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嫉妬の章

第3話 雪月鬼の正体

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 ひとしきりライゼンとサミエムの口喧嘩を聞きながら墜落した飛空艇へと向かう。エンジンなど諸々の機会を破壊されたとはいえ、拠点にするなら魔物や獣の闊歩する洞窟などよりも快適だ。食料もかなり残っているらしいし、空調設備は…エンジンがやられているから期待はしないでおこう。

「着いたぞ」

「思っていたよりも損傷は軽微なように見えますね、雪がクッションになったんでしょうか?」

「あぁ、多分わざとここに落とされた」

「え?」

「周りを見てみろ、不自然に切り開かれた地形…どうも狩り場のような気もするが」

「と、とりあえず中に入ろうぜ?罠だろうがここじゃ凍死しちまうよ…」

「賛成です…雪も強くなってきましたし…」

「……まぁトラップだったとしても今の装備じゃ雪山探索は厳しい、中で暖を取りながら作戦を立てるというのは賛成だ」

「長々しい御託はやめて早く扉の位置はどこか教えてくれよ」

「全く…ここだ、早く中に入れ」



 ひい…ふう…みい…本当に全員無事だったのか。軋む音が響く船内で諜報員の頭数を数えて実感する。後は下山するだけだが、破損具合を見に行ったライゼン達がまだ戻ってきていない。直せるのなら直していきたいが…サミエムが文句言いまくるだろうなぁ。

「ふぅ…戻ったぞ」

「どうでしたか?」

「ダメだな、完全にパーツが破壊されている」

「じゃあ…」

「物資さえあればこのメカニックが直せるとさ」

「また飛空艇で行くのかよぉ…」

「なんだ?怖いのか、お坊ちゃん」

「うるせぇ!」

「まぁまぁ…でも、この雪山を皆で下山というのは難しいでしょうね」

「その通りだ、突貫工事で作ったこの防寒着も全員分なんて用意出来ない」

「かといって、機械を作れるような材料なんて手に入れられるのですか?」

「あては有るぞ」

「もしかしてこの雪の下には大きな鉱脈が通っている…とかですか?」

「そんなの知らん、それに手に入れたとして加工出来るような設備はここにないだろ?」

「じゃあどうやって」

「あるじゃないか、もっと直接的に手に入れられるような可能性が」

「もしかして…」

「そうだ、我々をこんな状況に追いやった雪月鬼がいるだろ」

「でも…」

「このモンブラン山は年中雪が積もる豪雪地帯、そこに居を構えられるような民族が飛空艇相手に狩りをしているのは何故だと思う?」

「人間を…食べるため?」

「いくら雪山とはいえ食い物に困るほど生物が少ない訳ではない」

「ということは…飛空艇を解体するため?」

「閉鎖された空間で貴重な暖房技術を手に入れられ、かつ潤沢な物資が得られるのだ…その辺の鹿を狩るよりもよっぽど効率的だ」

「はぁ…理屈は分かりましたがライゼンさんも言ってた通りここは奴らのテリトリーですよ?」

「あぁ、あの場所はな?」

「…?」

「とりあえずこれをくれてやる、夜までに覚えておけよ?」

「地図ですか?」

「あぁ、さて…後は鴨が葱を背負って来るのを待つだけだ」



 雪山の夜というのは本当に恐ろしい。昼でさえ寒かったのに日が落ちてより一層それが増していく。外は猛烈な吹雪で辺りが見渡せない所か音すら聞こえない。こんな状況じゃ籠城戦なんて不利に決まっている…そんな愚痴をこぼしそうになった僕であったが、次の瞬間その考えを覆すことになる。足音だ…船体に雪がぶつかる音にかき消されるような微かな音だが確かに聞こえた。特に役割なんてないが、身構える。足音は扉へと真っ直ぐに向かってくる。

ガチャッ

 ドアノブが開く音だ。勝負は一瞬…これを逃せば生存の確率はほぼ0に等しい。

「今だ!捕まえろ!」

「ウギャッ」

「かかったようだ!扉を閉めろ!」

 消されていた電気が一斉につく。目を疑うような光景…というよりも人物?がいた。そこにはウサギの耳を生やした女の子がよく分からない言葉を喚き散らしながら暴れている。この子が雪月鬼なのだろうか?

「ノニトチモチ!ミチミニテラトナスナ!」

「何言ってんだ?おーい、翻訳出来る奴いるか?」

「そんな人いませんよ、サミエム」

「それもそうか…やい、身体の動作で話せ!」

「ミチミニ?」

「た、例えば…これ!毛布!」

「モラナクナ?」

「…こりゃ手間がかかるな」

 鬼というよりも兎だった彼女らと意思疎通することは出来るのだろうか…
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