153 / 253
傑と悟①
しおりを挟む~学生食堂~
夏樹「ひなの、大丈夫か?」
七海「朝より顔色悪くなってるけど……医務室行く?」
昼休み、夏樹と傑が心配そうに声をかけてくる。
ひな「ううん、平気。大丈夫だよ」
そう言うわたしは、梅雨に入り変な天気が続くせいか、数日前から調子が悪い。
この前の定期健診の時、
藤堂「ヘモグロビン値が少し落ちてて、気道も狭くなってるね。気を張ってた4月が終わって、緊張の緩む5月は新生活の疲れが一気に出るから。少し気をつけておくように」
と、藤堂先生に言われてた。
その時は、調子良いし大丈夫でしょ!って思ってたけど、さすがお医者様。
藤堂先生が言った通り、5月下旬に入って明らかに体調崩してる……。
夏樹「大丈夫じゃないだろ。藤堂先生に連絡して午後から病院行った方がよくないか?」
ひな「大丈夫だから。午後の講義もちゃんと受けないと」
七海「でも、ひなの食欲も落ちてるよ?今週はうどんばっかりで、今日なんか半分しか食べてない」
って、完全に箸を置いたわたしのうどんに視線を落とす傑。
ひな「き、今日は、朝いっぱい食べたから……」
夏樹「大学生にもなってバレバレな嘘つくなよ……」
と、夏樹は少し呆れた感じ。
ひな「……っ、ほんとだから!だいたい、1年なのに講義休めるわけないじゃん。今日は4限で終わりだし、明日は休みだし、座って聞いてるくらいなんともないってば」
七海「ひなの?気持ちはわかるけど、さすがに1回飛ばしたくらいじゃ影響ないよ。講義なら録音しとくしノートも貸すから」
夏樹「見てる感じ、後で絶対酷くなるパターンだと思うぞ?無理せず今のうちに休んだ方がいいと思うけどな……」
ひな「そんなことないもん!本当に大丈夫だから!!」
と、心配する2人をなんとか押し切って、午後の講義を受けた。
……が、わたし以外のみんなが予想した通り、
フラッ……
4限の講義終わり、わたしはその場から動けなくなってしまった。
「「ひなの……?」」
講義が終わってみんな部屋を出て行く中、なかなか席を立とうとしないわたしの顔を、傑と夏樹が両隣から覗き込む。
夏樹「立てないのか?」
ひな「ごめん……大丈夫だから……ちょっと待って……」
七海「目眩してる?」
ひな「少しだけ……すぐ治るから……」
3限はまだ大丈夫だった。
でも4限の途中からは、正直座ってるのもつらかった。
大学の講義は90分。
この長い講義がやっと終わって早く帰りたいのに、身体がゆらゆらと目眩を起こしてて立ち上がれない。
すると傑が、
七海「ひなの、ちょっとごめん」
と言って、わたしの手首を掴んできた。
七海「……頻脈出てる。ひなの貧血じゃない?なったことある?」
夏樹「うん。ひなのは貧血持ち。喘息もある」
わたしが答えるより先に夏樹が答える。
七海「それなら病院行った方がいい。ひなの今から行こう。車で送るから」
……ん?
く、くるま??
夏樹「は?傑車あんの?」
七海「うん。俺いつも車で来てる」
えぇ!?
大学に車で通うって、そんなことある!?
だから、傑は正門までも一緒に帰ったことなかったのか。
夏樹「はぁ!?車で来てるってマジかよ……20才すげーな……」
七海「そう?他にもいるよ、車通学。駐車場に学生ちらほらいるもん」
夏樹「いやいや、いるかもしれないけど少ないだろ。お前何者だよ……」
七海「それより、早くひなの病院連れて行こう。主治医の先生には連絡取れる?」
夏樹「それなら俺が連絡する。連絡先わかるから」
七海「OK。じゃあ、お願い」
と、わたしは2人に支えてもらいながら傑の車に乗って、大学のお隣、ノワール国際病院へ。
病院に着くと、傑は救急外来の入り口に車を止めた。
夏樹が連絡してくれたから、藤堂先生は外で待ってくれてて、車が着くなり後部座席のドアを開けると、
藤堂「ひなちゃん、ちょっとしんどくなっちゃったね。病院来てえらかったよ」
言いながら、ぐったり座るわたしの首元を触って下瞼をめくった。
ひな「藤堂先生……」
藤堂「うん、もう大丈夫。中でちょっと診てみようか」
と、わたしは抱き上げられて、処置室へ。
藤堂「ひなちゃん、少しチクっとするよー」
ベッドに寝かされたら、聴診されて血圧も測られて、さっそく採血も。
ひな「グスン……」
藤堂「ひなちゃん?どうしたの、痛い?」
ひな「フリフリフリ……」
藤堂先生がしてくれる注射が痛いはずない。
採血して貧血の数値を見るんだなと、そして絶対悪くなってると、自分でもうわかってるから、嫌になって涙が出てきちゃう。
藤堂「もう終わるからね、ちょっと待ってね」
言い終わる時には、もう針を抜いて止血してくれた。
そして、空いた片手で耳へと伝う涙をすくってくれる。
藤堂「泣かなくて大丈夫だよ。目眩すぐ落ち着くからね」
ひな「グスン、グスン……藤堂先生……わたし、また貧血が悪くなってるんです……少し前からしんどくて、食欲も無かったんです……ヒック、ヒック」
藤堂「うん、そっかそっか。だけど、大学休みたくなくて頑張っちゃったか」
ひな「コクッ……。でも、頑張ったらこうなっちゃって……数値、どうせ絶対下がってます……まだ大学始まったばっかりなのに……グスン、グスン……こんなんじゃ卒業できないかもしれない……どうしようっ……ヒック、ヒック、グスン、ヒック」
藤堂「ひなちゃんひなちゃん。大丈夫だから一旦深呼吸しようか。ほら、一緒に呼吸整えよう」
大学は甘くない。
ましてや医大生なんて、とんでもなく大変なことは覚悟してた。
だから、大学では体調崩さず頑張ろうって、病院なんて行かないぞって決めてたのに、やっぱりわたしはダメだった。
ひな「グスン……グスン……ヒック、うぅ……グスン」
藤堂「今から卒業できないなんて、そんな心配しなくて大丈夫。大学は講義も90分になるし、専門的な内容で頭も使うし、今までとは全然違うでしょ?慣れてなくて、少し疲れが出ちゃっただけだから」
ひな「でも、倒れるなんてわたしだけです……みんなは寝れば次の日元気なのに、わたしは酷くなるばっかりで。身体が弱すぎるんです……グスン」
藤堂「そんなことないよ。周りの子と比べないで、これまでのひなちゃんと比べてごらん。随分丈夫になってるよ。ほら、今日だって熱も喘息も出てないでしょ、ね?この土日しっかり休めばよくなるから、そんなネガティブにならないで」
ひな「今日、わたし入院ですか……?グスン」
藤堂「ううん。今日は入院させるつもりないよ。点滴終わったら帰っていいからね。ただ、ひなちゃんも言ってくれたように、貧血の数値はまた下がってると思う。だから、ひなちゃんが毎日元気に大学へ通うにはどうしたらいいか、後で検査結果見ながら一緒に考えようか」
ひな「はい……」
藤堂「うん。そしたら、まずは点滴終わるまでここで少し休もうね」
そう言いながら、タオルケットを掛けてくれる藤堂先生は、いつの間にか点滴を入れてくれている。
気づかないうちにしてくれるなんて、さすがだな。
わたしもこんな先生に、なりたいな……。
なんて思いながら、わたしは少しの間、目を閉じた。
22
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる