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第二章 巨人の街
第20話 ダンジョンの入り口
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北門から町の外に出て、農園へと向かう。
俺たちは北門から外に出るのは初めてだ。いつでも閉じられるように半分だけ開いた門をくぐれば、見渡す限りの広大な農地が広がる。
所々にこんもりと茂った森や倉庫らしき建物が点在する牧歌的な風景。川から引きこまれた用水路が、無数の畑の間を縫うように走っている。
ここの畑のほとんどが、サイラード国の主食である芋を作る為の畑だ。実に、この国で生産される芋の七割が、この町の農場で作られているらしい。
少し歩くとその広大な芋畑のかなり遠くの方に、大勢の人が集まっているのが見えた。近付いてみれば、ぽっかりと開いた黒い大きな穴。すでに大勢の冒険者がその穴を取り囲んでいる。穴の中からは飛んで出てくる虫型魔物もいる。穴を囲む者たちから少し離れたところに、弓使いと魔法使いが陣取って、穴を抜けだした飛ぶ魔物を射落としていた。
「冒険者の皆さーん。高ランクの方は、前線で戦っている方と、タイミングを見計らって交代してください。魔法が使える方はむこう側にまわって飛ぶ虫を落としてください。残りの皆さんは後ろに抜けた魔物をお願いします。できるだけ、一匹たりとも逃さないように、お願いしまーす」
弓手よりも後ろに立って指示を出しているのは、見たことのある冒険者ギルドの職員だった。彼も早くからここにいたのだろう、疲労でフラフラしている。俺と数人の冒険者が近寄って次々と声をかける。
「バロックさん、大丈夫か?」
「バロック、少し休んでろ、ここの担当を変わろう」
「さんきゅ。リクも、ここまで来てくれたんだ、ありがとう」
「ああ、それはいいんだがシモンはここには?」
「シモンか……僕たちもここに到着して一番に探したんだけど、どこにも居なくて……」
「そうか。分かった。見かけたら声をかける。じゃあ俺たちも魔物を倒しに行こう」
前線には町の守備隊が陣取って、冒険者たちに指示を飛ばしながら戦っている。実力のあるAランクの冒険者たちの顔もいくつか見えた。みんな頑張ってはいるが、もう数時間もこの状態らしく、ヘロヘロだ。
前線は俺たちと一緒に来た冒険者のうち腕に自信のあるものがさっと交代したので、俺とリリアナは次の交代まで人の輪の後方へ控えることにした。時々突破してくる魔物を潰していった。
虫型の魔物の困った所は、その数の多さと、手のひらサイズのものもいる小ささだ。一匹一匹の強さは大したことがなくとも、的が小さくて攻撃が当たりにくい。大群で押し寄せられた時の威力は計り知れない。どうやってだか連携を取って攻め込んでくるものもいる。
端から叩き潰しても、きりがなく穴から出てくるのだ。
人の輪の後方にまで抜けてきた三十センチほどの大きさのバッタのような魔物を数匹叩き潰した時、リリアナが俺を呼んだ。
「リク、後ろに魔物が!」
振り返れば二匹の甲虫型の魔物が、俺に襲い掛かろうとしていた。リリアナが一匹を鉄棍で叩き潰し、俺も振り向きざまに一匹切り落としてから、辺りを確かめる。
「こいつらどこから来たんだ?」
「リク!また!」
今度は一匹だけ、キラービーだ。
あの時のキラービーとは別個体だと分かっているが、お前らには恨みがある!
過剰防衛ぎみに剣を振り回して、叩き切ってやった。
「むこうから来ておるようだの」
リリアナが指さす方を見ると、畑の用水路付近の地面に影が見える。
近寄ってみれば、分かりにくい位置にぽっかりと、人が一人ギリギリ通れるかどうかという小さな穴が開いていた。
「リク、耳を澄ませてみるがよい」
「あ、ああ、そうだな」
言われるがまま、耳に魔力を注いで穴のなかの音を聞いてみる。近くでごそごそと動く音がいくつか、そして遠くで多くの羽音や土を削る音が聞こえてきた。
「どうやら、向こうの大穴と、深いところで繋がっているようじゃの」
「ああ。……くっ! リリアナ、また出てくるぞ」
「分かっておる」
ゴソゴソという音と共に這い出して来るキラービーを、飛び立つ前に切る。どうやら穴が小さくて、中は虫たちも飛ぶスペースはないらしい。出てくる数も少ないし、飛ばずに這い出してくる虫ばかりだったので、他の冒険者にも気づかれなかったのだろう。
指揮官に知らせに行こうとした、その時だった。穴の中から、小さなすすり泣く声が聞こえてきたのだ。
「リリアナ、中に誰かいるぞ!」
「ああ、私にも聞こえておるよ」
這い出てきた虫を潰しながら、リリアナが答えた。
まだ聞き耳を立てていたのが幸いだった。
これは放っておくわけにはいかない。
声が届くところに休んでいる守備隊の男を呼ぶ。
「おーい、動けるならちょっとこっちに来てくれ」
「どうしたー?」
「ここにも穴がある。むこうの大穴と繋がってるらしい」
「まじか!何人か呼んでくるぜ」
やってきた中には、守備隊の小隊長らしき男がいる。
ちょうどやってきたタイミングで出てきた魔物を、危なげなく槍で突きながら、小隊長が俺に声をかけた。
「こんな所に穴があったとは。よくやった。お前たち冒険者か?感謝する」
「いや、それはいいんだが、中に人がいるみたいなんだ」
「本当か?俺には聞こえないが。魔物は確かに出てきてるみたいだな」
状況を話している間にも、さほど頻繁にではないが魔物が顔を出す。ほとんどが三十センチ無いくらいの小型の昆虫型魔物ばかりだ。
「なあ、小隊長さん。ここで見張ってて、魔物が出てきたら倒してもらってもいいか?」
「それは構わないが。……まさか!」
「ああ。俺とリリアナはこの穴に潜ってみる」
「危険だ!」
血相を変えて後ろで聞いていた男が言うが、ここはおそらく狭すぎて魔物たちも大群で押し寄せては来ない。はぐれたやつが時々出てくるだけだ。
中にいる奴を助けて戻ってくるくらいはできるだろう。
「それに、この穴のサイズだと、入れるのは俺とリリアナくらいだろう?」
ここにいるサイル人の巨漢たちには、到底無理だ。みんなはまだ心配そうにしていたが、気にせず穴に向かった。
「そうだ、これを見ていてもらえるか?」
「私のもよろしくの」
「武器を置いていくのか?」
剣と鉄棍を投げ出す俺たちに、心配を通り越して呆れたように言うが、狭い洞窟の中で大ぶりな武器は逆に扱いが難しいだろう。腰に付けたナイフを見せて、心配しないように伝え……。
そしてそのまま。俺とリリアナは地中へと潜っていった。
俺たちは北門から外に出るのは初めてだ。いつでも閉じられるように半分だけ開いた門をくぐれば、見渡す限りの広大な農地が広がる。
所々にこんもりと茂った森や倉庫らしき建物が点在する牧歌的な風景。川から引きこまれた用水路が、無数の畑の間を縫うように走っている。
ここの畑のほとんどが、サイラード国の主食である芋を作る為の畑だ。実に、この国で生産される芋の七割が、この町の農場で作られているらしい。
少し歩くとその広大な芋畑のかなり遠くの方に、大勢の人が集まっているのが見えた。近付いてみれば、ぽっかりと開いた黒い大きな穴。すでに大勢の冒険者がその穴を取り囲んでいる。穴の中からは飛んで出てくる虫型魔物もいる。穴を囲む者たちから少し離れたところに、弓使いと魔法使いが陣取って、穴を抜けだした飛ぶ魔物を射落としていた。
「冒険者の皆さーん。高ランクの方は、前線で戦っている方と、タイミングを見計らって交代してください。魔法が使える方はむこう側にまわって飛ぶ虫を落としてください。残りの皆さんは後ろに抜けた魔物をお願いします。できるだけ、一匹たりとも逃さないように、お願いしまーす」
弓手よりも後ろに立って指示を出しているのは、見たことのある冒険者ギルドの職員だった。彼も早くからここにいたのだろう、疲労でフラフラしている。俺と数人の冒険者が近寄って次々と声をかける。
「バロックさん、大丈夫か?」
「バロック、少し休んでろ、ここの担当を変わろう」
「さんきゅ。リクも、ここまで来てくれたんだ、ありがとう」
「ああ、それはいいんだがシモンはここには?」
「シモンか……僕たちもここに到着して一番に探したんだけど、どこにも居なくて……」
「そうか。分かった。見かけたら声をかける。じゃあ俺たちも魔物を倒しに行こう」
前線には町の守備隊が陣取って、冒険者たちに指示を飛ばしながら戦っている。実力のあるAランクの冒険者たちの顔もいくつか見えた。みんな頑張ってはいるが、もう数時間もこの状態らしく、ヘロヘロだ。
前線は俺たちと一緒に来た冒険者のうち腕に自信のあるものがさっと交代したので、俺とリリアナは次の交代まで人の輪の後方へ控えることにした。時々突破してくる魔物を潰していった。
虫型の魔物の困った所は、その数の多さと、手のひらサイズのものもいる小ささだ。一匹一匹の強さは大したことがなくとも、的が小さくて攻撃が当たりにくい。大群で押し寄せられた時の威力は計り知れない。どうやってだか連携を取って攻め込んでくるものもいる。
端から叩き潰しても、きりがなく穴から出てくるのだ。
人の輪の後方にまで抜けてきた三十センチほどの大きさのバッタのような魔物を数匹叩き潰した時、リリアナが俺を呼んだ。
「リク、後ろに魔物が!」
振り返れば二匹の甲虫型の魔物が、俺に襲い掛かろうとしていた。リリアナが一匹を鉄棍で叩き潰し、俺も振り向きざまに一匹切り落としてから、辺りを確かめる。
「こいつらどこから来たんだ?」
「リク!また!」
今度は一匹だけ、キラービーだ。
あの時のキラービーとは別個体だと分かっているが、お前らには恨みがある!
過剰防衛ぎみに剣を振り回して、叩き切ってやった。
「むこうから来ておるようだの」
リリアナが指さす方を見ると、畑の用水路付近の地面に影が見える。
近寄ってみれば、分かりにくい位置にぽっかりと、人が一人ギリギリ通れるかどうかという小さな穴が開いていた。
「リク、耳を澄ませてみるがよい」
「あ、ああ、そうだな」
言われるがまま、耳に魔力を注いで穴のなかの音を聞いてみる。近くでごそごそと動く音がいくつか、そして遠くで多くの羽音や土を削る音が聞こえてきた。
「どうやら、向こうの大穴と、深いところで繋がっているようじゃの」
「ああ。……くっ! リリアナ、また出てくるぞ」
「分かっておる」
ゴソゴソという音と共に這い出して来るキラービーを、飛び立つ前に切る。どうやら穴が小さくて、中は虫たちも飛ぶスペースはないらしい。出てくる数も少ないし、飛ばずに這い出してくる虫ばかりだったので、他の冒険者にも気づかれなかったのだろう。
指揮官に知らせに行こうとした、その時だった。穴の中から、小さなすすり泣く声が聞こえてきたのだ。
「リリアナ、中に誰かいるぞ!」
「ああ、私にも聞こえておるよ」
這い出てきた虫を潰しながら、リリアナが答えた。
まだ聞き耳を立てていたのが幸いだった。
これは放っておくわけにはいかない。
声が届くところに休んでいる守備隊の男を呼ぶ。
「おーい、動けるならちょっとこっちに来てくれ」
「どうしたー?」
「ここにも穴がある。むこうの大穴と繋がってるらしい」
「まじか!何人か呼んでくるぜ」
やってきた中には、守備隊の小隊長らしき男がいる。
ちょうどやってきたタイミングで出てきた魔物を、危なげなく槍で突きながら、小隊長が俺に声をかけた。
「こんな所に穴があったとは。よくやった。お前たち冒険者か?感謝する」
「いや、それはいいんだが、中に人がいるみたいなんだ」
「本当か?俺には聞こえないが。魔物は確かに出てきてるみたいだな」
状況を話している間にも、さほど頻繁にではないが魔物が顔を出す。ほとんどが三十センチ無いくらいの小型の昆虫型魔物ばかりだ。
「なあ、小隊長さん。ここで見張ってて、魔物が出てきたら倒してもらってもいいか?」
「それは構わないが。……まさか!」
「ああ。俺とリリアナはこの穴に潜ってみる」
「危険だ!」
血相を変えて後ろで聞いていた男が言うが、ここはおそらく狭すぎて魔物たちも大群で押し寄せては来ない。はぐれたやつが時々出てくるだけだ。
中にいる奴を助けて戻ってくるくらいはできるだろう。
「それに、この穴のサイズだと、入れるのは俺とリリアナくらいだろう?」
ここにいるサイル人の巨漢たちには、到底無理だ。みんなはまだ心配そうにしていたが、気にせず穴に向かった。
「そうだ、これを見ていてもらえるか?」
「私のもよろしくの」
「武器を置いていくのか?」
剣と鉄棍を投げ出す俺たちに、心配を通り越して呆れたように言うが、狭い洞窟の中で大ぶりな武器は逆に扱いが難しいだろう。腰に付けたナイフを見せて、心配しないように伝え……。
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