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第5章 隠れ家温泉宿での一夜

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 部屋を仕切る戸には障子が用いられており、照明のシェードはすべて和紙のもので、部屋全体がとても柔らかな光で満ちている。

 さらに、板敷の床に敷かれたキリムが良いアクセントになっている。

 どこをとっても落ち着いた、大人の雰囲気漂う宿だった。


「郁美」
 仲居さんが出ていった直後、宗介さんに強く手を引かれた。

 そのまま、彼の腕のなかに。
 懐かしいコロンの香りに包まれる。
 彼はわたしの髪に顔を埋めて呟く。

「会いたかった」
「わたしも、昨日は興奮して眠れなかった。遠足の前の子供みたいだけど」
「それは困ったな。今日も寝かせるつもりはないんだけど」

 寝かせるつもりはない?
 えっと……
 見上げると、いたずらっぽく微笑む宗介さんの懐かしい笑顔。

 ああ、生宗介さんだ……
 やっぱり、画面を通して観るのとは、全然違う!
 わたしも彼の背に手を回してぎゅっと抱きついた。

「宗介さん、ありがとう。こんな素敵な宿に泊まるのは、はじめて」
「礼なら今度、向井に言ってくれ。すべて彼女の計らいだから」
「うん」

「とにかく、明日まではなにもかも忘れて、思い切り楽しもう」
 そう言うと、彼はわたしの顎を掬いあげ、音をたてて軽くキス。
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