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プロローグ
しおりを挟む世界が回るーー
くらりと崩れ落ちる身体、ぼんやり靄がかかったような思考、ブラックアウトする視界。
生まれてから何度も繰り返して来た感覚に辟易する。
いい加減、この体質をどうにかしたい。
いや、もういい。いっそこのまま眠るように生き絶えたい。
そんなくだらないことを思いながら意識を手放そうと目を閉じた瞬間、傾いた身体がふわりと浮いた。
誰かの腕に抱かれているらしいが、抵抗する気力も体力ももうない。
もうどうにでもしてくれと投げやりな気持ちのままに気を失った。
◇◇◇
トントンという軽い音とじゅうじゅうと何かを焼く音。漂ってくる香ばしい香りにつられるように目が覚めた。
見たことのない天井に目眩を感じる。
気を失う直前にどうにでもなれと思ったが、気力が少し戻って思考がクリアになると全然どうでもよくなんかない。
ここはどこで、誰が俺を連れて来たんだ。
重たい頭を何とか動かして周囲の状況を確認すると、マンションのリビングのようだった。
俺が寝ているのは、ベッドではなく大きめのソファで、ふわふわとした手触りのブランケットが掛けられている。
シンプルな室内から家主の性別を判断できないが、恐らく男性だろう。いくら細身とはいえ、これでも成人男性なので女性に運ばれたとは思いたくない。推測というよりは願いだ。
「起きたのか」
突然降って湧いた声は若い男性のものだった。内心、女性じゃなくて良かった、矜持は保たれたと安堵しながら返事をする。
「うん、さっき」
「まだぼんやりしてるな。大丈夫か」
覗き込んで来た顔をじっくり見つめ返したが、全く見覚えがない。重力に垂れて来た明るい茶髪も、穏やかに煌めく鳶色の瞳も一度見れば忘れられないだろう。
今時のイケメンと言えばその通りだが、それ以上にパッと人目をひくような華やかな雰囲気を持っていた。
「全然、平気。えーと、はじめまして?」
「はじめましてだな。ーー腹減ってるか」
自己紹介ついでに男の正体を探ろうと振った話題はさらりと流された。
「いや、あんまり……」
ぐう。腹が鳴った。恥ずかしいというより気まずいタイミングだ。
「マンガみたいだな」
「俺も思った。てか、あんた誰。ここどこ。何で俺ここにいるの」
「疑問は尽きないだろうけど、取り敢えずメシにしよう。冷めちまう。自己紹介はそんときに」
それだけ言うと男は跪き、軽々と俺を抱き上げた。ふわりと浮く体が不安定で反射的に目の前の首に抱きつくが、ふと我に返って抗議する。
「何するんだよ! 降ろせ」
しがみついて言うセリフではないが、照れくさいし正直怖い。しかし、抱き上げる男はそんな俺を無視して歩き出す。
「まだふらついてんだろ。落とさないから安心してくれ」
「そういう問題じゃない」
大事な何かが削られる気がする。
「気にするな。ここにはオレとお前しかいない」
心なしか楽しそうな足取りの男に絶対落とすなよと釘を刺してもう一度しっかりと抱き着いた。
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