楽園・ゲーム

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第五章 追跡?

121 記憶を探る方法3/5

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俺が黒田くろだの側に居ない事の証明をするには少しばかり時間が掛かった。
佐々木ささき君が納得する事の出来る情報を提示する必要があるのは当然だが、それ以前に彼女が一番気に掛けていたのが俺に一緒に着いて来た3人の女性にあったと言うのも無視できない程度に大きかったらしい。

最初に俺が黒田の側に着いてない事を証明する為の説明に使ったのは、黒田の付き合いがある武装集団の事だった。
先ほど佐々木君が渡してくれた俺の手元にあるUSBメモリーの中に存在するPDFファイルにも書いてあった事と、黒田本人から聞いた事を織り交ぜ詳しく説明してみた。
その手の集団に伝がある奴ならば、あまり知られたくない情報を佐々木君に提示する事で自身の立ち位置ではその情報が外に出ても一切問題無いとの説明をしてみたのだが、どうにも俺の思っていた反応が佐々木君からは返ってこない。
最初は俺の事が信じられないから反応が鈍いのかと思いながら説明をしていたのだが、なんとなく俺の説明している内容を吟味している様な雰囲気が感じられない。

そして俺には今の佐々木君に似た交渉相手に少なからず心当たりがあった。

それは情報が足りない状態で無理矢理交渉テーブルに着かせられている追い込まれた人と、大企業などから派遣されてきたペーペーに近い決裁権をまったく持たない交渉相手。
前述した相手の場合はその追い込まれた状況を理解する事に思考能力を割いてしまっているせいで反応が鈍く感じる見え方をするのだが、後者の場合はまったく違う。
そいつは大企業という上位位置からの交渉しか今までした事が無いおかげで、その経験と上司からの指示を元にした交渉相手からの情報開示に対して一切の譲歩を考える必要が無いと言わんばかりの無思考ごり押ししか出来ない様な奴なので、自分の提示した条件を飲むか飲まないかだけを気にしていて、こちらの状況をまったく理解しようとしない様な奴だったりする。

今回の佐々木君の俺に対する反応が若干ながら後者に近い感じを思わせる様な気がした。
これは数少ない女性の友人を元にした俺の経験則でしかないのでそこまで確実という話ではないのだが、女性と言うのは交渉時に自分の利益と言うか譲歩の限界を確定していて、相手側が何を言ってきてもそれ以上は絶対に譲歩しないといった反応をする事が多い…気がするんだ。
今回の佐々木君の場合は落とし所…と言った方が正解だろうか?
その様な条件を俺との話し合いが始まる前に決めていてどんなに言葉を駆使して説得しても、一切聞き入れようとしてない様な、そんな反応をしている気がした。

なんとなくだが佐々木君の俺を信じる為の条件が何か一つ絶対に譲れないものがあって、それ以外は特に気にして無い様な感覚を受けてしまったのだが…

ある程度黒田の側の不利になる情報を開示して説明し、佐々木君が渡してくれた情報を俺が持つ事で黒田に対抗できる事を説明したが…
「なんか…あまり納得して無いって感じだな。」
佐々木君は俺の話を聞いてない訳ではないけどほとんど理解しようとして無いって感じだろうか。
「まぁ…佐藤さとうさんが黒田の側の人じゃないって言うのは信じても良いわ。でも私の味方ってのはさすがに言い切れないと思うんだけど…まぁでもそれをもう渡してるから私にはどうにもならないから好きにしてくれて良いんだけどね。一応それと同じ情報を私も持ってるからもし私に何かあったらその情報が世に出て会社もろとも終わるだけだし?」
彼女がとても刹那的な思考状態に陥ってるのを感じる。

俺にとってはできれば今の会社には無くなってもらっては困るのだが…とりあえず俺の側からの話に関しては佐々木君を説得…どんな状態に説得しようとしていたのかイマイチ分からないまま話をしていたのも問題だったかもだけど…とりあえずどうすれば佐々木君が自暴自棄な行動に一歩を踏み出さない状態に出来るか分からなかった俺は、とりあえず自分の後ろに立って静かに話を聞いていた3人の女性に視線を向け、ヘルプサインを送ってみた。

そしてそのヘルプサインに最初に反応したのがしのぶさんだった。
「とりあえずきよし、そんなに難しい話ばかりを続けて詰め込まれても話を聞く方にしてみれば考える時間が必要かもしれないわ。少しだけ休憩してみたらどうかしら?」
「そうですね。ここはホテルなんですから一応ルームサービスなども頼めるのでしょうから少しだけティータイムをとってみましょう♡」
萌歌もえかさんが忍さんの言葉に便乗して少し弾んだような声で笑顔で提案してくれた。

一応この部屋の所持者と言うか契約者と言うか責任者なのは佐々木君なので視線を向けて反応を見てると、佐々木君は小さく息を吐いて立ち上がり部屋の中のテーブルの上に置いてあったメニューらしき少し豪華な装幀の物を持って戻ってきた。
「ここに書いてあるものならいつでも部屋まで運んでくれるわ。」
そう言ってメニュー表を俺に渡してきた。

とりあえず俺は渡されたメニューをそのまま忍さんにトスしておいて佐々木君が何を求めているのかを考えていたら、俺の後ろで3人があれこれ楽しそうに話を始め、つかさちゃんが何気ない感じに佐々木君に声をかけた。
「これって写真が無いからどんな料理かわかんないんだけど…ここに書いてあるパッションピース?って言うのとズコットって書いてあるのってケーキなんだよね?」
「…パッションピースって言うのはたぶんパティスリーピエスの事だと思うけど、見た目はロールケーキみたいな物よ。それとズコットって言うのはフルーツとクリームをドーム状のスポンジで包んであるケーキね。私のお勧めはお取り寄せの欄にあると思うけど外の店から数量限定で提供されているエクストラスーパーイスパハンショートケーキね。あれはとても美味しかったわぁ~♪でも時間的にまだ残ってるかどうかは分からないわよ?」
「「「限定?」」」
女性とはやはり限定品の魔力には逆らえないのかもしれない。

その後内線を使って佐々木君が限定品のケーキの在庫を確認して盛大なジャンケン大会が行なわれて2人の女性がピョンピョン跳び上がるほどに喜んでいた。そしてその姿を微笑ましく見ていた俺に気付いて少しばかり恥ずかしがると言った事があった。

「コホン…まぁ今からケーキが届くからお茶の用意をするわ。佐藤さんってコーヒーが好きなのよね?他の人は何を飲む?」
「俺はべ「私は紅茶♪」「私も紅茶が良いけど何があるの?」「私はどっちでもかまいませんが種類があるのであれば見せていただきたいです♪」…まぁみんなと同じもので良いよ?」

俺を除いた女性4人が部屋の奥の方に向かって歩いて行った。
そして集団の最後を歩いて移動していた忍さんが俺を見てウインクをして隣の部屋に消えて行ったのを見て少しだけ気付いた事があった。

「俺に足りなかったのはお供え物デザートだったって事なのだろうか?」
少しの間言葉を駆使して説明していた自分を何か滑稽な生物の様に感じつつボーっとしていたらトレーにカップや紅茶の蒸らす容器みたいなポットの様な物を乗せて4人が笑顔で戻ってきた。
「清、この部屋すごいわよ~紅茶の茶葉が10種類以上ストックされていたわ。」
「それにコーヒーもブルーマウンテンNo.1があったんですよ♡私が前回No.1を飲んだのがお医者さん同士の懇親会での1回だけだったのですっ…ごく嬉しいです♡」
「ねぇキヨシぃ…私この2人がナニ言ってるのかまったくわかんないんだけど…紅茶ってペットボトルが普通じゃなかったの?」
なんとなく打ち解けている様な顔をして戻ってきた4人だった。
「それで俺の飲み物は何になったの?」
「佐藤さんの飲み物は私と一緒の緑茶ですよ。」
佐々木君がさっきまでと少し違う笑顔で答えてくれた。

「まぁ何でも良いって言ったけど…でも今から運ばれてくるのってケーキなんだろ?緑茶にケーキって合うのか?」
「任せて♡私が厳選した緑茶と佐藤さんの為に選んだケーキを食べてから、もし何か言いたい事がある様なら聞くわ。」
少しばかり最初のループ時の距離感になりつつある佐々木君だった。

その後5分ほどで注文したケーキが運ばれてきて各々好きな場所に座ってデザートを食べてマッタリとした時間が流れ始める。
「とりあえず緑茶の苦味と甘いケーキってけっこう合うんだな。」
「当然でしょ?そもそも紅茶も緑茶も同じ茶葉なんだから味自体はそんなに大きく変わらないんだから。そもそも紅茶とウーロン茶などの半発酵茶と緑茶は発酵度合いが違うだけ…って何?ニヤニヤした顔で何を見てるの?」
少しばかり自分の趣味の話をし始めた佐々木君を好ましく感じていた俺の顔はどうもニヤニヤしたと見て取れる様な顔になっていたらしい。
「楽しそうに説明してる佐々木君が可愛いと思っただけだよ。特に含むことは無いから安心してくれ。」
「…まぁいいけど。」
何となくもう少しこう…心の距離が近づいた感じだろうか?

佐々木君の後ろ側でテーブルの席でケーキを食べながらお茶していた3人がジェスチャーで何か伝えてきていた。

…佐々木君に…俺が乗って…腰を振る?

へ?

こいつらここで佐々木君を犯せって言ってるのか?

「それにしてもこのイチゴの甘酸っぱさってクリームに合うのね~」
「このケーキってあのお店のですよね?今度朝から並んでみても良いかもしれないですね。」
「あっ!それ私の!!勝手に取ったらだめだってば!もう一口づつあげたでしょ?」
「一口じゃ足りないわよ。もう一口~♪」
「だ~め~!もうっ!」
こんな話をしながら司ちゃんの両手を忍さんが拘束して萌歌さんが足を持つ様な動きをしながら腕を俺に見立てて司の股間に押し込む様な動きをしつつ佐々木君を指差してるのだから、たぶん俺のジェスチャー解析結果は間違ってないと思うのだが…

でも、他に人が居る状態でそんな事をしても大丈夫なのか?

「なぁに?変な顔して…?」
佐々木君が俺の顔を見て何か不審に思ったらしく3人の方に振り向いたのだが、その瞬間3人は自分の席に戻り普通に紅茶とコーヒーを飲んでいた。

佐々木君が振り向く1秒程度の間に自分の席に音もさせずに座りお茶を飲む3人の動きに驚かされた俺は、少しの間間抜けな顔を晒していた様だ。
「だからなんでそんな顔をするの?私が何か変な事でもした?」
佐々木君の機嫌が少しづつ悪くなって行ってるのを感じた。

どうも後ろの3人はまだ『突っ込め!』『アヘらせてやれ!!』『ヘブーンまでぶっ飛ばしてやれ!!!』などとジェスチャーで言ってきてるが…

5秒ほど俺が逡巡してるのを見ていた忍さんが深いため息を吐きつつおもむろに立ち上がり服を脱ぎ始めた。
そしてその姿を見た萌歌さんと司ちゃんも同じ様に服を脱ぎ始めた。

さすがにファスナーを下ろす音とかホックを外す音、ベルトを外す音が聞こえてきたら佐々木君も気付いたらしく後ろを振り向いた。
「はぁっ?!あんた達なんで脱いで…えっ?まさか…えっ?佐藤さん?」
どうも忍さんはそこそこせっかちな性格をしているらしい。

俺もため息を吐きつつ自分のネクタイに手を伸ばした。
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