5 / 9
第4話 ~スキルセレクト〜
しおりを挟む
再構築された空間は、種々あるフィールドの中でもシンプルな造りだった。正方形に敷き詰められた石畳。周囲は高さ三メートルほどの壁で囲まれていて、戦闘範囲が明確にされれている。さらに奥には階段状の客席が用意されているけれど、当然ながら無観客だ。
ローマのコロッセウムをモチーフにしたであろう戦闘空間。おもむろに上空を仰ぐと、仮想空間とは思えない程にリアルな青空が広がっていた。
現実と区別がつかない現状に、それでいて懐かしさが込み上げてくる。
颯爽と吹き抜ける風が。
さんさんと降り注ぐも熱を感じない光が。
意思と連動しているものの若干の齟齬を生じる身体が。
ここがFBの中であることを、容赦なく認識させた。
「……これを見るのも久しぶりだな」
寂れた戦闘場に一人佇む俺の眼前には、メニュー画面と同じく半透明のウィンドウが浮かび上がっていた。対戦相手である白雪もこの空間には存在しているが、戦闘準備が終了するまでは視認できないようになっている。
公平性を損なわないよう組み込まれているシステム。それほどに戦闘準備――スキルセレクトはFBにおいて肝なのだ。
スキルウィンドウは左右で二分割されており、それぞれにずらりと単語が並べられている。
――左側に表示された『アルマ』の欄には、剣や斧といった武器が。
――右側に表示された『シャルム』の欄には、発火能力や瞬間移動といった超能力が。
プレイヤーはアルマとシャルムから各一種類以上、合計三種類のスキルを組み合わせて試合に挑む。これこそが、Fantasy Battleの唯一にして最大の特徴である。単純明快なルールでありながら、戦闘スタイルは千差万別。スキルの組み合わせは無数に存在し、どれだけの時間を注ぎ込もうとも足りはしない。
各スキルの練度向上、アルマとシャルムのシナジー追求、ルール毎の戦略等、プレイヤーが取り組むべき事は満ち溢れている。状況によって異なる最適解を、全て高レベルで使いこなすのは現実的ではない。
故に、プレイヤーは得意とする戦闘スタイルをいくつか用意し、試合ルールや敵味方に応じて使い分ける。それは俺も例外ではなく。
「…………」
スキル一覧を確認するために動かしていた手が止まる。目に付いたのは、最も練度が高いと自負するアルマ。自身の実力を見せつけるには、最適のスキルではある――が。
理屈では分かっていても意思に反して、あるいは意思に従って、俺の指はピクリとも動かなくなってしまった。そうしている間にも、刻一刻とスキルセレクトの制限時間は終わりへと近づいていく。
結局、時間を目一杯使用して選択したのは、そこそこ使用経験のある組み合わせで。
「……情けないな」
自分のことながら、女々しくて笑えてくる。三年前のあの日から、俺は一歩も動けないでいるのだ。
手放して、距離を取って、見てみぬふりをして。
傷つかないように。傷つけないように。
FBから。そして、羽美からも。
◇ ◇ ◇
「も~、遅いですよ! もしかしたらログアウトしたんじゃないかって、心配したじゃないですか!」
「悪いな。久し振りだったから時間がかかった」
スキルセレクトに続いてステータス振りを終えると、ウィンドウが視界から消えてなくなる。その代わり、認識できるようになった対戦相手の白雪が、十メートルほど前方に姿を現した。
加えて、俺たちに挟まれる形で数字が出現し、規則正しくその値を減らしている。60から始まったカウントダウンは、試合開始までの時間を示している。しかし、それはシステム的な勝負までの目印でしかなく、FBの戦いは既に始まっていた。
「あれ? 不知火くんは長槍なんですか?」
「ああ、意外だったか?」
「予想外ではありましたけど、よくよく見ると似合ってますね。こう、渋い感じが!」
「君ほどじゃないだろう。防御型のアルマ使いなんて、滅多にお目にかかれる相手じゃない」
俺たちはお互いに視覚から得られた情報で探り合う。FBに慣れ始めたプレーヤーであれば、顕現しているアルマを確認し、相手の戦法を推察して自身の作戦を練るのは常識だ。
白雪が指摘した通り、俺の右手には目立った装飾のないシンプルなデザインの槍。アルマも見た目を好みで変更できるが、衣装と同じく初期設定のままだ。
一方の白雪は待機空間の制服とは異なり、その名に恥じない純白の鎧に身を包んでいた。ワンピースをベースに改造しているのであろう外見は、正に女騎士と称するに相応しい風貌を醸し出している。
アルマは武器と呼ばれがちだが、数は少ないものの防具の類も用意されている。シャルムを軸にして戦うプレイヤーが防御系のアルマを使うと聞いたことがあった。『攻め有利』とされるFBでは少数派なので、俺も対戦経験はないが。
「あ、この鎧はわたしのアルマじゃありませんよ。ただの衣装です!」
「なるほど。つまりはミスリードというわけか。君にしては中々に姑息な策略じゃないか」
「ちょっ、やめて下さい! わたしが腹黒みたいに言わないで下さいよ! こっちの方が集中できるだけなんです! わたしは純白めで、潔白で、純潔なんですからッ!」
意味不明な喚きはさておいて、再度白雪の姿を凝視する――が、鎧を除いて目立った装備は見受けられない。つまりは、銃や手榴弾のように衣装に隠せる小型なアルマを選択しているのだろう。
彼女が嘘を吐いていて、鎧が本当にアルマの可能性も考えられなくはないが……。
「聞いているんですか!? あまりにもわたしをぞんざいに扱うようでしたら、出るところに出ますからね! あ、体系的な意味じゃないですから、変な想像しないで下さいよ!」
まあ、ないだろうな。これが全て演技だとしたら大した役者だ。人間不信量産機と呼んでやる。
余計なことを考えている内に、気が付くと60から始まったカウントダウンが10まで進んでいた。変わらずにキャンキャン吠えている対戦相手へ向けて、臨戦態勢を促すべく槍を構える。
白雪は意図を読み取ったようで、すぐさま落ち着きを取り戻すと振り回していた両手を正面に構えた。
さながら剣道のような隙のない佇まいではあるが、この期に及んで彼女の手には何も握られていない。
俺の意識を逸らすためなのか、はたまたシャルム発動のためなのか。
白雪の作戦を読めないままに、静寂が空間を支配する。唯一、試合開始を告げる数字だけが変化し続けていた。
――3。
静かに息を吸い込む。幾度となく繰り返し、身体に染み込んだルーティーン。
――2。
ゆっくりと息を吐く。空気と一緒に余計な力が抜けていった。
――1。
正面の女騎士を見据える。彼女は俺の視線を受けてニコッと柔らかく微笑んだかと思えば、両手を頭上へ高々と掲げて――
「いきますよッ!」
開戦の狼煙とばかりに、全力で腕を振り下ろした。
ローマのコロッセウムをモチーフにしたであろう戦闘空間。おもむろに上空を仰ぐと、仮想空間とは思えない程にリアルな青空が広がっていた。
現実と区別がつかない現状に、それでいて懐かしさが込み上げてくる。
颯爽と吹き抜ける風が。
さんさんと降り注ぐも熱を感じない光が。
意思と連動しているものの若干の齟齬を生じる身体が。
ここがFBの中であることを、容赦なく認識させた。
「……これを見るのも久しぶりだな」
寂れた戦闘場に一人佇む俺の眼前には、メニュー画面と同じく半透明のウィンドウが浮かび上がっていた。対戦相手である白雪もこの空間には存在しているが、戦闘準備が終了するまでは視認できないようになっている。
公平性を損なわないよう組み込まれているシステム。それほどに戦闘準備――スキルセレクトはFBにおいて肝なのだ。
スキルウィンドウは左右で二分割されており、それぞれにずらりと単語が並べられている。
――左側に表示された『アルマ』の欄には、剣や斧といった武器が。
――右側に表示された『シャルム』の欄には、発火能力や瞬間移動といった超能力が。
プレイヤーはアルマとシャルムから各一種類以上、合計三種類のスキルを組み合わせて試合に挑む。これこそが、Fantasy Battleの唯一にして最大の特徴である。単純明快なルールでありながら、戦闘スタイルは千差万別。スキルの組み合わせは無数に存在し、どれだけの時間を注ぎ込もうとも足りはしない。
各スキルの練度向上、アルマとシャルムのシナジー追求、ルール毎の戦略等、プレイヤーが取り組むべき事は満ち溢れている。状況によって異なる最適解を、全て高レベルで使いこなすのは現実的ではない。
故に、プレイヤーは得意とする戦闘スタイルをいくつか用意し、試合ルールや敵味方に応じて使い分ける。それは俺も例外ではなく。
「…………」
スキル一覧を確認するために動かしていた手が止まる。目に付いたのは、最も練度が高いと自負するアルマ。自身の実力を見せつけるには、最適のスキルではある――が。
理屈では分かっていても意思に反して、あるいは意思に従って、俺の指はピクリとも動かなくなってしまった。そうしている間にも、刻一刻とスキルセレクトの制限時間は終わりへと近づいていく。
結局、時間を目一杯使用して選択したのは、そこそこ使用経験のある組み合わせで。
「……情けないな」
自分のことながら、女々しくて笑えてくる。三年前のあの日から、俺は一歩も動けないでいるのだ。
手放して、距離を取って、見てみぬふりをして。
傷つかないように。傷つけないように。
FBから。そして、羽美からも。
◇ ◇ ◇
「も~、遅いですよ! もしかしたらログアウトしたんじゃないかって、心配したじゃないですか!」
「悪いな。久し振りだったから時間がかかった」
スキルセレクトに続いてステータス振りを終えると、ウィンドウが視界から消えてなくなる。その代わり、認識できるようになった対戦相手の白雪が、十メートルほど前方に姿を現した。
加えて、俺たちに挟まれる形で数字が出現し、規則正しくその値を減らしている。60から始まったカウントダウンは、試合開始までの時間を示している。しかし、それはシステム的な勝負までの目印でしかなく、FBの戦いは既に始まっていた。
「あれ? 不知火くんは長槍なんですか?」
「ああ、意外だったか?」
「予想外ではありましたけど、よくよく見ると似合ってますね。こう、渋い感じが!」
「君ほどじゃないだろう。防御型のアルマ使いなんて、滅多にお目にかかれる相手じゃない」
俺たちはお互いに視覚から得られた情報で探り合う。FBに慣れ始めたプレーヤーであれば、顕現しているアルマを確認し、相手の戦法を推察して自身の作戦を練るのは常識だ。
白雪が指摘した通り、俺の右手には目立った装飾のないシンプルなデザインの槍。アルマも見た目を好みで変更できるが、衣装と同じく初期設定のままだ。
一方の白雪は待機空間の制服とは異なり、その名に恥じない純白の鎧に身を包んでいた。ワンピースをベースに改造しているのであろう外見は、正に女騎士と称するに相応しい風貌を醸し出している。
アルマは武器と呼ばれがちだが、数は少ないものの防具の類も用意されている。シャルムを軸にして戦うプレイヤーが防御系のアルマを使うと聞いたことがあった。『攻め有利』とされるFBでは少数派なので、俺も対戦経験はないが。
「あ、この鎧はわたしのアルマじゃありませんよ。ただの衣装です!」
「なるほど。つまりはミスリードというわけか。君にしては中々に姑息な策略じゃないか」
「ちょっ、やめて下さい! わたしが腹黒みたいに言わないで下さいよ! こっちの方が集中できるだけなんです! わたしは純白めで、潔白で、純潔なんですからッ!」
意味不明な喚きはさておいて、再度白雪の姿を凝視する――が、鎧を除いて目立った装備は見受けられない。つまりは、銃や手榴弾のように衣装に隠せる小型なアルマを選択しているのだろう。
彼女が嘘を吐いていて、鎧が本当にアルマの可能性も考えられなくはないが……。
「聞いているんですか!? あまりにもわたしをぞんざいに扱うようでしたら、出るところに出ますからね! あ、体系的な意味じゃないですから、変な想像しないで下さいよ!」
まあ、ないだろうな。これが全て演技だとしたら大した役者だ。人間不信量産機と呼んでやる。
余計なことを考えている内に、気が付くと60から始まったカウントダウンが10まで進んでいた。変わらずにキャンキャン吠えている対戦相手へ向けて、臨戦態勢を促すべく槍を構える。
白雪は意図を読み取ったようで、すぐさま落ち着きを取り戻すと振り回していた両手を正面に構えた。
さながら剣道のような隙のない佇まいではあるが、この期に及んで彼女の手には何も握られていない。
俺の意識を逸らすためなのか、はたまたシャルム発動のためなのか。
白雪の作戦を読めないままに、静寂が空間を支配する。唯一、試合開始を告げる数字だけが変化し続けていた。
――3。
静かに息を吸い込む。幾度となく繰り返し、身体に染み込んだルーティーン。
――2。
ゆっくりと息を吐く。空気と一緒に余計な力が抜けていった。
――1。
正面の女騎士を見据える。彼女は俺の視線を受けてニコッと柔らかく微笑んだかと思えば、両手を頭上へ高々と掲げて――
「いきますよッ!」
開戦の狼煙とばかりに、全力で腕を振り下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる