末っ子ショタのイケオジ化計画~婚約破棄?じゃあ僕が貰っていいよね?~

藤 都斗(旧藤原都斗)

文字の大きさ
21 / 43

ねだります。

しおりを挟む
 



 そんな訳で僕は現在、近況報告も兼ねて皇帝陛下おとうさまに会いに来ている。
十歳までは好きに来ていいと言われていたので、利用させてもらった形である。

「父様、いつもお仕事お疲れ様です」

 広々とした執務室の中央で大きな椅子に鎮座しながら、大きな机で書類とにらめっこしている父様に声をかけると、父様の顔が嬉しそうに顔が綻んだ。

「およ? ムーじゃん、どした? 寂しくなったん?」
「そういうわけじゃないんですが、ちょっとお願いがあって……お仕事中すみません……」
「いーのいーの、可愛い息子の為だかんな。で? お願いって?」

 書類がぺいってされたけど、それそんな扱いしていいものなんだろうか。大丈夫かな。
そう思うものの、これは一応必要なことだし、と割り切って口を開いた。

「いつでも持ち歩ける、アミュレットおまもりが欲しくて」
「アミュレット? なんでまたそんなモン」
「実はですね……───────」

 そして僕は、今まで何があったのかの説明をした。
父様のことだから思いっきり笑われたりするかと思ったけどそんなことはなく、むしろ、驚いたように目を見開いたあとに心配そうな顔で声を荒げられた。

「全裸で!? 隠し通路を!? ムーが!?」
「はい……、それで、それを回避する為の魔法式を開発したんです」

 その説明にホッとしたのか、溜息のような息を吐き出した父様は納得したように頷いた。

「はァ~……、なるほどなァ……それでアミュレット」
「そうなんです、いつ変化するか分からないのでそれを使って魔法具を作りたくて」
「分かった、おい」
「かしこまりました」

 僕の言葉が言い終わらないくらいで、父様が手を上げる。
すると、部屋の隅で空気のように待機していた父様付きの使用人が一礼して、執務室から出ていった。

「つーか、怪我とかしてねェ? あの通路罠だらけだったろ」
「はい、そこは父様から教えてもらった解除と設置を繰り返しながら進んだので」
「ならいいけど、なんかすげェタイミングで変化したんだな」
「そうなんですよね……」

 本当に、色々とすごいタイミングだったと思う。
結局のところ、彼女があの姿の僕と今の僕を同一だと思っているのかどうか、全然分からないままだったけど。

ふと父様が不思議そうに首を傾げた。

「そういや綿飴ちゃんはなんで皇城に来てたんだ?」
「そこまではちょっと……何か用だったんですかね?」
「もしかして、ムーに会いに来てたんだったりしてな」
「だったらすごく嬉しいんですが」

 でもきっと何か違う用なんじゃないかなと思う。
僕のせいでそれどころじゃなくなっちゃったみたいでだいぶ申し訳ないけど、今更どうしようもない。
せめて手紙で謝罪したいところだけど、そういうことしていいのか分からない。
筆跡が分からないようなひとじゃないしなぁ。

本当に、どっちなんだろう。それが分かればやりようがあるんだけど。

スッと音もなく現れたさっき居なくなったはずの使用人が、父様に手紙と小箱を渡した。

「歓談中申し訳ございません陛下、こちらを」

何も気配がなかったし扉開けた音もしなかったから、きっとすごく実力の高い人なんだろう。
護衛も兼ねてる人が使用人って、やっぱり皇帝って大変な立場なんだなぁ。


「ん、なかなか良いデザインじゃねェか……こっちは?」

 小箱から取り出したアミュレットを確認した父様は、それを箱に戻しながら器用に手紙を見る。

「そちらはエルロンド公爵様よりのお手紙でございます」
「へェ、やっと返事を寄越しやがったかあのカタブツ…………お?」

 ガサガサと乱暴に封を開け、読んだ父様がなんだか楽しそうにニヤッと笑った。

「喜べムー、婚約者交換、成ったぞ!」
「えっ、本当ですか父様!」

 父様に任せたことだから上手くいくとは思っていたけど、それでも本当に上手くいったらそれはそれで嬉しいものだ。
だけど、母様譲りの僕の勘が、何かあると断言していた。

「良かったなァ、これでこの国も安泰だ!」
「………………なんか妙な引っかかりを感じますが……」
「引っかかり?」
「いえ、こちらの話です、気にしないでください」

 これに関しては今はなにも出来ないことのような気がするから、置いておくしかなさそうだ。

「おゥ、ほんじゃ披露パーティを開催しねェとな」
「披露パーティ、ですか?」

 言葉を繰り返して首を傾げると、父様は僕の頭をわしわしと撫でた。

「正式な婚約者披露パーティはまだだったろ? 本当は来年する予定だったが、貴族間での混乱を鎮める為だ、浮気だなんだと騒がれちゃ面倒だからな」

 言われてみれば確かに、と納得する。
特にあのクソ兄は馬鹿なので、堂々と僕の元婚約者リズベット嬢を連れ回していた。
それを見た貴族達がどう思うかというと、まあそうなるよね、としか。
その上で僕とキャロライン嬢が一緒にいたら、色々な邪推が飛び交うに決まっている。

「なるほど、さすがは父様です。ありがとうございます。
 あの、……ただ、ひとつだけ問題があるのですが……」

「あァ、いつオッサンになるか分かんねェってやつか」
「父様、オッサンじゃなくて壮年です」
「安心しろ、近くにガルガーディンのじいさんを用意しとく。いざとなったらあの爺さんのパフォーマンスって事にしとくわ」

 一生懸命言ったけど、聞かなかったことにされてしまった。ちょっと悲しい。
でも、色々と考えてくれているのは嬉しかった。

「…………上手くいきますかね?」
「まァ大丈夫だろ、始めの言葉で面白い余興用意するって言っとけば」
「それはそれで何も起きなかったらどうするんですか……」
「あの爺さんになんかやってもらやァ良いンだよ」

 ニヤリと笑う父様は、なんというか、とてもかっこいい。
でも言ってる内容はガルじいに丸投げするってことなんだけど。
そして僕は応援することしか出来そうにない。
だって父様は僕が言ったくらいで考えを曲げる人じゃないから。
しかもすごく楽しそうだし。

「頑張れガルじい……」

 ぽつりと呟いたけど、誰にも届きそうになかった。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...