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まだ始まらない恋の始まり①
しおりを挟む*ひなのside
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……
……この音、血圧測る音?
もしかして、姫島さんかな……。
わたしの身体、今病室のベッドの上だもんね。
目を開けるのはやめとこう。
あぁ、嫌だな。
お願い、早く終わって……。
藤堂「ひなちゃん熱上がってそう?」
あ、藤堂先生もいる。
姫島さんの前で聴診されるの嫌だな……
と思ったら、
……っ!!
おでこに乗せられた大きな手。
これは間違いなく、五条先生の手。
五条「うーん、少しだけ。8度4分くらいです」
藤堂「思ったほどは上がってないね。よかった……」
宇髄「工藤、寝てる間に注射打ってやれるか?難しそうなら起きてから」
工藤「えーっと……あ、いけますいけます。ここから刺せば大丈夫です」
神崎「さすが~」
あれ……?
黒柱がみんないるの?
姫島さんの声しないし、先生たちだけ?
って、五条先生の手、ずっと頭に乗っかったまま……。
誰かが腕も掴んでる。
お願い、その手……
ひな「ハナシテ……」
五条「ひなっ!?」
あ、思ってたこと口に出ちゃった……。
仕方なく目を開けると、五条先生の顔が目の前に。
五条「ごめんな、起こしちゃったな」
あぁ、すごく優しい五条先生だ。
大好きな五条先生。
こんな身体に触れて欲しくないのに、その手を払い避けられない。
だって本当は、触れてて欲しくて仕方ないから……。
飲み込むことなんてできない、この喉元から込み上げる涙のせいで、五条先生の顔が一瞬にしてぼやけてしまう。
すると五条先生が、
五条「ひな、ちょっと痛いの頑張るぞ」
と言った瞬間、
ひな「ん"っ!!」
掴まれてた腕に注射されたみたいで、突然のことにいつも以上の痛みを感じた。
ひな「痛っ……ハァハァ……やめて、ケホケホッ、触らないでっ……ハァハァ」
工藤「ごめんな、もう痛くないからな」
と、針を抜いたとこを工藤先生にグッと抑えられて止血される。
五条「ひな、もう痛くない。頑張ってえらいぞ」
いつもは鬼のように怖い五条先生が、屋上に行ってこんなことになったのに怒らない。
なんでよ……?
こんな時に限って、もう優しくしないでってば……
ひな「五条先生……もぅ、触らないで……優しくしなぃ……で……グスン。五条先生の手……ケホッ、汚しちゃう……ケホケホ……わたし……ハァハァ、けが……ゲホゲホッ……れっ……ゲホッ……汚っ……ゲホゲホゲホッ!」
肝心なところで発作が起きる。
咳と涙でうまく話せない。
五条「ほら、変なこと言うからだぞ……落ち着いてちゃんと呼吸して」
そう言いながら、五条先生に身体を起こされて、藤堂先生は口元に吸入器を当てようとする。
ひな「嫌っ……ゲホゲホゲホッ……わたし、汚されたのっ、ゲホゲホゲホッ……あの人……ハァハァ、この身体……ゲホゲホゲホッ……」
藤堂「ひなちゃん、喋らなくていいから口開けよう。息できなくなるからね」
ひな「ハァッ……ハァッ……ゃだ、ハァハァ……もぅやだっ……ゲホッ、ゲホゲホゲホッ!!」
五条「ひなっ!とりあえず口開けなさい!」
って、いつもより抵抗する力も出なくて、無理矢理吸入させられてしまった。
そして、五条先生に、そっとぎゅっと抱きしめられた。
"トクン"
離して欲しいのに……触らないで欲しいのに……胸はトクンって。
五条先生、大好きだよ。
離れたくないよ。
って、わたしの心臓が叫んでくる。
離れたいのに、触れたくないのに、どうしても身体を五条先生に預けてしまう。
五条「ひな……もう何も考えるな。何も考えず、呼吸にだけ集中しなさい」
ひな「ヒック、ヒック……ぅぅ……グスン……ケホケホッ……ヒック、グスン……ケホケホッ……ヒック……」
いつかのあの時と同じ。
五条先生と出会った頃にもこんなことがあった。
止まらない涙を五条先生の胸の中で流しながら、五条先生は呼吸が大事って、そんなこと言いながら優しく撫でてくれる手が、何よりも安心感を与えてくれて、落ち着かせてくれるの。
五条「ごめんな。姫島のこと、すぐに気づけなくて悪かった……」
え……?
五条先生、なんで姫島さんのこと知ってるの……?
ひな「なん……で、ヒック……姫島さんのこと……ケホッ、ヒック」
五条「全部聞いたんだ。何があったのか全部わかってるから、ひなはもう何も言わなくていい。それと、俺に嫌われるとかつまらんことは思うな、汚しちゃうとか馬鹿みたいなことも考えるな」
全部、聞いたんだ……。
じゃあ、わたしがあの人に何されたかもわかってるんだよね……。
ひな「グスン、グスン……汚れてるでしょ……わたし、あの人に……グスン、ヒック、ヒック……されたから……あの人に……」
五条「こら、ひな」
抱きしめてくれてた身体が離されて、今度は両手で頬を挟まれた。
もちろん、わたしと目を合わせるため。
五条「ひなは汚れてないって、何度も言わせるな……」
ひな「でも……本当なの。ヒック、ヒック、小学生の頃……痛くて血がいっぱい出たのに、何されてるかわからなかったのっ……ヒック。好きな人としかしちゃいけないこと……わたし……うぅ、わたし……は、あの人と……ヒック、ヒック……グスン……捨てたい……こんな身体……大好きな五条先生に触って欲しくな」
五条「ひなっ!!もうそれ以上言うなっ」
わたしの言葉を待たずして、五条先生は再びわたしを抱きしめた。
さっきよりもぎゅっと強く、だけど優しく。
五条「わかってるからもう言うな……。そもそも汚れてるって意味わかってんのか?真逆だろが。ひなほど純粋な子どこにいんだよ……。だから触って欲しくないなんて、もう言わないでくれ。ひなに拒否されると割と堪える……。好きだからいつも抱きしめるんだ。俺もひなが好きだから、守ってやりたいんだ……」
……す、き…………?
五条先生……わたしが好きって、言った……?
ひな「五条先生、今なん……っ……ケホケホッ……ハァハァ、ゲホゲホゲホッ!!」
好きって言った気がした。
五条先生の口から『ひなが好き』って聴こえた気がした。
でもそれを確かめる前に、わたしの身体が限界になってしまったみたい。
藤堂「ひなちゃん、もう1回吸入しよう。お口開けて」
ひな「ハァハァ……ゲホゲホゲホ……待っ……ハァハァ、て……ゲホゲホッ……ゲホゲホゲホッ!!」
五条「ひなもう喋るな!いいから口開けるぞ」
さっきまですっごく優しい五条先生だったのに、また口を開けられてプシュッと吸入させられた。
そして、ベッドに寝かされて、酸素マスクもつけられる。
あぁ……また鬼五条になっちゃった。
好きって聞こえたのは気のせいか。
五条先生がわたしのこと好きなわけないもんね……
目尻からスーッと涙が流れるのを感じたのを最後に、わたしの意識はいつものように途絶えてしまった。
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