155 / 253
王子か鬼か①
しおりを挟む五条「ひな~」
ひな「……」
五条「はぁ……ひ~な~?」
ひな「はい!もうちょっと!」
五条「こら!もうちょっとじゃない!いつまで勉強してるんだ。もう23時過ぎてるんだぞ。早く風呂入らんか!!」
今はもう7月。
わたしは大学に入って初めてのテストを前に、毎日必死で勉強してる。
さっきから、キリのいいところまでと言い続けて3時間以上。
いい加減、五条先生に怒られてしまい、
ひな「す、すみません……!」
急いでお風呂に入った。
ポチャーン……
はぁ……、疲れた。
医大では、単位を1つでも落とせばその時点で留年が決定してしまう。
だから決して赤点なんて取れない。
再試も数回あるにはあるけど、それに頼るわけにはいかないので、一発勝負の気持ちで勉強してる。
あと2週間もないけど、覚えること多くて間に合うかな……
テストが終わったら長い夏休みが待ってるのに、それどころじゃないよ……
はぁ……
と、湯船に浸かりながら1人ため息をついてると、
ひな「ケホッ……」
ぇ……?
ひな「…………ケホッ……ケホッ」
なんだか喉がムズムズすると思ったら、
ひな「ケホケホケホ……」
やばい、喘息出てきちゃったのかも……。
***
——数日後
昼、
ひな「ケホケホッ……」
七海「ひなの、大丈夫?」
ひな「大丈夫」
夏樹「どんどん咳酷くなってない?」
ひな「ううん、なってない」
夜、
五条「ひな、大丈夫か?」
ひな「大丈夫です!」
五条「身体怠いんじゃないか?重力に逆らえませんって感じだぞ」
ひな「なにそれ(笑)!全然だるくないですよ!!」
五条「お前がそのびっくりマーク付けたような言い方する時は大抵無理してる時だ。酷くなる前に今日はもう寝ろ」
ギクッ……
ひな「ほ、本当に元気ですよ!薬もちゃんと飲んでるし、なんともないです!もう少し頑張ってから寝ます!」
そして、深夜。
あれから毎日咳が出るようになり、身体も重くて怠くて、日に日に体調が悪くなるのを騙し騙しやり過ごしてきたわたしは、
ひな「ケホケホッ……ケホケホケホッ……!」
ついに発作が起きてしまった。
ひな「ケホッ、ケホケホケホッ……ハァハァ……ケホケホケホッ!!」
五条「ひな口開けて。いくぞ?」
五条先生が吸入してくれるけど、やり方を忘れたのか上手く吸えない。
ひな「ハァハァ、ハァハァ……ケホケホケホッ!!」
五条「落ち着け。変にタイミング合わせて吸おうとしなくていいから、しっかり深呼吸しなさい」
と言われ、頑張って深呼吸すると、
プシュッ……
上手くタイミングを合わせて吸入してくれた。
ひな「ハァハァ……ハァハァ……ケホッ…………ッハァ……ハァ……」
五条「大丈夫だ。そのままゆっくり呼吸して」
ひな「ハァハァ……ハァハァ、……ケホッ……ハァハァ……ハァハァ」
背中をさすってくれる五条先生に完全にもたれかかって、わたしは荒い呼吸を繰り返す。
ひな「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
五条「そろそろ横になるか?」
ひな「コクッ……」
発作が落ち着きベッドに横になると、五条先生は聴診しながら、
五条「ひな、朝になったら一緒に病院行くぞ」
って。
ひな「やだ、行かない……もうすぐテストだから。勉強しないと……」
五条「ダメだ。熱もあるのに勉強してる場合じゃない」
え、熱?
ひな「熱はないです……」
五条「いいや、ある。おでこも首も熱い。7度7分くらい出てるぞ、測ってみるか?」
と言われたけど、五条先生の手のひらセンサーで十分なので首を横に振った。
五条「どうせ明日は注射だし、とにかく一緒に行くからな。ほら、朝また起こすからもう1回寝なさい。身体休めるのが1番だぞ」
と、しばらく肩をトントンしてもらい、五条先生のベッドで朝を迎えた。
そして、五条先生の出勤と一緒に病院へ来ると、さっそく病室に入れられて診察を受ける。
藤堂「ひなちゃん、大きく深呼吸してー」
こんなにじっくり聴診されるの久しぶり。
真剣に耳を傾ける藤堂先生の顔を見てると、少しずつ少しずつ、眉間にシワが寄っていく……。
藤堂「うーん……ひなちゃん、今結構苦しいでしょ?点滴して今日はもう入院ね。1日安静にするよ。鉄剤も点滴から入れるからね」
ステートを首にかけて、わたしのボタンを留めながらそう言う藤堂先生。
ひな「大丈夫です、そこまでしんどくないです……早く勉強したいので、夜には帰らせてください」
藤堂「それはダメ。喘鳴が聞こえてるし熱もあるの。今日無理したらテスト受けさせないよ。1日じっとしてれば落ち着くはずだから、今日だけしっかり休もう」
と言われてしまい、鉄剤ともう1つ輸液に繋がれて、今日はベッドの上で過ごすことが確定。
とはいえ、このわたしがじっと大人しくしてるわけがなくて、藤堂先生が部屋を出た後、こっそり持って来ていたノートで勉強した。
***
——翌日
ひな「ケホケホッ……」
今日は起きた時からしんどい。
明らかに熱が上がってそうなしんどさ。
昨日は安静にと言われたけど、結局、先生たちが部屋に来ない間はずっと勉強してたし、なんなら消灯後も日付が変わるくらいまで勉強してたから、そのせいかもしれない。
やばい、これは今日絶対退院できない。
退院できないどころか、大人しく寝てなかったことがバレたら怒られる。
どうしよう……どうやってバレないようにしよう……
って、さっきからそればっかり考えてる。
コンコンコン——
祥子「ひなちゃんおはよう~」
ひな「祥子さん、おはようございます」
9時頃になって、祥子さんがラウンドに来た。
祥子「ひなちゃん食欲なかったのね。しんどい?」
あっ……
今朝はご飯を半分くらい残したんだった。
看護助手の人が下げてくれたから油断してたけど、食事量確認されてるに決まってる。
藤堂先生にバレないようにって考えてたけど、その前にまずは祥子さんだ……
ひな「あ、あの……もうすぐ大学入って初めてのテストなので、なんかすごく緊張しちゃって喉通らなくてっ……」
祥子「あら、そんなに緊張してるの?試験はいつからだっけ?」
ひな「3日後です」
祥子「本当にすぐね、それなら早く治さないと。お昼はしっかり食べてね」
と、ここは怪しまれることなくクリア。
祥子「そしたら、お熱測ってくれる?」
ギクッ!
そうだ、ここで検温があるんだった。
やばい……
まだ藤堂先生が来てないというのに、もはやこれが最大の難関かもしれないと、渡された体温計を祥子さんにバレないようゆる~く挟む。
ピピッ……
すぐに脇から取って確認すると、36.9℃の表示。
んー……ちょっと怪しいけど、まぁセーフかな?
と、祥子さんに渡すと、
祥子「36度9分ね。ありがとう。そしたら血圧測るわね」
と、第二関門もなんとかクリア。
だけど、
祥子「うん……?ひなちゃん腕すごい熱いわね」
ひな「え?」
あ、やばい。
バレる……?
えっと、えっと……
ひな「あ、祥子さん来るまでずっと布団にくるまってて、冷房で少し寒いな~なんて、腕を背中の下に挟んでたんです!そ、それでかな?」
と、とんでもなく意味不明な説明をするも、
シュッ……シュッ……シュッ……シュッ……
祥子さんは何も言わず真剣に血圧を測ってて、
祥子「うん。血圧は問題ないわよ。大丈夫みたいね」
って。
はぁ……よかった、危なかった……。
と、第三関門も無事突破したところで、
コンコンコン——
藤堂「ひなちゃん、おはよう」
ラスボス、藤堂先生のご登場。
さぁ、既に一山越えた感じではあるけれど、本当の勝負はここから。
藤堂先生の目をうまく掻い潜ることができるか……
22
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる