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第六章 大陸震撼
6-33 神と魔神の押し付け合い
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新たに生み出した眷属を魔術大学への監視員として送り届けたロウ。
そんな彼が自室へと戻ってくれば、禿頭の褐色大男に金髪金眼の美少年、銀髪ショートヘアの美少女が円卓で寛いでいた。
「ようやっと戻ってきたか、幼き魔神よ」
「遅かったね、山羊頭の魔神」
「おはようございます、ロウ」
「は?」
当然のように無断で侵入しお茶菓子を貪っていたのは、暴風神エンリルに妖精神イルマタル。そしてロウの会ったことがない太陽神ミトラスである。
「『は?』ではありませんよ。以前も言ったではないですか。あなたも人の世で生活しているのなら、人を見習い挨拶は返すべきだと」
「いやいや、流石にこれはちょっと無いでしょう。人の世で生活してていきなり神が二柱? も顕れることなんて無いですって」
「ほう? 琥珀竜や海魔竜に挑む剛毅な魔神だと思っていたが。うぬは存外窮屈な性根をしているのだな」
「おや、僕のことは神に数えてくれないのだね。会っていないのだから当然だけれど、少し寂しいよ」
「ああ、やっぱり貴方も神だったんですね……三柱も集まるとか何事ですか」
「まあ! 何事だなどと、よくもそんな言葉を吐けますね? ロウ。あなたがあの海魔竜と事を構え、あまつさえ彼女を本気にさせてしまったからに決まっているでしょう」
太陽神の嘆きを聞いて神であることを知ったロウが疑問を呈すと、妖精神は何を馬鹿なと呆れを口にする。
「海魔竜との戦いに神経を向けていたうぬは気が付かなかったようだが、海魔竜の息吹や大魔法、そしてうぬの息吹により大陸中の魔物どもが色めき立っている。先の琥珀竜の一件で目覚めていたものどもが、海魔竜の件で触発されおったのだ。今この大陸は、渾沌の渦に巻き込まれつつある」
「獣や魔物だけではなく、人の世も大いに乱れが生じているね。人の世で暮らす君は知っているかもしれないけれど、竜信仰の集団がその最たるものだ」
妖精神に続き、非難の色を滲ませる太陽神と暴風神。
それを受けたロウはまずはお茶でもと神々を宥め、もてなす準備をしながら話を掘り下げる。
「竜信仰というと、竜を信奉して崇め、竜の怒りを鎮めるっていうものでしたっけ?」
「そう。より正確に言えば、竜を信仰し竜が食する生贄を捧げることで怒りを鎮め、竜が欲する供物を捧げることでその力の一端を得ようとしている集団だね。彼らの言動は日を追うごとに過激さを増し、今や言動に収まらず行動へと移らんとしている。猶予は幾ばくも無い状態だよ」
神々へお茶を用意したロウが竜信仰について問えば、ミトラスはお茶を口に含みながら行動内容に触れた。
「生贄に供物ですか。確かにきな臭いですね。……というか、そこまで分かっているのなら神が手を下しちゃっていいのでは?」
「フフ、そこがむつかしいところでね。こういった事態に我々が直接手を出してしまうと、人の成長の可能性というものを摘んでしまうんだ。人の全体を導き成長させる高潔な魂というものは、平時ではなく悲劇の中でしか生まれない。未然に悲劇を防いでしまうということは、人の未来を閉ざしてしまうことにも繋がるんだよ」
「うーん。なんというか、流石神、という感じの見解ですね。ですがそうなると、どうして貴方がたは俺を訪ねたのでしょうか?」
人を個ではなく全体としてしか見ていないミトラスの言葉に抵抗を感じつつも、ロウは神たちに話の先を促す。
「なに、簡単なことだ。このイルマタルがうぬへの嫌味を言いに──」
「──あなたに責任を取ってもらいにきたのですよ、ロウ。世の乱れを引き起こしたあなたに」
「先も言った通り、種の存亡に関わる事態でもない限り僕たちが直接手を下すことはない。けれども、此度の天変地異は君が暴れなければ起きていなかった異例の事態。であるならば、ことをしでかした君が、収拾にあたる者たちの“手助け”に回るのが一番望ましいのではないか……僕らはそう考えたんだ」
「む~ん。ここまで大事になっちゃったのは申し訳なく思っていますけども。手助けと言われましても何をすべきかさっぱりですし、全容を把握しているわけでもありませんし。そもそも対処にあたる人たちと面識なんて無いですよ」
褐色禿げ頭と銀髪腹黒少女のいがみ合いを無視した金髪少年の答えを受けて、褐色少年は案を受け入れた場合の問題点を指摘した。
「何も君が人族たちと足並みをそろえる必要なんて無い。行動が行われた際に動き被害の拡大を阻止するも良し、行動を起こす前に襲撃を仕掛け未然に防ぐも良し。勿論、人族の動きに加わり彼らを補佐するも良し。君が始末をつけるのならば、そのやり方は一任するよ」
「見事なまでに丸投げっすねー。俺がしでかした部分もあるわけですから、正しい対応だといえばそうなんですけど」
「フフフ。君の行いに端を発するのだから、君が収拾をつける形でことを締めるのも道理だろう。さて、竜信仰の一団が活動する主要拠点について話を移そうか」
ロウが渋々ながらも責任を認め同意をしたところで、天則の神ミトラスは話を進める。
「竜信仰の一団『再誕の炎』は多数の人族国家に巣食っている。中でも無視できない規模となっている拠点はランベルト帝国の首都ベルサレス、そしてリーヨン公国の交易都市リマージュだ。この二つは大国の大都市で活動しているだけあってその規模も大きく、また規模拡大の度合いも著しい。君にはこの二つの都市で彼らを監視し、危険を感じた時は対処にあたってもらいたい」
「帝国の首都と公国のリマージュですか。どっちの都市もこれから訪れようと思っていたんですけど、同時に対応するというのは難しいかもしれません。どちらかの対応を肩代わりするか遅らせることってできませんか?」
神の提案をそのまま飲むのは癪だと思ったのか、少年は神々へ難色を示して譲歩を要求した。
「ふむ? 異なことを言う。うぬには自在に操る空間魔法があるだろう。あれを構築すれば両国の監視など造作もなかろう?」
「いやほら、俺って魔神ですし、おいそれと空間魔法使っていくのは問題じゃないですか。ましてや監視となると頻繁に使うことになりますし、そうすると不都合が出そうなんですよね。……『竜眼』で俺の魔力を見つけたヴリトラが喧嘩吹っ掛けてくる、みたいな」
「「「……」」」
己にとって不倶戴天の敵であり神にとっても制御不能な相手、琥珀竜。その名を出すことで、自身に課せられる仕事量を減らそうとするロウ。
己が安息のためなら竜をも利用する。正に外道、神をも恐れぬ魔神の所業である。
「噂通りの食えない魔神だ。いや、聞きしに勝るね」
「もっともらしく言っていますけど、働きたくないだけですよね、ロウ。あのヴリトラの名前を出すなんて、よほど働きたくないとみえます」
「しかしながら、起こり得る筋書きではあるのが厄介だ。ましてやこの者は海魔竜とも相対している。空間魔法を頻繁に構築すれば大陸中から息吹が飛んでこんとも限らんぞ」
「自分で言っといてなんですけど、マジで飛んできそうなんですよねー。ウィルムやドレイクと一緒でなかったら明日にでも起こりそうなくらいです。という訳で、なるべく俺の動きは小さくした方がいいかなと」
言葉巧みにサボる正当性を訴えた少年は神たちから胡乱な目で射貫かれつつも、なんとか自分の主張を押し通す。
「ふう。ミトラス、エンリル。ロウの妄言に付き合っていても仕方がありませんし、どちらかはひとまず置いておきましょう」
「致し方なし、かな。どちらを優先するかは……都市付近の迷宮で魔物の動きが活発化している、リマージュにしてもらおうか」
「リマージュですね、了解しました。リマージュで竜信仰の件が落ち着いたら、こっちも帝国に向かいますんで。ということで朝飯食べてきてもいいですか? それともご一緒します……って、宿代払ってないか」
「払っていなくともわたしの権能があれば問題ありません。丁度良いですし、一息入れましょうか」
「そうだね」「うむ」「……」
妖精神が発議した無銭飲食を当然のことのように受け入れる神々。
それを見た少年は「神がこんなんで大丈夫かこの世界」と、己のことを棚上げして戦慄したのだった。
そんな彼が自室へと戻ってくれば、禿頭の褐色大男に金髪金眼の美少年、銀髪ショートヘアの美少女が円卓で寛いでいた。
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「おはようございます、ロウ」
「は?」
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「ほう? 琥珀竜や海魔竜に挑む剛毅な魔神だと思っていたが。うぬは存外窮屈な性根をしているのだな」
「おや、僕のことは神に数えてくれないのだね。会っていないのだから当然だけれど、少し寂しいよ」
「ああ、やっぱり貴方も神だったんですね……三柱も集まるとか何事ですか」
「まあ! 何事だなどと、よくもそんな言葉を吐けますね? ロウ。あなたがあの海魔竜と事を構え、あまつさえ彼女を本気にさせてしまったからに決まっているでしょう」
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「海魔竜との戦いに神経を向けていたうぬは気が付かなかったようだが、海魔竜の息吹や大魔法、そしてうぬの息吹により大陸中の魔物どもが色めき立っている。先の琥珀竜の一件で目覚めていたものどもが、海魔竜の件で触発されおったのだ。今この大陸は、渾沌の渦に巻き込まれつつある」
「獣や魔物だけではなく、人の世も大いに乱れが生じているね。人の世で暮らす君は知っているかもしれないけれど、竜信仰の集団がその最たるものだ」
妖精神に続き、非難の色を滲ませる太陽神と暴風神。
それを受けたロウはまずはお茶でもと神々を宥め、もてなす準備をしながら話を掘り下げる。
「竜信仰というと、竜を信奉して崇め、竜の怒りを鎮めるっていうものでしたっけ?」
「そう。より正確に言えば、竜を信仰し竜が食する生贄を捧げることで怒りを鎮め、竜が欲する供物を捧げることでその力の一端を得ようとしている集団だね。彼らの言動は日を追うごとに過激さを増し、今や言動に収まらず行動へと移らんとしている。猶予は幾ばくも無い状態だよ」
神々へお茶を用意したロウが竜信仰について問えば、ミトラスはお茶を口に含みながら行動内容に触れた。
「生贄に供物ですか。確かにきな臭いですね。……というか、そこまで分かっているのなら神が手を下しちゃっていいのでは?」
「フフ、そこがむつかしいところでね。こういった事態に我々が直接手を出してしまうと、人の成長の可能性というものを摘んでしまうんだ。人の全体を導き成長させる高潔な魂というものは、平時ではなく悲劇の中でしか生まれない。未然に悲劇を防いでしまうということは、人の未来を閉ざしてしまうことにも繋がるんだよ」
「うーん。なんというか、流石神、という感じの見解ですね。ですがそうなると、どうして貴方がたは俺を訪ねたのでしょうか?」
人を個ではなく全体としてしか見ていないミトラスの言葉に抵抗を感じつつも、ロウは神たちに話の先を促す。
「なに、簡単なことだ。このイルマタルがうぬへの嫌味を言いに──」
「──あなたに責任を取ってもらいにきたのですよ、ロウ。世の乱れを引き起こしたあなたに」
「先も言った通り、種の存亡に関わる事態でもない限り僕たちが直接手を下すことはない。けれども、此度の天変地異は君が暴れなければ起きていなかった異例の事態。であるならば、ことをしでかした君が、収拾にあたる者たちの“手助け”に回るのが一番望ましいのではないか……僕らはそう考えたんだ」
「む~ん。ここまで大事になっちゃったのは申し訳なく思っていますけども。手助けと言われましても何をすべきかさっぱりですし、全容を把握しているわけでもありませんし。そもそも対処にあたる人たちと面識なんて無いですよ」
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「フフフ。君の行いに端を発するのだから、君が収拾をつける形でことを締めるのも道理だろう。さて、竜信仰の一団が活動する主要拠点について話を移そうか」
ロウが渋々ながらも責任を認め同意をしたところで、天則の神ミトラスは話を進める。
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「払っていなくともわたしの権能があれば問題ありません。丁度良いですし、一息入れましょうか」
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