254 / 262
凪の揺らぎ
しおりを挟むそして、予定日間近になったある日。
藤堂「ごめんね、ひなちゃん。悠仁がいない時に。あれ、おばさんもいない?」
ひな「はい。お母さんは、ちょっと用事ができたみたいで出掛けていて」
藤堂先生がお母さんにまだ挨拶できていなかったからと、我が家に遊びに来てくれた。
ひな「すみません、お母さんに挨拶しにって、悠仁さんから聞いたんですけど」
藤堂「そう思ったけど、僕も急に来ちゃったから気にしないで。都合聞いて来るべきなのにごめんね。いつも時間ができたタイミングで押しかけちゃって」
ひな「いえ、そんな。お母さんあと1時間くらいで帰ってくると思うんです。よかったらゆっくりしていってください」
藤堂「うん、ありがとう。あ、そしたらこれ渡しておこうかな。おばさんとひなちゃんに」
と、なにやら美味しそうなプレゼントをいただいて、
藤堂「ひなちゃんお腹随分下がってきたね。もう産まれるんじゃない?」
ひな「そうですか?予定日は一応まだなんですけど。でも、もういつでも会いたいです」
藤堂「もう本当にすぐだと思うよ」
ひな「そっか、楽しみだな~。あ、お茶淹れますね!」
藤堂「あー、いいのいいのいいの。ひなちゃんは座ってて。勝手するけど、勝手わかってるし、僕がするから」
そう言って、藤堂先生がキッチンに向かうので、お言葉に甘えてお任せすることに。
よっこいしょ。
ソファーに座り、いただいたプレゼントを開けて見ていると、
……っ、……。
なんとなくお腹が痛くなる。
痛みはそんなに強く無くて、お腹が張るというか生理痛というか、そんな感じ。
スゥ…………
お腹に手を当て、ソファーに身体を預け、少し俯くようにして痛みに向き合うと、
……あ、治まった。
すぐに何事もなかったかのようにスッと治まる。
藤堂「ひなちゃん?もしかしてお腹痛い……?」
ふぅ……と息を吐くと、お茶を淹れていた藤堂先生が、そう言いながらわたしのところに。
ひな「いえ、大丈夫です」
藤堂「その大丈夫はどういう大丈夫?いつから痛かったの?」
さすが、どこにいてもわたしの主治医。
キッチンからはわたしの姿もそんなに見えていなかったはずなのに、どうしてわかったんだろう。
ひな「実は、今朝からお腹がよく張ってて……」
藤堂「朝から?ひなちゃん、それ陣痛じゃない?どうりでこんなに下がってるわけだ……」
と、藤堂先生がお腹に手を当てる。
ひな「でも、まだ本陣痛かわからなくて。間隔も全然バラバラだし、前駆陣痛かなと思ったりしていて……」
藤堂「病院にはもう連絡した?」
ひな「いえ、まだ」
藤堂「宇髄先生に言われたでしょ?ひなちゃんの場合は、陣痛が始まったらすぐに連絡してきてって」
ひな「はい。でも、やっぱりあまり早く行くのも申し訳ないので、もう少し、せめて間隔が揃ってきてからにしようかなと思って」
藤堂「そんなことしなくていいの。宇髄先生の言うこと素直に聞かないと。僕が連絡するから、すぐ病院行こう」
ひな「え?でもまだ陣痛じゃないかも……」
藤堂「陣痛じゃなくても行こう。ね?」
ということで、わたしは藤堂先生とノワールへ。
車で送ってもらい、ノワールの産婦人科の裏口に到着。
産婦人科にこんな出入り口があったなんて知らなかったな……なんて思っていると、
藤堂「ひなちゃん降りられる?ゆっくりでいいよ」
と、藤堂先生がドアを開けてくれて、
ひな「大丈夫です、ありがとうございます」
車を降りようとした瞬間、
……っ。
またお腹の痛みが。
藤堂「お腹痛い?」
ひな「……はい、ちょっと……」
藤堂「痛み治まってからでいいよ。一旦閉めようか」
わたしが焦らないように、藤堂先生は開けたドアを軽く閉めて待っててくれて、
藤堂「平気そう?」
ひな「はい、行けます」
痛みが治まったので車を降り、病院の中へ。
真菰「あっ!ひなちゃん!!」
ひな「まこちゃん」
自動ドアを抜けると、ちょうど廊下の先からまこちゃんが歩いてきた。
真菰「宇髄先生から聞いて、タイミングピッタリでしたね」
藤堂「さすが。ありがとう」
真菰「お部屋案内するね。こちらにどうぞ~」
さっそくLDR室に案内され、
真菰「ひなちゃん大丈夫?とりあえず先に着替えちゃおうか。そのカゴに入ってるから、お着替えして、先生来るまでちょっと待っててね。ゆっくり着替えていいよ!」
藤堂「ひなちゃん、バッグここに置いておくよ。僕は車駐車場に停めてまた来るね」
と、まこちゃんも藤堂先生も一旦部屋を離れ、わたしはひとまず分娩着にお着替え。
実は、わたしのお産。
担当医は宇髄先生だけど、助産師はまこちゃんが担当してくれることになっている。
わたしが高校生になって小児科を卒業した後、まこちゃんは小児科の病棟看護師から産婦人科の助産師に異動していた。
実習で小児科に行った時、久しぶりに会えるのを楽しみに思っていたから、まこちゃんがいないことにびっくりしたけど、その後の産婦人科の研修で再会できて、もともと助産師の免許は持っていて興味もあったと聞いて納得。
そして、わたしのバースプランについて話をする中で、出産当日、面識の少ない助産師がいきなり担当することになると、わたしは不安が強くなるだろう、不安材料はなるべく減らしておこう、ということになり、昔お世話になっていたまこちゃんに担当してもらえることになった。
着替えを終えて、入院バッグを整理していると、
コンコンコン——
宇髄「ひなちゃーん」
宇髄先生が。
宇髄「今朝からお腹の張りあるって?今間隔と痛みはどのくらい?」
宇髄先生はわたしのお腹に手を当てて、
ひな「まだ20分だったり15分だったり……痛みは生理痛みたいな感じです。これ本陣痛なのかどうか……」
宇髄「恐らく陣痛だと思うがな。とりあえず、先に内診してからお腹診ようか」
ひな「お願いします……」
と、まずは内診から。
宇髄「ごめんな、ちょっと診るよ。痛くないから力抜いててな」
数日前の検診で、
宇髄「うーん……ひなちゃんごめん。今日ちょっと刺激していいか?」
ひな「え?」
宇髄「子宮口がまだ硬いんだ。赤ちゃんが順調なだけに、もう少し柔らかくなってて欲しい。本当はやってあげたくなかったんだけどな」
と、恐れていた卵膜剥離、俗に言う"内診グリグリ"を、ついに体験したわたし。
あまりの痛さに、久しぶりに処置で泣き叫んだので、今日はきっと気を遣ってくれている。
タオルの中で、宇髄先生の指があそこに入ってくる。
ピクッ……
内診グリグリを思い出し、反射的に身体がピクッとしてしまうが、
宇髄「大丈夫だから。信じて力抜いてごらん」
と、宇髄先生に膝をぽんぽんとされ、
宇髄「うん。子宮口2センチだな。ちゃんと開いてる」
丁寧且つサッと内診してくれて、痛みなく終了。
続いて、エコーをしている最中、
コンコンコン——
五条「ひな!」
悠仁さんと、藤堂先生が。
五条「大丈夫か!」
一目散にわたしの側に来る悠仁さん。
ひな「は、はい。大丈夫です……」
どうやら、わたしに陣痛が来たと聞いて、パニックになっているとでも思い込んだよう。
五条「お、そうか。ハァハァっ、思ったより落ち着いてるな」
藤堂「悠仁、だから大丈夫だってば(笑)」
藤堂先生が悠仁さんの肩にぽんっと手を置き、
宇髄「やかましいな。ひなちゃんは落ち着いてんだ、お前が落ち着かんか。なに息切らしてんだ」
宇髄先生がピシャリ。
五条「す、すみません」
藤堂「ちょっと緊張しすぎ。顔硬いよ~?ほら、お父さんっ」
ぽんぽんっと、藤堂先生に背中を叩かれた悠仁さんは、
五条「ごめんな、すぐ来られなくて。大丈夫か?」
と、わたしの手を握ってくれた。
そうこうしていると、
宇髄「ん……?」
突然、宇髄先生がエコーの手を止める。
ひな「宇髄先生……?何かありましたか……?」
宇髄「ごめん、ひなちゃん。もう一回内診させて」
ひな「えっ?」
宇髄「破水してるかもしれん」
そう言って、宇髄先生はプローブをしまい、わたしのお腹のジェルを拭き取って、
宇髄「入るよ~、息吐いて~」
今度は膣鏡を入れて、破水の有無を調べてもらう。
五条「ひな、大丈夫だ」
ついさっきまでとは反対に、わたしが少し動揺しているのを、悠仁さんが落ち着かせてくれる。
宇髄「やっぱり。高位破水してるな」
ひな「そんな、全然気づかなかったです……」
宇髄「気づかないくらい、羊水はそんなに漏れてないってことだ。心配しなくて大丈夫。ただ、破水してる以上お産は長引かない方がいいから、促進剤は早めに使うかもしれん。とりあえず、今から採血して、CTG付けて、カテーテルも早めに入れよう」
さっきまで平気だったのに、なんだか急に、いよいよ出産なんだって実感が湧いてきて、緊張してきて、少し不安になってきた。
そんなわたしの心境に気づいてか、
宇髄「ひなちゃん、大丈夫だ。何があってもサポートできる体制は整えてるから、安心して臨んだらいい。良いお産にしような」
と、宇髄先生が。
ひな「はい……お願いします」
言葉はそれだけだけど、それだけの言葉と宇髄先生が持つ包容力で、わたしの中でひとつ覚悟が決まった気がして、気持ちが軽く前向きになった。
52
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる