ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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ひなのウイルス①

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*ひなのside





——数日後





どうしよう……

どうしよう、どうしよう、

どうしよう……





時刻は午前5時。

まだ外も真っ暗なこんな時間に、わたしはこの上なく大慌て。





だって……

だって、だって、

だって……





五条「ゴホゴホゴホッ!……ゴホッ、ゴホゴホッ!」





五条先生が風邪を引いたから。










***



ん……んん~……、ん?





ふと目が覚めると、隣に五条先生がいなかった。

時計を見るとまだ5時前。

トイレでも行ったかな?としばらく目を閉じて待ってても、一向に戻って来る気配がない。

昨日の夜は五条先生といろいろ話をしたのもあって、間違いなく一緒にベッドへ入ったし、今日は仕事が早いとも言ってなかった。

なのに、どうして隣にいないんだろう。





五条……先生……?





不安になって、リビングやトイレに行ってみても、五条先生の姿は見当たらない。





五条先生……どこ……?





不安MAXになったわたしは、とりあえずスマホを取ろうと寝室へ戻りかけた時、





"ゴホゴホッ……"





誰もいないはずのゲストルームから微かに音がした。





え……?





人が泊まりに来ないと使うことのない部屋に誰かいるなんて、一瞬背筋がぞわぞわっ……としたけれど、





ガチャッ——


ひな「五条先生……?」





がいること以外ありえないかと、そーっとドアを開けると、





ひな「五条先生……!?」





やっぱり五条先生だった。





ひな「五条先生、どうしたんですか!?」





一目散にベッドへ駆け寄ると、横になる五条先生の背中をすぐにさすってあげる。





五条「ひな……っ、ゴホゴホッ……」


ひな「だっ、大丈夫ですか!? いやいやいや、大丈夫じゃないですね。おお、落ち着いて、えっと、ゆっくり深呼吸してください……!」


五条「いや、俺は落ち着いてるからお前が落ち着かんか……ゴホッ。手、震えてるぞ?……ゴホゴホッ……」


ひな「え!? あわっ、す、すみません!」





と、慌てて手を離す。

すると、





五条「黙ってこっち来て悪かったが、これたぶん風邪だから。移すとまずい、ひな寝室戻れ……ゴホゴホッ」





って……。





ひな「そんな……風邪で苦しむ五条先生、放っておけないです……!」


五条「ダメだ。大したことないし、そんなしんどくもないから。ひなはこの部屋入って来るな……ゴホゴホゴホッ」


ひな「大したことないならそばにいさせてください。大したことあるから自主隔離したんでしょ?それに、こんなに咳が出てしんどくないわけないですよ……顔だってすごく赤いのに……」





と、五条先生のおでこに手を伸ばそうとすると、





五条「ひな……っ!」


ひな「……っ」





五条先生にその手を掴んで止められた。





五条「俺は大丈夫だから、ひなは寝室戻りなさい。ひなに移ったら大変なんだ……頼むから、少しの間だけ離れてくれ。ごめんな、俺は寝たらすぐ治るから。な?まだ朝早いだろ、もう少し寝ろよ」





ぽんぽん……





ひな「五条先生……」


五条「ゴホゴホッ……ほら、早く行け……」


ひな「……」


五条「ひな」


ひな「……やっぱり、わたしここにいr」


五条「ひなっ。言うこと聞かないと怒るぞ……??ゴホゴホッ。ほら、しんどいのに怒らせるのか?ゴホッ……!」


ひな「……わかりました。何かあったら、すぐ呼んでください」










***



——数時間後





今日は大学の講義が2限から。

寝室に戻った後、眠れないけど目を瞑ってて、身体を起こしたのは9時前。

顔を洗って、着替えて、朝ごはんを食べようとリビングへ行く途中、五条先生がいるゲストルームの前で足が止まった。





ひな「……」





さっき五条先生に手を掴まれた時、五条先生の手がすごく熱かった。

きっと熱があるんだろうけど、わたしに隠そうとして、おでこを触らせなかったんだと思う。

五条先生が寝込むなんて初めてだから、心配で心配で仕方ない。





ひな「五条先生……」





部屋に入るなと言われたけれど、気になって気になって。

ドアに耳をくっつけてみるも何も聞こえず。





……生存確認は、ありだよね?





あんな風に追い返された手前、一応そんな理由をつけて、五条先生にバレないようにそーっとドアを開けた。





五条「スー……スー……」





部屋を覗くと、どうやら五条先生は寝てるみたい。

足音を立てないように、これまたそーっと部屋に入って近づいてみる。

すると、さっきは気づかなかったけど、枕元に体温計と飲みかけのスポーツドリンクが置いてあった。

自分で熱測って、スポーツドリンクも飲むなんて、





やっぱり、熱あるんだよね……。





"隠すな"とか"嘘つくな"とかって人にはいつも言うくせに、自分だって隠すしバレバレじゃん……。

と、頬をぷくっと膨らませつつ、五条先生の熱を測ってみようと体温計を手に取った。

だけど、体温計なんか使ったらさすがに起きるかと思い、息を殺してそーっとおでこに手を当てると、





……っ!!?





今まで自分が熱を出した時に触ってきたどのおでこより、熱かった。





五条先生……すごい熱……





こんな五条先生、やっぱり放って置けるわけない。

移ったら大変って言うけど、そもそもわたしの風邪が治ったと入れ変わるように、熱が出て、咳が出て、





これって、完全にわたしが移してるんだよ……。





わたしが移した風邪ならば、もし五条先生から移っても、それは移ったんじゃなくて帰って来ただけ。

ウイルスさんに"おかえりなさい"って言うから大丈夫。

五条先生がなんと言おうと、治るまでそばにいたい。

わたしが看病して治してあげる。



そう決意したわたしは、





"おはよう。ごめん、今日大学休む。"





夏樹と傑にLIMEを送った。





"おはよう!"
"了解、大丈夫か?"

"体調悪くなっちゃった?"
"あたたかくしてゆっくり休みなね。"





LIMEを送ると、すぐに2人とも返事をくれて、





"わたしは大丈夫"
"五条先生が風邪引いたの"





と返し、スマホの画面を閉じた。










それからわたしは、体調が悪い時に五条先生がいつもしてくれることを、いつもしてくれるように、しようとしたんだけど……





あれ、タオルってただの水で絞ればいいんだっけ?それとも、氷水で濡らしてる?

わたしのお薬カレンダー……じゃなくて、五条先生がたまに出してる救急箱だ。そこに確か常備薬が入ってるんだよね。って、その救急箱は一体どこ??

お粥って、作るのに結構時間かかるんだ……。それに、五分粥とか七分粥って何?この前五条先生が作ってくれたの、何分粥だったんだろう。今の五条先生にはどのレシピで作ってあげたら……。





いざ自分でやってみると、冷たいタオルひとつ作るのもどうしていいかわからない。





ひな「……はぁ、しっかりしなきゃ」





いかに五条先生に甘えてきたか、五条先生が甘えさせてくれてたか、そんなことを今思ってても仕方がない。



頭使って考えないと。



気を取り直すように、頬を両手でパチパチ叩いて気合を入れて、





ひな「えっと、まずタオルは……」





……そもそも今の時期って、普通の水が氷みたいに冷たいんだからそれで大丈夫か。

それにおでこ熱いのに、氷水だと冷た過ぎるよね。

というか、もうどっちでもいいから早く冷やしてあげないと!





と、まずは水道水で濡らして絞ったタオルを五条先生のおでこに乗せてあげた。



それが終わると、次は救急箱探し。

さっき見てみたところも含め、もう一度、思い当たるところを探してみる。

けれど、ありそうな場所はどこを見てもやっぱりなくて、





よし、薬はまた後で探すことにして……

先にご飯作ってあげよっ!





と、救急箱は一旦諦めキッチンへ。










うーん、冷凍ごはん無いな~……。





本当はお粥を作りたかったけど、時間がかかりそうなのと、あの何分炊きもよくわからずで、雑炊にしようかなと冷凍庫を開けた。

でも、こんな時に限って冷凍ごはんをストックしてなくて、結局うどんを作ることに。



鍋に水を入れて、火にかけて、沸騰したお湯の中へうどんを投入。

表示時間より少し長めにタイマーをセットして、まだ踊り出さない鍋のうどんを菜箸片手にじーっと見つめる。





五条先生、大丈夫かな……。

病院行った方がいいのかな……。

でも、わたしじゃ連れて行ってあげられないしな……。





そんなことを考えながら、お鍋のうどんを一度舞わす。





わたしの薬じゃダメなのかな……?

って、ダメなんだろうな……。

あの救急箱、どこにしまってあるんだろう。

パブリンとかバファロンとか、葛根湯も入ってたと思うんだよね……。





と、記憶を辿っていると、





あっ!あそこにあるかも……!





ふと、まだ見ていなかった場所を思い出しリビングに。










あれ……おかしいな~、確かここに……。





いつか、五条先生がここに救急箱をしまう光景を見たことがある。

せっかくそれを思い出したのに、救急箱は見当たらない。





はぁ……、どこ行ったんだろう……。





と、またしつこく探しまわり、ダイニングにあるラックを見ていると、キッチンから突然、





ジュジュッ……ジュジュジューッ!!





という音が。





ひな「うわわぁぁわあわ!!」





何が起きたかなんて、言うまでもない。

うどんを茹でていたのを忘れ、救急箱探しに没頭していたら、お湯が思いっきり吹きこぼれた。





ひな「あーーっうわわわ!!待って待って待って、待って、痛"っ……ぃったぁー!!!」





ダイニングテーブルの脚に小指をぶつけながら、それはそれは急いでキッチンに行き、もう消えてるけども火を止めて、吹きこぼしたお湯をふきんで拭く。

すると、





ひな「熱っ!!」





吸収の追いつかないお湯どもが、ふきんに押し出されるように、床の上の、わたしの足の上に流れ落ちた。

そしてさらに、





ひな「熱っ!!」





その足を避けた拍子に、意識が逸れた手元にも熱湯がかかってしまった。


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