんな猛々しい頭部の一方、体の方はといえば東洋龍的に細身だ。
頸部胴体尾部の境目こそ判別できるが、がっしりとしている西洋竜的なシュガールやドレイクと比べると、どこか優美でしなやかである。
腕部や脚部は巨大で逞しいが、五十メートルくらいありそうなスケールで考えると、やはり細くも思えた。
総合して実に格好良いフォルムだが、生物的にはどうなのだろうか。
「……あの巨竜、凄まじい魔力の奔流よな。ただ垂れ流されているだけというのに、身体が乾ききってしまいそうだぞ」
「身体強化やめたら速攻で干乾びそうだよな。傍のウィルムが霞んで見える」
「ウィルムも相当な力だと思っていたが……まっこと竜の力は天井知らずよ」
セルケトとの雑談を挟みながらも琥珀竜へと接近を続け、なんとか竜たちの話し声が聞こえる位置にまで辿り着く。
【──残念やのう。儂と同じ魔神嫌いと思うとったきさんが、よもや魔神に絆されとるとはの】
【相変わらず話を聞かん爺だな。絆されてなどいないと言っているだろうが!】
【ならば何故、暢気に飯を食ろうておったのだ? 態々人の身にやつして食事を共にするなど、絆されとるとしか言えんやろうが】
しかし到着してみれば、両者のこの険悪ぶりである。
たった一息で地平の彼方まで地表を削るような竜が怒りを発している現状は、冷や汗が玉の汗となって浮かんでしまうほど恐怖を感じてしまう。それもこの場に満ちている異常な乾燥ですぐに乾くけど。
触れるだけで水分が失われてしまう金の魔力に慄いていると、俺の到着を待っていたらしい竜たちが、不快さや怒気の滲む言葉を発した。
【遅いぞ、ロウ。早うこの爺に成り行きの説明をしろ】
【きさんが儂のウィルムを唆した魔神か。若き竜を魔神が手折るなど沙汰の限り。覚悟はできておろうな?】
「いやいや、ウィルムのことを唆しても篭絡しても無いですからね? 行動を共にするに至ったまでには、深ーい事情があるんですよ」
【なにが“儂のウィルム”だ耄碌爺がっ! それに妾はこやつから技術を学んでいるにすぎん。下種な勘繰りはやめろ!】
事情を説明しようとするも勝手にヒートアップしていくトカゲども。話聞けよ。
(トカゲて。話し合うつもりなら間違ってもそんな蔑称で呼ぶなよ? 竜は気ままだが、亜竜と同一視されようものなら──)
【【──トカゲだと?】】
「「あっッ」」
((ああっッ!?))
俺の表層心理を読み取ったサルガスの何気ない念話を、竜たちは傍受したようだ。
ガーネットの瞳が赫灼たる明光を発し、渇きの烈風と凍える吹雪が爆発する。
「どわぁッ!?」「ぬあっ!?」
そして足場から宙へと投げ出される俺たち。
高さ千と数百メートルからの落下は、かつてウィルムから突撃されたことを思い出すが──。
【やはり貴様は、一度シメねばならんようだな】
【退けウィルム。彼奴は儂がぶちくらす!】
──今回は二柱である。マジやべー。
(おおおいッ!? どうするんだよ!?)(サルガスのせいでしょう!?)「くうっ!? おいロウ、琥珀竜が構えたぞ!?」
んなもん落下中に言われましても、と思ったところで、ヴリトラが四枚の大翼を広げ神速降下を開始し──俺が展開した巨大な白き門に飲まれていった。
◇◆◇◆
【──!?】
((!?))「消えた? いや、異空間か!」
「ご明察ってな。ウィルムのところに戻るぞ!」
ヴリトラを異空間に拉致したところで即座に閉門。
砂丘に着地し、セルケトに答えながら上空のウィルムを見据える。
あいつのことだし、多分本気で殺る気は無いだろうが……。
転移を駆使して十秒と掛からず上空へと舞い戻り、万が一に備え魔力を秘めてたじろぐ竜と対面する。
「おいこら。なにがシメるだ、このタコ。お前はもうこっちに手を出さないって話だっただろうが」
【ぐ……。いや、本を正せば貴様が妾のことをトカゲなどと評すのが悪かろう。大体、貴様は竜を何だと思っている? 神や魔神共より力を有するのが妾たち竜属なのだぞ!】
「──ふう、ようやっと追いついたか。ロウよ、先ほどは肝が冷えたが、ウィルムの言は一理ある。不用意にも竜を侮辱したのだからな」
かつて結んだ約定を振りかざして攻勢を強めていると、後からやってきたセルケトがウィルムの擁護を始めてしまった。
「裏切ったかセルケト……というか、トカゲ呼ばわりしたのは俺じゃなくてサルガスだし」
(……まあ確かに、口に出したのは俺だが。内面で思っていたことが露見しただけと考えたら、やはりお前さん自身が原因だぞ)
「うるせえ。言い訳しないで観念しやがれ」
「やはりロウは性根が腐っている」
【妾のことを内面でそう評していたとはな。やはり貴様は腐れ魔神ということか】
(ロウ、素直に謝罪すべきなのです)
何故か周囲の面々から寄ってたかって言葉責めにされるの図。
孤立無援で戦いを続けるほど気高くも無いため、サクッと方針を切り替える。
「まあ、トカゲ呼ばわりしたのは悪かったよ」
【最初からそうやって謝れば良い。全く、話を拗らせよってからに】
「のっけから魔力解放して聞く耳持ってなかっただろうが」
「言い合っている場合ではないだろう。ロウよ、あの巨竜はどうするのだ? このまま異空間に放置するわけにもいくまい」
「そうだな──ッ!?」
ウィルムへの謝罪を済ませ、異空間に放り込んだヴリトラに思考を向けた直後──下方に位置する中空に、ウィルムとは異なる金の魔力!
【っ!?】「これは──っ!?」
溜めていた魔力で十枚重ねの断絶障壁を一気に構築し、ウィルムやセルケトの足元まで覆ったところで──下方の魔力が爆発した。
◇◆◇◆
「!?」((!?))
魔力の爆発と共に顕れるは、当然のことながら琥珀竜ヴリトラ。
そのとんでも大爆風によって数枚砕かれた障壁越しに見える姿は、金の魔力を帯びて虹に輝く。
「まさか、出てきたのか!」
【やいロウ! 貴様、門を開けたのか!?】
「んなわけあるか。神をも凌ぐ竜なら、空間魔法だって使える──ん!?」
喚くウィルムに返答している途中に、灼熱を宿す瞳と目が合った──そう思った瞬間に奴の輪郭がブレ、なにする間もなく上空へと吹き飛ばされる。
「ヅッ……」「ぐっ!?」
【──遅い】
障壁ごと両足膝下を食い千切られて打ち上げられた──と、認識した刹那に琥珀色の翼撃!
「ぐ、ぅ!?」
身を捻り歯を食いしばり銀刀抜き打ちで応じるも、次いで迫った尾撃が直撃。
((ロ──))
勢いよくぶっ飛ばされて、曲刀たちの言葉が意味を成す前に大地に着弾。
「──ぐッ……はあ……だあッ!」
周囲の砂を魔力で吹き飛ばし生還ッ!
生きているぞぉコノヤロー!
数メートル埋没するほどの速度で叩きつけられたものの、食い千切られた箇所以外に目立った損傷は無し。尾の一撃で持っていたサルガスがぶっ飛ばされたけども。
「つぅ……クソッ、立てねえ」
(ロウ、足が……。早く避難しましょう!)
「つっても、ヴリトラは空間魔法を、使えるみたいだからな……異空間から、出てきたし。それに、セルケトがいるだろ……って、何やってんだ、あいつ」
血の混じる砂を吐き出し膝立ちになって上空を見上げれば、目に飛び込んできたのは壮大なる乱戦模様。
浮遊させた岩の足場を跳び回るセルケトと、超高速で飛び回り氷の華を咲かせまくるウィルムの姿。そして、それらを迎撃せんと翼撃衝撃波をばら撒くヴリトラである。
【──っ!】【──】
「──!?」
翼撃を掻い潜った青白い竜拳が巨竜の胸部に突き刺さり、直径百メートル級の氷の花が咲いた──と思えば、その花を砕き這い出た琥珀竜が、地平まで轟く大喝一声!
氷塊を消滅させる渇きの咆哮で相手を怯ませた巨竜は、生じた隙に返しの竜拳制裁。
一撃でウィルムを遥か遠方にまで殴り飛ばし、かの竜の着弾で局所的な地震と巨大な爆煙を発生せしめた。
青玉竜はワンパンK.O.
大怪獣大戦、瞬く間に終了である。
「……どつきあい一瞬で負けてんじゃねえか。って、このままだとセルケトが殺される! ギルタブ、俺に憑依しろ!」
(馬鹿を言わないでください! そんな足でどうするって言うんですか!?)
「憑依の副次効果で魔力制御力が一気に引き上げられるだろ? あれでより上手く回復魔法を構築すんだよ。……足が生えるかは知らんが」
(無茶苦茶な……ああもう!)
文句を言いつつも半霊体化したギルタブがこの身に宿る。
なんのかんのと言いつつ意に沿ってくれる辺り、やはり優しい奴だ。
(いいから早く治療してください!)
「あいよっと……ぐ……」
憑依したことで得られた人体構造の知識を引き出しながら、千切られ砂まみれとなった己の膝下が再生する様子を思い描く。
切断面から突き出す骨に、リールに巻かれる釣り糸のようにそれを覆っていく筋繊維。染み出すように表面を覆っていく皮膚と、新芽のように足指の先から顔を出す爪。
超速早回し映像の再生劇は、僅か五秒での出来事だ。
「ヅゥッ……があ、サルガス! 起きてたら返事しろ!」
(ロウ! 俺はそっちの方から南側の砂丘にいる!)
いつもよりは数段マシ、しかし眩暈がするような眼底痛を歯を食いしばって耐え、砂原に埋もれている相棒を探す。
念話の位置情報サポートにより十秒で発見、直ちに装着。そのまま転移を駆使して現場に舞い戻る!
「やってくれたな、クソッタレが」
「遅いぞ、ロウ……」
【『空間跳躍』か。猪口才な】
金なる魔力が吹き荒れる上空へ戻れば、ひび割れた赤黒い鎧に身を包む、半分人外となっているセルケトの姿。本来の姿に戻っているようだが、ボロボロだ。
「セルケト、よく頑張ったな。後はこっちに任せて、この糞野郎にぶっ飛ばされたウィルムの介抱を頼む。魔力は感じ取れるけど、あいつも大分弱ってるみたいだ」
「口惜しいが、従おう。……死ぬなよ」
長大な尾や甲殻類のような前肢の生えていた彼女を送り出し、眼前の琥珀竜を見据える。
俺以外はどうでもいいのか、セルケトへの追い打ちはしないようだ。
【人造魔物を飼うとは、きさんも変わりもんやのう。アレらは神や魔神を超えんとして創られた異形やというんに】
「成り行きなもんで。というか何でお前はウィルムをぶっ飛ばしたんだ? 自分のウィルムだとか言ってただろ」
【ハッ。きさんのような腐った魔神に歪められた性根を叩き直してやったんやぞ? 儂ぁ感謝されても良いくらいやろう】
「……この偏狭爺が」
少し言葉を交わしただけでも理解できるほどの、価値観の相違。
魔神との関係は毛ほども許さない、金属塊の如き強硬な姿勢が僅かなやり取りでも見て取れる。
きっと長く生きている竜ゆえに、魔神嫌いが極まっているのだろう。
ティアマトやシュガールのような言葉での説得は不可能と判断し、銀の切っ先を向ける。
【かような棒きれで、それも『降魔』すら無しか? 舐められたもんやのう。まあ良い、しばいたる】
向けられた銀刀を見て鼻を鳴らし、琥珀色の大翼を広げ金の奔流と共に咆えるヴリトラ。
「──ハッ。こっちもお前には腹が立っててな。吠え面をかかせてやるよ」
俺の仲間に手を出した落とし前、こいつにはキッチリつけてもらおう。
ラウンドツー、開幕だ。
竜の形態へと戻っているウィルムと向かい合う、琥珀色の巨竜。その細部が見える距離にまで、ようやく近付くことが出来た。
隣にいる竜の倍ほどの体躯を誇る琥珀色の巨竜は、竜一柱分もの大きさを誇る大翼を二対羽ばたかせ、光の加減で虹色に輝く竜鱗を陽光で煌めかせている。神秘的、幻想的なその様は、王者というよりもそれらを超越した存在──超自然的なものを想起させる。
二階建ての家屋を丸のみ出来そうなほど巨大な頭部には、二股に枝分かれした砂色の大角が一対生え、髭はなくともあの有名な曾我蕭白の雲龍図を彷彿とさせる圧倒的力感だ。この頭部なら先の極悪ブレスも吐けるのだろうと、無根拠に思えてしまった。
そんな猛々しい頭部の一方、体の方はといえば東洋龍的に細身だ。
頸部胴体尾部の境目こそ判別できるが、がっしりとしている西洋竜的なシュガールやドレイクと比べると、どこか優美でしなやかである。
腕部や脚部は巨大で逞しいが、五十メートルくらいありそうなスケールで考えると、やはり細くも思えた。
総合して実に格好良いフォルムだが、生物的にはどうなのだろうか。
「……あの巨竜、凄まじい魔力の奔流よな。ただ垂れ流されているだけというのに、身体が乾ききってしまいそうだぞ」
「身体強化やめたら速攻で干乾びそうだよな。傍のウィルムが霞んで見える」
「ウィルムも相当な力だと思っていたが……まっこと竜の力は天井知らずよ」
セルケトとの雑談を挟みながらも琥珀竜へと接近を続け、なんとか竜たちの話し声が聞こえる位置にまで辿り着く。
【──残念やのう。儂と同じ魔神嫌いと思うとったきさんが、よもや魔神に絆されとるとはの】
【相変わらず話を聞かん爺だな。絆されてなどいないと言っているだろうが!】
【ならば何故、暢気に飯を食ろうておったのだ? 態々人の身にやつして食事を共にするなど、絆されとるとしか言えんやろうが】
しかし到着してみれば、両者のこの険悪ぶりである。
たった一息で地平の彼方まで地表を削るような竜が怒りを発している現状は、冷や汗が玉の汗となって浮かんでしまうほど恐怖を感じてしまう。それもこの場に満ちている異常な乾燥ですぐに乾くけど。
触れるだけで水分が失われてしまう金の魔力に慄いていると、俺の到着を待っていたらしい竜たちが、不快さや怒気の滲む言葉を発した。
【遅いぞ、ロウ。早うこの爺に成り行きの説明をしろ】
【きさんが儂のウィルムを唆した魔神か。若き竜を魔神が手折るなど沙汰の限り。覚悟はできておろうな?】
「いやいや、ウィルムのことを唆しても篭絡しても無いですからね? 行動を共にするに至ったまでには、深ーい事情があるんですよ」
【なにが“儂のウィルム”だ耄碌爺がっ! それに妾はこやつから技術を学んでいるにすぎん。下種な勘繰りはやめろ!】
事情を説明しようとするも勝手にヒートアップしていくトカゲども。話聞けよ。
(トカゲて。話し合うつもりなら間違ってもそんな蔑称で呼ぶなよ? 竜は気ままだが、亜竜と同一視されようものなら──)
【【──トカゲだと?】】
「「あっッ」」
((ああっッ!?))
俺の表層心理を読み取ったサルガスの何気ない念話を、竜たちは傍受したようだ。
ガーネットの瞳が赫灼たる明光を発し、渇きの烈風と凍える吹雪が爆発する。
「どわぁッ!?」「ぬあっ!?」
そして足場から宙へと投げ出される俺たち。
高さ千と数百メートルからの落下は、かつてウィルムから突撃されたことを思い出すが──。
【やはり貴様は、一度シメねばならんようだな】
【退けウィルム。彼奴は儂がぶちくらす!】
──今回は二柱である。マジやべー。
(おおおいッ!? どうするんだよ!?)(サルガスのせいでしょう!?)「くうっ!? おいロウ、琥珀竜が構えたぞ!?」
んなもん落下中に言われましても、と思ったところで、ヴリトラが四枚の大翼を広げ神速降下を開始し──俺が展開した巨大な白き門に飲まれていった。
◇◆◇◆
【──!?】
((!?))「消えた? いや、異空間か!」
「ご明察ってな。ウィルムのところに戻るぞ!」
ヴリトラを異空間に拉致したところで即座に閉門。
砂丘に着地し、セルケトに答えながら上空のウィルムを見据える。
あいつのことだし、多分本気で殺る気は無いだろうが……。
転移を駆使して十秒と掛からず上空へと舞い戻り、万が一に備え魔力を秘めてたじろぐ竜と対面する。
「おいこら。なにがシメるだ、このタコ。お前はもうこっちに手を出さないって話だっただろうが」
【ぐ……。いや、本を正せば貴様が妾のことをトカゲなどと評すのが悪かろう。大体、貴様は竜を何だと思っている? 神や魔神共より力を有するのが妾たち竜属なのだぞ!】
「──ふう、ようやっと追いついたか。ロウよ、先ほどは肝が冷えたが、ウィルムの言は一理ある。不用意にも竜を侮辱したのだからな」
かつて結んだ約定を振りかざして攻勢を強めていると、後からやってきたセルケトがウィルムの擁護を始めてしまった。
「裏切ったかセルケト……というか、トカゲ呼ばわりしたのは俺じゃなくてサルガスだし」
(……まあ確かに、口に出したのは俺だが。内面で思っていたことが露見しただけと考えたら、やはりお前さん自身が原因だぞ)
「うるせえ。言い訳しないで観念しやがれ」
「やはりロウは性根が腐っている」
【妾のことを内面でそう評していたとはな。やはり貴様は腐れ魔神ということか】
(ロウ、素直に謝罪すべきなのです)
何故か周囲の面々から寄ってたかって言葉責めにされるの図。
孤立無援で戦いを続けるほど気高くも無いため、サクッと方針を切り替える。
「まあ、トカゲ呼ばわりしたのは悪かったよ」
【最初からそうやって謝れば良い。全く、話を拗らせよってからに】
「のっけから魔力解放して聞く耳持ってなかっただろうが」
「言い合っている場合ではないだろう。ロウよ、あの巨竜はどうするのだ? このまま異空間に放置するわけにもいくまい」
「そうだな──ッ!?」
ウィルムへの謝罪を済ませ、異空間に放り込んだヴリトラに思考を向けた直後──下方に位置する中空に、ウィルムとは異なる金の魔力!
【っ!?】「これは──っ!?」
溜めていた魔力で十枚重ねの断絶障壁を一気に構築し、ウィルムやセルケトの足元まで覆ったところで──下方の魔力が爆発した。
◇◆◇◆
「!?」((!?))
魔力の爆発と共に顕れるは、当然のことながら琥珀竜ヴリトラ。
そのとんでも大爆風によって数枚砕かれた障壁越しに見える姿は、金の魔力を帯びて虹に輝く。
「まさか、出てきたのか!」
【やいロウ! 貴様、門を開けたのか!?】
「んなわけあるか。神をも凌ぐ竜なら、空間魔法だって使える──ん!?」
喚くウィルムに返答している途中に、灼熱を宿す瞳と目が合った──そう思った瞬間に奴の輪郭がブレ、なにする間もなく上空へと吹き飛ばされる。
「ヅッ……」「ぐっ!?」
【──遅い】
障壁ごと両足膝下を食い千切られて打ち上げられた──と、認識した刹那に琥珀色の翼撃!
「ぐ、ぅ!?」
身を捻り歯を食いしばり銀刀抜き打ちで応じるも、次いで迫った尾撃が直撃。
((ロ──))
勢いよくぶっ飛ばされて、曲刀たちの言葉が意味を成す前に大地に着弾。
「──ぐッ……はあ……だあッ!」
周囲の砂を魔力で吹き飛ばし生還ッ!
生きているぞぉコノヤロー!
数メートル埋没するほどの速度で叩きつけられたものの、食い千切られた箇所以外に目立った損傷は無し。尾の一撃で持っていたサルガスがぶっ飛ばされたけども。
「つぅ……クソッ、立てねえ」
(ロウ、足が……。早く避難しましょう!)
「つっても、ヴリトラは空間魔法を、使えるみたいだからな……異空間から、出てきたし。それに、セルケトがいるだろ……って、何やってんだ、あいつ」
血の混じる砂を吐き出し膝立ちになって上空を見上げれば、目に飛び込んできたのは壮大なる乱戦模様。
浮遊させた岩の足場を跳び回るセルケトと、超高速で飛び回り氷の華を咲かせまくるウィルムの姿。そして、それらを迎撃せんと翼撃衝撃波をばら撒くヴリトラである。
【──っ!】【──】
「──!?」
翼撃を掻い潜った青白い竜拳が巨竜の胸部に突き刺さり、直径百メートル級の氷の花が咲いた──と思えば、その花を砕き這い出た琥珀竜が、地平まで轟く大喝一声!
氷塊を消滅させる渇きの咆哮で相手を怯ませた巨竜は、生じた隙に返しの竜拳制裁。
一撃でウィルムを遥か遠方にまで殴り飛ばし、かの竜の着弾で局所的な地震と巨大な爆煙を発生せしめた。
青玉竜はワンパンK.O.
大怪獣大戦、瞬く間に終了である。
「……どつきあい一瞬で負けてんじゃねえか。って、このままだとセルケトが殺される! ギルタブ、俺に憑依しろ!」
(馬鹿を言わないでください! そんな足でどうするって言うんですか!?)
「憑依の副次効果で魔力制御力が一気に引き上げられるだろ? あれでより上手く回復魔法を構築すんだよ。……足が生えるかは知らんが」
(無茶苦茶な……ああもう!)
文句を言いつつも半霊体化したギルタブがこの身に宿る。
なんのかんのと言いつつ意に沿ってくれる辺り、やはり優しい奴だ。
(いいから早く治療してください!)
「あいよっと……ぐ……」
憑依したことで得られた人体構造の知識を引き出しながら、千切られ砂まみれとなった己の膝下が再生する様子を思い描く。
切断面から突き出す骨に、リールに巻かれる釣り糸のようにそれを覆っていく筋繊維。染み出すように表面を覆っていく皮膚と、新芽のように足指の先から顔を出す爪。
超速早回し映像の再生劇は、僅か五秒での出来事だ。
「ヅゥッ……があ、サルガス! 起きてたら返事しろ!」
(ロウ! 俺はそっちの方から南側の砂丘にいる!)
いつもよりは数段マシ、しかし眩暈がするような眼底痛を歯を食いしばって耐え、砂原に埋もれている相棒を探す。
念話の位置情報サポートにより十秒で発見、直ちに装着。そのまま転移を駆使して現場に舞い戻る!
「やってくれたな、クソッタレが」
「遅いぞ、ロウ……」
【『空間跳躍』か。猪口才な】
金なる魔力が吹き荒れる上空へ戻れば、ひび割れた赤黒い鎧に身を包む、半分人外となっているセルケトの姿。本来の姿に戻っているようだが、ボロボロだ。
「セルケト、よく頑張ったな。後はこっちに任せて、この糞野郎にぶっ飛ばされたウィルムの介抱を頼む。魔力は感じ取れるけど、あいつも大分弱ってるみたいだ」
「口惜しいが、従おう。……死ぬなよ」
長大な尾や甲殻類のような前肢の生えていた彼女を送り出し、眼前の琥珀竜を見据える。
俺以外はどうでもいいのか、セルケトへの追い打ちはしないようだ。
【人造魔物を飼うとは、きさんも変わりもんやのう。アレらは神や魔神を超えんとして創られた異形やというんに】
「成り行きなもんで。というか何でお前はウィルムをぶっ飛ばしたんだ? 自分のウィルムだとか言ってただろ」
【ハッ。きさんのような腐った魔神に歪められた性根を叩き直してやったんやぞ? 儂ぁ感謝されても良いくらいやろう】
「……この偏狭爺が」
少し言葉を交わしただけでも理解できるほどの、価値観の相違。
魔神との関係は毛ほども許さない、金属塊の如き強硬な姿勢が僅かなやり取りでも見て取れる。
きっと長く生きている竜ゆえに、魔神嫌いが極まっているのだろう。
ティアマトやシュガールのような言葉での説得は不可能と判断し、銀の切っ先を向ける。
【かような棒きれで、それも『降魔』すら無しか? 舐められたもんやのう。まあ良い、しばいたる】
向けられた銀刀を見て鼻を鳴らし、琥珀色の大翼を広げ金の奔流と共に咆えるヴリトラ。
「──ハッ。こっちもお前には腹が立っててな。吠え面をかかせてやるよ」
俺の仲間に手を出した落とし前、こいつにはキッチリつけてもらおう。
ラウンドツー、開幕だ。
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王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
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祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
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