ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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オープンキャンパス②

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五条「で、どうだったんだ?」


ひな「え?」


五条「オープンキャンパス。大学、行ってみてどうだった?」





ノワール国際医科大学。

今日初めて行ってみて、キャンパスも学生も先生たちも、すごくいい雰囲気だなって思った。

カリキュラムも充実してて、さすがはトップクラスの医大だなと、医者になるなら絶対にここで学びたいなって、そう思った。





ひな「……もちろん、素敵なところだなって思いましたよ。こんな環境で学べたら幸せだろうなって。医者になるには最高の大学だなって」


藤堂「そっかそっか。けど、なんか違ったの?」


ひな「え?」


藤堂「ひなちゃん、よかったっていいながら浮かない顔してるから。いいと思ったけど合わないと思ったのか、何か他に思うことがあるんじゃない?」





さすが、わたしの主治医様。王子様。

隠そうと思っても無理だったか。





ひな「あの、実は……なんというか、その……わたしには、無理だと思ったんです。もう医大に行くのはやめようかなって……。医者になるのもやめようかなって思いました」


「「え……?」」


五条「やめるって……どういうことだ?」


ひな「今日医大で会った人たちが、みんなすごく生き生きしてたんです。医者になって病気を治したい、命を救いたいっていう強い志を持ってるのがすごく伝わってきて……わたしもこんな風になれたらいいなって思いました。でも……」





そんな学生の姿やノワールの入学を夢見て来た同じ高校生の姿を見てると、



そもそもわたしなんかが……病気ばっかりで、心臓まで悪いわたしなんかが……医者になんてなれるのか、医者を目指していいのか……。

いや……医者なんて、わたしにはやっぱり無理だ……。



そんな気持ちの方が強くなってしまった。





藤堂「でも……?」


ひな「でも……だからか、わたしがこの中に混ざっていいのかなって思って。ほら、わたしは別に医者になりたい!って思ってるわけじゃないので。医大に入ってみんなと肩を並べるのが申し訳ないなって……」


藤堂「ひなちゃん……」


ひな「すみません。応援してもらってたのに。進路のことは、また夏休みが終わるまでに考えます」





と、メロンパンにかぶりつこうとすると、





五条「ひな。待て、勝手に話終わらすな。ちょっとこっち向いて」





って、五条先生が。



はぁ……また"何言ってんだ"とか"そんなこと言うな"とか、いつもみたいに言うんだろうな。



そう思い、メロンパンをお皿に置いて俯いてたら、





五条「俯かないの。まず顔上げてごらん」





ぽんぽん……





背中に五条先生の大きな手が触れた。





五条「ひな、何が不安なんだ?」


ひな「え?」


五条「今の話、本当は違うだろ。医大に行くのやめようなんて本心じゃない。何が不安でそんなこと言ってるんだ……?」


ひな「ふ、不安とか……そんなんじゃないですよ。本心です。そもそも医者になるなんて、五条先生に言われて成り行きで目指すことになったんですから。自分から医者になりたいと思ったとか、そういうのじゃ、ないんですから……」


五条「最初は成り行きでも、今は違うだろ。きっかけなんかなんでもいい。医者になりたいから、ノワール医大に行きたいから、勉強だってよく頑張ってるんだろ?」


ひな「それは……特に何がしたいとかわたしにはないから。みんながノワール医大行けって言うし、勉強さえして推薦もらえるなら、楽だしそれでいいかなってだけで……」


五条「なら、どうしてオープンキャンパス行きたいって言ったんだ?ノワール医大のこと真剣に考えてたからじゃなかったのか?今日はみんなひなの体調心配してたのに、どうしても行って見ておきたいって言ったのはなんだったんだ?嘘だったのか?」


ひな「……っ」





優しく話してくれてた五条先生の語気が少し強くなる。

わたしは一瞬戸惑って、言葉に詰まってしまった。





五条「なぁ、ひな。さっきからなんでそんな嘘つくんだ……」





また優しい声に戻った五条先生。

でも、わたしが次の言葉を見つけられないでいると、





五条「ノワール医大に入ること、医者になることは、なんの夢も目標もなかったわたしに初めてできた目標だって、そう言ったんじゃなかったのか?」





えっ?





五条「俺や先生たち、お父さんやお母さん、ダディーやマミー、おじいちゃんひいおじいちゃんみたいになれたらいいなって。そう言ったんだろ……?」





そ、それって……





ひな「なんで……わたし……そ、そんなこと五条先生に言ってなぃ……」


五条「俺にはな。でも、夏樹にはそう話しただろ」





……っ!!



なんで……?

進路希望調査があった時に夏樹くんと話したこと……どうして五条先生が知ってるの?

夏樹くん、そんなことも五条先生に話してたの……?





五条「一応言っとくが、夏樹を責めるなよ?夏樹はひながそんな風に言ってたのを、俺が知ったら喜ぶと思って話してくれたんだ。もちろん、そのこと聞いてめちゃくちゃうれしかった。ひながそんな風に思ってくれてるのが、俺は本当にうれしかった」





五条先生、うれしかったってまた2回……。





五条「……ひな、どうしてノワール医大に行くのやめるんだ?医者になるの、どうして諦めようなんて思ったんだ……?」





今朝の怒り狂った五条先生はどこへやら。

その背中に添えられてる五条先生の手が、時折ぽんぽんとしてくれるその手が、本当にずるいよ……





……ポタッ……





顎からテーブルに落ちた雫、





ポタ……ポt……





次の一滴もすぐテーブルに落ちたけど、その次の一滴はテーブルに落ちる音がしなかった。

代わりに聞こえたのは、五条先生の心臓の音。





五条「ひな……」





背中にあった優しい手が頭にも増えた。

わたしをそっと抱きしめた五条先生は、今度は頭を優しくぽんぽん……と。





五条「今日は朝からずっと泣くの我慢してただろ。俺と言い合いしてた時も、心臓の話聞いた時も…。心臓のことが不安で仕方ないんじゃないのか?本当は怖いくせに、また1人で抱えて余計なこと考えて、ひなはなんで素直に言わないんだ……」


ひな「グスン、グスン……五条先生、わかってたの……?」


五条「わかるに決まってるだろ。夏樹だって心配してたんだぞ。ひなのの心が大丈夫じゃないって、わざわざLIMEで言ってくるくらい、心配してくれてた」


ひな「夏樹くんに大丈夫って言ったのに……グスン」


藤堂「今朝の話、つらかったよね。あんな話聞いた後にオープンキャンパス行ったんだから、笑顔のひなちゃんでは帰って来ないと思ってたよ。だからメロンパン買っておいたの。早く笑顔のひなちゃんに戻って欲しくって」


ひな「藤堂先生……グスン」


五条「なぁ、ひな?今のひなの心臓は、検査して手術しないといけない状態ではあるけど、手術すれば良くなるんだ。それなのに、こんな身体で医者になれないとか、医大に行ってもやっていけないとか、そんなこと考えなくていい。1人でマイナスになるな」


藤堂「悠仁が言ったとおりだよ。病気があるとか身体が弱いなんて関係ない。ノワール医大、ひなちゃんは今日自分の目で確かめて、やっぱりここがいいなって思ったでしょ?」





それは……





ひな「思ったけど……。先生も学生もみんなかっこよくて、わたしもここで学びたいって本気で思ったけど……。でも、心臓なんだよ?他にもいろいろ悪いのに、心臓が悪いなんて1番大事なところなのに、壊れたらおしまいじゃん…!手術したって、100%大丈夫じゃないでしょ?完全には治らないでしょ?グスン、グスン……」


五条「ひな」


ひな「そんな身体で本当に医者なんて目指せる?高校さえ休まず通えなかったのに、6年間も大学通ってちゃんと卒業できると思う?仮に卒業して試験に受かっても、ちゃんと医者として働いていけるって…わたしにそんなのできると思う?ヒック……グスン……」


五条「ひーなー?」


ひな「絶対無理でしょ?わたしには無理なんだよ……。自分のことで、自分の身体のことで精一杯なんだからっ。医大入ったって後悔するだけだよ……!グスン、ヒック、ヒック……」


五条「ひなっ!」





……っ。





五条「そんなに一気に喋るな……。酸素足りなくなるぞ?ほら、とりあえず深呼吸して」


ひな「ヒック、ヒック……うぅ……っ……グスン……」





興奮して話し出すといつも止まらなくなっちゃう。

朝は一緒になって興奮してた鬼五条は、もうすっかり大好きな五条先生で、大きな心と体でわたしの気持ちをゆっくりと落ち着かせてくれた。


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