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お父さんとお母さん①
しおりを挟む——8月上旬
今は夏休み。
最近は何もすることがなくて、ひたすら勉強したり本を読んだり、ずーっと家で過ごしてる。
7月の間は夏期講習に行ってたけど、8月に入ってからは暇人ライフ。
月初めに定期健診に行ったくらいで、外にもほとんど出てない。
注射のおかげで身体の調子は絶好調なのに。
今までの身体が嘘みたいで、地に足がついてるけど身体は軽いという、もう何だってできちゃう感じ。
この有り余った元気を消費したいんだけど、五条先生は忙しいし、1人で出来ることも特にない。
それに、一応運動はダメと言われてるしね。
はぁ……退屈……
リビングのソファーにぐでーんとなって、窓の外の夕日を眺めていると、
ガチャッ——
玄関のドアが開く音が。
すぐに起き上がって玄関に向かう。
スタタタタッ……
ひな「五条先生、おかえりなさい!」
五条「ただいま……って、ひなぁ~?」
ハッ……!!
ひな「走ってないです!早歩きです!」
五条「早歩きもダメだ」
えぇ!なんでよ!
ひな「藤堂先生は走っちゃダメしか言ってないのに!」
五条「ひなはそのうち走り出しそうだから。ま、お出迎えはうれしいけどな。ただいまっ」
ぽんぽん……
と、リビングに行く五条先生。
っ……///
わたしは真っ赤な顔で後ろをついて行った。
リビングに入ると、五条先生は早速キッチンに。
手を洗いながら、
五条「晩飯どうするか。ひな何食べたい?」
って。
ひな「わたしあんまりお腹空いてないから、軽いのがいいです」
五条「はぁ?昼なに食ったんだ?」
ひな「そうめんですけど」
五条「他には?」
ひな「それだけです」
五条「それだけ?何束?」
ひな「1束」
五条「それでお腹空いてないのか……?」
ひな「はい……」
五条「それじゃ、夜はガッツリ食わなきゃダメだろ……」
と、冷蔵庫を開ける五条先生。
ひな「え?がっつり……?」
五条「あぁ、ガッツリ。よし、豚肉あるな。トンテキにしよう」
ひな「え、ト、トンテキ?冷しゃぶとかの方が……ほら今日暑いし、さっぱりしてて良くないですか……?」
五条「いや、トンテキだ。この肉分厚いし、決まり。ひな米研いで」
あ……決まっちゃった……
ひな「ハイ」
と、返事をしてお米を洗った。
そこから、晩ごはん作りは五条先生と。
メインのトンテキに合わせて、お味噌汁を作ったり、わたしの貧血予防にほうれん草のおひたしを作ったり。
五条「なんで食欲ないんだろな。具合が悪いわけではなさそうだから……家でダラダラし過ぎだな」
なっ……!
ひな「ダラダラって……まぁそうかもしれませんけど暇なんですもん。勉強以外やることなくて。わたし元気なのに……」
五条「まぁそれもそうか。せっかくの夏休みだしな」
ひな「わたし、もっと外に出たいです」
五条「それなら、ちゃんと食べて体力つけないと。外めちゃくちゃ暑いからな。ひなだと5分も持たん」
ひな「むうぅ……」
そんな貧弱じゃないもん。
と言いたいところだけど、身体が弱いことは自覚してる。
いくら元気になったとはいえ、外に出たら暑さにやられるのも想像できる。
そんなこんな話してるうちにご飯も炊き上がり、お料理をテーブルに並べていただきます。
ひな「ん~!美味しい!」
五条先生は本当に料理も上手い。
誰かの手料理を食べることもないけど、少なくとも、学校や病院の食堂より美味しいと思ってる。
それに、わたしがちんたらキャベツの千切りする横で、ほとんど完成させちゃうくらい手際もいいし。
将来、わたしはいいお嫁さんになれるのかなと考えてしまう。
五条「ひな、しっかり食えよ」
と、わたしのお皿に視線を落として言う五条先生。
そのしっかり食えよは、全部食べろよってことかな……
わたしもお皿に視線を落とすと、絶対いつもより多めに盛られてるおかずたち。
ひな「はい……」
自信なく返事して、トンテキに小さくかぶりついた。
五条「そうだ、ひなに話があるんだ。」
黙々と食べ進めてると五条先生が。
また突然話だなんて、なんだろう?
と、箸を止めて顔を上げる。
ひな「なんですか?」
五条「実は来週、両親が日本に帰って来る」
ひな「えっ?」
五条先生のご両親が日本に……?
五条「お盆前に来て、今月いっぱいは日本にいるって。それで、日本にいる間はうちに泊まってもらうから」
ひな「え、ここに泊まるんですか?」
五条「あぁ。最初はホテルに泊まるって言ってたけど、部屋いっぱいあるのにもったいないから、うちに来てもらうことにしたんだ」
ひな「そ、そうなんですね」
五条「ひなも退屈じゃなくなるだろ。ダメだったか?」
ひな「いや、ダメではないですけどっ……」
五条先生のご両親に会うなんてすごく緊張する。
昔一緒に住んでたって、そんな記憶ほぼないわけだし、はじめましても同然。
そんな人と2、3週間この家で過ごすなんて、五条先生いない日もあるだろうにできるかな。
五条「不安か?」
ひな「少し……。緊張します……」
五条「大丈夫。覚えてないとはいえ、昔一緒に暮らしてたんだ、すぐ慣れる。それに、ひなにずっと会いたがってたから。俺もひなにはもう一度会っておいて欲しかった」
そうだよね。
短い間だったけど、身寄りのないわたしを育ててくれてたんだもんね。
絶対いい人だし、昔の話も聞けるかもしれないし。
ひな「わかりました。緊張するけど、わたしも会うの楽しみにしてます」
五条「ん、ありがとう。ちなみに言っとくが、両親にはひなと付き合ってることまだ言ってないから」
え、そ、そうなんだ。
それって、どういうことなんだろ。
ひな「それはその……隠してるんですか?それとも、ご両親の前でサプライズ発表するためとかですか……?」
五条「ぷはっ!サプライズって、そんな発想なかった(笑)。親にサプライズなんかしたことないぞ。それに隠すつもりもない。単純にその話をする機会がなかっただけだ」
ひな「そうでしたか……」
五条「まぁ、会った時にどこかのタイミングで話そうと思ってる。かわいい彼女をちゃんと紹介しておかないと」
ひな「え……っ//」
か、かわいい彼女……///
ご両親はわたしのこと知ってるのに、改めて"彼女として"紹介してくれるってこと?
それって、すごくうれしい。
でも、すごい恥ずかしいし、緊張する……
ひな「五条先生?わたし、五条先生のお父様から"こんな小娘はいらん!認めん!"なんて言われたらどうしよう……」
五条「んなこと言うわけないだろ(笑)いつの時代の頑固親父だよ。親父もお袋も、聞けばきっと喜ぶはずだ。それに、もし反対するようなこと言ってきたら、その場でアメリカに強制送還するから」
いや、強制送還って……(笑)
ひな「わかりました。ご両親の前では頑張ります」
五条「何を頑張るんだよ、頑張らんでいい。いつも通りの、ありのままのひなでいいから。ヘマしないようにって気張ってたら熱出るぞ」
ひな「は、はい」
五条「ん。……ほら、肉まだ残ってる。もう食えないか?」
ひな「え、えっと……あとひと口食べます……」
五条「あと3口は食べなさい。それ以外は食べてやるから、ほら」
と、わたしのお皿からお肉を回収し、ご丁寧に3口分だけ残して返してくれた。
なんか……
こんなやりとり中学生のころ病院でよくしてたよね。
もう高校生なのに。
はぁ……
ちょっと懐かしいような、何も変わってなくてうれしいような、情けないような。
最後の3口食べ切るのを、今日も五条先生にしっかり見届けられた。
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