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第5章 隠れ家温泉宿での一夜

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 まだ紅葉には少し早く、露地に沿って植えられている楓は色づく一歩手前。
 今日、宿泊する離れはその道の突き当たりにあり、生垣と枝折戸しおりどで仕切られていた。

 建物は焦げ茶色の瓦屋根に杉板張りの平屋建て。
 純和風旅館というよりも避暑地の別荘を思わせる外観だった。

「裏手にサンルームがありまして、そちらで朝食をお取りいただくことになっておりますので」と仲居さん。
「わー、嬉しい。それは気持ちがいいでしょうね」と思わず感嘆の声を上げると、ニッコリ微笑み返された。

 会社の先輩に、宿泊するごとにインスタに上げる旅好きの人がいて、いつも素敵なところばかり泊っていると羨ましく思っていたけれど、ここまで贅沢な造りの宿は見たことがなかった。

「お連れ様はもうおいでになっておりますよ」

 その言葉に、どきん、と胸が高鳴る。
 こんな素敵な宿で宗介さんとふたりきりで過ごせるなんて。
 もう、夢すら越えている。

 引き戸を開けたとたん、畳の青々とした匂いが清々しく香ってくる。
 室内にもやはり仰々しい装飾は一切ないようだ。
 玄関に生けられた草花もとても慎ましやか。
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