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序章

第12話 貴族君は認められたい

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2度目のダンジョンを出て、街にようやく着いた頃には空は真っ暗になっていた。しかし、流石に疲れた‥‥もうさっさと宿で寝たいなぁ。そんな考えを浮かべていると、隣にいたサミエムが悲鳴をあげる。

「ああああああああ!なんかめっちゃくちゃ痛い!」

「あっ‥‥そうか、効果切れか」

「なんだよ!そんなの聞いて‥‥あっ、もう立ってらんねぇ‥‥」

「うわ、大丈夫?とりあえず僕が泊っている宿に行こう!」

 僕は彼を担ぎ上げると、いつもの宿に向かった。



 部屋を新しくもう1つ取り、サミエムをベッドに寝かしつける。しかし、彼の鎧がやたら重いのなんのでここまで来るのにすごく苦労した‥‥まぁ、彼にはわざわざ言わないが。

「なぁ‥‥そろそろさぁ、この痛みについて教えてくれよ?」

「ああ、それはさっきの石の彼女にかけてもらったバフの副作用みたいなものだよ」

「なるほど、それでこれって何日くらい続くんだ?」

「僕の時は数日くらいだったよ」

「じゃあ俺は明日には治してみせるぜ!」

「はは、期待しとくよ‥‥じゃあ、僕はもう戻るよ」

「ちょっと待ってくれ!」

「うん?どうしたの?」

「あの岩の‥‥彼女?は話してくれないのか?」

「あぁ‥‥それは明日にしようか」

 彼が不満そうに口を歪めていたが、渋々首を縦に振ってくれた。まぁ、少し悪い気はするが、あのシールド内でしか話せないっぽいし‥‥まぁ、僕も疲れてるからさっさと寝て、明日に備えるかな。



 翌朝、サミエムの体調を見るため部屋に訪れると、驚くような風景が広がっていた。なんと、彼はベッドから起き上がり、筋トレをしていたのだ。まさか、本当にあの痛みを1日で回復させるなんて‥‥彼がこちらに気が付くと、布で顔を拭きながら話しかけてきた。

「おはよう、さて、あの子を出してもらおうか?」

「ああ、分かったよ、アリフィカさん」

(はいはい、全く‥‥これはそういうものじゃないけどね!シールド展開!)

「おお、昨日と同じだ!」

(えっと、説明して欲しいんだって?分かったわ、ちょっと長くなるけど聞いてもらうわ)

(私は、女神アリフィカ。私たちはこの世界を治める統治者‥‥こっちでは7帝と呼ばれている者を倒すことが目的なの)

「7帝を敵に回すとか正気か?それにそんな名前の神聞いたこともないぞ?」

(まぁ、私は新しい神だからね!聞いたことがないのは仕方がないかもね、あと‥‥まぁ正気か違うかと言えば狂気って言っていいわ)

「じゃあ‥‥」

(でも、やり遂げなきゃいけないの‥‥それが私たち、いえ、私のやるべきことなのよ)

「やるべきことって‥‥灰崎は承諾してるのか?」

「ああ、約束はした。だけど‥‥」

「だけど?」

「気になる事はある。この世界はいたって平和に見える‥‥確かに、ここしか見てないけど戦争が起き続けていることは無い。秩序は保たれていると思うんですよ、アリフィカさん」

(そうね‥‥表面的に見ればそうよ。長いこと大きな戦争も起きていないわ‥‥でもね、表面下では、7帝の横暴が日常風景のように繰り返されているの‥‥それを私は見逃したくないのよ‥‥)

「まぁ‥‥確かに横暴っちゃ横暴だな。この国の帝王‥‥暴食帝と言われている奴は、その名の通りあらゆる食を手に入れるために、有り得ないような税を課している」

(そうね‥‥彼の実力は帝王の中だと、真ん中くらいよ。それで‥‥7帝の中でも最強格とされている強欲帝、慈愛帝‥‥それに不遜帝なんかは要注意よ)

「なるほど‥‥この世界については無知だから、その3人に気を付けますね‥‥」

「って、帝王は全員が化け物じみた実力だよ!それに、1人でも倒せる未来なんて‥‥」

(そうね‥‥どうしたものかしら?)

「おいおい、ノープランかよ!全く‥‥」

(あはは、それはじっくり考えるとするわ!)

「そうだ、サミエム、冒険者ギルドに行ってダンジョンの報告がてらステータス更新しよう」

「ああ、まぁ腑に落ちないことはあるが‥‥とりあえずはいいとするか!よし、あいつらにダンジョンの地図見せつけてやるぜ!」



 さて、冒険者ギルドに着いたはいいものの地図って受付の子に見せたらいいのか?うーん‥‥って、サミエムがどんどん前に行ってる!それに、方向が酒場の舞台の方だ‥‥絶対何かやるつもりだ‥‥!彼が舞台上に立つと、みんな幽霊でも見ているような顔をしている。

「これを見ろ!俺は生きて帰ってくるだけじゃなく、ダンジョンを踏破したぞ!下衆なお前たちのことだ、どうせ賭けでもしていたんだろ!だが、残念だったな、俺は生きている!しかも、ダンジョンのボスも倒した!誰も予想していなかっただろ!ざまぁみろ!」

「サミエム!やめとけ‥‥ほら、降りろって!」

「降りない!まだ言い残したことがある!」

「えぇ‥‥」

「だが、俺は‥‥いや、みんなのことばかり責めるためにここに立った訳じゃないんだ。俺は、ここに来たばかりの頃、貴族だからってみんなを見下したような発言ばかりしていた、それについて謝りたい!ごめんなさい」

「俺はみんなが思っている通り落ちこぼれだ‥‥だから、気丈に振舞いたかっただけなんだ!だけど、それは間違いだった。その態度でみんなとの溝を深くしたし、不快にさせた‥‥俺はただ認められたかったんだ‥‥だから、この‥‥ダンジョンの地図をタダで渡してやる!」

「うぇ?!何言ってるんだ、この地図は高価なんだろ?」

「だからこそだよ、灰崎‥‥あのダンジョンにはこの辺よりも狩りやすく経験値が取りやすい魔物が多く生息していたし、鉱石も生成されていた。だから、みんなにも安全に使って欲しい!それで地図を配るから‥‥俺を認めてくれないか‥‥ここにいさせてくれないか‥‥」

 彼が涙を堪えながらスピーチを終えた後、誰から始めるでもなく、拍手が起こった。これで、認められたと言えるのだろうか?ただ分かることは、彼らから出ている感情の色は、哀れみや嫉妬などではなく、尊敬の1色のみであることだった。
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