戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

文字の大きさ
29 / 61
第3章 収穫祭=仕事でしょ

3-7 ヒーローは遅れて現れる

しおりを挟む
「遅い、遅すぎる」

 リアナーレは空腹に耐えきれず、男たちから奪った干し肉を噛み締めていた。
 すぐに助けが現れると思いきや、誰が訪れる気配もない。ついには日が暮れ始め、あと少しすれば小屋の中も真っ暗になるだろう。

「ねぇ、貴方たち。誰に雇われて、何の目的で私を攫ったの?」

 味のしなくなった咀嚼物を飲み込んだところで、リアナーレは縛り上げられた男たちに尋ねる。
 立場はすっかり逆転していた。何もしらない者が今の状況を目の当たりにしたら、どこかの極悪娘が男を縛り上げて遊んでいるように見えるかもしれない。

「知らねぇよ」
「俺らは金貰って、指示された通りに動いただけだからな」
「依頼主の顔は?」
「さぁな。外套と仮面で隠してやがったから、どんな男か見ちゃいねぇ。ああ、でも最初に話を持ってきた奴は如何にも金持ちそうなデブだったな」

 男二人は本当に依頼主の素性を知らないようだった。

 傭兵というのは、雇い先への忠誠心を大して持ち合わせていないので、戦場でも命の危険を感じたら一番に逃げ出す。
 よって、もし何か知っている情報があれば、それと引き換えに命乞いをするはずだ。

「よくそれで依頼を受けたわね…」
「三年は遊んで暮らせる金額だったんだよ。男遊びの激しい聖女様を、拉致監禁するだけって聞いてたしな」
「手出しをするなって言われてたのに、お前が余計なことするからこうなったんだ!」
「はぁ!? お前だってどうせ、あわよくばって思ってたんだろうが!」

 二人がくだらない言い争いを始めたので、リアナーレは小屋の中に積まれている埃っぽい藁に寝そべった。

 自由の身になってから外の様子も探ってみたが、一面広い畑が続くばかりで、人影も乗って来たはずの荷馬車もどこにもない。
 下手に見知らぬ土地を歩いて彷徨うよりは、小屋で助けを待った方が良いとリアナーレは判断した。

 幸い、畑に実った野菜と井戸はあるので、 拝借すれば餓死することはない。遅くとも収穫祭が終わる頃には、畑の持ち主が現れるだろう。

「ここで依頼した奴と落ち合うはずだったんだが来ねぇな。お前、やっぱり偽物か?」

 攫った張本人たちも不審に思ったらしい。リアナーレも次第に不安になってきた。

 偽物といえば偽物だが、一応、本物の星詠みの聖女リアナ=キュアイスということになっている。失踪したとなれば、それなりの捜索隊が組まれるはずだ。特に、セヴィリオが溺愛するリアナを放っておくとは思えない。

 そもそも、リアナーレは未だセヴィリオこそが首謀者ではないかと疑っている。もしかしたら彼の身に、ここへ来れないような何かあったのかもしれない。

 顔を合わせたらどんな嫌味を言おうか考えていたリアナーレだったが、彼が無事ならそれで良いと思うようになっていた。

◇◆◇

 外が騒がしい。リアナーレはだらしなく開いた口から漏れていた唾液を拭い、ゆっくりと体を起こす。
 無防備にも藁の上でそのまま寝ていたようだ。男たちも静かなので、縛られたまま眠っているのだろう。

「総帥! 危険です、俺が行きますって!」
「煩い、お前は当てにならない」
「そもそも聖女様を放置したのは総帥でしょ」

 聞きなれたセヴィリオとエルドの声だ。リアナーレは揉めるのなら静かに揉めろと思う。中まで丸聞こえだ。

 真っ暗な倉庫をゆっくりと歩き、リアナーレは建て付けの悪い扉を開ける。
 剣を手に険しい顔をしていたセヴィリオが、土と埃まみれの汚い聖女様を抱き締めた。

「リアナ!」
「…セヴィー、遅い。今何時だと思ってるの」
「良かった。生きてる」
「生きてるし、元気だし、今最高にお腹が空いてる」
「怪我は…なさそうだね。男に汚されたりしてないよね?」

 彼は動揺していた。聖女様の体を撫で回して無事を確かめている。
 あそこに縛られている二人に襲われそうになったと話したら、一面が血の海に染まりそうなのでリアナーレは胸に秘める。

「全部、セヴィーが仕組んだことじゃないの?」
「仕組む? 僕が?」

 彼は瞬きを繰り返した後、眉間に皺を寄せた。
 リアナーレは自身の推測が外れており、セヴィリオの気分を害したことに気づくが、既に手遅れだ。

「君に少しでも危険が降りかかるようなこと、僕がするわけない。それともリアナは僕を、そんなことをするような男だと思ってた?」
「いや、そういうわけでは……。ただ、余りにも事が上手く運びすぎていて、第三者の企てとは思えなかったというか……」

 リアナーレは視線を彷徨わせながら、必死の言い訳をする。
 セヴィリオはピリピリとした空気を纏わせながら、棒立ちしているエルドを睨みつけた。

「有事のために見張らせていた護衛も、役立たずたったからね」
「俺は偶然、殿下に話しかけられてたんすよ。流石の俺でも、あの方は無視できません」
「あんなところにアイツがいたと? 苦しい言い訳だな」
「ホントなんですってば! それより酩酊させた上に、置き去りにしたのは誰でしたっけ」
「黙れ。リアナは酒が好きだと思っていたんだ」

 男二人は聖女様を放って責任を押し付け合う。セヴィリオの不機嫌の矛先がエルドに逸れたことはいいが、リアナーレは早く快適な住まいへと戻りたかった。

 丁度その時、リアナーレのお腹が驚くべき音を立てて鳴った。二人は口論を止めて、音の出どころをまじまじと見つめる。

「私は無事だし、細かいことは後にしましょ。お腹が空いて倒れそう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...