異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第七章 混沌の交易都市

7-13 墓作りと墓参り

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 雨の孤児院。文字に起こすと凄まじく陰気だ。その裏庭でお墓を建てるとなれば、姿を持たない存在のうめき声が聞こえてきそうなほどである。

 ところがどっこい。お墓作りに没頭している俺の周囲に、そんな空気は毛ほどもない。

 というのも──。

「うわああっ。凄っ、魔法陣無しで地面が動いてる!?」

「凄えな。これが精霊魔法か」「穴、深いなー」「すげえッ!」「魔法って凄い!」「ばか、精霊魔法だぞ」

 ──場所を案内してくれるシェリルやノリスのみならず、孤児院の子供たちまで集まってきているからだ。陰な気など、全て子供の活力ではらわれてしまっている。

 年頃は皆幼く十歳前後といったところ。俺が孤児院にいた時よりは年齢層が少し下がっただろうか? 皆一様に大はしゃぎだ。

(雨で退屈なところに精霊魔法の使い手がきたっていうなら、そりゃ盛り上がるだろうさ)
(それが実演を行うというのなら言うに及ばず、なのです)

 しばらく黙っていた曲刀たちの見解になるほどと頷きつつ、周囲の安全を確保して作業再開。墓穴堀を終えたため、墓石が倒れることのないよう地盤を整えていく。

「ロウ君、雨水溜まっていってるけど、大丈夫?」
「はねて汚れるかもしれませんけど、安全面では問題ありませんよ。時間が経てば土が吸収してくれますから」

「人のために墓を創る魔神か。お前の行いは、いつも私の理解の外にある」
「そりゃ悪うござんした。というか街中でそういうこと言うの無しだってば」

 ぼそりと呟かれたニグラスの言葉に反論しながら、地盤強化を終える。次の作業はいよいよ墓石である。

 真紅の魔力を注ぎこんで創り上げるは、この孤児院の外壁と同じ色を持つ不磨ふまの巨石。せも削れもしない不変の墓石を、己が眼前に構築する。

「むん! いようし、中々の出来だ」

「「「っッ!?」」」

 真紅の魔力で創り上げられた乳白色にゅうはくしょくの巨石は、数秒浮遊した後、墓穴に向けてすっとーんと落下。底に溜まっていた泥水でにぶい水音をたてるも、無事に真っ直ぐと突き立った。

「でけええ!?」「すげえええッ!」「穴掘ったり動かしたりするのと、全然違う!」「ここの壁と同じ色……?」

「凄え立派な墓石だな、ロウ。まるで大理石みたいだ」
「つるつるで丸っとしてて、綺麗だねえ。ちょっと触ってもいい?」

「ここの外壁にあうように思い描いたら、中々良いのができました。後は地面を絞めたらお終いですので、触るのはもうちょっとお待ちください」

 イチョウの葉にも似た扇状おうぎじょうの上部に、角の丸くなった長方形といった形状の我が墓石。地面を埋めてしまえば、成人男性より頭一つ分ほど大きいサイズとなった。

 ぶっちゃけデカすぎるし幅も一メートルくらいあるためやりすぎた感があるが……立派なものを創りたかったし、致し方なし。

「すごい、大きい……」「硬い!」「すべすべしてるー」
「おおぉぉ。つるつるする! 食事用のテーブルに使いたいくらいだねー」
「精霊魔法ってこんな石も創れるのかー」
「その辺りは精霊によって違うみたいですね」

 賑やかな声を耳に入れつつ、一人黙祷もくとうを捧げる。

 ──団長、みんな。

 墓を建てるのが遅くなってごめん。勝手に遺品を売り払っちゃってもっとごめん。遺品はバルバロイを支援してくれていた宿や孤児院に寄付したし、お墓も国の記念碑きねんひかってくらいに立派だし、どうか寛大な心で許してほしい。

 あなたたちの遺品はもう残っていないけれど、あなたたちが守りのこしたものはちゃんとある。こうしてはしゃいで回る子供たちの笑顔だって、盗賊団が行ってきた支援によるところも大きいだろう。子供たちがバルバロイを尊敬していると言っていたことが、その何よりの証拠だと思う。

 ……少し胸糞むなくその悪い話になるけど、盗賊団の襲撃は依頼主の口封じだったみたいだ。

 関わったものは全て殺す。盗賊団を襲撃した者たちさえも。そんなクソッタレな奴だったけど、相手が人じゃなかったから結局身を滅ぼしたらしい。

 その相手っていうのは公爵令嬢のエスリウ・ジラール。俺たちが誘拐した人で、実は正体が魔神なんだ。色々あって、今は俺と友達やっているよ。

 そんなこんなで、俺は元気にやっています。ディエラさんもメリーさんも元気ですから、心配せずに成仏してください。

 どうか安らかに……──。

(──最後物凄く適当になったな、お前さん)
(ロウらしい祈りといいますか、なんといいますか)

「雨降ってますし、そろそろ戻りましょうか」

 雑になってしまった後半部分に突っ込まれつつ、周囲の面々に声をかける。

 今は雨が降っているし、長々と時間をとれば子供たちが体調を崩すかもしれない。途中巻いたのも理由あってのことである。決して回想が面倒臭くなったからではない。

「ええー? 他のも見てみたーい」「兄ちゃん、精霊見せてよ!」「あの石以外だと、精霊魔法ってどんなことできるの?」

 興奮している少年少女に戻るよううながせば、可愛らしい反応が戻ってくる。どうやら子供心をつかみ過ぎてしまったようだ。

「無茶言わないの。精霊魔法は魔術よりもずっと疲れるものなんだから。……まあロウ君は、消耗してる感じじゃないけど」
「ありがたいことに魔力面で恵まれてますからねー。とにかく、身体冷やす前に戻りましょう」
「なるほどなあ。七歳で『バルバロイ』に入ったってのも納得だ」

 感心するノリスと一緒に子供たちの背を押して孤児院に戻り、作業完了報告と礼を行うべく院長室に向かう。

「おかえり。この雨じゃ作業も難しいだろう? また日を改めるといいよ」
「いえ、もう完成しちゃいました」
「しかも俺の身長よりデカい立派な奴がな」
「それに凄く雰囲気があってたよ。ここの孤児院と」

「……もう作っちゃったの。いや、ノリスより大きい墓石って、大丈夫なんだろうね?」
「基礎部分はしっかり作ってますので、その辺はバッチリですよ。全体の大きさは孤児院の一番高いところ……とまではいきませんけど、まあそれくらいに大きいですから」

 まさか十数分の内に完成させようとは思っていなかったらしく、当然のことのように院長から胡乱うろんな視線を寄こされてしまった。さもあらん。

(そりゃあまあ、当然だろう)(あまりにも短い時間ですからね)

 曲刀たちからも同意の念を頂戴したところで、墓を建てる場所を貸してくれたことへ感謝を述べる。

「ソニアおばさん、裏庭を貸して頂きありがとうございます」
「貸すというか、あげたんだけどね。私もバルバロイには世話になってたし、変に恩を感じることはないよ」
「そういってもらえると助かります。手入れは殆ど要らないと思うので、そこはご安心ください」

「あの大きさで手入れ必須とか言われたら大変そうだもんねー」
「上の方なんてよじ登らないと無理そうだぜ」

 真面目な面持ちで語る二人の反応に、手入れ不要の魔神墓石にして良かったと安堵する。

 立派なものを創ろうとだけ考え手入れや管理のことまで頭が回っていなかったが、問題は起きなかったようだ。危ない危ない。

((……))

 何処からか送られてきた呆れ念話を感知するも華麗に受け流し、別れを切り出す。

「長居するわけにもいきませんし、この辺で失礼しますね」
「えー? ロウ君、帰っちゃうの? 今から色々お話が聞けると思ったのに。子供たち、残念がるだろうなあ」
「なんだよ、帰るのか? ちょっと話してお墓作って、それだけじゃないか」
「この子らの言う通り、急ぎ過ぎじゃないかね? あんたの分の夕食くらい用意するよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ。『異民と森』で宿取ってるので、ばっちり夜は食べられますから。それじゃあさよならー」
「あっ」「行っちゃったよ」「全く。昔はもっと素直だったんだけどねえ」

 引き留める言葉を無下にして別れを告げれば、惜しむ声が背に届く。人気者も困ったものだ。

 そうして孤児院を出て氷の傘を差し歩いていると、片眉を上げて眉間にしわを寄せるという小難しい表情をしたニグラスが話しかけてきた。

「ロウの行動は、やはり理解しかねる。手助けをしたり楽しませるように振る舞ったと思えば、次の瞬間には手の平を返す。お前が何をしたいのかまるで分らない」

「そこまで言うか。孤児院って子供多いだろ? あんまり長居すると世話焼きたくなっちゃいそうだったから、深入りしないようにしたんだよ。あと、俺は魔神だから神の管轄かんかつにいるってのは不味い。最初に言ったろ? 孤児院には神の加護があるらしいって」

 説明しつつ己の記憶を探ってみる。

 確か、あかつきの神だったか。教会や修道院に孤児院、様々な形で人の世に影響を与えている神だったはずだ。シャヘルだかシャレムだかいう名前で、あのウィルムとも知り合いらしいが……。

 何にしても、太陽神や妖精神のように交流のある神ではない。魔神である俺を知覚すれば、いきなり戦闘に発展しないとも限らないだろう。生まれ育った故郷でドンパチなんぞ論外だ。

「なるほど。全く思い当たらなかったが、言われてみれば道理だ。私の思考が浅すぎたようだ」
(てっきり照れ隠しで逃走したのかと思っていましたよ)
(俺もそう思っていたぞ。ロウは前例が大いにあるからな)

「なにぃ? 失敬な奴らだな、全く。ぷんぷん」

 暁の神について想い馳せていると、いつの間にか曲刀たちからクソミソに扱き下ろされていた。

 実際には的確な分析だったが認めるわけにはいかなかったため、不機嫌を演出して帰路を急ぐ。

 その演出が表層心理を読み取れる曲刀たちから看破されながらも、俺は宿を目指し歩いたのだった。
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