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胸のざわつき①
しおりを挟む——ということで。
翌日からわたしのリハビリがスタート。
リハビリと言っても、朝起きて、3食しっかり食べて、夜きちんと寝る。
まずはこの基本中の基本を頑張りましょうと。
8月が終わるまでの数日間は、お母さんが毎日付き添ってくれていた。
食事やトイレの介助なんかは全部お母さんがしてくれて、診察の時になると必ずわたしの手を握り、
五母「ひなちゃん大丈夫よ。怖いわよね。すぐ終わるからね」
って、声をかけてくれてたから、聴診や傷の確認といった毎日のルーティーンは乗り切れるようになったし、尿カテの抜去なんかも大暴れはせずに済んだ。
9月になってお母さんとお父さんがアメリカに戻ってからは、五条先生がずっと付き添ってくれている。
病院なのに、毎日私服な五条先生はなんだか新鮮。
仕事は?って聞いたら、俺は今いない予定だったんだから大丈夫だと。
じゃあ1年間仕事しないのかって、もちろんそんなことはないけれど、仕事は様子を見て始めるからと、しばらく休暇を取ってくれた。
最初は食事を喉に通すだけで精一杯で、自分で食べようにもスプーンを握れず落としちゃうし、誰かの支えなしにベッドを降りたら転けちゃうし。
ひな「ぅっ……ヒック……ごじょうせんせっ……グスン」
何度も何度も泣いたけど、その度に五条先生が、
五条「大丈夫大丈夫。ひな毎日頑張ってるから、心配しなくても絶対に良くなる。俺がついてるから、ゆっくり頑張ろう」
って支えてくれて、1ヶ月経つ頃には随分と調子が戻ってきた。
でも、本当に大変なのはここからだったようで……。
***
*五条side
コンコンコン——
院長「どうぞ」
「「失礼します」」
夜9時。
数時間前に院長から呼び出しがあり、藤堂先生と工藤先生と院長室に来た。
院長「うん?随分早かったね。ひなちゃん寝たの?」
時計を見て首を傾げる院長。
ひなが寝てからでいいと言われてたんで、消灯前に来るのは予想外だったんだろう。
でもひなは、
五条「はい。久々にシャワーを浴びたらさっぱりしたようで、今日は寝付きが良くぐっすりと」
既に就寝済み。
院長「うん、それならよかった。座って」
院長がソファーに座り、俺たちもソファーに失礼すると、
院長「前から話してた件だけど、今日、また警察から連絡があってね。そろそろ、ひなちゃんに話を聞けないかって」
と、さっそく院長が。
事故後、捜査の関係でひなに事情聴取させて欲しいと警察から言われている。
当然、心身ともに落ち着いてからという話だったが、計ったようにここ数日連絡が来ているそうだ。
工藤「身体の調子は良くなってきています。回復したと言うには程遠いですが、順調とは言える状態です」
院長「うん、ありがとう。そしたらどうだろう。近いうちに、来てもらうことにしていいかな?ひなちゃんの聴取がマストである限り、こちらとしても早く済ませた方がいいと思ってね。五条先生はどう思う?」
五条「工藤先生が仰る通り、経過は今のところ順調です。身体の調子は日に日に良くなっていますし、毎日笑顔も見せてくれます。ただ……」
院長「ただ?」
五条「以前と比べ、音に対してかなり敏感になっているので、そこが少し気掛かりです。本人は自覚がなさそうですし、事故について何か思う様子も今のところないのですが……」
院長「PTSDの心配があるんだね」
五条「はい……」
このところ、ひなはちょっとした音にも過敏になっている。
最初は、病室のドアがノックされる度にビクッとするので、ん?と思いつつ、単に診察や処置が嫌なんで、先生達が来たことに怯えてるのかと思ってた。
が、スマホの着信音や通知音にも驚いたり、この前は俺がボールペンを落としただけでビクッと肩をすくめたり。
今まで何ともなかったはずのことに、過剰反応するようになった。
ひなの中に何かしら潜む事故のトラウマが、事情聴取によって大きく深くなるんじゃないかと、なんとなく悪い方へ向かう気がして胸がざわつく。
藤堂「PTSDの兆候があるのなら、事情聴取が発症の引き金になることは十分に考えられます。ですが、このまま先延ばし続けるわけにもいかないと思いますので、まずは、ひなちゃん本人に警察と話が出来るかどうか聞いてみて、ひなちゃんが頷けば、我々も同席の上ということで進めてもよろしいでしょうか?」
院長「うん、異論ないよ。そしたら、その方向でいこう。警察には返事を数日待つように伝えてあるから、ひなちゃんと話をしたらまた報告して」
「「承知しました」」
***
*ひなのside
——数日後
五条「ひな大丈夫か?話せないと思うなら無理しなくていいんだぞ」
ひな「いえ、大丈夫です」
今日はこれから警察の人が来て、事故の事情聴取を受ける。
事情聴取だなんて、最初は女の子を突き飛ばしたから逮捕されるのかと思い、
ひな「わたし、逮捕されるの……?わざとじゃなかったの。怪我させるつもりもなくて、あの時はほんと咄嗟に動いちゃっただけで……」
と、半泣きになってたら、
五条「馬鹿。そんなわけあるか。今回の事故でひなは完全に被害者だ。被害者として話を聞きに来るだけだから、ひなが科されることは絶対にないぞ」
だって。
それでも、警察の人と話すなんてやっぱり不安で、
ひな「大丈夫ですけど、少し緊張します……」
と言うと、
五条「聴取の間は、俺も藤堂先生も工藤先生も付いてるから。安心しろ」
って、手を握ってくれた。
***
警察「最初に自転車が走っていた位置は、この辺りで間違いないですか?」
ひな「はい」
警察「この時、栗花落さんはここに立っていて、女の子はここにいた。これも間違いありませんか?」
ひな「はい」
警察「では、栗花落さんがここからどのように自転車と接触したのか、説明をお願いします」
ひな「はい。え、えっと……まず、自転車がここでこっちに向きを変えてきて……それで、えっと、女の子がここにいたから、わたしはここからこう……」
そして、約束の時間になり事情聴取がスタート。
実況見分や夏樹と傑、他の被害者の事情聴取は終わっているらしく、わたしは既に作成された調書をもとに事実確認や詳細部分を聞かれてる。
やって来た警察官は、スーツをビシッと着た男女2人組。
警察手帳を見せる感じとか、淡々と話す感じとか、最初はビビりまくりでビックビク。
だけど、拙い説明でもしっかり聴いてくれるし、男性はメモを取るのに専念して、わたしと話さないようにしてくれてるし。
警察って、思ってたより怖くない。
それに、先生たちが約束通り隣にいてくれてるから、始まる前の不安を余所に、事情聴取は至って順調。
なはずだったのに……。
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