ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

文字の大きさ
210 / 253

すれ違い①

しおりを挟む


*ひなのside





——5日後





コンコンコン——





藤堂「ひなちゃん、こんにちは」


ひな「失礼します……」





大学が多忙を極める中、最近はずっと週1で病院に通っているわたし。

午前の講義が終わり、午後からの講義の合間で今日も藤堂先生のところに来た。

すると、





藤堂「うん?ひなちゃんどうしたの、元気ないね。悠仁と何かあった?」





わたしが椅子に座るなり、藤堂先生はそう言って、ドクターチェアごとわたしに近づく。





ひな「……っ、いえ、何もないです。元気ですっ……」





どうして五条先生と何かあったってバレたかな……





実は、あれから五条先生となんとなく気まずくて……。

LIMEのやり取りは本当に必要最小限だし、家でもほとんど話さず、なんとなくお互い距離を置いている感じ。

あれがあって五条先生が嫌いになったとか、決してそういうのじゃないけれど、少しだけ、五条先生にどう接していいのかわからなくなってしまっている。





藤堂「本当?ひなちゃんのこの顔は、悠仁と何かあった時の顔なんだけどなー……」





言いながら、藤堂先生は早速首のリンパを触り、下瞼もチェックして、





藤堂「胸の音もね」





と、聴診も済ませて。





ひな「あれ?祥子さんは……?」


藤堂「祥子ちゃん、患者さんのお世話で外来に降りて来られなくて。注射も今日はこのまま僕がするね」





気づけばわたしはベッドの上で、





藤堂「ひなちゃん、いくよー?……うん、もう手の力抜いていいよ。今痛くない?」


ひな「大丈夫です」


藤堂「うん、そしたら少しこのままね」





注射の針を腕に刺された。










藤堂「五条先生もね、ここ数日元気ないよ。」


ひな「えっ?」


藤堂「ひなちゃんと同じような顔してる。でも、悠仁も何でもないって言うんだよね」





ゆっくりと鉄剤を投与しながら、藤堂先生が落ち着いた声で言う。





藤堂「患者さんの心をケアするのも、主治医の大事な仕事なんだ。それに、大切な2人に元気が無いのは、やっぱり見てて心配かな」





少し苦笑いするように、優しく微笑む藤堂先生。





藤堂「無理にとは言わないけど、話してみない?」





注射の最中で藤堂先生の手は塞がっている。

それでも頭や背中を撫でてもらっているような、この抱擁感。

わたしは自然と口を開き、五条先生とのことを話した。










***



藤堂「……そっか。悠仁が狼さんになっちゃったんだね」


ひな「あんな五条先生初めてでした。正直、ほんの少しだけ怖かったです……」





話している間に注射も終わり、藤堂先生とベッドに腰掛けて話をする。





藤堂「それ以来、悠仁が怖く感じちゃう?」


ひな「いえ、五条先生が怖いというか……五条先生に求められたことはうれしかったです。怖かったのは、あくまでそういう行為がってことで……。早く五条先生とひとつになりたいって気持ちがあったはずなのに、いざとなると心の準備が全然だったんです。だから、次そんな雰囲気になっても、わたしまた……」


藤堂「そう思うと、どこか距離を置いてしまうってことか」


ひな「はい……」





両手の空いた藤堂先生の手が、今度は本当に、わたしの背中にそっと触れる。



こんなこと、普通なら人に言える話じゃない。

なのに、こうして相談できてしまうのは、藤堂先生の人柄はもちろん、わたし(患者)とここまでの関係を築き上げてくれたからなんだなと。

心のケアも主治医の仕事って、藤堂先生は当たり前のように言ったけど、こんなに寄り添うのは簡単なことじゃない。

それも含めて医者の腕なんだって思ったら、患者としては主治医が藤堂先生でよかったと、医学生としてはわたしもこんな先生になりたいと、心の底からそう思う。





藤堂「悠仁も悩んでることは、きっとひなちゃんと同じだね。やけに口を開かないと思ったら」


ひな「五条先生は、わたしに申し訳ないことしたって思ってるんだと思います。申し訳ないのはわたしの方なのに……」


藤堂「というと?」


ひな「いつもは優しくしてくれる五条先生が、あんなに余裕がなくなるくらい、わたし五条先生を待たせてるんです。未だに最後までできないなんて、申し訳なくて……やっぱり彼女失格なんじゃないかなって思います……」


藤堂「もう、ひなちゃんそれはまた話が……」





あの日は、初めて五条先生のを見ることができて、触ることができて、舐めることもできて。

わたし、五条先生とここまで出来てる。

ちゃんとエッチ出来てるんだって、少し自信がついたところだった。

そんな矢先に肝心の五条先生と繋がるところで躓いたのが、余計にわたしをネガティブにする。



すると、





藤堂「あのね、ひなちゃん?」





俯くわたしに藤堂先生は気持ち声色を変えて、





藤堂「五条先生もそんな風に思ってたら、どう思う?」


ひな「五条先生も……って?」


藤堂「ひなちゃんが思うことは、五条先生も同じように思うんじゃないかな?もし、五条先生がひなちゃんの彼氏失格だって。ひなちゃんに申し訳ないって、同じように悩んでるとしたら、ひなちゃんはどう思う?」





と。





ひな「そんな……」





五条先生は何も悪くない。

五条先生が彼氏失格なんて、一瞬も思ったことない。

なのに、五条先生にそんな風に思われたら、わたし……





ひな「五条先生はそんなこと思う必要ありません……。五条先生に彼氏失格なんて思われたら、わたしもっと自信がなくなって、もう五条先生と一緒にいられないです……」





ポタッ……





ひな「五条先生は本当に優しくて、自分よりわたしのことを考えてくれて、家事はできるし、仕事はできるし、何でもできて、できないことなんてなくて……」





ポタ、ポタッ……





ひな「頭はいいし、顔もかっこいいし、スタイルだっていいし、それでいて気取ったりしなくて、性格もよくて。五条先生以上に完璧な人なんていないのに……そんな人にそう言われたら、わたしなんか……」





ポタッ……





藤堂「ひなちゃん」





息継ぎもしないで話していたのを、藤堂先生に声をかけられてハッとする。

そして、





ひな「あっ……あの!もちろん、藤堂先生もめちゃくちゃかっこよくて、優しくて、素晴らしい人です!けどっ、その、恋人として!恋人として完璧というか、わたしが一緒にいたいと思うのはやっぱり五条先生しか……っていう、そういう意味です……」





藤堂先生も完璧な王子様なのに、こんな史上最強の王子を目の前にして、五条先生がこの世で1番みたいに言ってしまった……!

と、慌ててそんな弁明をしたら、





藤堂「あはは。わかってるから大丈夫だよ、気遣わないで。でもね、そういうことだと思うの。ひなちゃんが申し訳ないなとか、彼女失格だなんて思ったら、五条先生も自信がなくなるんじゃないかな。ひなちゃんと同じように悲しくて寂しい気持ちになると思うな」





言いながら、藤堂先生に指で頬を拭われて、





ひな「あれ、わたし……」





初めて涙が出ていたことに気がついた。





藤堂「ひなちゃんはもう少し自信を持ってごらん。悠仁はよっぽどのことがないと……よっぽどのことがあってもか。ひなちゃんが彼女として相応しくないなんて思わないから」


ひな「それは、わたしとそういうことが最後まで出来なくてもですか……?」


藤堂「もちろん。今のひなちゃんにとっては大きな悩みかもしれないけど、悠仁や俺たちにとったらそんなことだから。むしろ、悠仁がそれを理由に距離を置いているなら、たとえ悠仁だろうと俺は許さないし、ひなちゃんもそんな男は捨てた方がいい。でも、悠仁はそんなやつじゃないから安心したらいいよ」


ひな「はい。……でも、それならどうして五条先生はわたしと距離を……わたしはどうしたらいいですか……?」


藤堂「それは、ひなちゃんが言った通りだと思うよ。きっと、理性を失ってひなちゃんに無理やり迫ったことを、悠仁は気にしてるんだと思う。ひなちゃんが悠仁に対して恐怖心を抱いたと思い込んで、悠仁もひなちゃんに遠慮しちゃってるんじゃないかな」


ひな「わたし、五条先生が怖いんじゃないです。五条先生とは今まで通りがいいし、むしろ、もっともっと関係を深めていきたくて……」


藤堂「うん、そうだよね。だから、ひなちゃんはそれを悠仁にちゃんと伝えてごらん?何が大丈夫で何が怖いのか。こうしたい、ああしたい、だけどこれは不安なんだって、悠仁に伝えたらいいんだよ。SEXって、そうやってコミュニケーション取ってするものだから。少し緊張するかもしれないけど、今日は悠仁帰るでしょ?」


ひな「はい。昨日当直だったので、夕方には終わるはずです」


藤堂「うん。そしたら、今日帰ったらさっそく悠仁と話してごらん。この状況がモヤモヤ長引くのもしんどいでしょ?」


ひな「コクッ……頑張って、五条先生と話してみます」


藤堂「うん。上手くいかなかったら、僕がまた話聞いてあげるから、ね」





ぽんぽん……





ひな「はい……」


藤堂「さぁ。ひなちゃんそろそろお昼食べて、大学戻らないとだよね。時間ある?」


ひな「はい、まだ大丈夫です」


藤堂「ご飯はどうするの?何か持って来てる?」


ひな「いえ、今日は持って来てないですけど、お腹空いてないし食べなくてもいいかなって。大学戻ります。ありがとうございま……」





と、ベッドを降りようとしたら、





藤堂「ちょっと待った。ひなちゃん、今食べなくていいって言った……?」





ギクッ……!





藤堂先生に腕を掴まれて、低い声を響かせられる。





ひな「いや、そ、そんなこと言ってません……!!」


藤堂「そう?じゃあ、先生の聞き間違いだったかな。ひなちゃん、お昼どうするって言った?」


ひな「えっと……大学に戻って食べようかな~と……」


藤堂「じゃあ、先生と一緒に食べて行かない?」


ひな「え?いえ、そんな、藤堂先生お忙しいですし……」


藤堂「僕も今から昼休憩で、ちょうどお昼食べるところだよ。どうせ1人だから、ひなちゃんと食べたいなー」





なっ……!





ひな「あ、でも……うーんと、そうですね……ほら、もう次の講義まで時間があまりないし、今から食べてもどうせ食べられないから、もういいか……って、あ、違っ!!えっと、なんだっけ、その、時間もあまりないから大学に戻って……そう!それで、コンビニとかで適当に買ったり……」


藤堂「はぁ……。ひなちゃん……?」





ギクッ……!!





うぅ……藤堂先生、これは絶対怒ってる……。



お昼をパスしようと思ってたこと、藤堂先生に完全にバレてしまった。



鉄剤打ってる状況だし、言うこと聞かなきゃ……。

藤堂先生に雷落とされたら、怖い……グスン





ひな「藤堂先生と一緒に食べます……」


藤堂「うん。そしたら行こうか」





ということで、結局、お昼は病院のカフェで藤堂先生にご馳走になってから、わたしは大学へ戻った。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...