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めでたしめでたしはまだ早い
しおりを挟む蓮「りさ、よかったね!蒼兄に気持ち伝えられて、両想いになれたね!!でも、ロマンティックなところ申し訳ないけど、蒼兄早くりさ休ませてあげないと……もうりさしんどそう」
蓮がソファーから立ち上がってりさの背中をさする。
謙二郎「蓮の言うとおりだ。りさちゃん、とりあえず座ろうか」
蒼はりさをソファーに座らせて、涙で濡れてるりさの頬をそっと手で拭った。
謙二郎「りさちゃんお熱測ってみようね。ほら蒼、測ってあげて」
蒼「あぁ」
蒼は謙二郎から体温計を受け取ると、りさの隣に座って反対側の脇に体温計を挟み、抱き寄せるように押さえた。
ピピピピッ……
蒼「37.6°」
謙二郎「病院にいた時より上がってそうだな……ちょっともしもしするよ」
謙二郎はまたりさの胸の音を聴いていく。
謙二郎「うーん……ちょっと音が……りさちゃん、喉はどう?痛い?」
りさ「……」
豪「わかった。りさ喋ったら咳出そうだから我慢してんだろ?」
りさは一瞬バレたというような顔をした。
でもそんな顔を見なくとも、もう全員どうすればいいか知っている。
蒼はりさの背中をぽんぽんっと軽く叩いてさすった。
りさ「ケホッ、コホコホッ……うぅ……」
豪「父さんのやり方すごいな。これもっと早く知りたかった」
百発百中の父の手法に、息子たちは感心しっぱなしだ。
蒼「りさ教えて?のど痛い?」
りさは蒼を見つめて素直に頷いた。
蒼「いつ頃から痛かった?咳は?」
りさ「咳はたしか6月くらいから出るようになって、夏休み前にはのども痛くなってきた……」
謙二郎「りさちゃん、そしたら今度はお口あーんってしてみよう」
そういうと、謙二郎は舌圧子を手に、りさの喉の状態を確認しようとする。
それを見たりさは蒼の腕をぎゅっと掴んだ。
蒼「待って。父さん、それりさダメなんだ」
豪「小さい時もよく泣いてたぞ?咽頭反射が強いから痛くもないのに嫌がるんだよ」
蓮「まさか父さん知らなかったの?」
りさは喉を見るときに舌を押さえられるのが嫌いだ。
オエッとするのが嫌でよく泣いて嫌がり頭を押さえられていた。
仕返しと言わんばかりに、3人揃ってちょっとドヤ顔で謙二郎に伝える。
謙二郎「それでただの診察もよく泣いて嫌がってたのか。それは気づいてなかった……」
謙二郎は3人に負けた感じで少し悔しそうにした。
謙二郎「そしたらりさちゃん、これ(舌圧子)使わないから、舌出してあーって言えるかな?」
りさ「あー……ケホッ、ケホッ」
謙二郎「うん、お利口さん。やっぱり喉も腫れてるね。蒼、これ夏風邪だから長引くと厄介だ。とにかく休ませて早く治してあげないと」
蒼「あぁ、わかった。よし、りさ一緒にお部屋行こうか。立てる?ゆっくりね」
りさ「うん……」
りさに薬を飲ませたあと、謙二郎、豪、蓮はリビングに残り、蒼がりさを部屋に連れて行った。
ようやくベッドで横になったりさは、また一段と気が抜けたのか、咳き込み涙目で蒼の服の裾を掴んだ。
りさ「先生……ケホケホッ」
蒼「しんどいな……ごめんな、こうなる前に気づいてなくてあげれなくて」
蒼はりさの背中をさすりながらもう片方で手を握った。
りさ「ケホケホッ……先生、治療サボった理由、聞かないの……?」
蒼「りさ?それはまた治ってからにしよう。治療のことや勉強のことは気にしないで、今はとにかく元気になることを考えよう。ね?」
りさ「すぐ治るかな……治らなかったらどうしよう……ケホッ」
蒼「大丈夫、俺がついてるから。元気になるまでずっとついてるからね」
そういう蒼の声が、握ってくれる手が、背中をさすってくれる手が、大好きな蒼の全てが、まるで特効薬のようにりさを安心させた。
りさ「スー……スー……コホッコホコホッ……はぁはぁ……」
りさがベッドで横になってから2時間くらい経った。
30分ほどで眠りにはついたが、時折寝ながら咳き込むので、蒼は心配でずっとそばについている。
コンコンコン——
豪「蒼、大丈夫か……?」
部屋から出てこない蒼の様子を見に豪が来た。
蒼「りさ寝たんだけど、たまに咳き込むから心配で」
豪「もう22時だぞ。俺しばらくみとくから、飯食って風呂も入りなよ。俺らは先に食べちゃったから」
蒼「目が覚めて俺がいなかったら不安がらないかな……」
豪「なんだよ、俺じゃだめってか?なにさっそくりさの男感出してんだよ。いくら蒼とりさがくっついたからって、俺と蓮も今まで通りりさのそばにいるんだからな。3人で見守っていくんだろ?」
蒼「あぁ、もちろんそれはそうだよ。じゃあ、お言葉に甘えて。頼むな、豪」
豪「あぁ、任せろ」
リビングへ降りてきた蒼に蓮が声をかける。
蓮「蒼兄!大丈夫だった?りさなかなか寝なかったの?」
蒼「いや、横になって少し話しながら30分くらいで寝たんだけど、咳き込むし心配で……」
謙二郎「蒼、りさちゃんに夢中になってお前が倒れるなよ?ほら、ご飯食べなさい」
謙二郎は悪戯に笑って蒼のおでこをコツンと指で軽く弾いた。
蒼「いてっ……俺は大丈夫だよ、医者だし身体丈夫だし」
謙二郎「そうか?蒼は自分のことは放って好きな子に尽くすタイプだろ」
そう言って、謙二郎はいつか病室でりさの手を握りながら眠ってしまった蒼の写真をスマホの画面に出した。
蒼「はっ!?おい蓮っ。父さんにまで盗撮した写真見せるなよ、ばか!」
蓮「え、なにが?なんのこと!?」
謙二郎「蓮じゃないよ(笑)これ楓が送ってきたんだ。ビッグニュースとか言って、普段は連絡してこないくせに、豪が涼子ちゃんと付き合ったとか、まったくこういう時だけ報告してくるんだよ」
蒼「姉ちゃんだったか……もう、それ恥ずかしいから消しといてよ」
蒼は顔を赤くして、照れを隠すようにテーブルに置かれたご飯をかきこんで、さっとシャワーを浴びた。
***
りさ「……ケホッ、ゴホゴホッ。うぅっ……せんせ……ゴホッ……」
蒼「ここにいるよ。大丈夫だよ、りさ」
それから数日間、りさは37度台の微熱が続いた。
絶対に病院に行って点滴をしたくないからと、昼間はなんとか頑張ってお粥を食べているが、夜は相変わらず咳き込んでいる。
そんなりさのそばについていようと、昼間は病院に出勤し、謙二郎、豪、蓮に交代でみてもらうが、夜の当直は全て別の人に代わってもらって毎日帰ってきている。
りさ「せんせ、治る……?はやく勉強しなきゃ……はぁはぁ……」
りさは夏休みの大事な時間に勉強できない焦りでいっぱいだった。
蒼「りさ?ちょっと休んだくらいで今まで覚えたこと忘れないし、りさならすぐ追いつくから。治ったら俺も教えてあげるから、ね。今は体のことだけ心配して、たくさん寝て治そう」
りさ「うん……ゴホゴホッ、ケホッ、ゲホゲホゲッ……」
蒼「りさっ。ちょっと体起こすよ」
すると、突然りさが激しく咳き込み出して、蒼は慌ててりさの体を起こして背中をさすった。
りさ「ゲホッ、はぁ、ゲホゲホゴホッ、くるし……っゴホッ……」
蒼「りさ落ち着いて深呼吸して。ゆっくりゆっくり……」
そんなりさの咳は部屋の外にまで聞こえたようで、離れた部屋で寝ていたはずの謙二郎が飛んでやってきた。
謙二郎「りさちゃん、大丈夫か?」
りさ「はぁはぁ……ゲホッ、ゴホゴホゴホッ、やらぁ、ゲホゲホッ……」
りさを支える蒼に代わって、謙二郎はすぐに聴診した。
蒼「父さん、これかなり熱ある。りさの体が熱くて……痰も絡み出して」
そういうと、謙二郎はりさの喉にも聴診器を当てた。
謙二郎「まずいな……病院連れて行こう。肺炎になると危ない」
りさ「ゴホゴホッ、はぁはぁ、やらぁってケホッばケホッ、うぅっ……ぐすっ」
遠のく意識の中、自分でもやばいと感じているりさは、病院に連れて行かれるとわかって泣き始めた。
2人は急いでりさを車に乗せて病院へと向かった。
謙二郎が蒼の車を運転し、蒼はりさを抱いて後部座席に乗ってる。
そして蒼は豪に電話をかけ、到着したらすぐに処置ができるよう準備を頼んだ。
蒼「悪い、今いけるか?りさがちょっと危なくて病院向かってる。5分でつくから準備しといて。酸素もいる。あと、あれも。痰が出せなくて、わかるよな……?頼んだ」
りさ「ゲホゲホッ……ママ……ケホッ、はぁはぁ、パパ……ゴホッ、ゴホゴホッ……」
蒼「りさ……すぐ着くからもうちょっと頑張ってな。俺の手握ってて、意識だけなんとか保つんだよ」
りさ「せ……んせ……はぁはぁ……」
りさは蒼の手を離さないよう、弱る力で精一杯握った。
そして、遠くなる意識で息が上手くできなくなる中、涙目でうっすらと開けた目の隙間から蒼を見つめ続けた。
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