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進路相談
しおりを挟むキーンコーンカーンコーン——
HRの時間。
担任「みんないいかー?今配った調査表は来週提出だからな。それをもとにこれから進路相談とか始めていくから、しっかり考えるんだぞ。じゃあ、今日はこれで終わり。気をつけて帰れよ~」
「「はーい」」
夏休みも明け、2年生の後半がスタートしたこの日、進路希望調査と書かれた紙が学校で配られた。
ゆき「あ~ぁ。2年生なのにもう進路の話だって~。りさちゃんは進路どうするの?進学はするでしょ?」
仲良しのゆきちゃんがさっそくりさに話しかけた。
りさ「わたし?わたしは……そもそも大学行っていいのかどうかわからなくて……」
ゆき「え!りさちゃんの頭ならどこでもいけるのにもったいないよ!大学行きたくないの?先生たちがダメって?」
りさ「ううん。ダメなんて言われたことないし、大学も行ってみたいけど、先生たちに話したことなくて。お金もかかることだしさ……」
ゆき「そんな、帰ってすぐ相談しなよ!先生たち絶対いいよって言ってくれると思う!」
りさ「うん、そうだよね。話してみる……」
***
家に帰ると、りさは部屋で机に向かい調査表と睨めっこしていた。
進路か……。
実は、りさには少し前からある夢があった。
医大って行けるのかな……?
まぁ、もっと勉強しないと絶対無理だよね……。
コンコンコン——
豪「りさ~」
というか、そもそも大学なんてすごくお金かかることなんだから。
他人のわたしをここまで育ててくれてるだけでも感謝しないといけないのに、先生たちに大学行きたいなんて贅沢だよね……。
豪「り~さ~」
はぁ、どうしよう。
来週提出しなきゃいけないのに……。
ガチャッ——
豪「りさ~?」
そもそも2年生で進路の話始まるなんて思ってなかったな……ちょっと早くない……?
豪「りさっ!!」
りさ「うわぁぁぁあ!!!」
りさは考え込むあまり、何度も呼ばれてることにも、ドアが開いたことにも気づかず、突然耳元で声がして椅子から転げ落ちるくらい驚いた。
豪「ったく、何回も呼んでるのに返事くらいしろ」
りさ「ご、豪先生……びっくりした……」
振り返ると、そこには豪が立っていた。
豪「そんな真剣になにみてんだ?」
豪はりさの背後から机を覗き込む。
りさ「あぁっ!あの、これはなんでもないの!!」
咄嗟に隠すが、豪にはもう見えていた。
豪「進路希望調査……?りさ、進路のことで悩んでたのか?」
りさ「……ぅ、うん。で、でも大丈夫!」
大丈夫なわけないだろ。
あんな呼んでも気づかないくらい考え込んでたんだろうに、ったく……。
豪「りさ、どこ行きたいんだ?」
りさ「え……?」
豪「大学。何勉強したいの?」
りさ「……」
りさは豪の問いかけに答えられなかった。
豪「……りさ、ちょっとおいで」
りさ「豪先生……?」
またなんか言われるのかな……?
豪「ケーキあるんだよ。りさの好きなアップルパイ。それを食べようって言いに来たんだ」
え、アップルパイ?
なんだそうだったのか!
りさ「食べたい!行く!」
え?
りさ単純すぎるだろ……。
豪「おぅ、一緒に食べるぞ」
アップルパイという言葉につられたのか、りさは豪についてリビングに降りた。
りさ「わぁ~おいしそう!豪先生、食べていい!?」
豪「あぁ、いいぞ」
りさ「やったー!いただきます!」
さっきまで机に向かって悩んでいたのが嘘のように、りさは幸せそうにアップルパイを頬張った。
豪「おいしいか?」
そんなりさを隣に座る豪は愛おしそうに見つめた。
りさ「うん!美味しい!これどうしたの?」
豪「涼子にもらった」
りさ「そうなんだ!竹内先生もアップルパイ好きなのかな?というか、わたし食べてよかったの?竹内先生、豪先生に食べて欲しかったんじゃない?」
豪「いや、りさと食べてってくれたから」
りさ「そうなの?今度お礼言わなくちゃ」
そうこう話しているうちに、りさはペロリと食べ終えた。
豪「なぁ、りさ?」
りさがアップルパイを食べ終えると、豪は進路の話を始めた。
豪「さっきの進路のこと、なに悩んでたんだ?」
りさは少し考え、ゆっくりと豪に思いを打ち明けた。
りさ「……わたし、高校卒業したら大学行ってみたいんだけど、大学なんて行ったらお金かかるしどうしようかなって」
豪「大学行きたいなら行けばいいだろ。どこ行きたいんだ?」
りさ「……え?豪先生、わたし大学行っていいの?」
豪「いいに決まってるだろ。まさかそれで悩んでたのか?他にやりたいことがあるなら別だけど、大学行って勉強したいんだろ?りさのやりたいことやればいいぞ」
りさ「でも、大学ってお金かかるでしょ……?」
どこか申し訳なさそうな顔をしているりさに、豪は座ってた椅子を寄せてりさの肩を抱いた。
豪「あのな、子どもがお金の心配なんてするな。それに、申し訳ないとかも思わなくていい。みんな、りさがやりたいことやらせてあげたいって思ってるよ。りさは勉強も頑張ってるから、きっと大学も行きたいだろうって前から話してたんだ」
りさ「でも、わたしは子どもじゃないし……」
豪「りさ……それどういう意味で言ってる……?もう子どもじゃないって言いたいだけか、それとも俺らとは他人だって言ってるか?」
どちらかと言うと後者の意味だった。
少し語気を強めた豪にドキッとしたりさが答えられずにいると、豪はりさの答えがわかっていたように続けた。
豪「りさ。確かにりさは俺たちと血は繋がってない。だけど家族だよ。りさがここに来た時からずっと本当の家族なんだ。だから、なにも遠慮することはない。むしろ怒るぞ?迷惑かけるからって自分のやりたいこともしないんじゃ」
りさ「豪先生……」
豪と一対一でこんなにちゃんと話をするのは初めて。
いつもクールでどこかぶっきらぼうな豪がこんなに考えてくれてたなんて、りさは気づいていなかった。
りさ「豪先生ごめんなさい。わたし、先生たちがそんなにわたしのこと考えてくれて、思ってくれてるなんて……。頑張って行きたい大学目指してみようかな」
豪「うん、それでいい」
そう言って、豪はりさの頭を撫でた。
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