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三度(みたび)①
しおりを挟む——1週間後
~研修医室~
夏樹「ひなの、専攻もう決めた?」
ひな「うん」
七海「あら、決まってるの?」
ひな「どうしてそんなに驚くのよ」
七海「いや、ひなのは悩んでるんだと思ってたから」
ひな「もちろん悩んだよ。悩んで、決めたの」
初期研修も気づけば残り半年ほど。
そろそろどの専門に進むのか、決めていかないといけない。
夏樹「で、どうするんだ?」
ひな「ローテが終わるまで確定ではないけど、小児の専門医を取ろうと思ってる」
七海「理由は?聞いてもいい?」
ひな「2人の想像通りだと思うけど……わたしは小児科医と出会って、助けてもらって、ずっと一緒に……ずっと五条先生と過ごしてきたから。もちろん、どの先生にもたくさんお世話になったけど、わたしの人生を変えてくれた小児科医がやっぱりいいなって。それと、わたしの母も小児科医だったの。母のこと覚えてはいないけど、せっかくなら同じ道に進みたいと思って。2人は?どうするの?」
七海「俺は麻酔に行こうと思う」
夏樹「えっ!?」
七海「なに?」
夏樹「いや、傑は外科か内科かと思ってた……。なんで麻酔?」
七海「俺、一番になりたいんだよね。でも、外科とか内科とか、黒柱は一生かかっても超えられないと思って。でも、彼らの中に麻酔科医はいないでしょう?麻酔科なら、一番になれるかなって。いろんな科の優秀な医者と仕事ができるのも勉強になるし。それに自分でも結構器用というか、まわり見る能力あると思うんだよね。頭の回転も速い方だし。麻酔科、案外向いているんじゃないかってね」
夏樹「なんか、自信ないんだかあるんだか……とにかく野心を秘めてることはわかったわ」
ひな「傑ならどこでも黒柱を超える医者になれると思うけど、でも、うん。傑、麻酔科向いてると思う」
夏樹「まぁ、確かに。自分のことよくわかってるって感じだな」
ひな「で、夏樹はどうなの??」
夏樹「俺は外科かな」
七海「やっぱり」
夏樹「やっぱりってなんだよ」
七海「夏樹は外科を選ぶと思ってたから。最初から外科しか興味なかったでしょ」
夏樹「なんでだよ……そんなことねぇし」
七海「だって、工藤先生のことめちゃくちゃ尊敬してるじゃん。なんだかんだ背中を追うんだろうなと思ったよ」
夏樹「なっ……それは、まぁ、その通りだけど、別に兄貴だけが理由じゃ…………って、ひなの?もしかして心臓痛いのか……?」
ひな「え?う、ううん!別に?」
夏樹「今顔しかめてただろ。最近よく水も飲んでるし。水飲むと一時的に治まるからだろ?昔ドラマでも見たぞ」
ひな「いや、そんなことないよ。本当に大丈夫だから」
夏樹「食欲も落ちてきてないか?」
ひな「ちゃんと食べてるじゃん」
七海「ひなのって、食欲落ちるとパンを好むようになるんだよ。元気な時はおにぎりをよく持って来てる。食堂行っても、オムライスじゃなくてうどんになるんだよね、食が細い時は。軽いものを口にするようになるの、自分で気づいてない?」
という夏樹と傑の前にいるわたしの手には、さっきコンビニで買ったスティックパンが。
ひな「そんなことないと思うけど。たまたまお米の気分もあればパンの気分もあるでしょ。それが順番に来てるだけで」
研修医になって忙しい中でも、時間が合えば3人でごはんやおやつを食べる。
今もお昼を食べながら話していたところで、夏樹と傑になんか嫌なことを言われている。
夏樹「なぁ、兄貴に1回診てもらったら?」
ひな「どうして何もないのに診てもらう必要があるの」
夏樹「診てもらって何もなければそれでいいだろ?健診ってそういうもんじゃん」
ひな「何もないなら診てもらわなくていいよ。健診だって結構疲れるというか、エネルギー消費するの。その時間とエネルギーをわたしは勉強に費やしたい」
夏樹「ひなのさぁ……」
七海「悟くんに言っておこうか?」
ひな「言わなくていいから。夏樹も工藤先生に言わないでね。もちろん五条先生にもだからっ」
***
——翌日
宇髄「栗花落、ちょっといいか?」
昼過ぎ。
救急の医局でカルテを整理していたら宇髄先生が。
宇髄「これ、外科行って工藤先生に渡してきてくれないか」
なにやら資料を差し出され、
ひな「承知しました」
と言いつつ、
なぜわたしに……?行ってきてもいいのか??
と、一応指導医の方を見ると、
"おう、行ってこい"
ってな顔なので、
ひな「行ってきます」
席を立ち、資料を受け取って、外科の医局に。
コンコンコン——
ひな「失礼します」
医局に行くと、工藤先生の姿がパッと見当たらず、
ひな「夏樹、工藤先生は?」
夏樹がいたので聞いてみると、
夏樹「あっちの診察室いるぞ。なんか準備だと思う」
ひな「そっか。これ、宇髄先生から工藤先生に渡してって頼まれたんだけど、机に置いてっていいかな?」
夏樹「あー、う~ん、もしかしたら急いで欲しいって言ってたやつだから、直接渡した方がいいかも」
ひな「わかった。じゃあ、渡しに行ってくる。ありがとう」
と、
コンコンコン——
夏樹に言われた診察室へ行くと、
工藤「おっ、来た」
藤堂「いらっしゃい」
工藤先生と藤堂先生がいる。
ひな「え、あっ、お疲れ様です」
なんで藤堂先生がここに?と困惑しつつ、
ひな「あの、これ宇髄先生からです」
預かった資料を工藤先生に渡すと、
工藤「ありがとう。じゃあ、ちょっとここ座って」
って。
ひな「えっ……?」
工藤「座って?」
急に嫌な予感が襲うも、たぶん、時すでに遅し。
言われたとおり椅子に座ると、工藤先生はドクターチェアに座り、
工藤「栗花落先生。というか、ひなちゃん。今の自覚症状教えてくれる?」
と。
ひな「……夏樹か傑から聞いたんですか?」
チクられたと一瞬で悟り、思わず。
すると、
工藤「いいや、宇髄先生から聞いた」
とのこと。
どういうこと……?
宇髄先生とは顔もそんなに合わせてないのに、気づかれてたの……?
眉をひそめて視線を左に外すと、
藤堂「ひなちゃん、早く症状を説明しなさい。誰から聞いたとかどうでもいいの。そもそもひなちゃんから聞いてないことがおかしいんだから」
工藤先生の後ろに立つ藤堂先生がピリついているので、
ひな「時々、胸が痛くなることがあります……」
大人しく打ち明けた。
工藤「それはいつから?どのくらいの頻度で痛むの?」
ひな「1週間前くらいから、日に2、3回か……もう少し痛むこともあります……」
工藤「それを、水を飲んで誤魔化してた?」
ひな「水を飲むと治まるんです」
工藤「じゃあ、水を飲むと治まる理由は?"栗花落先生"ならもうわかるだろ」
ひな「迷走神経を刺激することによって、一時的に……」
工藤「そう。つまり、一時的に誤魔化してるんだよな。それに、必ずしも治まるとは限らない。だろ?」
ひな「……はい」
"はぁ……"とは言わないものの、工藤先生と藤堂先生の鼻から出る息は完全にため息のそれ。
工藤「検査するよ。そこ横になって。」
言われて、わたしは白衣を脱いでベッドの上へ。
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