戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

文字の大きさ
58 / 61
第6章 未来へ

6-5 平和な世界

しおりを挟む
 プレスティジとの数十年に渡る戦争が幕を閉じた。
 誰もが望んではいたものの、実現しないと諦めていた出来事に、国中が驚きと歓喜に包まれている。

 ライアスは正式に国王の座に就いた後、以前、リアナーレが兄、ロベルトに提案した方向で、終戦への交渉に動いたのだ。

 会談は北のレクトランテ、南のオルセラを巻き込み四国間で行われた。
 立ち会っていたロベルト曰く、出席者一同、シャレイアンの若き国王に恐れをなしたという。一体、どんな脅しをしたのやら。

「リアナ様、旦那様の許可なく出掛けて良いのでしょうか?」
「大丈夫、大丈夫。もう狙われることもないだろうし、祝祭を楽しみましょ」

 リアナーレは町娘の装いで、密かに王宮を抜け出した。
 エルドを丸め込み、軍の施設の方に馬を用意させている。ルーラを乗せて久しぶりの乗馬を楽しむつもりだ。

 鼻歌交じりに馬小屋に向かうリアナーレだったが、出迎えてくれたのは馬でもエルドでもなく、穏やかに笑う青年だった。

「楽しそうだねリアナ。どこに行くつもりなのかな?」
「げっ、なんで!?」
「愛する夫に向かってそれはないんじゃない。傷つくな」

 ストレスの種である兄と戦争から解放されたためか、呪いが解けたせいか、セヴィリオは以前よりも表情豊かになった。
 良いことだ。ただ、心から笑っているわけではない時の雰囲気が、ライアスとよく似ており背筋が凍る。

「残念でしたー! ということで、後は旦那様に任せて、俺はルーラちゃんとデートさせてもらいまーす」
「きゃっ」

 裏切り者のエルドは後方から現れて、ルーラの手を引いて連れ去ってしまう。

「エルド~っ!!」

 リアナーレは元部下の背中に向かって叫ぶも、彼は振り返ることすらしない。
 セヴィリオとエルドが仲良くなるのも考えものだな、と残されたリアナーレは夫の顔色を伺う。

 怒ってはいないようだ。彼も街へ行く装いをしているので、連れて行ってくれるつもりなのだろう。

「言ってくれれば良いのに」
「貴方は忙しいと思って」
「リアナの頼みならどうにか時間を作るよ。それとも僕といるの、そんなに嫌?」

 距離を詰められ、リアナーレはじりじりと後ずさる。

「嫌じゃない、けど……緊張する」
「昔は毎日のように一緒に遊んでいたのに、今更緊張するの?」
「いつの話をしているの」

 大人のお付き合いを知らない、子どもの頃の話だ。その頃のセヴィリオはリアナーレよりも背が低く、自信なさげな顔をしていて、愛らしかった。

 今のセヴィリオはリアナーレよりも背が高く、体つきも逞しく、格好良いという言葉が似合う。
 最近は血色が良くなったせいか、王子としての輝きも増してきたように思う。

 彫刻のように整ったセヴィリオの顔を直視できず、リアナーレは地面を見つめる。

「照れるリアナも可愛いよ」
「うるさい。私ばっか余裕ないみたいで嫌だ」
「僕だって、本当は緊張しているよ。でも、君といたいんだ」
 
 彼はリアナーレの手を取り、顔を擦り寄せた。一回り大きい男の手だ。
 セヴィリオを男だと認識する度に、リアナーレは緊張で固まってしまう。

「行こうか。収穫祭のリベンジをさせてよ。今回は絶対一人にしないから」
 
◇◆◇

「は~、お腹いっぱい。新鮮な海鮮って最高ね。セヴィー、次は武具を見に行きましょ! あと帰る前にパン屋に寄りたい。近くに美味しいところがあるの」

 バターとタレをたっぷりつけて焼き上げた大きな貝を平らげて、リアナーレはお腹を擦る。
 本当なら一緒にお酒を愉しみたいところだが、今の体では迂闊に飲むことができない。

「楽しそうだね」
「あ。私のことばかりでごめん。どこか行きたいところはある?」
「リアナの行きたいところが僕の行きたいところ」

 ソースがついていると言って、セヴィリオは指でリアナーレの口もとを拭った。
 折角緊張を忘れてたというのに、また変に意識してしまう。

「じゃあ、この前行ったお店」
「いいよ」

 素性を隠す必要がなくなったリアナーレは、平和な街の散策を思う存分楽しんだ。

 セヴィリオは嫌な顔ひとつせず、リアナーレの行きたい場所、やりたいことを優先させてくれる。
 剣など最早不要だというのに、お宝探しをしてしまうリアナーレにも、黙って付き合ってくれていた。

 ――私、本当に愛されているんだな。

「何? 僕の顔に何かついてる?」
「何でもない」

 リアナーレは雑多に積まれた防具の山へと視線を移す。大して防具に興味はないが、何かを探しているふりをした。

「あ」

 店に入ってきた人物を見て、リアナーレは思わず声を漏らす。白銀の髪に上品な佇まい。フォード=モントレイだ。
 彼もすぐこちらに気づき、軽く会釈をする。
  
「偶然ね。傷はもういいの?」
「はい。完全復帰です。その節は、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「伯爵は悪くないのだから謝らないで。結果的に、あの件で大きな怪我をしたのは貴方だけだったし」

 セヴィリオがつけた刺し傷は深かったものの、迅速な処置ができたため、大事には至らなかった。
 呪いの紋章が傷つけられたお陰か、血が流れたせいか、彼は負傷とともに正気に戻り、誰かが死ぬという悲惨な結末は迎えずに済んだ。

 本来、仲間――それも王族に刃を向けたとなれば問答無用で処刑だが、セヴィリオは覚えていないと言い張った。冷酷王子はなんだかんだ、優しいのだ。

「ところで、総帥はリアナーレ嬢の正体に気づいていますよね?」

 フォードはセヴィリオを一瞥した後、リアナーレの耳元で囁く。気遣いのできる男なので、確かめるまではセヴィリオに聞こえると不味いと思ったのだろう。

「はい。長くなるので詳しい経緯については省きます」
「そうか。それは良かった。お幸せに」

 男は憑き物が落ちたような、晴れ晴れとした笑顔でそう言った。
 修繕のために預けていたという剣を受け取って、彼はあっという間に店から出ていく。
 
 フォードのことは、身体的、精神的、どちらの面でも心配していたので、リアナーレは元気そうな姿を見て胸をなで下ろす。
 
 セヴィリオは内緒話が気に入らなかったらしい。腕ごと切り落としても良かったのだがな、と物騒なことを呟いていた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

処理中です...