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第4章 〈レッスン1〉 ハグの効用

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 わたしは必死の形相でぶんぶんと首を振った。

「と、とんでもない。デートなんかじゃないって。この間、玲伊さんがここに来て説明してくれたでしょう。彼の仕事の手伝いをするって。その打ち合わせだよ」

 祖母は、ふーん、と答えながらも、納得していないふうだ。

「でも、玲伊ちゃん、優紀のこと、とろけそうな表情で見てたけどね。あれはどう見ても、恋する男の顔だったよ」
「そんなことあるわけないって。おばあちゃん、そのとき、眼鏡かけてなかったんじゃない?」
「いや、そんなことはなかった。書類を読んでいたんだし」

 これ以上、話していると、どんどん変な方向に話が進んでいきそう。
 とりあえず、この場から退散しなきゃ。

「ちょっとコンビニ行ってきていいかな? さすがにお腹が空いてきた」
「ああ、いいよ。じゃあ、ついでにいつものレモンサワー買ってきて」
「わかった、それだけでいい?」
「ああ」

 わたしはお財布を掴んで、近所のコンビニに向かった。

 おばあちゃん、勘違いもはなはだしい。
 玲伊さんがわたしなんかをデートに誘う訳がない。

 とはいえ、この後、玲伊さんと食事に行けるんだ、と思うと仕事に身が入らず、そわそわしたままその日の午後は過ぎていった。

 そして閉店10分前。

「おや、玲伊ちゃん」
 外に出していたラックを店に入れていた祖母が嬉しそうに声を弾ませたのが、聞こえてきた。

 彼の「優ちゃん、います?」という声が聞こえて、とたんに落ち着かない気分になってくる。
「ああ、奥にいるよ。食事に誘ってくれたんだって? 優紀、ずっとそわそわしっぱなしで……」

 おばあちゃんがよけいなことを言う前に、わたしは慌てて二人のそばに向かった。

「玲伊さん。奥で少し待っていてくれますか? 閉店作業をしちゃうので」
 そういうと、祖母はわたしの肩をぽんと叩いて言った。

「もうレジ締めだけだし。あとはわたしがやっておくから、ほら、行っておいで」
 出口までわたしの背中を押していくと、「楽しんでおいで」とわたしたちを見送った。
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