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嫉妬の章
第5話 賢者の飴と鞭
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一面の銀世界にどこまでも空気が澄んでいる青い空、それに映えるように昇る陽気に照らされる素晴らしい絶景を横目に僕はただただ気が重かった。普段ならばこんな景色があろうものなら心の1つや2つ踊りそうなものだが、沼地に引きずり込まれるような気分が続いている。
「はぁ…」
「なんだ?もう疲れたのか?」
「いえ…」
「いくら余りものの間に合わせ装備だとしてもあの雪月鬼の小娘は止まらないぞ」
確かに遥か先で我々を待っているウサミミの彼女はほとんど後ろを振り向かず歩いている。これが現地民の適応力といった所なのだろう。それなりの装備があればこの距離を詰めれた…と自信をもって言い切ることは出来ない。それくらいには空いている空間を見て、僕はまた深くため息をつき、同じく深くはまりだした足を新雪積もる大地に突っ込んだ。
しばらくは開けた山道を歩く僕らであったが、前方に針葉樹の森が現れ、その入り口でこれまで一度たりとも止まらなかった雪月鬼が立ち止まっている。どうやら思っていたよりも思いやる心があるらしい。以降は言語を翻訳する文言を端折っているため、ウサミミちゃんが我々と同じように話しているが、実際にはいちいちアリフィカさんを通して聞いている。
「ここからは我々のテリトリーだ、うっかり殺されないようにしっかりと着いてこい」
「悪いが少しペースを落としてくれ、我々は雪道を早く歩くことが出来ないのだ」
「…善処する」
「意外と優しい…?」
「馬鹿者、これから先は本当に危険だからだろう」
「あはは…生きた心地がしないなぁ」
テリトリーに入ったら殺す…そんな排他的な部族とどうやって交渉する気なのだろうか?おおよその検討はついてしまうのが、嫌なところだ。僕らは謝罪と物々交換をしに来たという建前で彼らを…脅しに来たのだから。これが平和的に解決するためには最善手とは分かる。しかし、そうだからと言って罪悪感が消える訳はない。むしろ…
「止まれ!」
「はっ…門?」
「これからのことで考えすぎるというのはお前の良い所であり悪い所だな…安心しろ、今度はばっちりだ」
ライゼンが背中を叩く。強くもなく弱くもない…何とも言えない絶妙な加減で。彼の作戦に身をゆだねるのも一興…いや、それはだめだろう。想定外の要素に綿密な計画は弱い。必ずしも作戦が上手くいくのは卓上だけだ。それを暴食帝との戦いで学んだのだ。
「雪月の民、族長のモナエストリアだ!何用だ、異邦の民!」
「これはこれは族長殿、私はライゼンと申す者だ、我々は君たちと交渉しに来た」
「ほう、我が村のうら若き乙女と何を求めるというのだ?そもそも応じるとでも?」
「こちらの彼女はすぐにお返ししますよ、私が言っているのは食料との交換だ」
「それならば応じないぞ、奪えばいいものを何故交換しなければならぬ?」
「…仕方が無いな、生者必衰の一矢…発射!」
「な、何ごとだ!」
「族長!御神木が!」
「…異邦の民!貴様らを生きては帰さん!」
「おいおい、状況が呑み込めてないようだな?」
「な、なんだ?動けない!」
「お前たちの時間は私が支配した」
「ま、まさか成功するなんて…」
生者必衰の一矢は文字通り弓矢である。高エネルギーの塊であってもその性質は変わらない。先ほどの一撃は力を見せつけることによる牽制とあと1つ、時空魔法のガスを矢文の要領で飛ばしてきたのだ。大きな木に直撃させる強欲帝のセンスの高さが成せる技…とでも言っておこう。
「た、頼む!御神木を…守ってくれ!」
「ならば強欲帝傘下に入れ!」
「ぐ…分かった、用意出来るものなら用意する!」
「分かればいいのさ…」
木が焼けこげる臭いが強くした後、それまで大火事になりかけていた森の火が消えている。ライゼン曰く燃えている部分の時間だけを早送りし、完全に炭化させ、それを燃える前まで戻したらしい。ぶっちゃけ何言ってんのかは分からないが、細かいことは気にしなくていいか。
「…それで何を欲するのだ」
「撃ち落とした飛空艇の残骸が欲しい、融通してくれ」
「分かった…」
「こちらは代金として食料を渡そう」
「な、なんだと?」
「我々は交渉しに来たと伝えたはずだが?」
「し、しかし」
「強欲帝傘下に入ったものは他の何もの指図も受けない自由な団体であること、それが掟である」
「…そんな利益もないような隷属があるのか?」
「あるさ、強欲帝様は全ての人類に自由を与えたいのさ…まぁ、それは不可能に近いが」
族長は最後まで納得がいかないようだった。彼ら部族とはいわゆる傭兵契約のように、こちらは定期的な食料供給を、あちらは防衛をするという旨で契約をし、無事僕たちはエンジンを手に入れられたのであった。
「はぁ…」
「なんだ?もう疲れたのか?」
「いえ…」
「いくら余りものの間に合わせ装備だとしてもあの雪月鬼の小娘は止まらないぞ」
確かに遥か先で我々を待っているウサミミの彼女はほとんど後ろを振り向かず歩いている。これが現地民の適応力といった所なのだろう。それなりの装備があればこの距離を詰めれた…と自信をもって言い切ることは出来ない。それくらいには空いている空間を見て、僕はまた深くため息をつき、同じく深くはまりだした足を新雪積もる大地に突っ込んだ。
しばらくは開けた山道を歩く僕らであったが、前方に針葉樹の森が現れ、その入り口でこれまで一度たりとも止まらなかった雪月鬼が立ち止まっている。どうやら思っていたよりも思いやる心があるらしい。以降は言語を翻訳する文言を端折っているため、ウサミミちゃんが我々と同じように話しているが、実際にはいちいちアリフィカさんを通して聞いている。
「ここからは我々のテリトリーだ、うっかり殺されないようにしっかりと着いてこい」
「悪いが少しペースを落としてくれ、我々は雪道を早く歩くことが出来ないのだ」
「…善処する」
「意外と優しい…?」
「馬鹿者、これから先は本当に危険だからだろう」
「あはは…生きた心地がしないなぁ」
テリトリーに入ったら殺す…そんな排他的な部族とどうやって交渉する気なのだろうか?おおよその検討はついてしまうのが、嫌なところだ。僕らは謝罪と物々交換をしに来たという建前で彼らを…脅しに来たのだから。これが平和的に解決するためには最善手とは分かる。しかし、そうだからと言って罪悪感が消える訳はない。むしろ…
「止まれ!」
「はっ…門?」
「これからのことで考えすぎるというのはお前の良い所であり悪い所だな…安心しろ、今度はばっちりだ」
ライゼンが背中を叩く。強くもなく弱くもない…何とも言えない絶妙な加減で。彼の作戦に身をゆだねるのも一興…いや、それはだめだろう。想定外の要素に綿密な計画は弱い。必ずしも作戦が上手くいくのは卓上だけだ。それを暴食帝との戦いで学んだのだ。
「雪月の民、族長のモナエストリアだ!何用だ、異邦の民!」
「これはこれは族長殿、私はライゼンと申す者だ、我々は君たちと交渉しに来た」
「ほう、我が村のうら若き乙女と何を求めるというのだ?そもそも応じるとでも?」
「こちらの彼女はすぐにお返ししますよ、私が言っているのは食料との交換だ」
「それならば応じないぞ、奪えばいいものを何故交換しなければならぬ?」
「…仕方が無いな、生者必衰の一矢…発射!」
「な、何ごとだ!」
「族長!御神木が!」
「…異邦の民!貴様らを生きては帰さん!」
「おいおい、状況が呑み込めてないようだな?」
「な、なんだ?動けない!」
「お前たちの時間は私が支配した」
「ま、まさか成功するなんて…」
生者必衰の一矢は文字通り弓矢である。高エネルギーの塊であってもその性質は変わらない。先ほどの一撃は力を見せつけることによる牽制とあと1つ、時空魔法のガスを矢文の要領で飛ばしてきたのだ。大きな木に直撃させる強欲帝のセンスの高さが成せる技…とでも言っておこう。
「た、頼む!御神木を…守ってくれ!」
「ならば強欲帝傘下に入れ!」
「ぐ…分かった、用意出来るものなら用意する!」
「分かればいいのさ…」
木が焼けこげる臭いが強くした後、それまで大火事になりかけていた森の火が消えている。ライゼン曰く燃えている部分の時間だけを早送りし、完全に炭化させ、それを燃える前まで戻したらしい。ぶっちゃけ何言ってんのかは分からないが、細かいことは気にしなくていいか。
「…それで何を欲するのだ」
「撃ち落とした飛空艇の残骸が欲しい、融通してくれ」
「分かった…」
「こちらは代金として食料を渡そう」
「な、なんだと?」
「我々は交渉しに来たと伝えたはずだが?」
「し、しかし」
「強欲帝傘下に入ったものは他の何もの指図も受けない自由な団体であること、それが掟である」
「…そんな利益もないような隷属があるのか?」
「あるさ、強欲帝様は全ての人類に自由を与えたいのさ…まぁ、それは不可能に近いが」
族長は最後まで納得がいかないようだった。彼ら部族とはいわゆる傭兵契約のように、こちらは定期的な食料供給を、あちらは防衛をするという旨で契約をし、無事僕たちはエンジンを手に入れられたのであった。
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