8 / 253
爆発する心
しおりを挟むそして18時。夜ごはんが運ばれてきた。
メニューはいつものスープだけ。
どうやらごはんがスープだけなのは、わたしがしばらく食べてないかららしい。
胃がびっくりしちゃうんだってまこちゃんが言ってた。
じーっと器を見つめていると、
コンコンコン——
五条先生が部屋に来た。
五条「スープ飲んでないのか?」
ひな「……」
五条「ほら、ひと口飲みなさい」
そういって、スープを乗せたスプーンを渡される。
渋々受け取って……
…………シュルッ
口に運ぶまでに、ものすごい時間をかけてたと思う。
ひと口飲んで、手を止めてぼーっとしてると、
五条「ほら、手止めてないで、もうひと口飲みなさい」
そんなの無理だから、首をブンブン横に振った。
五条「お腹空いてないのか?」
お腹は空いてると思う。
だって、もう何週間も食べてないと思うし。
家で最後に食べたのバナナ1本だし……。
五条「ずっと食べてないんだからお腹は空いてるだろ?なんでスープ飲めないんだ?飲めないのか飲みたくないのかどっちなんだ?」
そんなの、わかんないよ。
今までごはんなんてまともに食べられなかった。
たとえスープだけでも、毎食きちんと与えてもらえることがすごくうれしい。
温かいごはんが目の前にあって、本当は食べたくて仕方ない。
でも、なぜか食べれない。
たぶん、いろんなことが一度に起こったから、何をどうしていいかわかんなくなってる。
自分でも混乱してるってわかるもん。
って言うのを、声に出して言えばいいのかな……?
でも、なかなか言えない。
ひな「……」
五条「なぁ、いつまで黙ってるんだ……?俺のこと嫌いか?話したくないか?」
え……?
ちょっと、待ってよ……
なんで、なんでそんな風に言うの?
今いろいろ考えてたのに、突き放されたの……?
五条「何も言わないなら早く飲みなさい。食べないといつまでも元気にならないんだから」
大人って……大人って、みんなこうなんだ。
自分の言うとおりにさせようと、わたしの考えなんてないものにして……
元気にならないからって、だから、なに……?
そもそも、わたしなんでここにいるの?
もう帰る場所ないんじゃなかったっけ?
ここが家って、ここ病院だよ?
こんなとこにずっといるの?
帰る場所もない、病院にいなきゃいけないって、病気だかなんだか知らないけど、もう元気になる意味なんてある?
そもそもわたしは死ねばよかったんだよ。
死んだらなにも困ってなかった。
無駄に今まで生きてたせいでこうなってる。
だったらもう……飲んだり食べたりする必要だってないじゃん……!!
——ガッシャーンッ!!
なんでかなんてわからない。
なにが気に食わなくて、なにが引っかかってこんなことしたかわからないけど、自分の中でなにかが爆発したんだと思う。
気づけばトレーごとスープを床にひっくり返してた。
ひな「なんで飲まなきゃいけないの?今まで散々食べさせてもらえなかったのに、なんでそんなに食べろって言うの?わたしだって食べたいよ!こんな温かいごはんもらって、食べたくないわけないじゃん!!でも突然こんなことになって日常が変わって……もうわけわかんないの!!」
ガッシャーン!!
今度はベッドから立ち上がって、点滴のスタンドを思いっきり投げ倒した。
この時すごい音がしたんだろう。
まこちゃんが部屋に来て、知らない先生も次々と部屋に来たけど、そんなのもうどうでもよかった。
真菰「ひなちゃん!落ち着こう!!」
ひな「触らないでっ!!」
まこちゃんがわたしを止めようとしてくれたのに、あろうことかわたしはまこちゃんを押し倒した。
興奮し切ってて、そもそもなぜ押し倒せたのかもわからない。
ひな「もうやめて!!元気にならないからって、だからなによ!?もう帰る場所もないんだし、どうせずっと病院に閉じ込められるんでしょ!!?
それに、どんなに頑張って、
逃げたって……
耐えたって…………
生きたって………………
あの人はずっと追いかけてくるの!!毎日毎日つらくて苦しいのに死ねって殴り続ける。
もう最初から死ねばよかった……
死ねって言われるたびに、生きようとするからこんな苦しい思いするんだよ!!
なんで生きようとしてきたのかももうわかんない!だから、だからもう死にたい。楽になりたい!!!」
すごい大声で叫んでた。
喉も肺すら痛くて仕方ない。
水の入ったペットボトルを投げつけて、枕を投げつけて、スリッパも投げつけて、タオルやらなんやら全部投げつけて。
信じられないくらい部屋を散らかした。
自分でもなんで立ってられるのか不思議なくらい体力を使ったのがわかる。
本能的にこれ以上立ってるのはやばい気がして、思わずその場にへたり込んだ。
部屋には五条先生とまこちゃんと藤堂先生と、知らない先生が何人かいる。
いつの間にかこんなにたくさんいるのに、誰もなにも言わずに黙ってわたしを見てた。
そしてシーンとした部屋には、
ポタッ……ポタッ……ポタッ…………
腕から滴る血と目から溢れる涙が落ちる音だけが、不思議とそれだけが響き渡って聞こえてた。
自分の荒れた息遣いが聞こえてきたのはそれから。
すると、五条先生がわたしの方へ向かってくる。
あぁ、こんなことして、こんなこと言って、怒られるじゃ済まされない。
先生にもきっと殴られるんだ……
でも仕方ない、もういいよ……。
そう思って目を閉じると、
…………え?
温かい。
というよりも、温もりと表現したい。
そんなものを感じて目を開けると、なぜか五条先生に抱きしめられていた。
五条「生きようとしてた答えは、もう目の前にあるだろ……。だから死ぬな。これからも生きるんだ。どんなに苦しくてもここまで生きてきた、顔は傷ひとつ付けずに守って来た。その強さを投げ出してもう死ぬとか言うな……」
静寂を破るように五条先生が言った。
重みのある落ち着いた低い声で、まるでわたしの魂に届けるように……。
そのあとは、知らない先生たちが静かに部屋を片付け始めた。
まこちゃんも誰かに手を治してもらってる。
藤堂先生はわたしのところに来て、胸の音を聴いてる。
五条先生の姿は見えなくなった。
たぶん、わたしの背後にまわって抱き抱えて、腕を掴んで止血してるのが五条先生なんだと思う。
さっきまでとは違って、みんな忙しなく動いてる。
でもすごく静か。なんの音も聞こえない。
きっともうわたしの意識がほとんどないからだ。
そのうち目の前も真っ暗になって、わたしはまた深い眠りに落ちた。
34
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる