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第六章 大陸震撼
6-32 虚無の眷属
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ロウが大砂漠より帰還してから五日目。
前日は疲労回復のため早めに就寝し、日付が変わるころに目を覚ましたロウ。
(おはよう。お前さんにしては珍しく長く寝たんじゃないか?)
「おはようさん。自分じゃそうでもないつもりだったけど、昨日はやっぱり疲れてたんだろうな。精神的にも肉体的にも。でも、もうバッチリだよ」
曲刀たちと挨拶を交わしながらうがいに歯みがきに洗顔にと済ませていった少年は、日課の鍛錬を行うべく空間魔法を構築。曲刀たちに留守番を任せ己の空間へと足を踏み入れた。
[[[──]]]
「はい、おはよう。今日はニグラスも一緒か」
「ロウか。お前がきたということはあれから一日経ったか? 早いものだ」
「丁度丸一日経ったよ。こっちと外じゃ時間の流れが違うからなー」
鍛錬を行う眷属たちとそれを眺める人型精霊に挨拶を終え、ロウは自身も鍛錬を開始しつつ昨日のことを彼らに話していった。
すなわち、魔神が空間魔法の修練のためにこの空間を訪れること、そして吸血鬼の姉妹がしばらく滞在すること。この二点である。
「──そういう訳だから、知らない人が来ても襲い掛かっちゃだめだぞ」
「襲い掛かるものか、失敬な奴だな。私を何だと思っている」
「何って、通りすがりの魔神に喧嘩吹っ掛けるようなやばい上位精霊?」
「……。絶大なる力を持つ魔神だというのに随分と昔のことを根に持つ奴だ。力ある存在ならば小さいことなど忘れてしまえ」
「殺意全開で襲われたことを忘れるってのはちょっと」
途中醜い舌戦を挟みながら、大陸拳法の鍛錬を行うこと四時間ほど。
眷属たちとの実戦形式の模擬戦を終えた少年は、次の作業へと移った。新たなる眷属の創生である。
「シアンたちで飽き足らず、新たな者を創り出す。お前は足るということを知らないようだ」
[[[……]]]
「いや、別にこいつら眷属に飽きたとかそういうのじゃないし。俺がここを空ける間、友達の面倒見たり警備したりしてもらう手が欲しいんだよ」
不満の色を浮かべる我が子らを見て弁明したロウは、降魔状態へ移行して権能を解放。漆黒の魔力を極限まで凝縮し、それが意志をもって動き回る様を想像する。
そうして眷属や精霊から見守られつつ、山羊頭の魔神が魔力を滾らせ続けることしばし。
〈──中々上手いこといかないなー……お!〉
[──~]
最初は嬉々として創生作業を観察していた面々が退屈し始めたちょうどその時、漆黒の魔力が球体を模り地面に落下。ぼよんと弾んだ球体は自由意思を見せつけるように跳ね回る。
「上手いこといったか。虚無って属性かどうか怪しいところだし、難しいかと思ってたけど」
[──?]
「おお、人化か? なになに……兄弟たちみたいに名前が欲しい? そう急かすなって」
山羊頭の魔神から少年へと戻った創造主に対し、生まれたての眷属は人の姿となって名を要求した。
「というかお前って、性別どっち? 小顔だし眼がぱっちりしてるし髪の毛長いしで女の子っぽいけど、服装は貴族の坊ちゃんって感じだし。分からん」
[──、──]
「虚無から生まれたから性別も曖昧? 色々すげーな……。とすると、名前もちょっと迷うな~」
ロウと同じく黒髪金眼、しかし色白で少女風な姿をとった虚無の眷属。彼の艶めかしい黒髪を眺めながら、褐色少年は思案する。
「黒色そのものなネロとかノワールとかは、ちょっと男っぽすぎるか。虚無っぽいカオスとかニヒルとかも、なんだか気取り過ぎてるし……ん。ちょっとずれるけど、エボニーでいくか。品がある黒ってイメージは、エボニーがしっくりくる」
[!]
名前がお気に召したのか、もろ手を上げて喜ぶ眷属、改めエボニー。その様に頷いたロウは早速生み出した理由について話していく。
「俺の魔力を継いでるなら知ってるかもしれないけど、お前にはこの街でこっそりレルヒやアイラたちを守ってやってほしい。見つからずにっていうのはできそうか?」
[──]
「できそうだけど、住むところは欲しい? それなら、大学に近いところで宿をとるか。時間がないし今から行こう」
宿と聞き喜ぶ眷属を連れて異空間を出た少年は、しかし自室に戻ったところで呼び止められた。部屋でお留守番をしていた突っ込み役、サルガスとギルタブである。
(ん? 誰だそいつ)
(……。ロウ、また眷属を創り出したのですか? それも女性とは、本当に節操がありませんね)
「最近物騒だから、アイラたちを影から見守ってくれるような人員が欲しかったんだよ。俺も外国に行っちゃうしさ。それとこのエボニー、女の子ってわけじゃないぞ。男の子でもないっぽいけど」
(なんだそりゃ)
疑問を呈されるも聞こえないふりをした少年は手早く空間魔法を構築。雨降りしきる上空へ転移し、そこから大学付近の路地へと移動する。身勝手極まる逃げっぷりだった。
「濡れる濡れるーって、手だけ変形させたのか? 面白いことするな」
[──、──]
「そうじゃなくて闇魔法の傘だって? 生みの親の俺、使ったことないんだけど」
[──]
「虚無だから性質が近い、ねえ。俺もその内使ってみるかなー」
傘をさしながら器用にジェスチャーを行う眷属と魔神は、ほどなくして大学からそう遠くない宿を探し当てた。
大通りから外れ少し奥まったところに位置する木造の宿。簡素そのものといった佇まいは、ロウが泊るゴシック建築風の宿とは比べるべくもない。
[──、──]
「穴場っぽい宿だな。入ってみよう」
期待を滲ませて戸を開けたロウたちを出迎えたのは、外観から想像できる通りの落ち着いた内装。室内を照らす魔道具や床面の材質、受付カウンターに待合テーブルなど、全てが宿と馴染み、よく手入れされてもいた。
[──♪]
「いい雰囲気だな。お前だけが泊まるってのも勿体ないくらいだ」
「うん……? まさか坊やたち、お客かい?」
「初めまして。こっちの子だけなんですけど、一部屋を二月分くらい借りたくて。お部屋は空いてますか?」
ロウの言葉で少年たちが客であることを知ると、受付の奥にいた老境手前といった男性は読書をやめ、品定めするように視線を送る。
「なにかと物騒な時期に二月っていうと、相当長いな。坊やたちは随分身なりがいいが、学生さんかい?」
「学生ではないのですが、大学に用事があって。なるべく近い宿をとりたいんですよね。子供一人だと難しいでしょうか?」
「……いや、子供だから拒否するってことはない。一泊二食付きで小銀貨五枚、二月分で金貨三枚になる。大金だが払えるのかい?」
「金貨三枚ですね。お確かめください」
視線を向けられている間に金貨袋を取り出していたロウは、疑いの眼に対する答えだとチップを含む金貨四枚を受付に置いた。
「! 金貨を一枚余計に出すとは、坊やたちは厄介者ってわけじゃあないよな? 犯罪の片棒担ぐのは御免だぜ」
「そんなんじゃありませんって。実はここに泊まるこっちの子は喋ることができなくて。身振り手振りになってしまうので、従業員の方に負担をかけてしまうと思います。その分の上乗せですね」
[──]
「そんな事情があったのか、疑って悪かった。そういうことなら、このアンドレイがしっかりと面倒を見よう。名前を教えといてもらえるか」
「俺がロウで、こっちの子はエボニーです」
宿の主人──アンドレイへ紹介を済ませ、ロウはエボニーに生活費を渡して最終確認を行っていく。
「俺はしばらく帰ってこれないから、渡したお金は計画的に使うように。知らない人についていっちゃ駄目だぞ? それと、緊急時以外はなるべく戦わないようにな。それと──」
[──~]
「フフフ。そこまで言い含めたら大丈夫だろうさ。部屋を案内したいんだが、ロウもくるか?」
「ああいえ、大丈夫です。エボニーのこと、よろしくお願いします」
すっかり保護者状態となっていた少年が正気に戻ったところで、宿の主人が少女とも少年ともつかない子供の案内を始めた。
入れ替わりでやってきた従業員に帰る旨を告げたロウは、本当に一人で大丈夫だろうかと心配しつつも、空間魔法を使って自身の泊まる宿へと戻るのだった。
前日は疲労回復のため早めに就寝し、日付が変わるころに目を覚ましたロウ。
(おはよう。お前さんにしては珍しく長く寝たんじゃないか?)
「おはようさん。自分じゃそうでもないつもりだったけど、昨日はやっぱり疲れてたんだろうな。精神的にも肉体的にも。でも、もうバッチリだよ」
曲刀たちと挨拶を交わしながらうがいに歯みがきに洗顔にと済ませていった少年は、日課の鍛錬を行うべく空間魔法を構築。曲刀たちに留守番を任せ己の空間へと足を踏み入れた。
[[[──]]]
「はい、おはよう。今日はニグラスも一緒か」
「ロウか。お前がきたということはあれから一日経ったか? 早いものだ」
「丁度丸一日経ったよ。こっちと外じゃ時間の流れが違うからなー」
鍛錬を行う眷属たちとそれを眺める人型精霊に挨拶を終え、ロウは自身も鍛錬を開始しつつ昨日のことを彼らに話していった。
すなわち、魔神が空間魔法の修練のためにこの空間を訪れること、そして吸血鬼の姉妹がしばらく滞在すること。この二点である。
「──そういう訳だから、知らない人が来ても襲い掛かっちゃだめだぞ」
「襲い掛かるものか、失敬な奴だな。私を何だと思っている」
「何って、通りすがりの魔神に喧嘩吹っ掛けるようなやばい上位精霊?」
「……。絶大なる力を持つ魔神だというのに随分と昔のことを根に持つ奴だ。力ある存在ならば小さいことなど忘れてしまえ」
「殺意全開で襲われたことを忘れるってのはちょっと」
途中醜い舌戦を挟みながら、大陸拳法の鍛錬を行うこと四時間ほど。
眷属たちとの実戦形式の模擬戦を終えた少年は、次の作業へと移った。新たなる眷属の創生である。
「シアンたちで飽き足らず、新たな者を創り出す。お前は足るということを知らないようだ」
[[[……]]]
「いや、別にこいつら眷属に飽きたとかそういうのじゃないし。俺がここを空ける間、友達の面倒見たり警備したりしてもらう手が欲しいんだよ」
不満の色を浮かべる我が子らを見て弁明したロウは、降魔状態へ移行して権能を解放。漆黒の魔力を極限まで凝縮し、それが意志をもって動き回る様を想像する。
そうして眷属や精霊から見守られつつ、山羊頭の魔神が魔力を滾らせ続けることしばし。
〈──中々上手いこといかないなー……お!〉
[──~]
最初は嬉々として創生作業を観察していた面々が退屈し始めたちょうどその時、漆黒の魔力が球体を模り地面に落下。ぼよんと弾んだ球体は自由意思を見せつけるように跳ね回る。
「上手いこといったか。虚無って属性かどうか怪しいところだし、難しいかと思ってたけど」
[──?]
「おお、人化か? なになに……兄弟たちみたいに名前が欲しい? そう急かすなって」
山羊頭の魔神から少年へと戻った創造主に対し、生まれたての眷属は人の姿となって名を要求した。
「というかお前って、性別どっち? 小顔だし眼がぱっちりしてるし髪の毛長いしで女の子っぽいけど、服装は貴族の坊ちゃんって感じだし。分からん」
[──、──]
「虚無から生まれたから性別も曖昧? 色々すげーな……。とすると、名前もちょっと迷うな~」
ロウと同じく黒髪金眼、しかし色白で少女風な姿をとった虚無の眷属。彼の艶めかしい黒髪を眺めながら、褐色少年は思案する。
「黒色そのものなネロとかノワールとかは、ちょっと男っぽすぎるか。虚無っぽいカオスとかニヒルとかも、なんだか気取り過ぎてるし……ん。ちょっとずれるけど、エボニーでいくか。品がある黒ってイメージは、エボニーがしっくりくる」
[!]
名前がお気に召したのか、もろ手を上げて喜ぶ眷属、改めエボニー。その様に頷いたロウは早速生み出した理由について話していく。
「俺の魔力を継いでるなら知ってるかもしれないけど、お前にはこの街でこっそりレルヒやアイラたちを守ってやってほしい。見つからずにっていうのはできそうか?」
[──]
「できそうだけど、住むところは欲しい? それなら、大学に近いところで宿をとるか。時間がないし今から行こう」
宿と聞き喜ぶ眷属を連れて異空間を出た少年は、しかし自室に戻ったところで呼び止められた。部屋でお留守番をしていた突っ込み役、サルガスとギルタブである。
(ん? 誰だそいつ)
(……。ロウ、また眷属を創り出したのですか? それも女性とは、本当に節操がありませんね)
「最近物騒だから、アイラたちを影から見守ってくれるような人員が欲しかったんだよ。俺も外国に行っちゃうしさ。それとこのエボニー、女の子ってわけじゃないぞ。男の子でもないっぽいけど」
(なんだそりゃ)
疑問を呈されるも聞こえないふりをした少年は手早く空間魔法を構築。雨降りしきる上空へ転移し、そこから大学付近の路地へと移動する。身勝手極まる逃げっぷりだった。
「濡れる濡れるーって、手だけ変形させたのか? 面白いことするな」
[──、──]
「そうじゃなくて闇魔法の傘だって? 生みの親の俺、使ったことないんだけど」
[──]
「虚無だから性質が近い、ねえ。俺もその内使ってみるかなー」
傘をさしながら器用にジェスチャーを行う眷属と魔神は、ほどなくして大学からそう遠くない宿を探し当てた。
大通りから外れ少し奥まったところに位置する木造の宿。簡素そのものといった佇まいは、ロウが泊るゴシック建築風の宿とは比べるべくもない。
[──、──]
「穴場っぽい宿だな。入ってみよう」
期待を滲ませて戸を開けたロウたちを出迎えたのは、外観から想像できる通りの落ち着いた内装。室内を照らす魔道具や床面の材質、受付カウンターに待合テーブルなど、全てが宿と馴染み、よく手入れされてもいた。
[──♪]
「いい雰囲気だな。お前だけが泊まるってのも勿体ないくらいだ」
「うん……? まさか坊やたち、お客かい?」
「初めまして。こっちの子だけなんですけど、一部屋を二月分くらい借りたくて。お部屋は空いてますか?」
ロウの言葉で少年たちが客であることを知ると、受付の奥にいた老境手前といった男性は読書をやめ、品定めするように視線を送る。
「なにかと物騒な時期に二月っていうと、相当長いな。坊やたちは随分身なりがいいが、学生さんかい?」
「学生ではないのですが、大学に用事があって。なるべく近い宿をとりたいんですよね。子供一人だと難しいでしょうか?」
「……いや、子供だから拒否するってことはない。一泊二食付きで小銀貨五枚、二月分で金貨三枚になる。大金だが払えるのかい?」
「金貨三枚ですね。お確かめください」
視線を向けられている間に金貨袋を取り出していたロウは、疑いの眼に対する答えだとチップを含む金貨四枚を受付に置いた。
「! 金貨を一枚余計に出すとは、坊やたちは厄介者ってわけじゃあないよな? 犯罪の片棒担ぐのは御免だぜ」
「そんなんじゃありませんって。実はここに泊まるこっちの子は喋ることができなくて。身振り手振りになってしまうので、従業員の方に負担をかけてしまうと思います。その分の上乗せですね」
[──]
「そんな事情があったのか、疑って悪かった。そういうことなら、このアンドレイがしっかりと面倒を見よう。名前を教えといてもらえるか」
「俺がロウで、こっちの子はエボニーです」
宿の主人──アンドレイへ紹介を済ませ、ロウはエボニーに生活費を渡して最終確認を行っていく。
「俺はしばらく帰ってこれないから、渡したお金は計画的に使うように。知らない人についていっちゃ駄目だぞ? それと、緊急時以外はなるべく戦わないようにな。それと──」
[──~]
「フフフ。そこまで言い含めたら大丈夫だろうさ。部屋を案内したいんだが、ロウもくるか?」
「ああいえ、大丈夫です。エボニーのこと、よろしくお願いします」
すっかり保護者状態となっていた少年が正気に戻ったところで、宿の主人が少女とも少年ともつかない子供の案内を始めた。
入れ替わりでやってきた従業員に帰る旨を告げたロウは、本当に一人で大丈夫だろうかと心配しつつも、空間魔法を使って自身の泊まる宿へと戻るのだった。
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