ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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トリアージ②

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というわけで、俺はその足でひなちゃんのところへ。



ガチャッ——



研修医室に入ると、ひなちゃんは着替えもせずにソファーに座っていて、





ひな「宇髄先生……」





俺を見てすぐに立ち上がった。





ひな「あの、夏樹から聞きました。わたしがトリアージした方が亡くなったと。わたしのせいです。わたしのミスで亡くなりました。本当に申し訳ございませんでした」





案の定。

しっかりとした口調で、けれども、悲しさや悔しさや不甲斐なさ、負の感情をすべて背負ったような声と顔で、そんなことを言うひなちゃん。





宇髄「いいや、それは違う。栗花落が最善の判断をしていても、助けられたかどうかはわからない。ただ、あの場であの瞬間に栗花落ができるはずだった判断は違っていた。俺はそこを指摘した、それだけだ」





と伝えるが、当然ひなちゃんの頭は上がらない。





宇髄「それに、救えなかったのは俺だって同じだ。蘇生を続けることはできた。だけど他にもたくさん患者がいた。だから俺は途中で蘇生をやめた。他の多くの人を助けるために。栗花落が見逃していなければ助かったかもしれないというのは確かだ。でもそれは俺も同じ。蘇生をやめなければ、もしくはもっと腕が良ければ、助けられたかもしれない。だから、栗花落のせいじゃない。誰かのせいであるなら、それは俺のせいだ」


ひな「そんなことありませんっ!全部わたしのせいです。わたしがきちんとトリアージしていれば、宇髄先生は助けられたはずです。わたしのせいです。わたしが命を救えなかったんです……」





ひなちゃんの顔は見えないが、床の上に涙の粒が落ちるのは見える。





宇髄「……栗花落、顔上げられるか?」


ひな「……」


宇髄「栗花落、もう顔は上げなさい」


ひな「……」


宇髄「栗花落」


ひな「……」





はぁ……。





宇髄「ひなちゃん」










***



*ひなのside





宇髄「いいか?医者がすべての命を救えるとは限らない。力が及ばないことも、取捨選択しなきゃいけないことだって、何度もある。その時に約束してほしいのは、自分を責めないこと」





腕を組んで、仁王立ちして、真っ直ぐにわたしを見る瞳は鋭くて、けれども声は慈愛に満ちるよう。





宇髄「最善を尽くした自分を認められるようになってほしい。そのためにも、一瞬の判断を誤らないようになってほしい。今のひなちゃんみたいになってほしくないから」





宇髄先生は、一歩わたしに近づいて、





宇髄「今日、ひなちゃんがきちんと判断できていれば、患者を救えなかったという結果は同じでも、この涙は流さなくて済んだと俺は思うからな」





親指の腹でわたしの頬を拭う。

宇髄先生の真っ直ぐな厳しさは、宇髄先生の真っ直ぐな優しさ。

ノワールのエースである宇髄先生が、こんなわたしにこんなにも向き合って指導をしてくれること。

それがどれだけ恵まれていて幸せなことなのか。

わかるから余計に、自分が情けなくて悔しくて申し訳なくて、本当に本当にありがたいと思う。





ひな「はい……本当にすみませんでした……もっと、もっともっと精進します……」


宇髄「ん。それから、もうひとつ話があるんだが……」


ひな「はい……」


宇髄「今日火事のあったところ、昔住んでたんだってな」


ひな「えっ……?」


宇髄「五条先生から聞いてな。つらかっただろ、すまんかった」





ドクターカーを降りた時、なんだか見覚えのある場所だと思って、それが昔住んでいた場所だということはすぐにわかった。

ノワールから少し距離はあるけれど、それほど遠くはない場所にあったなんてと少し動揺したし、両親や五条先生と暮らしていた頃の記憶は全然ないのに、消し去りたい記憶はすぐに思い出されるほどまだ残っているなんて、苦しくて悔しくて腹が立って仕方なかった。

それでも、そんなことは関係ないと仕事に集中したはずなのにミスをしたから、言い訳みたいなことは言えない。





ひな「いえ……確かに昔住んでいましたが、昔のことなので。別にそれはなんとも思ってないというか、わたしもそのこと忘れてて、帰って来てから思い出して、なので全然平気でした」


宇髄「……そうか。それならいい。そしたら、今日はもう帰りなさい。身体酷使してるから、ゆっくり休むこと。いいな?」


ひな「はい、わかりました。ありがとうございました。失礼します」


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