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序章

第10話 貴族君は見返したい

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 森の奥深くぽっかりと空いた洞窟の入り口がひっそりと開いていた。あれがダンジョン‥‥初めて見たけど、そういえばどんな魔物がいるか分からないなぁ、それに道具も無いし、助けに来たのはいいけど‥‥もしかして、思っているよりもやばい状況なのか?

(おやおや?お困りのようね、ヒーロー君)

「もしかして、このダンジョンのモンスターが分かるんですか?」

(詳しくは分からないけど、大体どんな奴がいるか分かるわよ)

「流石アリフィカさん!それで‥‥」

「うわ!!!!」

(わぁ!びっくりした‥‥でも、あの声は‥‥)

「アレクシエルさんの声だ!説明は後にして、行きましょう!」

(ええ、そうね!)

 悲鳴をあげる状況にまで追い込まれている彼を助ける手立ては無いに等しいが、走り出さずにはいられなかった。



 僕は、薄暗い洞窟の中に突き進んでいると、目の前の魔物が騒いでいる。どうやら誰かが襲われているらしい。多分あれは‥‥間違いない‥‥アレクシエルさんだ!どうすれば‥‥一か八かだ!

「くらえ!メンタルダウン!」

 1体の魔物がうめき声をあげながら倒れていく‥‥なるほど、これは使いやすい!‥‥って、そんな感想言っている場合じゃない!アレクシエルさんは?!混乱した魔物の群れを掻き分けるように彼の安否を確認する。そこには、小さくうずくまりながら怯える彼がいた。

「アレクシエルさん!大丈夫ですか?」

「うぅ‥‥はっ、お前は‥‥なんでここに?」

「とりあえずその説明は後にしましょう!さぁ、立てますか?」

「‥‥嫌だ」

「え?」

「嫌だ!僕は逃げない!」

「何を言っているんだ!今意地を張っている場合じゃないだろ!」

「うるさい!どいてな‥‥円月切り!」

 彼が円状に放たれた斬撃は、モンスターたちを捉え、容易に切り伏せた。落ちこぼれって聞いてたんだが‥‥実力あるのではないか?そんな疑問が浮かぶ中、彼はダンジョンの奥に進もうとしていた。

「ちょ、待ってください!」

「なんだよ‥‥俺はこのダンジョンをクリアしてあいつらを見返してやるんだよ!邪魔しないでくれ!」

「いくら何でも無茶ですよ!さっきだってやられていたじゃないか‥‥もう意地を張るのやめませんか?」

「‥‥意地だって張りたくなるんだよ、だって」

「だって?」

「君が‥‥どんどん先に行くから‥‥それに、俺はもう逃げたくないんだよ!だから‥‥行かせてくれないか?頼む」

「なるほど、じゃあ分かった。僕も行こう」

「へ?」

「パーティだよ、僕は魂術師で魔法系職、アレクシエルさんは騎士で近接職、バランスがいいんじゃないか?」

「でも、俺1人じゃなきゃ‥‥」

「どうせなら完璧に踏破したいだろ?それなら、僕を連れて行った方が合理的じゃないか?それに君1人で進んでも、さっきの二の舞じゃないかな?」

「うぅ‥‥分かったよ‥‥」

「よし、交渉成立だな‥‥そういえば名乗ってなかったな、僕は灰崎零だ。よろしく」

「うん、灰崎‥‥よろしく‥‥えっと、その‥‥さっきはありがとう」

「はは、いいよ。さぁ行こうか!」



 暗闇に目をならせながら、慎重に進んでいく。このダンジョンに住んでいる魔物は、大きく分けて2種類だ。1つは岩のような魔物で、水を極度に恐れているっぽい?もう1つは‥‥

「灰崎ぃ!またやつが出た!」

「はぁ‥‥出番か、メンタルダウン!」

「ナイスだ!円月切り!」

 もう1種類はネズミ型の魔物だ。こいつらはめちゃくちゃな大群で襲い掛かってくるが、先頭の1頭が気絶すると、我先に先頭になろうとして群れの統率が乱れる。そこを彼の斬撃で一網打尽にすれば、安全に倒せるという戦法だ。しかし、MPの残量が気になるなぁ‥‥それにまだまだ深そうだから、新しいタイプの魔物がいるかもしれない。細心の注意を払って進むか‥‥

「あれ、何を書いてるんですか?」

「うん?ダンジョンの地図さ!これを最深部まで書いて初めて踏破したって認められるんだよ」

「へぇ‥‥ダンジョンの宝とかじゃないんですね」

「どんなダンジョンでも宝があるとは限らないからな、それにこの地図の方が高く売れるぜ?」

「なるほど、貴重な情報ですもんね‥‥流石ですね、アレクシエルさん」

「サミエムだ」

「え?」

「サミエムでいい、あと敬語なんて付けないでくれ、それと世辞は嫌いだからご法度だ‥‥仲間だからな!」

「そうか‥‥分かったよ、サミエム」

「へへ‥‥あ、見ろよ、灰崎!階段だ」

「本当だ‥‥一体どれくらい深いんだ?」

「この辺だと‥‥3層で終わることが多いらしいぜ?」

「へぇ、詳しいんだね」

「ふっふーん、それだけじゃないぜ!トラップの種類も予習済みだ!例えば、落とし穴トラップだ!」

「へぇ、なんか古典的なトラップだな」

「なめてかかるのは駄目だぜ!巧妙に隠されているんだよ、俺なら階段前に忍ばしておくな!」

「ええ?宝箱の前とかじゃないのか?」

「宝箱の近くにトラップを仕掛けても躱されることばかりだよ、それくらいメジャーだからな。でも、階段なら誰も疑わずに引っかかるだろ?」

「でも、下るための階段の前に落とし穴ってショートカットみたいじゃないですか?」

「はは、違いないな!まぁ、そんなの仕掛ける訳ないか!」

ガチャ!

「え?」

 僕たちが下を見た時、岩々しい地面じゃなく、真っ暗な闇が広がっていた。これがフラグ回収だな!そんなことを思いながら落下していったのである。
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