戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

文字の大きさ
57 / 61
第6章 未来へ

6-4 独白

しおりを挟む
 王都に一つだけ存在する教会に、ライアス=シャレイアンは足を運んだ。

 シャレイアン王国において、神への信仰は盛んに行われていない。
 街外れにあるこの教会も、信心深い少数の国民のために建てられたもので、小さく、老朽化が進んでいた。

「ねぇ。聞こえていたりするのかな」

 横長の礼拝席に座り、ライアスは壁上方のステンドグラスを見つめながら呟く。

 誰もいない静かな空間に、言葉が散っていく。返事はない。天に届いているのかも分からない。それでもなんとなく、声に出して語りたかった。

「ボクはね、ここで君を見つけた時、自分の人生が変わるかもしれないって思ったよ」

 リアナ=キュアイスを見つけたのはライアスだ。

 王宮での退屈な日々に嫌気が差し、第一王子は時々素性を隠して出歩いていた。
 偶然教会主催のバザーに行き当たり、そこで聖女を見つけたのだ。彼女は捨て子で、神父に育てられたのだという。

 ――貴方にお会いしたかった。

 美しく、清らかな少女はライアスに微笑みかけ、売っていた白百合の造花を手渡した。

 ライアスはすぐに、自ら聖女と名乗る彼女を王宮へ招く手はずを整える。
 本物かどうかなど、どうでもよかった。国を導く聖女だということにして、ライアスが彼女を自分のものにできるのならそれでいい。 

 幸い、彼女は自らが聖女だと証明するに足りる力を持っていた。未来が見えているのではないかというほど、彼女の星占いはよく当たる。
 更に、奇跡を使うことができると聞いて、大臣たちは色めき立った。

 彼女に相応の地位を用意して、国で囲うべきだという話になる。そこまではライアスの思惑通りに進んだ。
 
 全ての計画が狂ったのは、父王が世継ぎであるライアスと聖女の婚姻を許さなかったことだ。
 ライアスは婚約者である公爵家の娘と結婚させられ、父は嫌がらせのように、セヴィリオに聖女を娶らせた。

 弟と結婚させるくらいなら、ライアスに与えてくれればよかった。二番目の妃でも何でも良い。聖女さえ自分のものに出来たのなら、ライアスは大人しく第一王子を務め、行く行くは王になり、それなりに国を治めただろうに。
 
 愚かな判断だ。

 ライアスは復讐に燃えた。父、オンベール王を苦しめ、追い詰めることなど簡単だ。妃の死についてを責めれば良い。

 ――母様は可哀想だった。夫に愛されず、最期は家族に看取られることもなく、隔離された地で一人孤独に死んでいった。
 
 その一言で、妻に先立たれた王の心身を呪いが蝕んでくれる。
 ライアスは、冷たい態度の裏でオンベール王が妃を愛していたことを知っている。
 王は流行り病にかかった妃を孤独に死なせたことを、鉄仮面の下で深く悔やんでいた。

 王となる人間に愛は不要だ――何故、リアナ=キュアイスを娶ることが許されないのか。ライアスが抗議した時、父はこう答えたが、それは妃の死に苦しむ彼の勝手な意見だ。

 本当に、愚かな判断だった。

 お陰様でライアスも、セヴィリオも、妻に対して何の愛情も持てず、行き場の無い執着心に苦しむだけだった。

 父親が憔悴していく様子を見るのは愉快だった。一方で、復習を果たしても聖女が自分のものにならない虚しさが残る。

 空虚を埋めようと、弟の愛する人の命を奪ってみたものの、結果としてライアスの求めたものは永遠に手に入らなくなり、片や弟はあっさり手に入れてしまった。

「一番愚かなのは、ボクだった」

 ライアスは神に向かい、懺悔をする。

 呪いに手を染めた初代の王は、小さな国を護るために必死だったのかもしれない。
 父は母を見捨てたのではなく、王として苦渋の決断を下したのだろう。
 弟は――彼も国のことなど二の次だが、少なくともライアスよりは、人のために生きている。

 ライアスは、自分のことしか考えられない、利己的で幼稚な人間だった。
 万能と称賛されるほどの力を与えられていたのに、その能力を誰かのために活かすことなど考えたことがない。

 だから神は、聖女を与えてくれなかったのだ。

「何故手に入らない君に執着するのかずっと不思議だったんだけど、神様が与えた罰だったのかもね」

 死ぬことは許さない。生きて贖えと、義妹に言われてしまった。
 それだけでは、ライアスの自死を止めるには不十分だっただろう。

「ずるいなぁ」

 神の存在を示すように、天窓からライアスへと真っ直ぐ光が差し込んでいる。

 ――普通の人間に生まれ変わって、来世では貴方の愛に応えられますように。願わくばその時代のシャレイアンは平和でありますように。

 リアナーレに聞かされた、聖女からライアスへの伝言だ。

 来世なんて存在の不確かなもの、信じる人間はおかしいのかもしれない。
 けれども、ライアスは不思議と腑に落ちた。

「君が祈ったのなら、あるんだろうね」

 正しい方法を知らないが、手を重ねて祈りを捧げてみる。これから国のために生きるので、来世こそは彼女を愛させてくださいと。



 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...