ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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すれ違い②

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*五条side





~小児科医局~



神崎「ねぇねぇ、五条先生?」


五条「はい?」


神崎「そろそろ話してくれてもいいんじゃない?ひなちゃんと何もないことないよね?毎日毎日、すんごい辛気臭いんだけど」





昼休憩を終えて医局でデスクワークをしていると、隣から神崎先生が。





五条「すみません……。でも、何もないので大丈夫です……」


神崎「もう、絶対大丈夫じゃないじゃん!ひなちゃんと大喧嘩でもしたの?」


五条「いえ、本当に何もないですから……って、そもそもなんでひなと何かあったって決めつけるんですか……」


神崎「だってそれ以外ないでしょ。じゃあ、ひなちゃんのこと以外で何かあったってわけ?」


五条「いや、だから本当に何も……」





と話していると、





コンコンコン——





藤堂「お疲れ様。五条先生ここに……あ、いたいた」





藤堂先生が来た。





神崎「藤堂先生!噂をすれば!」


藤堂「何、俺噂されてたの?(笑)」


神崎「はい!まぁ噂というか、話の中で藤堂先生の名前が出たところでして」


藤堂「ほう。それまたどんな話?」


神崎「それがですね、藤堂先生。もう聞いてください!五条先生が~……」





と、神崎先生が俺のことをあーだのこーだの弾丸トーク。

すると、





藤堂「ここに来たのはその話。ねぇ、悠仁。ちょっと今いい?」





藤堂先生に言われ、神崎先生も3人で、ソファーに移動し腰を掛けた。










***



藤堂「——ということだって。ひなちゃん、話してくれたよ」





コーヒーを飲みながら、藤堂先生の話を聞くこと数分。





五条「はぁ……」





マグカップを両手で包みながら、俺は深くため息をついた。





神崎「そういうことだったのか……」


藤堂「ひなちゃんには、ちゃんと悠仁に話してごらんって言ってあるから。今夜は2人できちんと話すんだよ?ひなちゃん、彼女失格だなんて言って悩んでるんだから」


五条「俺がひなにしたことは強姦未遂です……。失格なのは俺の方で……俺が、彼氏失格です……」


藤堂「もう、そう言うと思った。って通り言わないの。悠仁もひなちゃんも不器用が過ぎて本当……。お互いに自分を責めてすれ違ってるだけで、今の2人は何も問題ない。だから、ちゃんとひなちゃんと話しなさい。早いこと、今夜、帰ったらだよ」


五条「はい……」





と、藤堂先生に言われ……










***



その夜。





五条「ひな」


ひな「はい」





仕事を終えて家に帰り、ひなと夕食を食べ、それぞれで風呂に入り、ソファーでテレビを見ているひなに、





五条「アイス食うか?」


ひな「え?アイス……?」


五条「うん、アイス。ひなの好きなやつ」





と、声をかけてみる。





ひな「えっ、あっ、でも、もう歯磨いちゃったので……」


五条「そうか。……じゃあ、お茶飲むか?カモミールティー、はちみつ無しなら平気だろ」


ひな「はい、それなら……」





ということで、ひなと俺も、2人分のお茶を淹れてひなの横に座った。










五条「……美味いか?」


ひな「はい」


五条「甘くないから飲みづらいだろ?」


ひな「いえ、大丈夫です。美味しいです」


五条「ストレートも美味しく飲めるか。大人になったな」


ひな「はい……」


五条「……うん」


ひな「……」


五条「……」





いきなり話すのもあれなんで、お茶でも飲みながらと会話を試みるものの、互いにぎこちなく続かない。



藤堂先生から聞いたひなの気持ち。

突然あんな風にされて、怖くなるのは至極当然。

それでも、ひなは俺と先に進みたいと。

俺とひとつになりたいんだって、ずっと思ってくれている。

それなのに、俺はこの数日間、自業自得にただ落ち込んでただけ。

ひなのフォローをしないどころか、ひなを悩ませ気すら遣わせていて……





ひな「……」





今だってそう。

ひなは俯きがちで、なんとなく気まずそうに静かにお茶を啜ってる。





はぁ……このままじゃ……。

何してんだ俺は……。





そう思い、





五条「ひな、あのさ」
ひな「あのっ……!」










***



*ひなのside





あっ……。





五条「ん?」


ひな「あっ……す、すみません……」


五条「どうした?」


ひな「いえ、別に……五条先生なんですか?」


五条「ひなから言えよ」


ひな「いえ、五条先生から」


五条「俺のは大事な話だから。ひなから話して」





えっ……?

だ、大事な話……?





『悠仁にちゃんと伝えてごらん?何が大丈夫で何が怖いのか。こうしたい、ああしたい、だけどこれは不安なんだって』

『SEXって、そうやってコミュニケーション取ってするものだから』





藤堂先生に言われた言葉。





ちゃんと、わたしの気持ちを伝えなきゃ。





そう思って心の準備はしてたのに、いざとなると言い出せず。

そろそろ寝る時間になっちゃったなと思っていたら、五条先生がなぜかアイスだなんて言い出して、お茶を淹れてくれて……





話すなら、今、だよね……?

……よし、話そう。





としたら、五条先生とハモってしまった。





ひな「その……」





カップを置き、姿勢を正して五条先生を見る。

五条先生の大事な話は気になるけど、わたしのこれも大事な話。





五条先生がそう言うなら……





わたしは静かに鼻から息を吸い込み、もう一度意を決して、





ひな「五条先生とちゃんとお話ししたいです。





その……





そういう……





エッチのことについて……」










***



ひな「わたし、五条先生とエッチするの好きです。ドキドキして変な感じになるし恥ずかしいけど、気持ちよくて嬉しくて幸せで……五条先生と肌を合わせる時間がすごく好きです。本当に好きなんです。けど……」


五条「ひな……」





五条先生がわたしの手をそっと握る。





ひな「ご、ごめんなさい。こんな話して……」


五条「いや、こんな話なんかじゃない。大事な話だ」


ひな「大事な話と思いましたけど……五条先生の方が大事な話ですよね。わたしの話はもう大丈夫です」





せっかく話し出せたけど、やっぱり今日は無理だ。

また、今度ちゃんと話すことにしよう……。





そう思ったら、





五条「俺も、ひなとそのことを話そうと思ってたんだ。エッチのこと、ひなとちゃんと、今夜話したいと思ってた」





えっ……?





五条先生の言葉に俯いた顔を上げる。

すると五条先生は、





"話、続けて?"





そう言うように、少し眉を持ち上げる。





"五条先生の話って……?"





五条先生の目を見つめたまま。

今度はわたしがそんな目をすると、





"ん?"





話して……?と言わんばかりの、優しい瞳を向けられた。





ひな「…………したい、です。エッチなこと、五条先生とたくさんしたいって思ってるんです、けど……」





言いかけて、再び言葉が途切れ俯くわたし。

すると五条先生は、





五条「けど?大丈夫だから。ひなが思ってること、全部聞かせて」





座り直すようにしてわたしにくっつき、今度はわたしの手をぎゅっと握った。





ひな「その……怖くって……。ちゃんと最後までエッチするのが、少しだけ怖いんです……」





唇が微かに震えてしまう。





ひな「心の準備はできてるつもりでした。でも、全然足りていませんでした。だから、このままじゃまた拒んでしまうかもしれない。五条先生を傷つけることになるかもしれない。嫌われるかもしれない。そう思ったら……」





声まで震えてしまわないように。

そう思って話していたつもりだったけど、





五条「ひな」





ぎゅっ……





ひな「……グスッ……うぅ、グスン……」





そんなことは簡単に見破られ、五条先生の胸の中にぎゅっと強く抱きしめられた。





五条「話してくれてありがとう。それとごめんな。いろいろ、全部ごめん」


ひな「グスン、グスン……フリフリフリ……」





何がごめんと言わないのは、きっとわたしが否定しないようにだと思う。

だけど、わたしは首を横に振りながら、五条先生の背中に手をまわした。

五条先生が謝ることなんてひとつもないと思ってるから。

ごめんの全部にそんなことないって返したかったから。





五条「ひな?ひとつひとつ、整理してもいい?」





それから少しの間、2人静かに抱き合って、わたしが鼻を啜るのをやめたころ、そう優しい声で五条先生は言うと、





五条「俺はひなのことが好きだけど、ひなも俺のことが好き?」


ひな「好き……」


五条「俺はひなとエッチがしたいけど、ひなも俺とエッチしたい?」


ひな「したい……」


五条「けど、怖いか……?」


ひな「……コクッ」


五条「その怖いなんだけどな、ひなはエッチすることの何が怖い?例えば、痛いのが怖いとか……ひなの恐怖心は何から来てる?」





"怖い"



わたしの中にある恐怖心。

これがいつまでもグズついて、邪魔をしているのはわかってる。





ひな「痛いのが怖いのはあります……。エコーとか膣鏡でも痛いから、五条先生のは……大きいものが入るのは痛いかもしれないなって……」


五条「全く痛みがないようにするとは、安易に約束してあげられないけど、ひなが辛くないように最善を尽くすことは約束する。治療は嫌でもやめてあげられないが、エッチはすぐにやめられる。そもそも、これは治療じゃなくて、恋人同士が愛を深めるためにすることだから。我慢や苦痛はなくていいことだから。な?」


ひな「それは、そうなんですけど……」





まだ語尾が濁るわたし。

すると、





五条「怖いのはそれだけか……?」





抱きしめる手を緩めた五条先生は、顔を覗き込むようにしてわたしの頬に手を添えた。





……っ。





落ち着いた優しい声をしてるのに、五条先生の瞳は何かを悟っているみたい。





……思い出してしまうかもしれない。

一度だけあった過去の記憶。

それを、五条先生と繋がる時、頭で忘れていても体が覚えているかもしれない。

この前ダメだったのは、たぶんそういうことなんじゃないかと思うから。



何が怖いって……、そうなるのが怖い。



大好きな五条先生に愛してもらって拒絶してしまうのが怖い。

そして、もう五条先生とエッチができなくなって、五条先生に触れることも、触れられることもなくなって……

嫌われて見捨てられるのが、すごく怖い……。





ひな「……」





それを声に出すことはできなかった。

でも、五条先生もこれ以上聞いてはこなかった。



五条先生のことだから、なんとなくわかってたんだと思う。

だから、"ひとひとつ整理してもいい?"って、モヤモヤと絡まる結び目を解こうとしてくれた。

五条先生のためじゃなく、わたしのために。



そして、わたしの口が開かなくなっても。

それでも、五条先生は……










***



*五条side





五条「なぁ、ひな?大事なこと忘れてない?」


ひな「え……?」





ひなが口を開かずとも、この素直な目を見れば全部わかる。

何をどう、どれだけ不安に思っているのか、そんなことが全部。

でも、





五条「ひなはどうしたいの?俺とエッチしたい?したくない?」


ひな「し……したぃ……けど……」


五条「ん。じゃあ、しよう」


ひな「えっ……??」


五条「したいと思うなら、とにかくやってみたらいいだろ?それで、どうしても痛かったり怖かったらやめればいい」





結局はそれだけのこと。

だから俺はそう言って、





ちゅっ……





ひな「んっ……」





二の足を踏むひなにキスをした。


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