1 / 23
第1羽 身投げ
しおりを挟む
「イラク西部を中心に、アメリカ軍が鳥らしき生物の集団に襲われているというニュースの続報です」
商店街に置かれた大型液晶テレビの前を足早に、祐樹は悠の手を取りながら通り過ぎた。
ゆったりとした通りから大きく空間を取ったアーチ状の屋根がある商店街では来週に控えたクリスマスの準備は当に済んでおり、店頭には客の目を引く黄金色の鈴や小さなモミの木のイミテーションに囲まれた商品が並んでいた。
それを見た悠は数年前のクリスマスパーティーを思い出した。
まだ大きな家に住んでおり、お父さんとお母さんがいた頃のクリスマス。
両親の隙をみてグラスに入ったワインを兄がひと口盗み飲み、「すっぺぇぇ!」と小さな悲鳴をあげて自分の前をおおげさに転げ回り大きな笑い声をあげた楽しい思い出。
ふと、とっさにその事を話そうと祐樹に顔を向けた悠だったが、険しい目つきで真っ直ぐ正面を見て歩く横顔に下を向いた。
もうあの頃には戻れない、そしてクリスマスは二度と自分に訪れることはないのだ。
涙が滲み、菓子の包み紙や路上で渡されるチラシが投げ捨てられた光沢のあるタイルが歪んで見えたが悠は歩調も変えず声もあげなかった。
兄の気持ちを乱したくなかったのだ。
ふと祐樹が立ち止まり、軽く引っ張られるように止まった悠は顔を上げた。
「出そうか」
祐樹が募金箱を抱えている中年女性と中学生ほどの少女に顔を向けてから悠に言った。
確かにそうだ、悠は思い、祐樹と一緒に財布の中のお金を全て募金箱に投じると中年女性と少女は笑顔と共に「ありがとうございました」と二人に声をかけた。
祐樹は軽く下を向き、顔を斜めにした。
照れ隠しの仕草だった。
間もなく自分に終末が訪れようと兄はこういう心を忘れないのだろう、悠はそう思った。
商店街から人気の無い脇の通路に入り、少し歩いた先を右に曲がるとエレベーターがあった。
二人はそれに乗り込むと8階のボタンを祐樹が押した。
狭い室内、何十年というタバコの臭いが染み付いたような空間は軽い振動を伴いながら目的の階に到着した。
エレベーターから出ると薄暗い、窓や鉄製のドアがある四畳程の空間があった。
二人はドアを開け、屋上に出た。
既に日は落ち、星の見えない漆黒の空の下に街のネオンや街灯が広がっている。
祐樹は屋上の端にある手すりを乗り越え、悠の両手を取り同じように手すりを越えるのを手伝った。
間もなく本格的な冬の訪れを予感させる冷たい風を顔に受け悠は祐樹に抱きついた。
「目を閉じてろよ」
祐樹のかすれ声に悠は目を閉じ頷いた。
ぐらりと重心が傾き頭から落下する感覚、祐樹のはっと息を飲む声が聞こえ、風音が耳をつんざく。
そこで悠の意識は途切れた。
つづく
商店街に置かれた大型液晶テレビの前を足早に、祐樹は悠の手を取りながら通り過ぎた。
ゆったりとした通りから大きく空間を取ったアーチ状の屋根がある商店街では来週に控えたクリスマスの準備は当に済んでおり、店頭には客の目を引く黄金色の鈴や小さなモミの木のイミテーションに囲まれた商品が並んでいた。
それを見た悠は数年前のクリスマスパーティーを思い出した。
まだ大きな家に住んでおり、お父さんとお母さんがいた頃のクリスマス。
両親の隙をみてグラスに入ったワインを兄がひと口盗み飲み、「すっぺぇぇ!」と小さな悲鳴をあげて自分の前をおおげさに転げ回り大きな笑い声をあげた楽しい思い出。
ふと、とっさにその事を話そうと祐樹に顔を向けた悠だったが、険しい目つきで真っ直ぐ正面を見て歩く横顔に下を向いた。
もうあの頃には戻れない、そしてクリスマスは二度と自分に訪れることはないのだ。
涙が滲み、菓子の包み紙や路上で渡されるチラシが投げ捨てられた光沢のあるタイルが歪んで見えたが悠は歩調も変えず声もあげなかった。
兄の気持ちを乱したくなかったのだ。
ふと祐樹が立ち止まり、軽く引っ張られるように止まった悠は顔を上げた。
「出そうか」
祐樹が募金箱を抱えている中年女性と中学生ほどの少女に顔を向けてから悠に言った。
確かにそうだ、悠は思い、祐樹と一緒に財布の中のお金を全て募金箱に投じると中年女性と少女は笑顔と共に「ありがとうございました」と二人に声をかけた。
祐樹は軽く下を向き、顔を斜めにした。
照れ隠しの仕草だった。
間もなく自分に終末が訪れようと兄はこういう心を忘れないのだろう、悠はそう思った。
商店街から人気の無い脇の通路に入り、少し歩いた先を右に曲がるとエレベーターがあった。
二人はそれに乗り込むと8階のボタンを祐樹が押した。
狭い室内、何十年というタバコの臭いが染み付いたような空間は軽い振動を伴いながら目的の階に到着した。
エレベーターから出ると薄暗い、窓や鉄製のドアがある四畳程の空間があった。
二人はドアを開け、屋上に出た。
既に日は落ち、星の見えない漆黒の空の下に街のネオンや街灯が広がっている。
祐樹は屋上の端にある手すりを乗り越え、悠の両手を取り同じように手すりを越えるのを手伝った。
間もなく本格的な冬の訪れを予感させる冷たい風を顔に受け悠は祐樹に抱きついた。
「目を閉じてろよ」
祐樹のかすれ声に悠は目を閉じ頷いた。
ぐらりと重心が傾き頭から落下する感覚、祐樹のはっと息を飲む声が聞こえ、風音が耳をつんざく。
そこで悠の意識は途切れた。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる