158 / 253
トラウマの火種①
しおりを挟む——数週間後
ブーン……ゴォー……サァー……
ひな「ゲホゲホゲホッ……ゲッホ……ゲホゲホッ!!……ハァハァ……」
藤堂「ひなちゃんあと少しだよ。頑張って」
只今、お昼の吸入タイム。
昼と夜に毎日これをやらされるなんて、わたし本当にかわいそう。
もはや吸入が嫌だから早く退院したいって感じ。
ひな「ハァハァ……ケホッ…………ハァ……ハァ……」
藤堂「ひーなちゃーん?鼻つまんで欲しいの?」
ギクッ……
大人になってきたら、ネブライザーもマスクじゃなくてマウスピースになった。
これを疲れてきたからって口から離すと、藤堂先生に鼻をつまんで押さえられ、逃げられないようにされちゃう。
そうなるともう息ができなくなるから、
ひな「フリフリフリ……!!」
全力で首を振ってマウスピースを咥え直した。
藤堂「はい。ひなちゃんお疲れ様」
吸入終わりは相変わらずどっと疲れる。
なんなら、中学生の頃なんかより疲れがひどくなった気も。
藤堂「ひなちゃんはもう少し吸入上手になるといいんだけどな。吸入ってそんなに苦しくて疲れるものじゃないはずだけど……」
それはどうも、下手で悪かったですね!
まったく、藤堂先生は王子かと思えば鬼になって、また王子になって、鬼になって……。
昔に比べたら鬼になる頻度が高くなった気がするし、お願いだから王子様でいてくれないかな。
なんて思いながら藤堂先生と病室に戻ってきたら、軽く聴診だけしてもらい、
藤堂「胸の音はかなり落ち着いてきたね。発作も減ってるし、楽になってきたんじゃない?」
ひな「はい。そろそろ退院できますか?」
藤堂「うーん、それはまだかな。ひなちゃん、体重2kg落ちたの全然戻らないし」
うぅっ……
ほらまた鬼だ。
すぐ鬼の仮面被っちゃうんだから……。
ひな「頑張って食べてるのに増えないんです……」
と話してると、
コンコンコン——
「「ひなのー!」」
傑と夏樹がやって来た。
ひな「傑!夏樹!2人ともどうしたの!?来るなら言ってよ!」
藤堂「あれ?ひなちゃん聞いてなかったの?」
ひな「藤堂先生知ってたんですか?」
藤堂「今日2人がお見舞い来たいって言うから、いいよってね」
夏樹「は?ひなのにも今朝言っただろ?」
ひな「え?」
七海「LIMEしたよ?ひなの"待ってる"って返事くれてたじゃん」
あ……ほんとだ、そうだった。
さっきの吸入で疲れてすっかり忘れてた。
ひな「ごめん、忘れてた……」
夏樹「大丈夫かよ……まだ相当やばそうだな。また痩せてるしな」
七海「うん、痩せたね……さらに小さくなった」
ひな「もう!2人ともお見舞い来てそんなこと言わないで!」
藤堂「ははっ。みんな仲良いね。そしたら、僕はこれで失礼しようかな。あ、何か飲み物でもいる?2人手ぶらで来たんでしょ」
夏樹「いや、下のカフェでも行こうかなって思って来たんだけど……つってもあれか、ひなのカフェとか行っちゃダメな感じだった?」
ひな「え、行きたい!!藤堂先生、行ってもいいですか?」
藤堂「1、2時間なら行ってきていいよ。しんどくなりそうなら戻っておいで」
ひな「わかりました!!」
と、ベッドから降りて行こうとすると、
藤堂「あ、ひなちゃん待って。カフェ行くんだったら……はい、これ使って」
と、藤堂先生から渡されたのは、黒く輝くクレジットカード。
ひな「え……ブ、ブラッ……これ、藤堂先生のカード……?」
藤堂「うん、そうだよ」
そうだよって……
五条先生も買い物の時はいつもブラックカードで支払いしてるから、ブラックカードがどういう物かはもう知ってる。
それをスッと出して、"はい、千円あげる"みたいな感じで渡してきたけど……
いやいや、えぇっ!?
ひな「も、申し訳ないです……!わたし、五条先生にもらってるお小遣いありますし!」
藤堂「いいのいいの。せっかくだからね。3人ともそれで好きなもの買って、ゆっくり話しておいで」
七海「やったー!さっすが悟くん!ありがとう!」
いや、傑!少しくらい遠慮しなよ!
……って、ん……?
傑、藤堂先生のこと悟くんって言った?
そういえば、2人って今日初めて会うはずなのに、全然違和感なく馴染んでる……。
藤堂「いいえ。ひなちゃんまだ疲れやすいから、無理だけさせるなよ。もし人多かったら、買うだけ買って病室戻って来な」
え?
藤堂先生の話し方、突然変わった……。
七海「Got it!! ひなの、行こう!」
ひな「え?あ、う、うん!藤堂先生、ありがとうございます……!」
と、わたしたち3人は3階に入るカフェへ。
カフェにはそこそこ人がいるけど、混んでるというほどでもない。
各々好きな飲み物を買い、端の方のテーブルに着いた。
ひな「なんか、久しぶりだね!2人とも来てくれてありがとう」
最後に3人で会ったのがテスト前で、カフェでお茶なんてするのは数ヶ月ぶり。
病室からも出てなかったし、こうして2人と会って話せるのがうれしい。
夏樹「ひなの、身体どう?大丈夫なのか?」
ひな「良くはなってきてるの。ただ、退院はまだ無理だって。喘息治して体重増やさなきゃ。貧血もあるし」
七海「夏休み中には退院できそう?」
ひな「できるように頑張る。でもきっとギリギリになるよ。ごめんね、3人で夏休み遊ぼうって言ってたのに、ずっと入院で……」
夏樹「気にすんな。また来年はいっぱい遊ぼう。な?」
ひな「うん、ありがとう。あ、そういえば夏樹、再再試いけたの?」
夏樹「なんとか……」
七海「ひなのは入院しながら再試1つだったのにね。再試2つも落とすって(笑)」
夏樹「なんだよ、2人が頭良過ぎんだよ!」
ひな「わたしは良くないよ。傑は再試ひとつもなくてすごい!」
七海「成績悪いと悟くんにぶっ飛ばされそうだから、それなりに頑張った(笑)」
と、まずはお互いの近況報告から始まり、
ひな「えぇ!?藤堂先生って傑の叔父さんなの!?」
夏樹「今頃かよ。藤堂先生から聞いてなかったのか?」
ひな「聞いてないよ!苗字も違うし全然気づかなかった!」
七海「母親が悟くんと姉弟だからね。結婚して苗字変わったけど、旧姓は藤堂だよ」
ひな「そっか、通りでいろいろと……そういうことだったんだね……納得した!」
七海「納得したってなに(笑)」
と、傑と藤堂先生のびっくりな関係も知り、
「「はぁ!?嘘だろ!!?」」
ひな「しーっ!!ちょっと……!2人とも声大きい……っ!!」
今度は何の話かというと……
七海「ひなの、本当に1回もないの……?キスしたこと」
ひな「あああ、あるわけないじゃん……っ!ななな、ないよ、ない!キ、キキっ、キス……/// したことなんて……っ!!!」
夏樹「いや、落ち着け。どんだけ顔真っ赤にしてんだ、ガキかよ」
七海「キスだよ?キス。ひなの、キスって何かわかる?」
ひな「そのくらいわかるってば……っ!!」
どういう流れだったか、傑はアメリカに彼女がいるって話から恋バナになって、夏樹もバイト先で彼女ができたなんて言うもんだから、必然と次はわたしの番。
そしたら、なぜかこんなことに……。
21
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる