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第6章 未来へ
6-6 シャレイアンの未来
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「セヴィリオ様、リアナ様、本当に、本当にありがとうございました!!」
マリアンは素早い動作で頭を下げる。同時に長い髪がばさりと揺れ、彼女の顔を覆った。
「そんな、わざわざお礼を言いに来なくても良かったのに」
「そう仰りますけど、どんなにお礼を伝えても足りないほどのことですよ!?」
マリアンはリアナーレに飛びかかってきそうなほど、前のめりに喜びを伝える。目は興奮気味に見開かれ、頬に赤みが差していた。
そんな彼女の横で、歳上の旦那はどうして良いのか分からず、視線を彷徨わせている。
「ほら、あなたからもお礼を伝えてください」
「えっ、あっ、ああ……、結婚祝いをありがとうございました」
マルセルはしばらく迷った後、恥ずかしそうに頭を下げる。
セヴィリオとリアナの方が歳下でも、身分は高い。可愛い新妻の頼みもあって、流石にプライドの高い彼でも無視できなかったのだろう。
リアナーレは二人に座るよう勧める。
形式ばった面会をするつもりはなく、マリアンといつものように薔薇園でお茶をする予定だったが、何故かセヴィリオまで同席している。
マリアンの方はマルセルを連れてきたので、机を挟んで二組の夫婦が向き合うという不思議な状況に陥ってしまった。
とはいえ、セヴィリオはリアナーレの方を見つめるばかり。片やマルセルは歳下上司の同席で居心地が悪いのか、黙り込んでいる。
「茶器、気に入ってもらえたなら良かった」
「あのローズピンクを出せるのはレクトランテの王族御用達の窯元のみで、普通は手に入らないものなのです! 初めて見ましたが、本当に素敵な色でした」
「そんなに貴重なものだったんだ」
「はい。貴重な上に王家から下賜された品ですよ!? 家宝にします」
リアナーレは彼女の解説に驚く。
あの茶器は苦労して手配した物ではなく、偶然手に入った物であり、それほど貴重な品だとは思っていなかった。
先日、レクトランテのイワオール夫妻と会食の機会があったので、結婚祝いの贈り物についてを相談したのだ。
彼らはレクトランテで有名な磁器を勧めてくれ、夫人のお気に入りであるという茶器を、気前よく二セット贈ってくれた。
一セットは、セヴィリオとリアナーレ用だというので、ありがたく使わせてもらっている。
「喜んでもらえて良かったね」
「イワオール様にお礼をしなくちゃ」
「シャレイアンの工芸品を贈ろうか」
マリアン達が去った後、そんな会話をセヴィリオとする。
「あ」
「どうしたの?」
片付けをルーラに任せて引き上げようとした時だった。初老の男が付き人に支えられるようにして、薔薇園へと入ってくる。
セヴィリオと同じアイスブルーの髪。顔つきもよく似ている。当たり前だろう。彼は前国王でセヴィリオの父、オンベール=シャレイアンなのだから。
「またいらしてる。気に入ったのかな」
「ああ、何だ。あの人か。隠居して暇なだけじゃない」
丁度、春の薔薇が咲く時期で、薔薇園は美しい花々で溢れかえっていた。
リアナーレは前国王がいつも、穏やかな顔で薔薇園を見つめているのを知っている。
今のオンベール=シャレイアンに、かつての威厳に満ちた面影はない。
リアナーレが存在を思い出し、解呪に訪れた時、彼は既に呪いに蝕まれ、廃人同然だった。
解呪自体は成功したものの、後遺症のようなものなのか、記憶や人格の多くが失われてしまったらしい。
息子のことすら認識できず、唯一亡き王妃のことは覚えているようだが、死を受け入れられているかは怪しい。
客観的に考えたら不幸なことなのかもしれないが、リアナーレは悲観的になる必要はないと感じている。
それは、リアナーレの知る国王オンベール=シャレイアンよりも、王という立場を離れ、穏やかに余生を過ごす今の彼の方が幸せそうに見えるからだ。
これまで母親にも薔薇園にも興味を示さなかった父親が、急に態度を改めたことにセヴィリオは拒絶を示している。
それでも、薔薇園から追い出すことはしないので、心の奥底から憎んでいるわけではないのだろう。
「もしかしたら、オンベール様もこの場所に想い入れがあるのかも」
「さぁ、知りたくないね」
素っ気ないセヴィリオについて、リアナーレは席を立つ。元国王は、テラスの席に座ってぼんやりと満開の花々を眺めていた。
「やぁ」
薔薇園からの帰りに、金髪の優男とすれ違う。
滅多にこの棟に来ないはずの男が、何故ここにいるのか分からなかったが、舌打ちをするセヴィリオの代わりに、リアナーレは返事をした。
「久しぶりね。お忙しい国王様がこんなところで油を売っていていいの?」
「そんなに構えなくても。もう何もしないよ」
何もしないと言いながら、立ち止まって二人の道を塞ぐので、セヴィリオが刺々しく問う。
「何の用だ」
「ああ。君たちに話しておきたいことがあって。部屋に行ったらこっちだって言うから。すれ違わなくて良かったよ」
ライアスは相変わらずの胡散臭い笑顔を見せた。
マリアンは素早い動作で頭を下げる。同時に長い髪がばさりと揺れ、彼女の顔を覆った。
「そんな、わざわざお礼を言いに来なくても良かったのに」
「そう仰りますけど、どんなにお礼を伝えても足りないほどのことですよ!?」
マリアンはリアナーレに飛びかかってきそうなほど、前のめりに喜びを伝える。目は興奮気味に見開かれ、頬に赤みが差していた。
そんな彼女の横で、歳上の旦那はどうして良いのか分からず、視線を彷徨わせている。
「ほら、あなたからもお礼を伝えてください」
「えっ、あっ、ああ……、結婚祝いをありがとうございました」
マルセルはしばらく迷った後、恥ずかしそうに頭を下げる。
セヴィリオとリアナの方が歳下でも、身分は高い。可愛い新妻の頼みもあって、流石にプライドの高い彼でも無視できなかったのだろう。
リアナーレは二人に座るよう勧める。
形式ばった面会をするつもりはなく、マリアンといつものように薔薇園でお茶をする予定だったが、何故かセヴィリオまで同席している。
マリアンの方はマルセルを連れてきたので、机を挟んで二組の夫婦が向き合うという不思議な状況に陥ってしまった。
とはいえ、セヴィリオはリアナーレの方を見つめるばかり。片やマルセルは歳下上司の同席で居心地が悪いのか、黙り込んでいる。
「茶器、気に入ってもらえたなら良かった」
「あのローズピンクを出せるのはレクトランテの王族御用達の窯元のみで、普通は手に入らないものなのです! 初めて見ましたが、本当に素敵な色でした」
「そんなに貴重なものだったんだ」
「はい。貴重な上に王家から下賜された品ですよ!? 家宝にします」
リアナーレは彼女の解説に驚く。
あの茶器は苦労して手配した物ではなく、偶然手に入った物であり、それほど貴重な品だとは思っていなかった。
先日、レクトランテのイワオール夫妻と会食の機会があったので、結婚祝いの贈り物についてを相談したのだ。
彼らはレクトランテで有名な磁器を勧めてくれ、夫人のお気に入りであるという茶器を、気前よく二セット贈ってくれた。
一セットは、セヴィリオとリアナーレ用だというので、ありがたく使わせてもらっている。
「喜んでもらえて良かったね」
「イワオール様にお礼をしなくちゃ」
「シャレイアンの工芸品を贈ろうか」
マリアン達が去った後、そんな会話をセヴィリオとする。
「あ」
「どうしたの?」
片付けをルーラに任せて引き上げようとした時だった。初老の男が付き人に支えられるようにして、薔薇園へと入ってくる。
セヴィリオと同じアイスブルーの髪。顔つきもよく似ている。当たり前だろう。彼は前国王でセヴィリオの父、オンベール=シャレイアンなのだから。
「またいらしてる。気に入ったのかな」
「ああ、何だ。あの人か。隠居して暇なだけじゃない」
丁度、春の薔薇が咲く時期で、薔薇園は美しい花々で溢れかえっていた。
リアナーレは前国王がいつも、穏やかな顔で薔薇園を見つめているのを知っている。
今のオンベール=シャレイアンに、かつての威厳に満ちた面影はない。
リアナーレが存在を思い出し、解呪に訪れた時、彼は既に呪いに蝕まれ、廃人同然だった。
解呪自体は成功したものの、後遺症のようなものなのか、記憶や人格の多くが失われてしまったらしい。
息子のことすら認識できず、唯一亡き王妃のことは覚えているようだが、死を受け入れられているかは怪しい。
客観的に考えたら不幸なことなのかもしれないが、リアナーレは悲観的になる必要はないと感じている。
それは、リアナーレの知る国王オンベール=シャレイアンよりも、王という立場を離れ、穏やかに余生を過ごす今の彼の方が幸せそうに見えるからだ。
これまで母親にも薔薇園にも興味を示さなかった父親が、急に態度を改めたことにセヴィリオは拒絶を示している。
それでも、薔薇園から追い出すことはしないので、心の奥底から憎んでいるわけではないのだろう。
「もしかしたら、オンベール様もこの場所に想い入れがあるのかも」
「さぁ、知りたくないね」
素っ気ないセヴィリオについて、リアナーレは席を立つ。元国王は、テラスの席に座ってぼんやりと満開の花々を眺めていた。
「やぁ」
薔薇園からの帰りに、金髪の優男とすれ違う。
滅多にこの棟に来ないはずの男が、何故ここにいるのか分からなかったが、舌打ちをするセヴィリオの代わりに、リアナーレは返事をした。
「久しぶりね。お忙しい国王様がこんなところで油を売っていていいの?」
「そんなに構えなくても。もう何もしないよ」
何もしないと言いながら、立ち止まって二人の道を塞ぐので、セヴィリオが刺々しく問う。
「何の用だ」
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