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彼女の正体とDoctors ①
しおりを挟む~ICU~
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ…………
「スー……ハァ……スー……ハァ…………」
「……」
「なぁ、五条?そんな見つめててもすぐには起きない。焦るな。珍しいな、どうしたんだ?」
五条悠仁(ごじょうゆうじ) /小児科医
アメリカで飛び級して医者になったエリートで、その腕や知識は先輩医師にも引けを取らない。小児科医でありながら、子どもたちにはいつも容赦なく厳しくてクール。だが、意外と子どもに好かれる。
ひなのが搬送されてきた時、スタッフに指示を飛ばしていたのがこの五条だ。
五条「わかってます。でも宇髄先生、俺、この子を知ってるんです……」
宇髄達弥(うずいたつや) /外科医
肩書きは外科医だが、あらゆる分野に精通する凄腕ドクター。ゆえに、院内のあちこちで患者を診ているため、一体、宇髄がどの専門医なのかわかっていない人も多い。しっかりと鍛え上げられた肉体で、見た目も中身もまさにみんなの兄貴。
外科からの応援で、五条と一緒にひなのの処置を行った。
宇髄「知り合いか?」
五条「はい。というか、みんなも知ってるはずです」
宇髄「はぁ?みんな知ってるって誰だよ」
五条「栗花落杏寿郎(つゆりきょうじゅろう)……ここノワールの、創立者の名はご存知ですよね?ひなのちゃんは、杏寿郎先生のひ孫です」
宇髄「はぁあ!?ひ孫ぉお!?なんで杏寿郎先生のひ孫がこんなことになって……。ってか、なんでお前はそんな子を知ってんだ?」
五条「それは……」
***
今から10年前。
ノワールの医師としてアメリカの病院で働いてたひなのの両親は、病院近くで起きたテロに巻き込まれ死亡した。
当時3才だったひなのは、ベビーシッターと自宅にいて助かったという。
両親が死んで日本に戻ったひなのは、同じくノワールの医師である祖父の栗花落義勇(つゆりぎゆう)に引き取られた。
ただ、義勇はこの時すでに癌を患っており、ひなのが4才になってすぐにこの世を去ってしまった。
再び身寄りがいなくなったひなのをどうするか、周りの大人たちが頭を抱えていた時、義勇の遺品から遺書が見つかる。
しかも、その遺書は義勇の物ではなく、義勇の息子、つまり、ひなのの父親である栗花落類(つゆりるい)が書いたもの。
『私たち夫婦に万が一のことがあって、祖父も父もこの世にいなければ、その時は、最も信頼を寄せる五条先生に、どうかひなののことをお願いします。 栗花落 類』
遺書に書いてあった五条先生は親父のこと。
生前、ひなの父親を可愛い部下と慕っており、家族ぐるみで付き合ってた親父は、この遺書を受けてすぐにひなを引き取った。
当時、俺たち家族はアメリカに住んでたが、ひなも両親とはずっとアメリカ暮らしだったので、新しい環境や俺たちとの生活にもすぐに慣れて、笑顔いっぱいで暮らしてた。
でも、ある時そんな暮らしは一変する。
ひなを引き取って半年が経った頃、突然、ひなの母親の親戚だと言う男が現れた。
なぜ血の繋がりがあるとわかったのか不思議なほど遠い親戚だったが、血縁関係のあるものには勝てず、結局、ひなは親戚に引き取られてしまった。
親戚と名乗る人物が、栗花落家の財産目当てにひなを引き取ったとわかったのは、それからさらに半年経った頃のこと。
けれど、その時にはもう、ひながどこでどうしてるのか、誰にもわからなくなっていた。
***
五条「——というわけです」
宇髄「初耳だ……」
五条「このことを知るのは、院長一族だけなので」
宇髄「そうか、事情はわかった……。だがまあ、焦ってどうこうなることではない。すぐには目を覚まさんから、五条は医局戻って休め」
五条「はい……」
***
宇髄先生の言葉に甘え医局に戻って来ると、アメリカに住む親父にメールを送った。
そして、ソファーに座り一息つきながら、ひなと初めて会った日のことを思い出していた。
***
11年前——
ノワール国際病院は創立60周年を迎え、盛大な記念パーティーが開かれた。
「五条先生、お久しぶりです」
「お~!栗花落!今日のためにアメリカから?」
「はい。父から連絡があって、孫の顔も見たいからと、2週間ほど日本に」
そう挨拶を交わすのは、ひなのと五条の父親同士。
「ひなのちゃんだったかな?娘さんいくつになった?」
「はい、2才になりました。今は妻とあっちに……って、また走り回ってるなぁ……」
2人の視線の先には、人混みをかき分けて宴会場を走り回る小さな女の子がいる。
「マミー!! Can you catch me~!!」
「ひな~!待ちなさいっ!」
女の子を追いかけるのはひなのの母親。
すばしっこく走り回る女の子をなかなか捕まえられないでいるようだ。
「こらぁーっ!!ひなのーっ!!!」
ビクッ‼︎
見かねた類が、会場中に響き渡るくらい大きな声で女の子を呼び止めると、女の子はビクッとして急に立ち止まり、その反動で尻もちをついてしまった。
「大丈夫!?痛いところない?立てるかな?」
「……アリガト」
女の子は高校生くらいの男の子に立たせてもらうと小さな声で呟いた。
「あぁ、悠仁くん!ひな起こしてもらってありがとう。こらっ!ひな、お行儀良くしてなさいって約束しただろ?」
「Sorry, ダディー。コホッコホッ……」
両親とアメリカから一時帰国しているというその女の子は、日本語がカタコトで英語の方が話しやすそうだった。
「ほら、走るからお咳出るんだよ?病院連れて行くよ?それとも、ここにいるのはDoctorsだから診てもらおうか?」
「Nooo! イヤ!!」
「でしょ?ほら、じゃあゆっくり呼吸して」
「コホッコホッ……スー……ハー……。ダディー、もぅダイジョブ!」
「栗花落、ひなちゃん大丈夫か?喘息あるの?」
「五条先生すみません、ご挨拶の途中でお騒がせして。ごく稀に咳き込む程度で、軽いので大丈夫です。ほら、ひな。五条先生と息子さんの悠仁くんだよ。隠れてないで、ひなもご挨拶して?」
「……っ//」
さっきまで走り回っていたのが嘘のように、ひなのは父親の後ろに隠れて、恥ずかしそうに膝の隙間からチラッと顔を出す。
「すみません、さっきまでうるさかったくせに急に引っ込んじゃって……。あっ、そういえば、アメリカでの勤務が決まったんですよね!」
「あぁ。家族でまた向こう(アメリカ)に移るんだ。栗花落と一緒に働けて嬉しいよ。よろしくな!」
「はい、楽しみにしています!それでは、他の先生方へも挨拶してきますので、こちらで失礼します」
「うん、それじゃあな。ひなちゃんも、またね!」
「……ニコッ! By~e!」
***
五条「……はぁ」
パーティーでひなが最後に見せた笑顔は今でも覚えてる。
うちで引き取って過ごした半年間、英語と日本語がごっちゃになりながら、たくさん喋ってくれて笑顔を見せてくれて、喘息の症状も全くなくて元気に走り回ってた。
ひなと別れる時、泣きながら必死で俺にしがみついてたが、きっと、知らない人に連れてかれるのが怖かったんだろう。
そして、その後も恐怖はずっと続いていた……。
五条「あんなに元気でかわいかった子がどうして……」
ひとつひとつ、過去の記憶を辿り、昔の思い出に耽っていると、
プルルルッ……
さっきメールを送った親父から電話がかかってきた。
五条「もしもし。メール見るの随分早いな……」
五父「悠仁っ!メールに書いてたの本当か!?ひなちゃんが搬送されてきたって。しかも、虐待受けてるって……」
五条「あぁ。間違いない、ひなだ」
五父「だから、あんなわけのわからん者にひなちゃんを渡したくなかったんだ!あの時、なんとしてもひなちゃんをうちに置いとけば……」
五条「そんなこと今さら仕方ないだろ。ひなは生きてるんだ、ボロボロだけど生きてた。だったら治すまでだ」
五父「そうだな……。なぁ、悠仁?ひなちゃんのこと頼むぞ。栗花落の大事なひとり娘、杏寿郎先生や義勇先生の……ノワールの血が流れる子なんだ。お前が守るんだぞ、しっかりな」
五条「あぁ。もちろんわかってる」
親父との電話を終えると、ひなの様子を確認するために再びICUへ向かった。
~ICU~
「五条先生、お疲れ様。ひなちゃんまだ起きてないよ。今、点滴確認してたとこ」
「工藤先生、ありがとうございます」
工藤七瀬(くどうななせ) /外科医
宇髄とは大学時代からの先輩後輩で、2人はノワール一(いち)の名コンビ。宇髄に叩き上げられた腕と、これまた宇髄に叩き上げられた肉体を持つ兄貴肌。
工藤「宇髄先生から聞いたよ。創立者のひ孫だってな。医者の家系に生まれ育った子がこんなことになるなんて……。重度の喘息は放ったらかし、発育不良で脱水に貧血もある。まともに食事も与えられてなかったんだろう。身体中は傷やあざだらけって、本当、よくここまで生きててくれたよ。それに、お腹の打撲なんかは今朝殴られたんじゃないかって宇髄先生が。血管破裂してなくてよかったって」
五条「警察も動いてますので虐待者はすぐ捕まるでしょうし、ここにいる限りもう安全なのですが……」
工藤「問題はこれからだな。心も身体も、彼女の傷は相当深いはずだから。治療も長引くだろう。もちろん、俺も宇髄先生もサポートに入る」
五条「ありがとうございます」
***
それから数時間後、救急搬送から半日が過ぎた夜。
五条が見守る中、ひなのはゆっくりと目を覚ました。
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