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暗中模索
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「形を成さない……」
ロイドはユージーンの言葉を呟くように反復し、しばらく思索に耽るように黙り込む。
「これは愚問でしょうが、原因に目星は……?」
躊躇いがちに紡がれた問いに、ユージーンは苦笑いと共に首を横に振った。
「むしろ、ロイド卿にお心当たりを伺おうと思っていたところです」
「私にですか」
思いがけず向けられた話の矛先に、ロイドは居住まいを正した。
「貴殿が近衛騎士団団長の職を解かれたのは、王太子殿下への諌言が理由であると耳にしました」
ロイドは苦い笑みを浮かべて頷いた。
「貴殿は、幼少の頃から王太子殿下の傍に侍る忠臣の一人であったとも。その関係が崩れる程の何某かが起こったのか、或いは何かをご存知かと」
静かに問うユージーンに、ロイドは少しの間を置いて言葉を返す。
「猊下は、アリシア様の扱いに疑問を持たれていたと、部下より伝え聞いております。やはり外から見ても、不可解でしたでしょう」
ロイドの口振りは、暗にそれが一つの答えだと語る。
「そもそも今日、私がこちらを尋ねた理由は、この城に掛けられていた呪術の類をお解きになったのが、クロヌス猊下であるかを尋ねようと思っての事です」
続いた言葉に、ユージーンは目を細め僅かに眉を寄せた。
「いえ、私はそのような力は持ち合わせておりません。……しかし、呪術の類に侵されていると思わせる状況に、三ヶ月前からあったのですね?」
「私が違和感を覚えたのは、実際には半年ほど前からです。その頃から、殿下の言動は極端に変わられた」
ロイドは一つ深呼吸をして、眉間に皺を寄せ言葉を続ける。
「以前の殿下は、実直な方でした。仮に、もし本当に、お気持ちが変わられたのだとしても、感情のままに行動し婚約者を蔑ろにするような方では無かった」
「半年前に、何か異変の切っ掛けとなる出来事は?」
ユージーンが問うと、ロイドは僅かに躊躇うように開きかけた口を止め、少しの間を置いて、意を決したようにユージーンの目を見た。
「陛下の命により、リリア・ウィルハートが祭司女官として城に召し上げられたのがその時期です」
ユージーンはロイドの言わんとするところを察して、敢えて次の言葉を待った。
「猊下、地震の夜にあった夜会での事も、聞き及んでおります。……その、猊下は夜会の前に顔合わせを行った際には、リリア嬢に神の寵愛の兆しを確認されていたとの事。それは、間違いないのですか?」
「顔合わせの際にこの目で見た件であれば、間違いはありません。……ロイド卿は、彼女を疑っておいでなのですね」
穏やかに問い返すユージーンに、ロイドは表情を曇らせる。
「確証は、ありません。ですが、リリア嬢が真の神の愛子であるならば、私の勘繰りが過ぎての事かと……」
肩を落として吐く言葉はしりすぼみに消えていく。
その様子を見て、ユージーンは一つ息を吐いた。
「ロイド卿、これから私が語る言葉は、貴殿の推察を後押しするものでも、否定するものでもありません。認識を整える事で状況の把握を正確にする為のものです」
唐突な切り出しに、ロイドは顔を上げ目を瞬いた。
「まず、神の愛子という呼称は、人にとって都合の良い言葉でしかありません」
「それは、どういう意味でしょうか……」
困惑するロイドに、ユージーンは穏やかな声で続ける。
「確かに主神ヴァースの寵愛を受ける者は居ます。ですがそれに『神の愛子』という呼び名をつけ特別視する事は、人の都合で成される事に過ぎません」
そこで区切るとユージーンは困ったような笑みを浮かべて見せた。
「それをどう扱うかについては、内政干渉にあたる場合もある為、大教会は余程の事態でない限り敢えて口を出さない事を暗に定めています。──従って、私は問われた内容に対する事実のみを伝えるのを常としています」
それからユージーンは、少し潜めた声で、大教会の司教としては些か不適切な言葉もある、と前置きした。
「あまりに身近であるが故に失念してしまいがちですが、言葉の本来の意味で言うのであれば、治癒士や術式を使うもの達もまた、神の愛子と呼べるでしょう。本来はそのくらい、ありふれた存在です」
ロイドは目を丸くして息を呑む。それから、少し破顔した。
「なるほど。言葉に囚われて本質を見誤るな、という事でしょうか。確かに、猊下も神の愛子であらせられる」
その言い草にユージーンが目を細めると、ロイドは慌てて首を振った。
「失敬、軽口が過ぎましたな……」
それでも肩の力が抜けた方が物事の理解には良かろうと、場の空気がほんの僅かに和らいだ所で話を戻した。
「特出した力を得たものを区別する為に呼称する事も当然あります。そして、いずれにせよ──……その本質に、本来は善悪の概念はないのです」
ロイドはユージーンの言葉を呟くように反復し、しばらく思索に耽るように黙り込む。
「これは愚問でしょうが、原因に目星は……?」
躊躇いがちに紡がれた問いに、ユージーンは苦笑いと共に首を横に振った。
「むしろ、ロイド卿にお心当たりを伺おうと思っていたところです」
「私にですか」
思いがけず向けられた話の矛先に、ロイドは居住まいを正した。
「貴殿が近衛騎士団団長の職を解かれたのは、王太子殿下への諌言が理由であると耳にしました」
ロイドは苦い笑みを浮かべて頷いた。
「貴殿は、幼少の頃から王太子殿下の傍に侍る忠臣の一人であったとも。その関係が崩れる程の何某かが起こったのか、或いは何かをご存知かと」
静かに問うユージーンに、ロイドは少しの間を置いて言葉を返す。
「猊下は、アリシア様の扱いに疑問を持たれていたと、部下より伝え聞いております。やはり外から見ても、不可解でしたでしょう」
ロイドの口振りは、暗にそれが一つの答えだと語る。
「そもそも今日、私がこちらを尋ねた理由は、この城に掛けられていた呪術の類をお解きになったのが、クロヌス猊下であるかを尋ねようと思っての事です」
続いた言葉に、ユージーンは目を細め僅かに眉を寄せた。
「いえ、私はそのような力は持ち合わせておりません。……しかし、呪術の類に侵されていると思わせる状況に、三ヶ月前からあったのですね?」
「私が違和感を覚えたのは、実際には半年ほど前からです。その頃から、殿下の言動は極端に変わられた」
ロイドは一つ深呼吸をして、眉間に皺を寄せ言葉を続ける。
「以前の殿下は、実直な方でした。仮に、もし本当に、お気持ちが変わられたのだとしても、感情のままに行動し婚約者を蔑ろにするような方では無かった」
「半年前に、何か異変の切っ掛けとなる出来事は?」
ユージーンが問うと、ロイドは僅かに躊躇うように開きかけた口を止め、少しの間を置いて、意を決したようにユージーンの目を見た。
「陛下の命により、リリア・ウィルハートが祭司女官として城に召し上げられたのがその時期です」
ユージーンはロイドの言わんとするところを察して、敢えて次の言葉を待った。
「猊下、地震の夜にあった夜会での事も、聞き及んでおります。……その、猊下は夜会の前に顔合わせを行った際には、リリア嬢に神の寵愛の兆しを確認されていたとの事。それは、間違いないのですか?」
「顔合わせの際にこの目で見た件であれば、間違いはありません。……ロイド卿は、彼女を疑っておいでなのですね」
穏やかに問い返すユージーンに、ロイドは表情を曇らせる。
「確証は、ありません。ですが、リリア嬢が真の神の愛子であるならば、私の勘繰りが過ぎての事かと……」
肩を落として吐く言葉はしりすぼみに消えていく。
その様子を見て、ユージーンは一つ息を吐いた。
「ロイド卿、これから私が語る言葉は、貴殿の推察を後押しするものでも、否定するものでもありません。認識を整える事で状況の把握を正確にする為のものです」
唐突な切り出しに、ロイドは顔を上げ目を瞬いた。
「まず、神の愛子という呼称は、人にとって都合の良い言葉でしかありません」
「それは、どういう意味でしょうか……」
困惑するロイドに、ユージーンは穏やかな声で続ける。
「確かに主神ヴァースの寵愛を受ける者は居ます。ですがそれに『神の愛子』という呼び名をつけ特別視する事は、人の都合で成される事に過ぎません」
そこで区切るとユージーンは困ったような笑みを浮かべて見せた。
「それをどう扱うかについては、内政干渉にあたる場合もある為、大教会は余程の事態でない限り敢えて口を出さない事を暗に定めています。──従って、私は問われた内容に対する事実のみを伝えるのを常としています」
それからユージーンは、少し潜めた声で、大教会の司教としては些か不適切な言葉もある、と前置きした。
「あまりに身近であるが故に失念してしまいがちですが、言葉の本来の意味で言うのであれば、治癒士や術式を使うもの達もまた、神の愛子と呼べるでしょう。本来はそのくらい、ありふれた存在です」
ロイドは目を丸くして息を呑む。それから、少し破顔した。
「なるほど。言葉に囚われて本質を見誤るな、という事でしょうか。確かに、猊下も神の愛子であらせられる」
その言い草にユージーンが目を細めると、ロイドは慌てて首を振った。
「失敬、軽口が過ぎましたな……」
それでも肩の力が抜けた方が物事の理解には良かろうと、場の空気がほんの僅かに和らいだ所で話を戻した。
「特出した力を得たものを区別する為に呼称する事も当然あります。そして、いずれにせよ──……その本質に、本来は善悪の概念はないのです」
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