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第7章 〈レッスン4〉 溢れる愛に溺れて
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「いい色だね」
「ブラックスーツに似合うかと思って」
「うん。早速、休み明けにつけさせてもらうよ。さあ、こっちへ。久しぶりに優紀にシャンプーしてあげたくてね」
通いなれたはずのサロンが、今日はまるで違う場所のように思える。
わたしの髪を扱う彼の手を、前以上に意識してしまう。
トリートメントも終わり、丁寧に乾かしてもらった後、彼は椅子を自分の方に向けるとわたしの手を取り、自分の胸に抱き寄せた。
わたしの鼓動は苦しくなるほど高まってゆく。
「もう離さない。好きだよ、優紀」
「玲伊さん……わたしも」
続きを言い終わる前に、キスで唇は塞がれた。
いつもよりさらに心のこもった彼のキスや手の動きに翻弄され、わたしの体から力が抜けていく。
彼は、頬やこめかみに口づけを繰り返しながら、とびきり甘い声で囁いてきた。
「部屋に行こうか。もう……大丈夫?」
玲伊さんの腕のなかでわたしは「はい」と言って、小さく頷いた。
そして、導かれるまま、わたしは彼の寝室につながる階段をのぼりはじめた。
***
寝室はプライベートルームの二階部分にあった。
天井は低めだけれど、背の高い玲伊さんが立ちあがっても問題ないだけの高さはある。
黒枠のスリガラスの引き戸を開けると、生成りのベッドカバーがかかった背の低いベッドが置かれているのが目に飛び込んできた。
照明はベッドヘッドの裏に据え付けられたライトが壁を照らしているだけで、全体にほの暗い。
部屋から直接、先日、食事をした屋上に出られるようになっていて、窓の前に大きな鉢に植えられたグリーンがたくさん置かれていて、それらもライトで照らされている。
リゾートホテルの部屋そのものだ。
廊下の向かい側にあるシャワーを借りて、部屋に戻ると、玲伊さんはスウェットパンツを履いただけの姿でヘッドボードに背を預けていた。
その姿があまりにも艶めかしくて、心臓が小鳥のそれのように、早鐘を打ち始める。
「おいで、優紀」
そばにいくと彼はベッドを降りて、わたしを両腕で包み込んだ。
そして、髪を優しく撫でながら囁く。
「もう本当に怖くない?」
「はい……」
素直に頷くと、彼はわたしの顔を覗き込み、慈しむように頬を撫でて囁いた。
「心配しないでいい。優紀が嫌がることは絶対にしないよ。愛し合うことがどれだけ素晴らしいことか、今からゆっくり教えてあげるからね」
「素晴らしいこと?」
「ああ、そうだよ」
彼はわたしをベッドの縁に座らせると、真横に腰を下ろし、後ろから手を回して、わたしのパジャマのボタンをゆっくり外しはじめた。
ひとつ外されるたびに、胸の鼓動が高鳴ってゆく。
すべて外し終えると、彼はわたしの腕からパジャマを抜きさり、露わになった肩に口づけを落としてきた。
「こっち向いて」
言われるとおり、首を向けると、その窮屈な姿勢でキスをされ、脚の下に手を差し込まれ、ベッドに横たえられた。
「優紀……愛している」
彼は上からわたしを見つめる。
その眼差しはいつもの慈しみに満ちている。
けれど同時に、今まで見たことのない、獲物を捕らえた獣のような危険な光も宿していた。
その目に捉えられたとき、急にまた激しい羞恥に襲われた。
下着姿を玲伊さんに晒していることが、この上なく恥ずかしい。
でも、わたしが手で顔を隠そうとすると、玲伊さんは「隠さないで」と言って、わたしの両腕をつかみ、そのままベッドに縫いつけた。
そして、彼は唇をわたしの耳の辺りから首筋のほうへと這わせはじめた。
「ひぁぁ……」
ぞくぞくして、体がわななく。
その、言いようのないくすぐったさから逃れようとするけれど、腕をつかまれていては、どうにも逃れられない。
「首、弱いんだ」
玲伊さんは、なにか重大な秘密を暴いたかのような、満足げな声を漏らした。
彼は鎖骨へと唇を滑らせてゆく。
さらに手がわたしのパジャマのショートパンツにかかり、ゆっくり引き下ろそうとしたとき、苦しいほど息が詰まって、わたしは喘ぐように言った。
「れ、玲伊さぁん、や、やっぱり無理かも」
「ブラックスーツに似合うかと思って」
「うん。早速、休み明けにつけさせてもらうよ。さあ、こっちへ。久しぶりに優紀にシャンプーしてあげたくてね」
通いなれたはずのサロンが、今日はまるで違う場所のように思える。
わたしの髪を扱う彼の手を、前以上に意識してしまう。
トリートメントも終わり、丁寧に乾かしてもらった後、彼は椅子を自分の方に向けるとわたしの手を取り、自分の胸に抱き寄せた。
わたしの鼓動は苦しくなるほど高まってゆく。
「もう離さない。好きだよ、優紀」
「玲伊さん……わたしも」
続きを言い終わる前に、キスで唇は塞がれた。
いつもよりさらに心のこもった彼のキスや手の動きに翻弄され、わたしの体から力が抜けていく。
彼は、頬やこめかみに口づけを繰り返しながら、とびきり甘い声で囁いてきた。
「部屋に行こうか。もう……大丈夫?」
玲伊さんの腕のなかでわたしは「はい」と言って、小さく頷いた。
そして、導かれるまま、わたしは彼の寝室につながる階段をのぼりはじめた。
***
寝室はプライベートルームの二階部分にあった。
天井は低めだけれど、背の高い玲伊さんが立ちあがっても問題ないだけの高さはある。
黒枠のスリガラスの引き戸を開けると、生成りのベッドカバーがかかった背の低いベッドが置かれているのが目に飛び込んできた。
照明はベッドヘッドの裏に据え付けられたライトが壁を照らしているだけで、全体にほの暗い。
部屋から直接、先日、食事をした屋上に出られるようになっていて、窓の前に大きな鉢に植えられたグリーンがたくさん置かれていて、それらもライトで照らされている。
リゾートホテルの部屋そのものだ。
廊下の向かい側にあるシャワーを借りて、部屋に戻ると、玲伊さんはスウェットパンツを履いただけの姿でヘッドボードに背を預けていた。
その姿があまりにも艶めかしくて、心臓が小鳥のそれのように、早鐘を打ち始める。
「おいで、優紀」
そばにいくと彼はベッドを降りて、わたしを両腕で包み込んだ。
そして、髪を優しく撫でながら囁く。
「もう本当に怖くない?」
「はい……」
素直に頷くと、彼はわたしの顔を覗き込み、慈しむように頬を撫でて囁いた。
「心配しないでいい。優紀が嫌がることは絶対にしないよ。愛し合うことがどれだけ素晴らしいことか、今からゆっくり教えてあげるからね」
「素晴らしいこと?」
「ああ、そうだよ」
彼はわたしをベッドの縁に座らせると、真横に腰を下ろし、後ろから手を回して、わたしのパジャマのボタンをゆっくり外しはじめた。
ひとつ外されるたびに、胸の鼓動が高鳴ってゆく。
すべて外し終えると、彼はわたしの腕からパジャマを抜きさり、露わになった肩に口づけを落としてきた。
「こっち向いて」
言われるとおり、首を向けると、その窮屈な姿勢でキスをされ、脚の下に手を差し込まれ、ベッドに横たえられた。
「優紀……愛している」
彼は上からわたしを見つめる。
その眼差しはいつもの慈しみに満ちている。
けれど同時に、今まで見たことのない、獲物を捕らえた獣のような危険な光も宿していた。
その目に捉えられたとき、急にまた激しい羞恥に襲われた。
下着姿を玲伊さんに晒していることが、この上なく恥ずかしい。
でも、わたしが手で顔を隠そうとすると、玲伊さんは「隠さないで」と言って、わたしの両腕をつかみ、そのままベッドに縫いつけた。
そして、彼は唇をわたしの耳の辺りから首筋のほうへと這わせはじめた。
「ひぁぁ……」
ぞくぞくして、体がわななく。
その、言いようのないくすぐったさから逃れようとするけれど、腕をつかまれていては、どうにも逃れられない。
「首、弱いんだ」
玲伊さんは、なにか重大な秘密を暴いたかのような、満足げな声を漏らした。
彼は鎖骨へと唇を滑らせてゆく。
さらに手がわたしのパジャマのショートパンツにかかり、ゆっくり引き下ろそうとしたとき、苦しいほど息が詰まって、わたしは喘ぐように言った。
「れ、玲伊さぁん、や、やっぱり無理かも」
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