ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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爆発する心

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そして18時。夜ごはんが運ばれてきた。



メニューはいつものスープだけ。

どうやらごはんがスープだけなのは、わたしがしばらく食べてないかららしい。

胃がびっくりしちゃうんだってまこちゃんが言ってた。



じーっと器を見つめていると、





コンコンコン——





五条先生が部屋に来た。





五条「スープ飲んでないのか?」


ひな「……」


五条「ほら、ひと口飲みなさい」





そういって、スープを乗せたスプーンを渡される。

渋々受け取って……





…………シュルッ





口に運ぶまでに、ものすごい時間をかけてたと思う。

ひと口飲んで、手を止めてぼーっとしてると、





五条「ほら、手止めてないで、もうひと口飲みなさい」





そんなの無理だから、首をブンブン横に振った。





五条「お腹空いてないのか?」





お腹は空いてると思う。

だって、もう何週間も食べてないと思うし。

家で最後に食べたのバナナ1本だし……。





五条「ずっと食べてないんだからお腹は空いてるだろ?なんでスープ飲めないんだ?飲めないのか飲みたくないのかどっちなんだ?」





そんなの、わかんないよ。

今までごはんなんてまともに食べられなかった。

たとえスープだけでも、毎食きちんと与えてもらえることがすごくうれしい。

温かいごはんが目の前にあって、本当は食べたくて仕方ない。



でも、なぜか食べれない。



たぶん、いろんなことが一度に起こったから、何をどうしていいかわかんなくなってる。

自分でも混乱してるってわかるもん。





って言うのを、声に出して言えばいいのかな……?

でも、なかなか言えない。





ひな「……」


五条「なぁ、いつまで黙ってるんだ……?俺のこと嫌いか?話したくないか?」





え……?

ちょっと、待ってよ……

なんで、なんでそんな風に言うの?

今いろいろ考えてたのに、突き放されたの……?





五条「何も言わないなら早く飲みなさい。食べないといつまでも元気にならないんだから」





大人って……大人って、みんなこうなんだ。

自分の言うとおりにさせようと、わたしの考えなんてないものにして……



元気にならないからって、だから、なに……?

そもそも、わたしなんでここにいるの?

もう帰る場所ないんじゃなかったっけ?

ここが家って、ここ病院だよ?

こんなとこにずっといるの?



帰る場所もない、病院にいなきゃいけないって、病気だかなんだか知らないけど、もう元気になる意味なんてある?



そもそもわたしは死ねばよかったんだよ。

死んだらなにも困ってなかった。

無駄に今まで生きてたせいでこうなってる。

だったらもう……飲んだり食べたりする必要だってないじゃん……!!















——ガッシャーンッ!!















なんでかなんてわからない。

なにが気に食わなくて、なにが引っかかってこんなことしたかわからないけど、自分の中でなにかが爆発したんだと思う。

気づけばトレーごとスープを床にひっくり返してた。





ひな「なんで飲まなきゃいけないの?今まで散々食べさせてもらえなかったのに、なんでそんなに食べろって言うの?わたしだって食べたいよ!こんな温かいごはんもらって、食べたくないわけないじゃん!!でも突然こんなことになって日常が変わって……もうわけわかんないの!!」










ガッシャーン!!










今度はベッドから立ち上がって、点滴のスタンドを思いっきり投げ倒した。



この時すごい音がしたんだろう。

まこちゃんが部屋に来て、知らない先生も次々と部屋に来たけど、そんなのもうどうでもよかった。





真菰「ひなちゃん!落ち着こう!!」


ひな「触らないでっ!!」





まこちゃんがわたしを止めようとしてくれたのに、あろうことかわたしはまこちゃんを押し倒した。

興奮し切ってて、そもそもなぜ押し倒せたのかもわからない。





ひな「もうやめて!!元気にならないからって、だからなによ!?もう帰る場所もないんだし、どうせずっと病院に閉じ込められるんでしょ!!?



それに、どんなに頑張って、



逃げたって……



耐えたって…………



生きたって………………



あの人はずっと追いかけてくるの!!毎日毎日つらくて苦しいのに死ねって殴り続ける。



もう最初から死ねばよかった……



死ねって言われるたびに、生きようとするからこんな苦しい思いするんだよ!!

なんで生きようとしてきたのかももうわかんない!だから、だからもう死にたい。楽になりたい!!!」










すごい大声で叫んでた。

喉も肺すら痛くて仕方ない。



水の入ったペットボトルを投げつけて、枕を投げつけて、スリッパも投げつけて、タオルやらなんやら全部投げつけて。

信じられないくらい部屋を散らかした。



自分でもなんで立ってられるのか不思議なくらい体力を使ったのがわかる。

本能的にこれ以上立ってるのはやばい気がして、思わずその場にへたり込んだ。



部屋には五条先生とまこちゃんと藤堂先生と、知らない先生が何人かいる。

いつの間にかこんなにたくさんいるのに、誰もなにも言わずに黙ってわたしを見てた。



そしてシーンとした部屋には、





ポタッ……ポタッ……ポタッ…………





腕から滴る血と目から溢れる涙が落ちる音だけが、不思議とそれだけが響き渡って聞こえてた。

自分の荒れた息遣いが聞こえてきたのはそれから。





すると、五条先生がわたしの方へ向かってくる。





あぁ、こんなことして、こんなこと言って、怒られるじゃ済まされない。

先生にもきっと殴られるんだ……

でも仕方ない、もういいよ……。





そう思って目を閉じると、





…………え?





温かい。

というよりも、温もりと表現したい。

そんなものを感じて目を開けると、なぜか五条先生に抱きしめられていた。






五条「生きようとしてた答えは、もう目の前にあるだろ……。だから死ぬな。これからも生きるんだ。どんなに苦しくてもここまで生きてきた、顔は傷ひとつ付けずに守って来た。その強さを投げ出してもう死ぬとか言うな……」





静寂を破るように五条先生が言った。

重みのある落ち着いた低い声で、まるでわたしの魂に届けるように……。










そのあとは、知らない先生たちが静かに部屋を片付け始めた。

まこちゃんも誰かに手を治してもらってる。

藤堂先生はわたしのところに来て、胸の音を聴いてる。





五条先生の姿は見えなくなった。

たぶん、わたしの背後にまわって抱き抱えて、腕を掴んで止血してるのが五条先生なんだと思う。





さっきまでとは違って、みんな忙しなく動いてる。

でもすごく静か。なんの音も聞こえない。

きっともうわたしの意識がほとんどないからだ。





そのうち目の前も真っ暗になって、わたしはまた深い眠りに落ちた。


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