異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第六章 大陸震撼

6-21 大陸震撼

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久しぶりに登場する人物たちの簡易紹介:

エスリウ: 魔神兼美少女、兼ゴリラ。
マルト: エスリウに仕える上位精霊。クールビューティー。

ベルナール: 冒険者組合ボルドー支部の長。イケメガネ。
ヴィクター: ボルドー最強の個人、その一人。冒険者。
ベルティエ: 同上。ただし冒険者ではなく修道院の神官長。
レルミナ: ボルドーを拠点とする冒険者。クールビューティー其の二。
ダリア: 冒険者組合の受付嬢。深山幽谷たる谷間を誇る。要するにおっぱいが凄い。



──────





 夕刻。サン・サヴァン魔導国首都ヘレネス行政区域、リーヨン公国領事館りょうじかんにて。

「──この地響き、一体何が起きている? 都市を攻め立てた魔物たちは、討伐されたのではなかったのか?」

「ただ事ではないのだろう。何でも襲撃してきた魔物の中には、本来まじわらぬはずの亜竜の存在もあったという。魔王級の存在も噂されておるし、魔物と亜竜とが結託しておるのやもしれん」
「馬鹿な、あの知恵にとぼしきものたちが結託だと? 一個の軍のように人族の治める国を攻めたというのか?」
「魔王が魔物を率い亜竜を駆ったという事例もあるし、あり得ん話でもないだろうさ。魔王級の存在がちらついているならば、単なる噂も一層真実味も帯びてくる」

「となれば、先に退けた一群は尖兵か? この大地の鳴動が本隊の引き起こすものだとすれば、ただの暴走などではあるまい。統率者となるものがいれば、国家間の戦のように長引くやもしれんぞ」
「そうなれば、我ら公国も友好国として、何らかの支援を行わねばならぬやもしれん。北の帝国の動きが活発化しているというのに、何とも間の悪い──」

 公国の大使たちが集まる会議室では、議論が紛糾ふんきゅうしていた。

 議題は言わずもがな朝に起きた魔物の侵攻。そしてそれが鎮圧されて以降、断続的に発生している地震である。

 この地震は大陸中央部、海魔竜と魔神とが繰り広げる戦闘の余波によるものだが……この場に集まる人族でそれを知る者はいない。

 故に、議論は先の魔物襲撃と結びつけた形の結論、真実とは異なる方向へ進んでいた。

 そんな渦の中にあり、真実を手繰たぐり寄せんと「眼」をらす者が二人。象牙色美少女にして魔神のエスリウ、その従者のマルトである。

「──お嬢様。この揺れ、数日前の大災害と同じ要因と考えて良いのでしょうか?」

「ええ、間違いありませんね。噴煙ふんえんに閉ざされている大陸中央部にあって、なおも感じ取れる黄金の魔力。更には、この大陸西部までをも揺るがす絶大なる力。伝説にうたわれる古き竜のいずれかでなければ、あり得ないでしょう」

「古き竜……。大砂漠で災厄を引き起こした琥珀竜こはくりゅうに呼応した竜。もしくは当の琥珀竜が移動し、今度は大陸中央で暴れている、ということですか。……先の襲撃の際に感じられた強烈な精霊魔法もそうですが、各地で力ある存在の動きが活発化しているように思えます。それも、急激に」

 論を戦わせる大使たちから離れ、視線鋭く西をうかがう主の言葉に、マルトはここ数日に起きた出来事を思い返しながら所感を述べる。

 大陸北部で発生した大災厄。

 公国の南部「枯色竜かれいろりゅうの災禍」跡地で起きた極冷現象と、冷気を操る亜竜たちの出現。

 眷属けんぞくを使って監視をしている魔神バロールから知らされた、帝国内部で蠢動しゅんどうする魔神の動き。

 そして、今日起きた魔物の暴走に大規模な精霊魔法、今なお続く地震。

 どれ一つとっても一大事件と言えるものであり、偶然発生したと言うにしても時期が重なり過ぎていた。マルトがそこに関連性を感じるのも、当然ともいえる流れである。

 実のところ、ここに彼女が思い浮かべた出来事の半数以上は、かの褐色少年が絡んだ事案なのだが……。砂漠から帰還した少年とは未だに顔を合わせていないため、情報共有が行われていなかった。

 それ故に、かつての少年に対する誤解のように、またしても事態を大きく考えてしまっていたのだ。

「ワタクシの『眼』で視る限り、北部で感じられた魔力と今感じられる魔力は、同格同種族のようだけれど、同一個体ではないように思えるわ。貴女の言う通り、呼応したと考えるのが自然かもしれませんが……。帝国の動きも気に掛かるし、予断を許さない状況にあることは間違いありません。お母様がリマージュへ戻っている時に、こうも立て続けに事が起こるなんて」

「私の考えすぎかもしれませんが。先の大災害にしても今起きている地震にしても、ロウの動向を追えない状況で起きていることが気になります」

「ワタクシも同じ考えがよぎりましたが……砂漠から帰ってきたあの子はケロリとした様子だったと、彼に会ったアイラたちが言っていましたし、関連性は薄いでしょう。幾らロウさんが常識から外れていても、古き竜と一悶着があって無傷というのは、流石に考えづらいことです。とはいえ行方をくらましている点は気になりますし、なるべく早く、お母様も交えて話をしたいところですね」

 一瞬真実に近づいた両者であったが、至った考えは荒唐無稽こうとうむけいだとすぐに打ち捨ててしまう。

 幾柱もの神々をほふってきた古き竜と相対し、激烈な闘争の果てに生存するなど、人外たる彼女たちでも想像だにしないことだった。

 エスリウの母であり上位魔神であるバロールでさえ、古き竜と対する時には魔神に眷属にと駒を揃え戦っていた。そういった他の魔神や眷属との繋がりを持たぬロウが古き竜へ挑むなど、彼女たちにとって慮外りょがいのことである。

「ようやく収まってきたかしら? それにしてもこの波動、尋常なものでは──あら、オディール様。ご機嫌麗しゅう」

 従者と共に壁の花となっていたエスリウだったが──不意に彼女たちへ接近する集団が現れ、彼女はしとやか笑みを湛えカーテシーを行った。

 集団の先頭に立つ金髪碧眼きんぱつへきがん縦ロールな美少女は、オディール・カレリア。

 公爵家三女であるエスリウが礼を尽くすのは、彼女が公国貴族たるカレリア公爵の妹であり、公国の最上位貴族であるからだ。

「ごきげんよう、エスリウさん。いつもは積極的に意見を発信していく貴女が、こういった場で静かに時を過ごしているのも珍しいですね?」

「うふふ、魔術大学での研究のように、多少ワタクシでも覚えのある分野であれば、知見を広めるために議論の場に加わるのですけれど。この国の政情が絡むとなると、語る術がありません」
「そうかしら? 大学図書館で政治に軍事にと書を読み漁っている才媛さいえんの言葉とは思えませんね。そうでなくても貴女のお兄様が議論の中心にいますし、いつもの様にはべり補佐をするものかと……」

「エルロックお兄様から寵愛ちょうあいを受けていることは、ワタクシの誇りですけれど……。お父様の背に学びお父様の下で経験を積んだお兄様は、ワタクシのような若輩者の知識や意見など、必要とされていませんよ」

 彼女たちの会話の中で出てきたエスリウの兄というのは、ジラール公爵の長子にしてエスリウの腹違いの兄、エルロック・ジラールである。

 普段は公爵家の長子として父親の下で政務に励む彼は既に所帯を持っているが、親子ほども年の離れた妹エスリウを溺愛できあいしていた。オディールの先の発言は、これを揶揄やゆしたものだ。

(澄ました顔で受け止めて……。私の言葉などでは心を乱さない、そもそも価値を感じないと? ぐぐぐ……。ちょっと大学で良い成績で、武にも学にも通じているからといって、増長し過ぎじゃないの、この娘ってば)

 表面上は人当たりの良い微笑みを浮かべつつ、オディールは内面において歯ぎしりする。

 ──彼女がここまで対抗意識を燃やすのは、彼女がエスリウ同様に魔術大学の学生であることに起因していた。

 若くして父親から公爵を継いだ傑物、エリアス・カレリアの妹であるオディールは、文武のどちらも天稟てんぴんに恵まれている。

 公爵家という環境に身を置いていた彼女は、公国きっての才女である姉を手本に、己を磨き続けてきた。

 幼い頃から姉について回り、時に優しく交友関係の大切さについてさとされ、時に厳しく戦闘術を叩き込まれたオディール。才能に環境、そして本人のたゆまぬ努力により、彼女は極めて優秀な人材へと至る。

 そんな彼女は更に見識を広げるため、公国から魔術大学へ留学することになるが……そこで、決定的なまでの敗北感を刻み込まれることになった。

 それが、エスリウとの出会いだ。

(まさか、最初に会った時のことをまだ根に持っているのかしら? 確かに、無理矢理手合わせを迫ったのは強引だったかもしれないけれど。表には出さなくとも、内では過去のことをいつまでも引きずる……全く、信じられないほど未練がましい。正体見たりって感じね)

 このようにエスリウをこき下ろすオディールは、魔術大学に入学した当初、特別推薦ということで無試験入学をしたエスリウに、手合わせを迫った過去を持つ。

 両名共にリーヨン公国高位貴族の娘であるが、カレリア公爵家の娘たるオディールは通常試験、ジラール公爵の娘エスリウは無試験による入学であった。

 オディールはその類稀たぐいまれなる才気をいかんなく発揮し、試験の結果首席で入学することになる。

 だが、同じ公爵家の娘でありながらエスリウと扱いに差があることに、しかもそれが正妻ではなく妾の娘だということに、誇り高い彼女は強い不満を覚えた。

 その感情のままにエスリウの下へ向かった彼女は、無試験入学がなんぼのもんじゃいと、魔術込みの手合わせを無理くり申し込むが──結果は惨敗であった。

 当然である。オディールが如何に優秀であろうとも、それは人の範囲に収まる水準。魔神たるエスリウにかなう道理がない。

(ああもうっ、あの時のことを思い出しただけでも腹がたって仕方がない。この娘のお父上もその妾も、魔術的な素養なんて無いはずなのに。どうして上級魔術を幾つも構築していながら、涼しい顔が出来たのかしら)

 しかしながら、エスリウが魔神であるとはつゆほども考えないオディールにとっては、認めがたい結果である。

 両親ともに名高い貴族であり、自分もその娘として相応しくあるよう不断の努力を重ねてきたというのに、敗北してしまったのだ。

 それも、名家とはいえ魔術的な素養が低い現ジラール公爵と、素養が一切ないと言われる妾の間の娘に、である。

 この世界において、正式にめとっていない相手との間の子に相続権は認められていない。

 妾の子が正室の子と比べ劣位にあることを端的に示しているこの事実は、才にも容姿にも恵まれたエスリウをやっかむ者にとって、彼女をおとしめる恰好の的となる。

 故に、大学内では彼女に関する様々な風評が立つ。

 彼女こそがジラール公爵の堕落だらくした証だとか、公爵をたぶらかした母同様に男を魅了し転がすのが趣味だとか。

 正室の子であり腹違いの兄となるエルロックとただならぬ関係にあるだとか、大学教授陣にびを売り後ろ盾を得ようとしているだとか。

 実は重度のショタコンであり、事あるごとに自室へ美少年を拉致して情熱的な時間を過ごしているだとか。

 根も葉もないものから核心を突くものまで、それは実に多様であった。

 オディールがエスリウに対し並みならぬ対抗意識を持つのも、これら噂によって助長された差別的意識に根差すものだ。

 もっとも、彼女の場合はやっかむ感情を全て己を高める原動力としたため、声高に噂を吹聴して回るようなことはなかったが。

「──エスリウ、時間が遅くなってきたし、そろそろ戻ろうか……おや、オディール様。ご無沙汰しております。議論が熱くなっているこの場にあっても、貴女の周囲はみやびやかですね」

 そんなオディールが張り付けたような笑みを浮かべ、上っ面をなぞるような世間話をしていると──さらさらとした金髪やすみれ色の瞳が印象深い美青年が、爽やかな空気と共に現れた。

「あら、エルロック様。ごきげんよう。エルロック様こそ、この混沌とした議論を制し意見を纏め方向性を定める手腕は、見惚れてしまう程お見事でした。もうお帰りの時間ですか?」

「あのカレリア公爵の妹君にそう評してもらえると、父に褒められた時以上に自信がつきますよ。会議が友好国として物資による支援はしつつも、人員の派遣は極力避けるという方向で決着をみましたから、魔導国の正式な発表があるまでは我々も休息をとるべきでしょう。状況次第ではまた調整せねばなりませんし、今は余白を持っておくべきです。それにこの時間にもなると、私の胃も頭も、燃料を寄こせと訴え集中力が掻き乱されてしまうのですよ」

 頭と腹を押さえおどけた仕草をとる好青年の柔らかい空気により、彼女たちのけんのある空気も弛緩する。

「もっとお話をしたいところでしたけれど、お兄様の言葉はもっともですね。オディール様、お先に失礼します。続きは、またお会いした時にでも」
「残念ですが、その通りですね。エルロック様にエスリウさん、ひとまず地震は収まったようですが、どうかお帰りはお気をつけて」

 互いに見えざる矛を降ろし、彼女たちの闘いは終了した。

 この闘いが再燃するのは数日後──妖しげな少年と談笑するエスリウを、オディールが発見した時であった。

◇◆◇◆

 ところ変わってリーヨン公国の南部、工業都市ボルドーでは。

「──ハァ。魔物被害が終息を見たかと思えば、今度は亜竜の群れが都市近隣に移り住むとはな。頻発ひんぱつするこの地震が関係しているのか?」

「亜竜どもの目撃が急激に増えたのは地震以前だし、関連性は分からんな。ただ、魔物被害と違って公爵が兵を動かし対策しているし、冒険者組合の支部長であるお前が嘆くもんでもないだろ」
「ふふ、ベルナール殿の心配は頷けようものですよ、ヴィクター殿。見事な戦果を打ち立てている『竜殺し』殿に続き、自分も亜竜に挑むぞと意気込む冒険者たちは、中々に多いですからね」

「功を焦って竜の巣に突撃なんてしなければいいけど。……焦るといえば、竜信仰の一団への対応は何も打たなくていいの? 街中で過激なこと言ってるのをよく見かけるよ」

 冒険者組合の支部長室で都市有数の実力者たちが一堂に会し、緊急の会議を行っていた。

 議題は魔導国で行われていた会議と同様だが、今朝魔導国で起きた魔物の暴走はボルドーに伝わっていないため、この件は議題から外れている。

 代わりに、かつてボルドー近隣で発生した「枯色竜の災禍」以降、頻繁ひんぱんに見られるようになった亜竜たちの存在や、冒険者のレルミナが触れた竜信仰の一団「再誕の炎」が話に上る。

「今のところは竜の怒りを鎮めるため生贄いけにえを捧げよ、という一主張をしているにすぎませんからね。放っておけば実行に移してしまいかねない、危うさをはらんでいるのは間違いありませんが」

「さっさとしょっ引いちまえばいいだろうに。ベルティエはそう言うが、今回の異様な地震で奴らが勢いづくのは目に見えてるぞ。主張する内容が内容だけに、事が起こってからじゃ手遅れだぜ」

 修道院の神官長ベルティエが現状に至っている理由を話せば、都市最強の冒険者ヴィクターが現実的な危険性を指摘した。

 ごく自然に実力者たちの中にいる神官長ベルティエだが、これは彼が「山穿やまうがち」の異名を持つ、都市指折りの実力者であるからに他ならない。

 ロウに近しい人物で言えば、人外の強者である吸血鬼アシエラに比すほど。人の身でありながら人外の域にまで至った都市最強の個人。彼もその中の一人なのだ。

「お前の言うことも頷けるものだがな。厄介なことに、竜信仰の一団はそれなりの支持を集めている。それも市民だけでなく、貴族連中からもな。下手な真似をすれば都市を二分することになりかねんのだ」

「彼らはここボルドーのみならず、交易都市リマージュでも盛んに活動を行っていると耳にしたことがあります。組織の規模は侮れぬものでしょうね」

「リマージュは都市の近くにある迷宮で魔物が活気づき、都市周辺に出没するようになっているようだ。竜信仰が幅を利かせているのは、魔物が活気づいたことで市民らの不安が高まっているということも影響しているのだろう。そこで竜信仰の一団を排除すれば、不満が暴発せんとも限らん」

「なるほど。勢力が大きく力ずくでの排除は難しいとして、都市の行政府としての指導や勧告は出来ないの?」

 冒険者組合支部長と神官長が揃って慎重論を出すと、集まった面子の中で唯一女性のレルミナが疑問を挟む。

「既にカレリア公爵が何度か組織の長と面会しているが、連中に考えや行動を改める気は無いそうだ。むしろ、早く竜への信仰を形にせねば怒りを買うぞと、説教を仕掛けてくるらしい」

「面倒だな。いっそ俺たちで亜竜を根こそぎ掃討するか?」
「悪くないけど、亜竜は相当数が居そうだから、このメンバーでも難しいかもね」

「悪くないわけが無いだろうが、馬鹿どもが。『再誕の炎』を刺激するような真似をしてどうする」

 支部長ベルナールが冒険者二人の意見を一蹴いっしゅうしたところで、支部長室にノックがかかる。扉が開くとお茶とお茶菓子を持った受付嬢が現れ、議論は小休止となった。

「おや、お久しぶりですね、ダリアさん。ロウ君と共に修道院へ来た時以来でしょうか」

「お久しぶりです、ベルティエさん。あの時のことも、もう随分昔のような気がしちゃいます」
「あの時といえば、異形の魔物討伐の時か。この場にロウ君が居れば、彼の異常な能力を公衆の面前で披露し、竜の脅威など恐れるに足りずと示せたのだがな……ハァ」

 ダリアたちのやり取りでかの褐色少年のことを思い出したベルナールが溜息をつくと、再びレルミナが質問を飛ばす。

「うん? ロウは確かに凄い実力の持ち主だったけど、竜の脅威に対抗できるほどのものかな?」

「ああ、そういえばお前たちにはまだ話していなかったか。既にロウ君がこの街を離れているから話すが、彼は現に一度竜の猛攻を凌いだ実績がある。あの『枯色竜かれいろりゅう災禍さいか』で生まれた溶岩湖をも、水の精霊魔法でやり過ごしたほどだ」

「……ほう、流石ロウだ。やりやがるな」
「街一つが丸々入るくらいの規模だったと聞いたけど、それを耐えたんだ。竜の大魔法を防ぎきる実力……確かに、凄まじいね」
「只ならぬ少年だとは思っていましたが、竜と渡り合えるほどだとは。神の加護あるのは伊達ではないようですね」

[[──♪]]

 既に居ないのであればと、ベルナールはロウの成した偉業について軽く周囲へ説明する。

 彼の説明を受けた面々が驚愕の表情を浮かべると、支部長室にむ魔神の眷属けんぞくたちも、厳めしい顔に嬉し気な表情を形作った。

 そんな彼らの頭を撫でつつ、ダリアも目を細め懐かし気に語る。

「普段はただの可愛い男の子って感じなんですけどね。でも、魔導国へ行くのに、私には何も言わずに行っちゃうのはショックだったなあ。仲良かったと思ってたのに!」

「安心しろ、ダリア。ロウ君は支部長たる俺にも、出発に際し何も言わなかったからな。出発前日に受付をしていたランテには都合を伝えていたあたり、きっと彼にとっても急な話だったのだろう」
「むう、そうなんですかね? まあ、私もロウ君に住んでる家の場所、教えてなかったですけど……」
「また戻ってくると言っていたけど、流石にあてには出来ないね。……お茶、美味しかったよ。ありがとう」

 お茶を飲み終えたレルミナが器をダリアに返したところで、会議が再開となる。

 そのまま夜遅くまで議論を続けた彼らは、リマージュへ特使を送り竜信仰の一団への対応を協議することを決めたのだった。
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