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5章 交翼の儀式
残酷な、変えようのない未来
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「で、ヴィクトリアとかいう、口にするのも虫唾が走る名前の奴は、お前にどんな問い掛けをしたというのだ?」
お前の母ちゃんと同じ名前だからってそんな言い方するなよ、ジャンヌ。
「自分の美貌はいつまで続くか問い掛けてきた。なので、三年後、石が顔面に当たるまでと答えた」
「クライヴ、この話、当たっているか?」
「……うむ、移動中の馬車で落石事故に遭ったという話は聞いている」
「ふう、バカ正直に未来を伝え、幽閉されたと言うわけか、ネハン」
「人間は未来を知りたがる。だから教える。そして私はこうなった」
俺は目の下にクマのある、真っ白い顔のネハンに視線を移した。
『人間は未来を知りたがる』か、確かに人は知りたがる。
何か素敵な出来事が待っているのを知りたい、といった具合に。
現実はジャンヌの先輩皇后みたいに、残酷な、変えようのない未来が待っている方が多いに決まっているのに。
「この面妖な鏡に振り回されるとは、くだらん」
ザックリ切り捨てるクライヴにネハンがくりっと顔を向けた。
「クライヴ・エピメテウス。ブラッド・エピメテウスとプレアシティの踊り子オドレイ・ラファエリの子。幼児期の精神的ショックで、ある種の潔癖症を患っていたが、皇帝位に就き改善。現在、青年嗜好同性愛の疑惑を掛けられている。わぁーおっ!」
げっ! この真っ白女、何でそこまで知ってるんだよ。しかも言っちゃいけない事まで言って!
「……信じたくないが、これが魔物というものか……」
クライヴが別段動揺した様子もなく呟く。
「ふん、なるほど面白い。ネハンとやら、クライヴはこの先どうなるか予言してみろ」
気怠い目のまま、ジャンヌがニヤリとする。
「死ぬ、わぁーおっ!」
キョトンとした顔のジャンヌが、クライヴに振り向く。
「お前、死ぬんだって、あははは!」
ケラケラ笑うジャンヌを無視し、
「……ジャンヌはどうなる? ネハンとやら」
と今度はクライヴがネハンに尋ねる。
「死ぬ、わぁーおっ!」
驚いたように笑いを引っ込めるジャンヌ。
「……死因とその時期を何故言わん?」
クライヴがぞっとするような口調で言う。
「それを言ってはいけないと判断したから」
怖気づくこともなく、キンキン声で答えるネハン。
「それでは予言にならない、がっかりだ」
ジャンヌが縁を掴み、鏡をガタガタ揺らし始めた。
「触ってはいけません、西火帝国皇妃にして元ラヴォワ国女王のジャンヌ。バカ姉ゆえに心を許していたレイチェルに、まんまと欺かれたジャンヌ。即刻私から手を放しなさい」
そんなネハンを前に、ジャンヌが更に激しく縁を揺らす。
「お、これ外れるぞ。おい、クライヴ、こいつを窓から放り投げるというのはどうだ?」
「ふん……悪くない提案だ」
縁から手を放したジャンヌが横に移動すると、クライヴがのっしのっしと鏡の前に立つ。そして縁に両手を掛けると、ベニヤ板でも持ち上げるように、軽々と大きな鏡を壁から外した。
「わぁーおっ!? や、やめっ! ちょ、やめっ!」
キンキン声を更に甲高くしてネハンが騒ぐ。
「ここの窓では小さいな、廊下の窓から投げるか」
「うむ」
右肩に鏡を担いだクライヴに続き、ジャンヌが部屋を後にする。
「ははー、魔物退治、魔物退治だー」
「……魔物退治……うむ……」
ジャンヌはともかく無表情なクライヴもちょっと楽しそう。何だよ、ちょっといい感じじゃねーか。
「ナンブタクミ! これ止めて!」
二人の頭上を飛ぶ俺に、キンキンした声でネハンがそう言ってきた。
俺はそれに棒読みで、
「止められない、わぁーおっ!」
と返した。
つづく
お前の母ちゃんと同じ名前だからってそんな言い方するなよ、ジャンヌ。
「自分の美貌はいつまで続くか問い掛けてきた。なので、三年後、石が顔面に当たるまでと答えた」
「クライヴ、この話、当たっているか?」
「……うむ、移動中の馬車で落石事故に遭ったという話は聞いている」
「ふう、バカ正直に未来を伝え、幽閉されたと言うわけか、ネハン」
「人間は未来を知りたがる。だから教える。そして私はこうなった」
俺は目の下にクマのある、真っ白い顔のネハンに視線を移した。
『人間は未来を知りたがる』か、確かに人は知りたがる。
何か素敵な出来事が待っているのを知りたい、といった具合に。
現実はジャンヌの先輩皇后みたいに、残酷な、変えようのない未来が待っている方が多いに決まっているのに。
「この面妖な鏡に振り回されるとは、くだらん」
ザックリ切り捨てるクライヴにネハンがくりっと顔を向けた。
「クライヴ・エピメテウス。ブラッド・エピメテウスとプレアシティの踊り子オドレイ・ラファエリの子。幼児期の精神的ショックで、ある種の潔癖症を患っていたが、皇帝位に就き改善。現在、青年嗜好同性愛の疑惑を掛けられている。わぁーおっ!」
げっ! この真っ白女、何でそこまで知ってるんだよ。しかも言っちゃいけない事まで言って!
「……信じたくないが、これが魔物というものか……」
クライヴが別段動揺した様子もなく呟く。
「ふん、なるほど面白い。ネハンとやら、クライヴはこの先どうなるか予言してみろ」
気怠い目のまま、ジャンヌがニヤリとする。
「死ぬ、わぁーおっ!」
キョトンとした顔のジャンヌが、クライヴに振り向く。
「お前、死ぬんだって、あははは!」
ケラケラ笑うジャンヌを無視し、
「……ジャンヌはどうなる? ネハンとやら」
と今度はクライヴがネハンに尋ねる。
「死ぬ、わぁーおっ!」
驚いたように笑いを引っ込めるジャンヌ。
「……死因とその時期を何故言わん?」
クライヴがぞっとするような口調で言う。
「それを言ってはいけないと判断したから」
怖気づくこともなく、キンキン声で答えるネハン。
「それでは予言にならない、がっかりだ」
ジャンヌが縁を掴み、鏡をガタガタ揺らし始めた。
「触ってはいけません、西火帝国皇妃にして元ラヴォワ国女王のジャンヌ。バカ姉ゆえに心を許していたレイチェルに、まんまと欺かれたジャンヌ。即刻私から手を放しなさい」
そんなネハンを前に、ジャンヌが更に激しく縁を揺らす。
「お、これ外れるぞ。おい、クライヴ、こいつを窓から放り投げるというのはどうだ?」
「ふん……悪くない提案だ」
縁から手を放したジャンヌが横に移動すると、クライヴがのっしのっしと鏡の前に立つ。そして縁に両手を掛けると、ベニヤ板でも持ち上げるように、軽々と大きな鏡を壁から外した。
「わぁーおっ!? や、やめっ! ちょ、やめっ!」
キンキン声を更に甲高くしてネハンが騒ぐ。
「ここの窓では小さいな、廊下の窓から投げるか」
「うむ」
右肩に鏡を担いだクライヴに続き、ジャンヌが部屋を後にする。
「ははー、魔物退治、魔物退治だー」
「……魔物退治……うむ……」
ジャンヌはともかく無表情なクライヴもちょっと楽しそう。何だよ、ちょっといい感じじゃねーか。
「ナンブタクミ! これ止めて!」
二人の頭上を飛ぶ俺に、キンキンした声でネハンがそう言ってきた。
俺はそれに棒読みで、
「止められない、わぁーおっ!」
と返した。
つづく
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