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すれ違い①
しおりを挟む*ひなのside
——5日後
コンコンコン——
藤堂「ひなちゃん、こんにちは」
ひな「失礼します……」
大学が多忙を極める中、最近はずっと週1で病院に通っているわたし。
午前の講義が終わり、午後からの講義の合間で今日も藤堂先生のところに来た。
すると、
藤堂「うん?ひなちゃんどうしたの、元気ないね。悠仁と何かあった?」
わたしが椅子に座るなり、藤堂先生はそう言って、ドクターチェアごとわたしに近づく。
ひな「……っ、いえ、何もないです。元気ですっ……」
どうして五条先生と何かあったってバレたかな……
実は、あれから五条先生となんとなく気まずくて……。
LIMEのやり取りは本当に必要最小限だし、家でもほとんど話さず、なんとなくお互い距離を置いている感じ。
あれがあって五条先生が嫌いになったとか、決してそういうのじゃないけれど、少しだけ、五条先生にどう接していいのかわからなくなってしまっている。
藤堂「本当?ひなちゃんのこの顔は、悠仁と何かあった時の顔なんだけどなー……」
言いながら、藤堂先生は早速首のリンパを触り、下瞼もチェックして、
藤堂「胸の音もね」
と、聴診も済ませて。
ひな「あれ?祥子さんは……?」
藤堂「祥子ちゃん、患者さんのお世話で外来に降りて来られなくて。注射も今日はこのまま僕がするね」
気づけばわたしはベッドの上で、
藤堂「ひなちゃん、いくよー?……うん、もう手の力抜いていいよ。今痛くない?」
ひな「大丈夫です」
藤堂「うん、そしたら少しこのままね」
注射の針を腕に刺された。
藤堂「五条先生もね、ここ数日元気ないよ。」
ひな「えっ?」
藤堂「ひなちゃんと同じような顔してる。でも、悠仁も何でもないって言うんだよね」
ゆっくりと鉄剤を投与しながら、藤堂先生が落ち着いた声で言う。
藤堂「患者さんの心をケアするのも、主治医の大事な仕事なんだ。それに、大切な2人に元気が無いのは、やっぱり見てて心配かな」
少し苦笑いするように、優しく微笑む藤堂先生。
藤堂「無理にとは言わないけど、話してみない?」
注射の最中で藤堂先生の手は塞がっている。
それでも頭や背中を撫でてもらっているような、この抱擁感。
わたしは自然と口を開き、五条先生とのことを話した。
***
藤堂「……そっか。悠仁が狼さんになっちゃったんだね」
ひな「あんな五条先生初めてでした。正直、ほんの少しだけ怖かったです……」
話している間に注射も終わり、藤堂先生とベッドに腰掛けて話をする。
藤堂「それ以来、悠仁が怖く感じちゃう?」
ひな「いえ、五条先生が怖いというか……五条先生に求められたことはうれしかったです。怖かったのは、あくまでそういう行為がってことで……。早く五条先生とひとつになりたいって気持ちがあったはずなのに、いざとなると心の準備が全然だったんです。だから、次そんな雰囲気になっても、わたしまた……」
藤堂「そう思うと、どこか距離を置いてしまうってことか」
ひな「はい……」
両手の空いた藤堂先生の手が、今度は本当に、わたしの背中にそっと触れる。
こんなこと、普通なら人に言える話じゃない。
なのに、こうして相談できてしまうのは、藤堂先生の人柄はもちろん、わたし(患者)とここまでの関係を築き上げてくれたからなんだなと。
心のケアも主治医の仕事って、藤堂先生は当たり前のように言ったけど、こんなに寄り添うのは簡単なことじゃない。
それも含めて医者の腕なんだって思ったら、患者としては主治医が藤堂先生でよかったと、医学生としてはわたしもこんな先生になりたいと、心の底からそう思う。
藤堂「悠仁も悩んでることは、きっとひなちゃんと同じだね。やけに口を開かないと思ったら」
ひな「五条先生は、わたしに申し訳ないことしたって思ってるんだと思います。申し訳ないのはわたしの方なのに……」
藤堂「というと?」
ひな「いつもは優しくしてくれる五条先生が、あんなに余裕がなくなるくらい、わたし五条先生を待たせてるんです。未だに最後までできないなんて、申し訳なくて……やっぱり彼女失格なんじゃないかなって思います……」
藤堂「もう、ひなちゃんそれはまた話が……」
あの日は、初めて五条先生のを見ることができて、触ることができて、舐めることもできて。
わたし、五条先生とここまで出来てる。
ちゃんとエッチ出来てるんだって、少し自信がついたところだった。
そんな矢先に肝心の五条先生と繋がるところで躓いたのが、余計にわたしをネガティブにする。
すると、
藤堂「あのね、ひなちゃん?」
俯くわたしに藤堂先生は気持ち声色を変えて、
藤堂「五条先生もそんな風に思ってたら、どう思う?」
ひな「五条先生も……って?」
藤堂「ひなちゃんが思うことは、五条先生も同じように思うんじゃないかな?もし、五条先生がひなちゃんの彼氏失格だって。ひなちゃんに申し訳ないって、同じように悩んでるとしたら、ひなちゃんはどう思う?」
と。
ひな「そんな……」
五条先生は何も悪くない。
五条先生が彼氏失格なんて、一瞬も思ったことない。
なのに、五条先生にそんな風に思われたら、わたし……
ひな「五条先生はそんなこと思う必要ありません……。五条先生に彼氏失格なんて思われたら、わたしもっと自信がなくなって、もう五条先生と一緒にいられないです……」
ポタッ……
ひな「五条先生は本当に優しくて、自分よりわたしのことを考えてくれて、家事はできるし、仕事はできるし、何でもできて、できないことなんてなくて……」
ポタ、ポタッ……
ひな「頭はいいし、顔もかっこいいし、スタイルだっていいし、それでいて気取ったりしなくて、性格もよくて。五条先生以上に完璧な人なんていないのに……そんな人にそう言われたら、わたしなんか……」
ポタッ……
藤堂「ひなちゃん」
息継ぎもしないで話していたのを、藤堂先生に声をかけられてハッとする。
そして、
ひな「あっ……あの!もちろん、藤堂先生もめちゃくちゃかっこよくて、優しくて、素晴らしい人です!けどっ、その、恋人として!恋人として完璧というか、わたしが一緒にいたいと思うのはやっぱり五条先生しか……っていう、そういう意味です……」
藤堂先生も完璧な王子様なのに、こんな史上最強の王子を目の前にして、五条先生がこの世で1番みたいに言ってしまった……!
と、慌ててそんな弁明をしたら、
藤堂「あはは。わかってるから大丈夫だよ、気遣わないで。でもね、そういうことだと思うの。ひなちゃんが申し訳ないなとか、彼女失格だなんて思ったら、五条先生も自信がなくなるんじゃないかな。ひなちゃんと同じように悲しくて寂しい気持ちになると思うな」
言いながら、藤堂先生に指で頬を拭われて、
ひな「あれ、わたし……」
初めて涙が出ていたことに気がついた。
藤堂「ひなちゃんはもう少し自信を持ってごらん。悠仁はよっぽどのことがないと……よっぽどのことがあってもか。ひなちゃんが彼女として相応しくないなんて思わないから」
ひな「それは、わたしとそういうことが最後まで出来なくてもですか……?」
藤堂「もちろん。今のひなちゃんにとっては大きな悩みかもしれないけど、悠仁や俺たちにとったらそんなことだから。むしろ、悠仁がそれを理由に距離を置いているなら、たとえ悠仁だろうと俺は許さないし、ひなちゃんもそんな男は捨てた方がいい。でも、悠仁はそんなやつじゃないから安心したらいいよ」
ひな「はい。……でも、それならどうして五条先生はわたしと距離を……わたしはどうしたらいいですか……?」
藤堂「それは、ひなちゃんが言った通りだと思うよ。きっと、理性を失ってひなちゃんに無理やり迫ったことを、悠仁は気にしてるんだと思う。ひなちゃんが悠仁に対して恐怖心を抱いたと思い込んで、悠仁もひなちゃんに遠慮しちゃってるんじゃないかな」
ひな「わたし、五条先生が怖いんじゃないです。五条先生とは今まで通りがいいし、むしろ、もっともっと関係を深めていきたくて……」
藤堂「うん、そうだよね。だから、ひなちゃんはそれを悠仁にちゃんと伝えてごらん?何が大丈夫で何が怖いのか。こうしたい、ああしたい、だけどこれは不安なんだって、悠仁に伝えたらいいんだよ。SEXって、そうやってコミュニケーション取ってするものだから。少し緊張するかもしれないけど、今日は悠仁帰るでしょ?」
ひな「はい。昨日当直だったので、夕方には終わるはずです」
藤堂「うん。そしたら、今日帰ったらさっそく悠仁と話してごらん。この状況がモヤモヤ長引くのもしんどいでしょ?」
ひな「コクッ……頑張って、五条先生と話してみます」
藤堂「うん。上手くいかなかったら、僕がまた話聞いてあげるから、ね」
ぽんぽん……
ひな「はい……」
藤堂「さぁ。ひなちゃんそろそろお昼食べて、大学戻らないとだよね。時間ある?」
ひな「はい、まだ大丈夫です」
藤堂「ご飯はどうするの?何か持って来てる?」
ひな「いえ、今日は持って来てないですけど、お腹空いてないし食べなくてもいいかなって。大学戻ります。ありがとうございま……」
と、ベッドを降りようとしたら、
藤堂「ちょっと待った。ひなちゃん、今食べなくていいって言った……?」
ギクッ……!
藤堂先生に腕を掴まれて、低い声を響かせられる。
ひな「いや、そ、そんなこと言ってません……!!」
藤堂「そう?じゃあ、先生の聞き間違いだったかな。ひなちゃん、お昼どうするって言った?」
ひな「えっと……大学に戻って食べようかな~と……」
藤堂「じゃあ、先生と一緒に食べて行かない?」
ひな「え?いえ、そんな、藤堂先生お忙しいですし……」
藤堂「僕も今から昼休憩で、ちょうどお昼食べるところだよ。どうせ1人だから、ひなちゃんと食べたいなー」
なっ……!
ひな「あ、でも……うーんと、そうですね……ほら、もう次の講義まで時間があまりないし、今から食べてもどうせ食べられないから、もういいか……って、あ、違っ!!えっと、なんだっけ、その、時間もあまりないから大学に戻って……そう!それで、コンビニとかで適当に買ったり……」
藤堂「はぁ……。ひなちゃん……?」
ギクッ……!!
うぅ……藤堂先生、これは絶対怒ってる……。
お昼をパスしようと思ってたこと、藤堂先生に完全にバレてしまった。
鉄剤打ってる状況だし、言うこと聞かなきゃ……。
藤堂先生に雷落とされたら、怖い……グスン
ひな「藤堂先生と一緒に食べます……」
藤堂「うん。そしたら行こうか」
ということで、結局、お昼は病院のカフェで藤堂先生にご馳走になってから、わたしは大学へ戻った。
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