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ひなのウイルス②
しおりを挟むひな「熱っ……ぃ……」
コンロも床も水浸し。
手も足も痛くて真っ赤。
もう……
なんで……
なんで……こうなるの……?
早く手と足冷やさないと。
こぼれたお湯も拭かないと。
そんなことはわかってるんだけど、
ピピピピピピピー……
うどんではなく、わたしがこうなるタイミングを計ってたのか……というタイミングでタイマーが鳴り響き、それがまるで、ゲームオーバーを告げられてるような、冷やかされてるような、煽られてるような……
なんだかそんな風に聞こえて、もうほんと嫌になっちゃって、その場でぼーっと立ち尽くした。
するとそこに……
ガチャ——
藤堂「ひなちゃー……ひなちゃん??」
リビングのドアを開けて入って来たのは、五条先生でなく藤堂先生。
キッチンで立ち尽くすわたしに、藤堂先生はすぐに駆け寄ってくれて、
藤堂「ひなちゃん!?どうしたの!?」
わたしと違って瞬時に状況を把握し、そう言うのと、タイマーを止めるのと、わたしを抱き上げるのとを同時にして、わたしをバスルームに連れて行った。
藤堂「ひなちゃん、冷たいけどちょっと我慢するよ」
わたしをバスタブの淵に座らせて、自分の服が濡れるのはお構いなしにしゃがみ込み、手足を水で冷やしてくれる藤堂先生。
「熱かったね。痛い?ヒリヒリする?」
「どうして火傷しちゃったの?何作っててやっちゃった?」
「身体冷えちゃうね、寒くない?ごめんね、もう少し冷やさせて」
わたしはそうしてくれる藤堂先生のつむじを返事もせずにぼんやりと見つめる。
すると、
藤堂「びっくりしたよね。もう大丈夫だよ。ひなちゃん、1人で頑張ったね」
って、顔を上げた藤堂先生と目が合って、優しい声に優しい顔に、張り詰めてたものが一気に緩み、ぶわわっと涙が溢れ返った。
ひな「藤堂先生……わたし……グスッ」
朝からずっとずっと不安だった。
何もわからなくて、何もうまくできなくて、こんな失敗しちゃって……
1人じゃどうしようもできないと、完全にフリーズしたところに藤堂先生が現れて、
あぁ、助けが来た……
って、ものすっごくホッとした。
ひな「五条先生がいなくて、咳してて、熱出て……ヒック、タオルもわかんないし、救急箱もないし、うどん忘れちゃうし……ヒック」
こう一生懸命に言われても、藤堂先生は何のことやらなはずだけど、さすがわたしの主治医様は、これだけで大方わかってくれたみたいで、
藤堂「そっかそっか。不安だったのにえらかったよ。よく頑張りました。もう大丈夫だからね」
と、今なお手と足を冷やしてくれながら優しく微笑んでくれて、その微笑みは王子様でなく神様みたいな、もはや聖母マリア様かと思うくらい、神々しかった。
そしてリビングへ戻ると、ソファーで手当てをしてもらいながら、藤堂先生が来るまでのことを今度は落ち着いて、順を追って話をした。
藤堂「火から目離しちゃったのか。ひなちゃんその辺りはしっかりしてるのに……悠仁が倒れて、よっぽど気が動転してたんだね」
ひな「ごめんなさい……」
藤堂「悪いことしたんじゃないから謝らないよ。だけど火は危ないから、次からは気をつけようね。不安な時や気持ちが逸ってしまう時は落ち着くんだよ。それから、1人でなんでもしようとしないこと」
ひな「はい……」
藤堂「よし、そしたらこれで様子見ようか。それにしても、救急箱どこ行ったんだろうね。ひなちゃんの言うとおり、悠仁はいつもここにしまってたんだけどなー……」
火傷したところに薬を塗って包帯を巻いてもらったら、藤堂先生もわたしが思ってたところに救急箱があったはずと言いながら、ディスプレイラックの中を開ける。
だけど、そこにはもちろん置いてない。
藤堂「うーん、仕方ないな。後で悠仁に聞こうか」
と、噂をすると、
ガチャッ——
五条先生が起きてきた。
五条「……え?藤堂先生っ、どうしてうちに??」
リビングのドアを開けた五条先生は、いるはずのない藤堂先生がここにいて、状況がわかりませんって顔してる。
わたしもそれどころじゃなかったから今さらだけど、そういえば、どうして藤堂先生うちに来たんだろう……?
藤堂「ごめん、勝手に来て。今朝早く、悠仁休むって職場に連絡してきたでしょ?当直で寝てたら、"緊急事態ですっ!五条先生風邪引いて休むって!"って神崎先生からLIMEがきて、そしたら傑からも、"五条先生が熱でひなのが大学休むって言ってきた"ってLIMEきたから、確かに緊急事態かなと思って」
そうか……五条先生、わたしがゲストルーム行った時には仕事休むって連絡してあったんだ。
それで藤堂先生心配して来てくれたんだ。
って、五条先生、仕事休むくらいやっぱりしんどかったんじゃん。
嘘つき。むむぅ~。
藤堂「で、悠仁具合はどう?」
五条「余裕です。すみません……当直明けでお疲れのところだったのに、ありがとうございます。……で、ひな。お前はなんでまだここにいるんだ?」
え?
藤堂先生の横で頬を膨らませてたら、五条先生の鋭い視線が突然こっちに向くから、わたしは焦って固まってしまった。
五条「大学は?」
ひな「……休みました」
五条「それはもうわかってる。藤堂先生が言ってくれたことを2度も言うな馬鹿。なんで休んだのか聞いてんだ」
って、赤い顔して、本当に鬼みたいな顔になって、口達者にめっちゃ睨んでくるけど……
ひな「行けるわけないですっ!! 五条先生がしんどい時に、落ち落ちと大学なんて行けないですよ……」
五条「何言ってんだ。貴重な大学生活だろ、休むなよ……」
ひな「そんなこと言わないでよ。大学も大事だけど、五条先生はわたしを放ったらかしたことなんて一度もないじゃん。わたしだって、五条先生がしんどい時はそばにいたい……」
五条「寝てれば治るって言っただろ?ひなとは違うんだから……それとこれ。部屋入って来るなって言ったよな?」
と、今度はわたしがおでこに乗せてあげたタオルを片手に掲げる。
ひな「それは、生存確認しただけです!」
五条「はぁ?こんなことで俺が死ぬかよ。はぁ……」
そして呆れたようにため息を吐きながら、わたしが気づいて欲しくなかったことに、五条先生は気づいてしまった。
五条「……で、その手と足はどうしたんだ?」
ギクッ……
ひな「これは……なんでもありません」
五条「なんでもないのに包帯ぐるぐる巻きなわけあるか」
藤堂「大丈夫だよ、悠仁。ちょっと火傷しちゃったんだよね」
なっ……!
藤堂先生っ、言わないでよ……!!
なんで言っちゃうかな……。
と思ったら、五条先生は今にもキッチンへ向かおうとしてる。
ひな「あ、待って!そっちは行かないで!!」
藤堂「あ、ひなちゃん!足痛いでしょ、こけるよ!」
言う藤堂先生はガン無視で、慌てて五条先生を追いかける。
だけど、
ひな「お願い!見ないで!!」
って、五条先生の背中を掴んでも、時すでに遅し。
まだ水浸しのコンロや床に、鍋底に悲しく沈むうどんも、全部見られてしまった。
ひな「ごめんなさい……」
ポタッ……ポタッ……
失敗を見られたこと。
これから怒られること。
どっちも嫌で俯くと、
右……左……
と、涙が一粒ずつ床に落ちた。
すると、
五条「はぁ……ひな……」
五条先生が服の裾を握りしめるわたしの手をとって振り向いたので、
ひな「五条先生のために頑張りたかったの……いつもしてくれるみたいにしようとして、できなくて失敗したの。ごめんなさい……」
頭の上に怒号が降ってくるだろう。
そう思って謝ったら、
五条「ひなは優し過ぎて一生懸命過ぎる……それと、俺に夢中になりすぎだ。何もしてくれなくても、その気持ちだけで最初から十分なんだぞ。俺のせいでケガさせたな、ごめんな」
って、五条先生の優しい声と手が頭の上に舞い降りた。
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