戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

文字の大きさ
59 / 61
第6章 未来へ

6-6 シャレイアンの未来

しおりを挟む
「セヴィリオ様、リアナ様、本当に、本当にありがとうございました!!」

 マリアンは素早い動作で頭を下げる。同時に長い髪がばさりと揺れ、彼女の顔を覆った。
 
「そんな、わざわざお礼を言いに来なくても良かったのに」
「そう仰りますけど、どんなにお礼を伝えても足りないほどのことですよ!?」

 マリアンはリアナーレに飛びかかってきそうなほど、前のめりに喜びを伝える。目は興奮気味に見開かれ、頬に赤みが差していた。
 そんな彼女の横で、歳上の旦那はどうして良いのか分からず、視線を彷徨わせている。

「ほら、あなたからもお礼を伝えてください」
「えっ、あっ、ああ……、結婚祝いをありがとうございました」

 マルセルはしばらく迷った後、恥ずかしそうに頭を下げる。
 セヴィリオとリアナの方が歳下でも、身分は高い。可愛い新妻の頼みもあって、流石にプライドの高い彼でも無視できなかったのだろう。

 リアナーレは二人に座るよう勧める。
 形式ばった面会をするつもりはなく、マリアンといつものように薔薇園でお茶をする予定だったが、何故かセヴィリオまで同席している。

 マリアンの方はマルセルを連れてきたので、机を挟んで二組の夫婦が向き合うという不思議な状況に陥ってしまった。

 とはいえ、セヴィリオはリアナーレの方を見つめるばかり。片やマルセルは歳下上司の同席で居心地が悪いのか、黙り込んでいる。

「茶器、気に入ってもらえたなら良かった」
「あのローズピンクを出せるのはレクトランテの王族御用達の窯元のみで、普通は手に入らないものなのです! 初めて見ましたが、本当に素敵な色でした」
「そんなに貴重なものだったんだ」
「はい。貴重な上に王家から下賜された品ですよ!? 家宝にします」

 リアナーレは彼女の解説に驚く。
 あの茶器は苦労して手配した物ではなく、偶然手に入った物であり、それほど貴重な品だとは思っていなかった。

 先日、レクトランテのイワオール夫妻と会食の機会があったので、結婚祝いの贈り物についてを相談したのだ。
 彼らはレクトランテで有名な磁器を勧めてくれ、夫人のお気に入りであるという茶器を、気前よく二セット贈ってくれた。

 一セットは、セヴィリオとリアナーレ用だというので、ありがたく使わせてもらっている。

「喜んでもらえて良かったね」
「イワオール様にお礼をしなくちゃ」
「シャレイアンの工芸品を贈ろうか」

 マリアン達が去った後、そんな会話をセヴィリオとする。

「あ」
「どうしたの?」

 片付けをルーラに任せて引き上げようとした時だった。初老の男が付き人に支えられるようにして、薔薇園へと入ってくる。
 セヴィリオと同じアイスブルーの髪。顔つきもよく似ている。当たり前だろう。彼は前国王でセヴィリオの父、オンベール=シャレイアンなのだから。

「またいらしてる。気に入ったのかな」
「ああ、何だ。あの人か。隠居して暇なだけじゃない」

 丁度、春の薔薇が咲く時期で、薔薇園は美しい花々で溢れかえっていた。
 リアナーレは前国王がいつも、穏やかな顔で薔薇園を見つめているのを知っている。

 今のオンベール=シャレイアンに、かつての威厳に満ちた面影はない。

 リアナーレが存在を思い出し、解呪に訪れた時、彼は既に呪いに蝕まれ、廃人同然だった。

 解呪自体は成功したものの、後遺症のようなものなのか、記憶や人格の多くが失われてしまったらしい。
 息子のことすら認識できず、唯一亡き王妃のことは覚えているようだが、死を受け入れられているかは怪しい。

 客観的に考えたら不幸なことなのかもしれないが、リアナーレは悲観的になる必要はないと感じている。
 それは、リアナーレの知る国王オンベール=シャレイアンよりも、王という立場を離れ、穏やかに余生を過ごす今の彼の方が幸せそうに見えるからだ。

 これまで母親にも薔薇園にも興味を示さなかった父親が、急に態度を改めたことにセヴィリオは拒絶を示している。
 それでも、薔薇園から追い出すことはしないので、心の奥底から憎んでいるわけではないのだろう。

「もしかしたら、オンベール様もこの場所に想い入れがあるのかも」
「さぁ、知りたくないね」

 素っ気ないセヴィリオについて、リアナーレは席を立つ。元国王は、テラスの席に座ってぼんやりと満開の花々を眺めていた。

「やぁ」
 
 薔薇園からの帰りに、金髪の優男とすれ違う。
 滅多にこの棟に来ないはずの男が、何故ここにいるのか分からなかったが、舌打ちをするセヴィリオの代わりに、リアナーレは返事をした。

「久しぶりね。お忙しい国王様がこんなところで油を売っていていいの?」
「そんなに構えなくても。もう何もしないよ」

 何もしないと言いながら、立ち止まって二人の道を塞ぐので、セヴィリオが刺々しく問う。

「何の用だ」
「ああ。君たちに話しておきたいことがあって。部屋に行ったらこっちだって言うから。すれ違わなくて良かったよ」

 ライアスは相変わらずの胡散臭い笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...