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お父さんの心配事②
しおりを挟む*ひなのside
……しんどい。
朝、目を開けると身体がだるい気がした。
気のせいかと身体を起こしてみるとフラフラする。
……熱い。
いつも五条先生がしてくれるみたいに、自分でおでこを触ってみると、どう考えても熱かった。
……どうしよう。
五条先生は昨日から当直。
リビングにはお父さんとお母さんがいるはず。
……お父さんとお母さんに、バレなきゃいい……んだよ……ね。
そう思って、ベッドから起き上がりリビングに行った。
ひな「おはようございます」
五母「ひなちゃん、おはよう~」
ダイニングでハーブティーを飲むお母さん。
でも、お父さんの姿が見当たらない。
ひな「あれ?お父さんは……?」
五母「お父さんはお仕事に行ったわよ。ひなちゃん、今日は起きるのゆっくりだったわね」
言われて時計を見ると、もう9時前だった。
ひな「え?お、お母さんごめんなさい。わたし寝坊したみたいで……」
そう言うと、お母さんがわたしの方に来て、
五母「夏休みなんだから寝坊じゃないわよ。せっかくのお休みだもの、毎朝ゆっくりでいいのよ。それより、ひなちゃん顔赤いわね?」
ギクッ……
ひな「そう……ですか?寝過ぎかな。ちょっと暑かったからかな。へへっ」
って、誤魔化してみると、
五母「あら、そんなに寝室暑かったの?」
って、わたしの頬を両手で包んだお母さん。
あっ……。
と思ったら、
五母「あら?ひなちゃん、お熱あるじゃない」
って。
触られたらバレるに決まってる。
バレたものはもう仕方がない。
それに、お母さんの手が触れた瞬間、なぜか急に甘えたくなってきちゃって、
ひな「お母さん……しんどい……」
自分でも少しびっくりだけど、しんどいって素直に言えた。
五母「あらあら。とりあえずここに座りましょうか。ごろんとなってもいいわよ」
そう言って、わたしをソファーへ寝かせたお母さんは、慣れた手つきで体温計を挟み、脈を取り始めた。
おバカなわたしは、ここでお母さんが助産師だったことを思い出す。
そして、初めからお母さんに誤魔化そうだなんて無茶だったなと……。
五母「ひなちゃんいつからしんどかったの?」
ひな「起きた時から……」
五母「それで起きるの遅かったのね。覗きに行けばよかったわね。ごめんね、気がつかなくて」
言いながら体温計を取ると、
五母「37度7分ね。うーん……」
って、何か考えるようにおでこや首を触られる。
ひな「お母さん……どうしよう……グスン」
そんなお母さんを前に、わたしは堪えてた涙が。
ひな「修学旅行があるのに……また熱出しちゃった……グスン。行けなくなっちゃう、どうしよう……病院もやだ……お母さん助けて……グスン」
五母「ひなちゃんしんどいのね。大丈夫大丈夫。泣かなくていいのよ。とりあえずゆっくり休みましょうか、ね」
と、落ち着いた様子で氷枕やタオルケットを用意して、そのままソファーで寝かせてくれた。
そして、20分ほどウトウトしてると、
五母「ひなちゃん、食欲ないかもしれないけれどお雑炊作ったの。少し食べてみない?」
そう言われて、ローテーブルに置かれたトレーを見ると、美味しそうな卵雑炊が。
食欲はない気がするけど、コクッと頷き身体を起こしてもらった。
レンゲの上で冷ましてくれた雑炊を、お母さんが口の中へ運んでくれる。
パクッ……
モグモグ……
ひな「おいしい……」
ひと口食べたところで、やっぱり食欲がないのはわかった。
それなのに、お母さんのこの雑炊は不思議と際限なく食べれる気がする。
五母「美味しい?もう少し食べられそうかしら?」
ひな「はい」
と、お茶碗半分くらい食べさせてもらった。
お母さんだからか、元助産師だからか、それとも両方だからなのか。
熱でしんどい時に、お母さんっていう存在はこんなにも心強く安心するのかと、その存在の大きさを初めて感じられた。
それから、またしばらくウトウトしてると、
五条「ただいまー」
五条先生が帰ってきた。
五条「ひなぁ、大丈夫か?」
お母さんから聞いてたのか、リビングに入ってくるなり、わたしのおでこに手を乗せる五条先生。
ひな「五条先生……お熱、出ちゃった……」
五条「お熱出ちゃったな。しんどいってお母さんにすぐ言ってえらかったな」
お母さんの存在も大きいけど、五条先生の存在はやっぱり特別。
五条先生の優しい笑顔は、気が抜けるほどホッとする。
五母「悠仁、ひなちゃん少し診てあげてくれる?熱は38度ないし、大丈夫だと思うけれど」
と言って、お母さんが五条先生に小さなメモを渡す。
五条「んー、7度7分……。雑炊少し食べたのか」
お母さんは、わたしの体温や食事のことなんかを、時間と一緒に全部メモしてたみたい。
さすが、看護師免許も持つお母さん。
五条「ひな、ちょっとごめんな」
そう言ってステートを耳につけ、パジャマの隙間から手を滑り込ませる五条先生は、もう医者の顔に。
ひな「病院行くの……?」
五条「そんな顔しなくて大丈夫だから、深呼吸してごらん」
と言われて、深呼吸。
五条「……ん。喘息は出てないな。しんどいけど呼吸は苦しくないだろ?」
ひな「うん」
五条「なら大丈夫だ。ゆっくり寝てればいい」
ひな「病院行かない?治る?」
五条「あぁ、すぐ良くなるよ。ちょっと疲れてるだけだ」
ぽんぽん……
……トクン//
五母「この前のお買い物でたくさん歩いたからかしらね。ひなちゃん、ベッドに移ってゆっくり休む?」
ひな「フリフリ……。お母さん、寂しいからここがいい」
五条「ベッドの方がゆっくり寝れるだろ。抱っこして連れてってやるから」
ひな「やだ、1人になるのやなの……」
五母「あらあら、心細いのね。そしたら、このままここで休みましょう。枕だけ交換しとくわね」
と、お母さんが新しい氷枕に取り替えてくれて、またウトウトと眠りについた。
***
*五条side
夕方、ちょうど飯が出来上がる頃、親父が仕事から帰ってきた。
五父「ただいま」
五条「おかえり」
五父「ひなちゃんは?」
五条「そこで寝てる。起こさないでやって」
と言うと、親父はそーっとソファーへ近づく。
五父「熱はどのくらいあるんだ?」
五条「昼過ぎに起きた時は、7度8分だった。そこからずっと寝てる」
五父「そうか。まぁでも、見てる感じ落ち着いてそうだな」
……って、起こすなって言ったのに、言いながらひなのおでこに手を当てる親父。
ひな「ん……んん…………おとぅ、さん?」
ひなはまだ少ししんどそうにぼーっと目を開けた。
五父「ごめんねひなちゃん。起こしちゃったかな」
五条「だから言ったろ……。ひな?まだしんどいな。ゆっくり寝てたらいいぞ」
そう言って、ひなの頭を撫でてやると、すぐに目を閉じてまた眠りについた。
五条「親父……!ひなは小さいし体力もないから、とにかくよく寝るんだ。寝て回復しようとしてるんだよ」
五父「そうだったか。かわいい娘が心配でつい……」
と、今度こそひなを起こさないように、小声で話しながらダイニングへ。
五父「それにしても、言ってた矢先にひなちゃん熱出したなぁ」
夕飯を食べながら親父が呟く。
五母「あら、そんな話してたの?」
五父「あぁ、つい数日前だよ。病院で悟くんたちと話してた時にね、修学旅行前に熱出すんじゃないかって。案の定だなと思ってね(笑)」
五条「まぁ、今回はすぐ治る。明日にでも熱は下がるだろ。昼は寝てて食ってないが、朝は母さんの雑炊食べたみたいだし。いつもなら2、3口食べりゃいいとこだからな」
五母「夜はお粥を作っておいたわよ」
五条「ありがとう。起きたら食わせるよ」
五父「そういえば、ずっとソファーで寝てるのか?ベッドへ運んでやればいいのに」
五条「寂しいからソファーがいいって、ひなが言ったんだよ。母さんがいるからか、とんでもなく甘えたモードだ」
五母「しんどい時は甘えたいものよ。わたしはひなちゃんが甘えてくれて嬉しいわ」
五条「ひなは母親と過ごした時間が短過ぎたから、母さんしか母親を知らない。ある意味、母さんが本当の母親なんだよ。母さんに会って、母親の存在がどういうものか気づいたんだと思う。それで甘えたくなったんだろな。いつもこのくらい素直に甘えてくれれば楽なのに。母さんに来てもらってよかった」
五母「まぁ。悠仁ったら改まっちゃって」
なんて言ってるお袋の顔は、見たことないほどうれしそうだった。
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