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前編
しおりを挟む「ベルディア、君は、どうして……っ!」
大剣を先視の魔女たるわたしの胸に突き刺したまま、ルシオが絶望に目を見開く。
そう、彼にわたしを殺す気などなかった。
わかっている。
わたしがそうさせたのだ。
彼を助ける方法が、彼を幸せな未来に導く手段が、もうこれしか残されていなかったから。
廃墟の石畳に倒れこむわたしから剣を引き抜き、ルシオは身動き一つとれない。
本当はわたしを抱きしめたいのだろう。
けれどその手は大剣を握り締めたまま動けない。
すべて、わたしが魔法で彼の身体の自由を奪っているのだから。
ルシオの後に続き、第一王子のディランが駆け付け、茫然自失のルシオを抱きしめた。
「駄目だルシオ、ここにいてはいけないっ、もう彼女はお前の愛した彼女じゃないんだ、瘴気に蝕まれた魔物なんだ!」
「でもっ、彼女はっ……!」
離れようとしないルシオを、異母兄であるディランが強引に引き離す。
その瞳に宿るのは嫉妬でも羨望でも卑下でもなく、ただただ愛するものを失った弟に対する憐憫と、家族の情。
わたしが視た、未来の通りだ。
ごふりとわたしの口から血があふれる。
それと同時に、わたしにまとわりついていた紫の瘴気をより一層強める。
身も心も闇に囚われたかのように見せかけるために。
「ベルディア、ベルディアーーーーーーー!」
ディランに引きずられるように引き離されながら、ルシオが叫ぶ。
金色の瞳に浮かぶ涙に、騙している罪悪感に、心が押しつぶされそうになる。
この程度では、わたしは死なないのだ。
大剣が確かに胸を貫いたけれど、魔女たるわたしは人よりもはるかに強く、身体はすぐに傷を治してしまうから。
わたしが石畳に膝をつき、身体から血を流し続けているのは、わたしがそれを望んでいるから。
ルシオとディランの目の前で、わたしは死んだように見せかけなければならないのだ。
そうすることによってしか、ルシオがディランに殺される未来を回避できないのだから。
――愛しているわ、ルシオ。
声にならない声で呟いて。
わたしは廃墟に仕込んでおいた魔法陣を発動させる。
瘴気に飲み込まれ、消滅したように見せるために。
一際濃く、瘴気をわたしの身体からあふれさせ――わたしは、魔法陣に飲み込まれた。
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