異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第六章 大陸震撼

6-34 炎獄跡地

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久しぶりに登場する人物たちの簡易紹介:

アルベルト: 腕利きの冒険者。ロウの友人。
レア: アルベルトのパーティーメンバー。弓と探知に長けるエルフ。
アルバ: 同しくパーティーの一員。筋力に優れ道具整備に長じる、ヒューマンとドワーフの混血。

ベクザット: 冒険者にして日本からの転生者。並外れた能力を持つが、それをひた隠している。

「黒の番犬」: かつてロウを尾行していた三人組の冒険者。大体にぎやかし。



──────────




 ところ変わってリーヨン公国南部、交易都市リマージュと工業都市ボルドーを結ぶ街道上では。

「──さ、寒い。なんで秋口だってのにこんなに寒いんだよう」

「そりゃあこんだけ周りが凍り付いてたら寒くもなるよ。ってアドルフ、あんたは毛皮があるから雨弾けていいじゃん。こっちはもっと寒いんだから。ねえレルミナさん、あっためて~」
「今は難しいかな。亜竜が木立ちの向こうで寝ているみたいだし、すぐにでも動けるようにしておかないと。ベクザット、君も警戒をお願い」
「了解。しかし、本当に物騒になったなあこの辺り」

 武装した八人の男女が凍り付いた湖畔こはんを歩き、最寄りの宿場町を目指している最中だった。

 彼らは全員が冒険者であり、その内中核となる三人は「黒の番犬」と呼ばれる諜報任務ちょうほうにんむに長けたパーティーである。

 竜信仰の一団「再誕の炎」への対応をリマージュの冒険者組合支部、行政府と協議する特使として送り出された彼ら。昨夜工業都市で起きた邪竜暴走事件を知らないため、危険な案件というよりは面倒な仕事と認識している。

「全く目撃例のなかった冷気を操る亜竜の出現。それも周囲の環境を変えるほどの大集団、か」

「確かに異常事態だよね~。亜竜たちが住処を変えるためにやってきたにしても、わざわざあの溶岩湖を冷やしたりしないだろうし」
「亜竜たちの様子も気になる。ここ一帯の亜竜たちは食事以外で外敵を襲うようなことはほとんどしてないみたいだし。縄張り意識の強いことが、亜竜たちの共通の性質だと思ってたけど」

 「黒の番犬」以外は彼らの護衛であり、その中の三人はかつてロウと行動を共にしたアルベルトたちだ。

 八名のうち残る二人は高位冒険者レルミナに冒険者ベクザット、両名とも単独で行動することの多い冒険者である。

 どちらもアルベルトたちと同様に「黒の番犬」の護衛として同行しているが、ベクザットはカレリア公爵推薦により任につき、レルミナは支部長ベルナールによって同行を命じられていた。

 両者の経緯の違いは指示をあおぐものの差異である。

 冒険者ベクザットは冒険者組合に所属しているものの、本業は公爵の私兵、ボルドーの暗部にある。

 リマージュでの竜信仰の一団の調査を行い、あわよくば彼らの指導者を始末する。カレリア侯爵がこの人物をねじ込んだのは、そんな重い任務を与えているからに他ならない。

 ひるがえって、レルミナは冒険者組合に所属する孤高の冒険者だ。

 高位の冒険者として様々な依頼をこなし高い実力を示していた彼女は、他者と足並みをそろえることが稀ではあったが、支部長ベルナールから高い評価を受けていた。

 そんな彼女を買い、ベルナールは「黒の番犬」の護衛兼ベクザットの監視を命じたのが現状である。

 ベクザットが暗部であることや暗殺の任を帯びていることは、冒険者組合の支部長たるベルナールも知らない。だが、ふとした拍子にでる見事な身のこなしや公爵推薦という事実にはきな臭さを感じていた。それ故の監視命令だった。

 結果として特使に護衛に隠密に監視という、実に奇妙な八人組が生まれる。それを纏めるのが体格の良い人間族の男性、「黒の番犬」のリーダー、ジョルジオである。

「竜の大魔法で溶岩湖が出現したかと思えば亜竜が現れ、更には溶岩湖周辺を冷却し凍土地帯を創り出す。対策を協議しに行く身で言うのもなんだが、これほどの天災を竜たちが引き起こすとなると、竜の怒りを鎮めるべきだというやつらの言い分も受け入れたくなる」

「まあねー。でも竜はともかくさ、亜竜は人に怒ってるって感じじゃないよね。人里周辺で目撃報告はあっても、刺激しなきゃ襲ってはこないみたいだし」
「確かになー。監視員によれば何日か前の地震の時も怒りに呼応するとかじゃなくて、恐れ戦いてたって話だしな。何でもかんでも結びつけて考えるってのは違うんだろ──っと、あれは……」

 ジョルジオたち「黒の番犬」の面々が竜信仰の一団についての見解を言い合い進んでいると、湖畔から街道に繋がる開けた場所に巨大な氷像のような物体が現れる。

「食い散らかされた獣や魔物の残骸か。骨ごと砕いているし凍り付いているし、亜竜の食事跡ってことで間違いなさそうだな。……これを見ると、刺激しなければ大丈夫だと言われても、やはり対処しなければならないと感じてしまう」

「噛み跡から見るに二、三体の食事跡だろうな。それなのにこの馬車の荷車みたいな残骸ざんがいの量。魔物を食べている今はいいといっても、それがいつまで続くのか」
「同感。周辺の獣や魔物は減少していってるみたいだし、ここらで獲物が居なくなったら人里で人や家畜を襲う可能性だってある。早くなんとかしないとね」

「うぅ~。アルベルトさんもレルミナさんもベクザットも、大したもんだねえ。私らなんて亜竜と関わるくらいなら全てをほっぽって逃げちゃうよ」
「アルベルトやレルミナさんはともかく、ベクザットも真面目に対応を考えているとは意外だな。面識なんて無かったが俺ら同様に万事そこそこ、荒事は避け困難には背を向けるって考えかと思ってたが」

 亜竜の脅威について語るも、ベクザットは周囲から意外なものを見るような目で見られてしまう。変な疑惑を掛けられては敵わないと、青年は土色の短髪をガリガリと掻き誤魔化しを試みた。

「いやほら、ボルドーって住みよい街だからできれば離れたくないだろ? そう考えた時にどうすべきかって考えただけだって。俺が亜竜と戦うとか、そんな話じゃない」

「そうなんだ? ベクザットは時々鋭い動きを見せるし、実力を隠しているんじゃないかとも思っていたけど」
「いやいやまさかー、ハハハ。俺は平凡な社畜しゃちく……冒険者ですって」

 地球からの転生者故の単語を思わず漏らしながらも、逃げの一手を打つ青年。リーダーのジョルジオが号令をとったことで、彼は幸運にも追及を避けることができた。

「平凡な冒険者に護衛が任されるかって話もあるが、この場で話すものでもないか。ここからは街道があるから再び走ることになるが……全員遅れるなよ」

「了解」「了解した」「了解よー」

「へッ、誰に言ってんだよ。こちとら健脚の犬人族だぜ」
「なら私も背負ってよーアドルフー。なーんか寒くって走る気力でないんだよね」
「は? レアさんやレルミナさんみたいな超美人に生まれ変わってから出直してこいよな」

「それくらいにしておけ。あまり馬鹿言ってると亜竜の餌にするぞ」
「さーせん」「はいよっと」

 全員の意思確認を終えたジョルジオは周囲の安全確認を行い、雨の中を駆けだした。

 堅き氷を砕いて駆ける彼らが交易都市リマージュへ到着するのは、ロウがリマージュに訪れた翌日のことだった。
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